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筆者について

スティーブ・クルーグ(Steve Krug)

Steve Krug氏は、10年にわたってコンピュータマニュアルの制作に携わった後、外食産業のユーザビリティテストとインタフェイスデザインの仕事に転職しました。立場が変わったことで、ユーザにシステムトラブルの説明をするのではなく、自らトラブルを修復できるようになりました。それ以来、さまざまなクライアントのオンラインサービスやWebサイトのインタフェイスの評価および改善に関わり、取り扱ったクライアントには、Apple、AOL、Netscape、BarnesandNoble.com、Lexus.com、Circle.com(元のInteractive Bureau)、それ以外にもかつてのExcite@Homeがあります。

リソース

Steve Krug『Don't make me think, second edition: A common sense approach to web usability*』より抜粋© 2006 Pearson Education, Inc.およびNew Ridersの許可に基づき掲載。

関連リンク

Webユーザビリティフォーラム*

Webの本当の使われ方

流し読み、満足化、何とか使いこなすこと

探し物がいつも最後に探した場所で見つかるのはなぜ?
それは、見つかったら探すのをやめるから。

— 子どものなぞなぞ

過去10年間、人々がWebを使う様子を数多く見て驚くのは、Web開発者が「これがWebサイトの使い方だ」と考えている方法とはまったく違う方法で、Webサイトが使用されていることです。

私たちがWebサイトを制作する際、ユーザがすべてのページを入念に読むことを前提にしています。巧みな文章を読み、コンテンツの構成を理解し、リンク先を比較検討してからクリックすると思っているのです。

しかし大方のユーザは、(良くして)新しいページを開いたら、文章をざっと読んで、興味を引かれた最初のリンクをクリックするか、探している情報になんとなく似ているリンクをクリックします。ページの大部分は、ユーザに見られることがありません。

制作者は、Webサイトが「優れた作品」(少なくとも「製品パンフレット」)であると思っていますが、ユーザにとっては、「時速90キロで走る車から眺める看板」にずっと近いものなのです。

もちろん、実際の状況は、それほど単純ではなく、Webページの種類、ユーザの目的、ユーザがどのくらい急いで情報を探しているかによって異なります。しかし、この単純化した図の方が、Web制作者の考えよりは、はるかに現実に近いのです。

私たちがWebページをデザインするときに、合理的で注意深いユーザを想定するのは当然です。誰もが自分たちと同じ方法でWebサイトを使用すると想定するのは、ごく当たり前のことです。他の多くの人と同じように、Web制作者にも、現実を棚に上げて、自分たちの方が理路整然とした良識のある行動をしていると考える傾向があります。しかし、効果的なWebページをデザインしたいなら、Webの本当の使われ方についての3つの現実を受け入れる必要があるのです。

事実その1
Webページとは、丹念に読むものではなく、流し読みするものです。
Webの使われ方についてほとんど語られない事実の1つに、ユーザは、大部分のWebページを時間をかけて読まないということがあります(Jakob Nielsenの1997年10月Alertboxのコラム『ユーザはWebをどう読んでいるか(How Users Read on the Web)*』を参照)。時間をかけて読まない代わりに、流し読みをするか、一部だけを「つまみ読み」して、目を引く単語や語句を探すのです。もちろん、ニュースや報告書、製品説明などのドキュメントを含むページなら時間をかけて読む場合もあります。とは言え、そのようなドキュメントが数段落以上の長さだと、画面で読むよりも紙面上で読む方が簡単で速いので、印刷することが多いのです。

流し読みをする理由

  • 急いでいる場合がほとんどだから。 Webを使う動機の大半は、時間を節約するためであり、その結果、Webユーザは動きを止めたら死んでしまう鮫のように行動する。必要以上のものを読む時間がないのです。
  • すべてを読む必要がないとわかっているから。ほとんどのページにおいて、ごく一部だけに興味のあることが書かれています。ユーザは、関心の対象や手元の仕事に一致する断片的な情報を求めているだけで、それ以外の情報は無関係です。流し読みをして、関連性のある断片を探し出すのです。
  • 流し読みが得意だから。人は、生活のあらゆる場面で、興味の対象を探すために新聞、雑誌、本などを流し読みし、またその方法がうまくいくことを知っているのです。

その結果、Gary Larsonの風刺漫画『Far Side』の犬との会話のような状況が生まれます。漫画の中で、ジンジャーという犬が飼い主から「ゴミをいじってはダメ!」と叱られていて、ジンジャーは飼い主の言葉を真剣に聞いているように見えます。しかし、ジンジャーからしてみれば、飼い主の言葉は「~~、ジンジャー、~~~~、ジンジャー、~~~」としか聞こえていないのです。

Webページを見るとき、ユーザが実際に目にするものは、ユーザの心の中にあるものに左右されます。総じて、Webページのごく一部だけをユーザは見ます。

ジンジャーのように、Webユーザも、(a)手元の仕事、(b)現在の関心事や個人的興味に一致する言葉や語句にだけ注目する傾向があります。さらに、(c)神経システムに組み込まれている、「無料」、「特売」、「セックス」や、自分の名前などの刺激となる言葉にも、当然反応します。

事実その2
最適な選択をするのではなく、必要最小限の結果でよしとする。

往々にしてWeb制作者は、ユーザはWebページを流し読みした後、選択肢をすべて検討し、最適なものを選択すると想定してWebページを制作します。しかし実際には、ほとんどの場合、ユーザは最適の選択をしません。最初に見つけた妥当な選択肢を選択します。これは、「満足化(satisficing)」と呼ばれる行動パターンです(経済学者のHerbert Simon*が、著書『人間行動のモデル(Models of Man: Social and Rational)』の中で「満足化」という語を考案しました)。探している情報につながりそうなリンクを見つけたら、すぐにクリックする可能性が非常に高いのです。

私は、このようなユーザの行動を長年研究してきましたが、その重要性をはっきり認識したのは、Gary Klein著『決断の法則(Sources of Power: How People Make Decisions)*』を読んだ後でした。Kleinは、自然状況での意思決定を長年研究し、消防士、パイロット、チェスのチャンピオン、原子力発電所の作業員などが、時間的制約、あいまいな目標、限られた情報、変化する条件という状況の下で、どのようにして思い切った決断を下すかを調査しました。

最初に、Kleinと彼のチームは、合理的意思決定の標準モデルに基づいて、火災現場における消防指揮官の行動を調査しました。合理的意思決定の標準モデルとは、問題に直面したら、情報を集め、実行可能な解決策を特定し、最適な策を選択するというものです。Kleinらの予測では、消防指揮官は、時間的圧力がかかる中で思い切った決断を下さなければならないので、控えめに見て、2つの選択肢を比較検討するのが精一杯だろうと考えました。

ところが実際には、消防指揮官らが複数の選択肢を比較することはありませんでした。彼らは、思い浮かんだ最初の妥当な対策を取り上げ、問題を解決できるか頭の中ですばやく検討しました。何も思いつかなかったときは、行動計画に沿って行動したのです。

したがって、Webユーザが最適の選択をしない理由は次のようになります。

  • 急いでいる場合がほとんどだから。Kleinが指摘するように、「最適の選択をするのは難しく、時間がかかる。必要最小限の結果で満足する方がはるかに効率が良い」のです。
  • 推測を誤っても損失が少ない。消防士の場合とは違って、たとえ推測が外れても、Webサイトでの損失は、「戻る」ボタンを1、2回クリックする手間が増えるだけであす。つまり、満足化方針の方が無駄が少ないことになります(Webブラウザで最も頻繁に使用される機能は「戻る」ボタンである)。

もちろんこれは、Webページがブラウザに迅速にロードされることを前提にしています。Webページがゆっくりロードされる場合、ユーザはより慎重に選択しなければならなくなります。大方のユーザがロードに時間のかかるWebページを嫌うのは、このような理由もあるのです。

  • 複数の選択肢を検討したからといって、結果が良くなるとは限らない。設計が不完全なWebサイトでは、最適な選択をしようと努力しても報われません。当て推量で先へ進み、外れたら「戻る」ボタンをクリックする方がうまくいく場合が多いのです。
  • 当て推量の方が楽しい。複数の選択肢を比較するよりも手間がかからないし、読みが当たれば、ずっと早く結果を得られます。偶然性に賭けることによって意外なものに巡り合うという楽しみも期待できます。

もちろん、ユーザが選択肢をまったく比較せずにクリックしていると言っているのではありません。ユーザの行動は、ユーザの精神状態、時間的余裕、ユーザがWebサイトへ寄せる信頼度の高さによって異なります。

事実その3
仕組みを理解するのではなく、
何とか使いこなすだけである。

ユーザビリティテストを実施して、まず明らかになることは、使用しているものがどのような仕組みで機能しているかまったく理解していないか、間違った考えを持ったまま使用しているユーザの数の多さです。対象がWebサイト、ソフトウェア、電化製品のいずれの場合でも同様です。

何らかのテクノロジを前にして、わざわざマニュアルを読むユーザはごく少数です。マニュアルなど読まずに、とにかく使ってみて、何とか進めてみる。そうしながら、自分が何を使っていて、使っているものがなぜうまく機能するのか、あいまいな筋書きをもっともらしく自分の頭の中で作り上げているのです。

このようなユーザの行動を見ると、『王子と乞食』の最後の場面を思い出します。最後の場面で、本物の王子は、自分に顔の似た乞食が、自分と入れ替わっていた間に、英国国璽印をくるみ割りの代わりに使っていたことを知ります(国璽印は大きく重い金属の塊で、乞食にしてみれば、くるみを割るのにぴったりだったのである)。

実際、人は、同じような方法で物事をやり遂げています。設計者の意図とは大きく異なる方法で、ソフトウェアやWebサイトを巧妙に活用するユーザがたくさんいるのです。

格好の例だと思われるのが、あるサイトに移動するときに、そのサイトのURL全体をYahooの検索ボックスに入力するユーザたちです(ユーザビリティテストのとき、そのようなユーザが少なくとも12人以上いました)。初めてそのサイトを検索するときだけではなく、場合によっては1日に何回でも、検索するたびに毎回URLをすべて入力するのです。彼らにその理由を尋ねると、そのうちの何人かが、Yahooがインターネットであり、その使い方が正しい、と思っていることがわかります(同様に、AOLがインターネットであると信じている何人ものAOLユーザに会ったことがあります。YahooとAOLにはありがたい話です)。

大半のWebデザイナーは、Yahooの検索ボックスにURLを入力するユーザがたくさんいることを知ったら、ショックを受けるでしょう。

さらに、何とか使いこなしているのは初心者だけではありません。技術に精通したユーザでさえ、どのような仕組みで機能するのか、理解している人とそうでない人の間に驚くほどの差があります(Bill Gatesにでさえ、理論を理解せずに使っているテクノロジがあったとしても、私は驚かないでしょう)。

なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

  • 重要性が低いからです。大半のユーザにとって、とにかく使うことができれば、仕組みを理解することは重要ではありません。知性がないわけではなく、気にしないだけです。物事の大きな枠組みの中では、理論や理屈はそれほど重要ではありません(Web開発者は、仕組みや理論、理屈に高い関心を持つことが多いので、ユーザがこのような考えでいることをなかなか理解できないし、信じることもできないのです)。
  • うまくいく方法があると、その方法を使用し続ける。それほど効率が良くないにしても、何とか結果を出す方法を見つけると、もっと良い方法を探そうとしません。偶然、良い方法が見つかればそれを採用しますが、自分からより良い方法を探し求めることはほとんどないのです。

Webデザイナーや開発者がユーザビリティテストに初めて立ち会う様子を観察するのは、いつでも興味深い。ユーザがまったく関係ないものをクリックするのを初めて見たとき、彼らは仰天します(例えば、ユーザが、ナビゲーションバーの大きく目立つ「ソフトウェア」ボタンを無視して、「ソフトウェアを探しているから、この「特売品」をクリックしよう。安い方がいいから」とつぶやくのを聞いて、彼らは驚きます)。そのユーザが最終的には探していたものに到達する場合もありますが、その頃には、テストに立ち会ったデザイナーや開発者は、喜んでいいのか、嘆いていいのか、わからなくなっています。

2度目に同じことが起こると、Webデザイナーや開発者は「ソフトウェアボタンをクリックしろ!」と怒鳴り始めます。3度目になると、「もうどうでもいいじゃないか」と考え始めるのがわかります。

これは良い論点です。何とか使いこなせているのなら、ユーザが「理解」しているかどうかは本当に重要なことでしょうか?その答えは、「非常に重要」です。なぜなら、何とか使いこなしてうまくいく場合があっても、作業効率が悪く、ミスを犯しやすいからです。

反対に、ユーザが「理解」していれば、

  • ユーザが必要なものを見つける確率が高くなり、これはユーザにとってもWeb開発者にとっても良いことです。
  • たまたま目にしたものだけでなく、Webサイト全体で何を提供しているかをユーザが理解する確率が高くなります。
  • 見てもらいたい部分へWeb開発者がユーザを誘導できる確率が高くなります。
  • ユーザは自分たちがWebサイトを賢く使いこなしていると実感できるし、その結果、サイトへの再訪問率が高まります。そのようなサイトが多くなれば、ユーザが何とか使いこなすだけのWebサイトは通用しなくなります。

壁にぶつかったら...
ここまで読んだWeb開発者の中には、Webユーザの現状とWebの本当の使われ方に失望し、「むしろ近所のコンビニで働いた方がいいのではないでしょうか。少なくとも努力を評価してもらえるのではないか」と考え始めた人がいるかもしれません。

こんなときはどうすべきか?

答えは簡単です。Webサイトが「時速90キロで走る車から眺める看板」であるかのようにユーザが振る舞うのなら、Web開発者は「すばらしい看板」を作るしかありません。