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筆者について

レイチェル・アブラムス(Rachel Abrams)

インタラクションデザイナー兼ライターのレイチェル・アブラムス(Rachel Abrams)氏は、世界的な複合デザインコンサルタント会社であるImaginationのコンテンツ担当主席ストラテジストを務め、ニューヨークを拠点に活動しています。

リソース

Webリンク

The Map Office*
Potion Design*
Open*
StoryCorps*
Basecamp Project Path*
Flickr*
Linked In*
Meet Up*
Friendster*
Wikipedia*

このシリーズについて

コラボレーションシリーズ

デザインは今、様々な分野が忙しく交錯する中で制作されるようになっています。 このシリーズでは、デザイナーとツールの関係や、アニメーション・映像・パフォーマンスを駆使する新しいタイプのデザイナーの出現について検証し、コラボレーションとは何か、コラボレーションのネットワーク形態やパターンはどういったものかを見ていきます。

誰もが「つながる」時代

コミュニケーションネットワークとコラボレーション空間

今の時代は、誰でも他の誰かと一緒に仕事をしています。ビジネス雑誌のほとんどが何か頼りになりそうなことを言い出せば、誰もがせっせとそれに精を出す。私たちはみんな、つながっていたいるのです。先行きどうなるか分からない中、私たちは多くの時間を仕事に費やしています。何か安心できる材料が欲しいし、楽しみだって欲しい。会社の中ではある程度の独立性を確保しながら働きたい。仕事は自分でしたいけれど、その負荷は他の人とも分担したい。だから、仲間と一緒に働くのです。

ビジネスのグローバル化とマクロ化が進むほど、身近な反応が欲しくなります。デスクの向かいに座る相手に、アドバイスや同意を求めたくなります。仕事のあり方が変わり、職場もそれに合わせて変化してきました。ヨーロッパの家具メーカーVitraが発行する雑誌Workspiritは、そうした変化に対する同社の反応の現れです。Workspirit第8刊で、VitraのCEOであるラルフ・フェルバウム氏はこう述べています。

「現代の仕事に求められるものは、コラボレーション、コミュニケーション、スピード、インタラクティブ性、チームワーク、そして創造性だ。」

「…古いオフィスはテイラーリズムの課業管理、標準化、ヒエラルキーに基づいていた。 新しいオフィスでは、知的で自主性のある個人の間にネットワークを築くことが、問題解決の必要前提条件として求められる。」

クリエイティブにコラボレーションするデザインプロフェッショナル
『Social Life of Information*』の共著者ジョン・シーリィ・ブラウン氏とポール・デュギッド氏は、同書の前書きでこう記している。「社会の持つ求心性が必然的に人を呼び集めようとするのに対し、テクノロジーの持つ遠心性が人の分散を可能にしている。」

Marchfirstのような巨大なインタラクティブエージェンシーは、ノーカラー労働者の台頭に代表される1990年代のニューエコノミーにより、その白熱した炎に焼かれて消えてしまいました。それ以降、プロジェクトの内容はどんどん多分野にまたがり、技術的な仲介を必要とし、経験に基づいて進められるようになりました。複雑で戦略的なプロジェクトにはやはりチームが必要ですが、そのチームには多分野の頭脳が結集され、それぞれがスペシャリストとしての能力を発揮することが求められます。こうしたプロジェクトの複雑性に合わせて、小規模のエージェンシーや個人デザイナーによる、ゆるやかなネットワークが生まれてきました。

図1.Bravo ネットワークのデザイン変更プロジェクトのためにOpenチームが作成したマップ
イラストレーション:スコット・ストウェル

このような小規模デザインオフィスの1つが、スコット・ストウェル氏のOpenだ。その社名が示す通り、クリエイティブに対する彼の思いは事務所の四角い壁を越えて開けています。つい最近Openは、ポップカルチャー専門ケーブルテレビ局のBravoのグラフィックデザインを一新するという仕事を引き受けましたが、このプロジェクトにあたって不可欠だったのは、アニメータ、サウンドエンジニア、映画制作者らとチームを組むことによる多面的なアプローチでした。ストウェル氏のチームがデザイン戦略を練る中で、Bravoのための曲をブランド化するために、アコースティックミュージック専門スーパーバイザーとしてAgoraphone社の協力を求めることになり、また、映画監督のクリス・ウィルチャ氏が、制作コンセプトに取り組むためにチームに加わりました。

他にも似たような動きがあります。エール大学で学んだグラフィックデザイナーの2人組、エディ・オパラ氏とジョージ・プレスコ氏は、日頃はThe Map Officeの名前で、Web、印刷、モーショングラフィックスなどの制作を行っています。また、MITメディア研究所卒業生のジャレド・シッフマン氏とフィリップ・ティオングソン氏は、The Map Officeの2人と同じような活動を行うPotionの共同経営者です。今年、この4人が集まって、Constellationというデザインネットワークを結成しました。彼らは、印刷、モーショングラフィックス、Web、情報アーキテクチャ、環境デザインなど全てを巧みに扱い、「ビジュアルデザインとテクノロジをアーキテクチャに織り込んで、ユーザにとって魅力的な体験を創出」しています。

Constellationの体制は極めて柔軟です。仕事を取ってきた者が、そのプロジェクトを統括する。他のメンバーとのコラボレーションでメインとなる個々のデザインを制作しながら、オパラ氏はImaginary Forces社からの発注を受け、タイムズスクウェアにあるモルガン・スタンレーのビル外壁を飾る巨大なモーショングラフィックスを制作した。また、ティオングソン氏はSmall Design Firm社と共同で、ニューヨークのアジア協会のためにDynamic Poster、Timeline、AsiaTablesというインスタレーションの制作を行いました。Constellationチームとしては、ファッションフォトグラファーのCarlton Davisのポートフォリオサイトを最近完成させ、これから2006年にかけては、ニューヨークの有名美術館やレストランの依頼で有形メディアや場所を限定したテクノロジの制作をメンバーが協力して行うことになっています。Constellationでは、行政機関や文化施設、ハイエンドな店舗といったクライアントを抱え、そのニーズに応えるには多彩で補完的なスキルが必要なため、彼らは今後、他のデザイナー、技術者、研究者らとの間にもゆるやかな連携を広げた、より大きなConstellationチームとしての活躍の場が広がるだろうと見ています。

同業者会議での雑談に耳を傾けると、他のデザイナーたちもConstellationのようなデザイナーグループに注目していることがわかります。デザイン教育関係者もまたしかりです。新しいコラボレーションの環境が生まれたことで、クリエイティブとは何かという認識にも変化が生じています。その現れとして、デザイン教育とプロの現場の両方が多分野をカバーする方向に向っており、そこで定義される「クリエイティブ」ワークとは、個々の要素を制作することであると同時に、全体を把握してディレクションを行うことであるとされています。

現在、デザイン教育の現場で注目を集めるカリキュラムには、必ずといってよいほど多分野の要素が取り入れられています。カリフォルニア州パサディナのArt Centerは、Transdisciplinary Studio(TDS:学際的スタジオ)ワークショップを開設し、学生たちがそれぞれの専門分野を活かして共同プロジェクトに貢献するという機会を提供しています。 それと似たケースとしては、オハイオ州立大学が産業デザイン、インテリアデザイン、ビジュアルコミュニケーションデザインを1つの学部内で教えており、学生が卒業後に直面するデザインワークの複雑性に対応できるよう備えています。

Professor R. Brian Stone*オハイオ州立大学デザイン学部で学生の指導にあたっている R・ブライアン・ストーン助教授は、こう述べている。 複雑な問題を扱う場合、学際的コラボレーションを行うスキルは欠かせません。環境の持続可能性、ユニバーサルアクセス、技術やテクノロジ、グローバル市場における現地文化への配慮などといった問題は非常に複雑性が高いのです。技術的にも機能的にも、そして認識面や美的感覚においても、専門的な能力を集団として結集することが必要です。」

専門分野や成果とは関係ない部分で、クリエイティブなコラボレーションの多くに共通しているのは、他者と共に働くことに対する動機と方法です。 コラボレーションを行うことで満たされるニーズが3つあります。1つに、互いに建設的な批判を行うことで、いま抱えている仕事を明確化し、あるいは完成度を高めることができます。2つ目に、コミュニケーションの輪が生み出す協力関係に参加できます。最後に、そうした状況の中で自分たちを組織し管理することで、クリエイティブ面を強化できます。

抱えている仕事を明確化するため、あるいは完成度を高めるために、他者とつながろうとする――。
確かに、今の時代のクリエイティブワークには、コラボレーションが必要とされます。しかしクリエイターたちは、ことさらに他者とのつながりを求めるようになっているようです。 それは何故か?

すべて順調に行っている状況なら、他者と一緒の方が、孤独に仕事をするより楽しいからです。それに、他のメンバーと一緒の方が効果的です、と言うのはミュージシャンのダン・ミラー氏。ブルックリンで結成されてから20年を迎えるバンド、They Might Be Giantsのメンバー5人のひとりとして、彼はこう語っています。「メンバーの中で自分の役割を知ることで、ものすごく効果的に仕事できる。それぞれが自分の長所を活かすというのは、実際に何かを達成するにはとってもいいやり方です。…長い期間ずっと一緒にやっていると、自分の才能が失われていく場合もある…新鮮な状態を保つのは難しいが、努力するだけの価値はあるのです。」

インタラクティブな展示デザインのコンサルタント会社、Local Projectsの設立者であるジェイク・バートン氏も、数の力を信じています。自分が何を作ろうとしているのかがつかめずに、藪の中を手探りで進んでいるような状態のとき、誰かと会話することで、自分ひとりで考えるのとは比べ物にならないほどシャープなひらめきを得ることができるのです、とバートン氏は言う。

協力関係を生む構造としてのコラボレーション
コラボレーションは、個々のクリエイターが自分のアイデアを明確化するために使用するフレームワーク、あるいは、クリエイターたちが仕事の質を向上させるために共に住まうネットワーク/オープンな体制/フォーマット、と定義することもできます。

Project Pathは、Webベースのコラボレーションプロジェクト管理ツールですが、実に自分の役割をわきまえたシステムです。 それをよく知るのが、雑誌Topicのスタッフたち。年4回発行のTopicは、毎号異なるテーマを掘り下げて掲載しています。

Topicは、雑誌としては一風変わった試みを行っています。まず、各号の制作は、ほとんどのスタッフにとって課外活動的な作業です。マンハッタンのローアーイーストサイドにある小さなオフィスでいつも仕事をしているのは、編集長と編集局長の他、ほんの数名のスタッフだけ。Topic本社は、Web上の空間に存在しているのです。

また、それぞれの記事は特定の人物の経験を取り上げたものですが、文章は常に一人称で書かれています。Topic編集主任のエレン・カーペンター氏は、その人物についての記事を本人と一緒に作り上げていきながら、幅広い範囲のソースに接触して記事のテーマを追いかけなければならないのです。それと同時に、あちこちを飛び回る20人程度の編集スタッフや広い範囲に散らばる寄稿者らとも一緒に仕事を進めているため、このWebベースのアプリケーションで全員からのフィードバックを整理しているのです。

奇抜な人類学的要素をTopic誌面に盛り込むために、この網目状に張り巡らされたコミュニケーションネットワークを使って、カーペンター氏は各号で取り上げる興味深い人物たちと直接会話します。 インタビューを予定するにも、あるいは米国武器査察官やカラオケ機械の発明者、大食いのプロCrazy Legs Contiといった人物らとの会話を編集するにも、Project Pathが最適な場となってるのです。

Topic誌のクオリティの高さ、アートディレクションの美しさと比べると、Project Pathのフォーマットは一見あまりにも実用一点張りで素っ気なく感じられます。しかし、よくよく見ると、ブラウザの白いスペースには新鮮な空気が溢れ、酸素を供給するかのようにアイデアを届けてくれるのが感じられます。それに使いやすいとカーペンター氏は言う。彼女はTopicサイトで行う作業について、どこそこに行くという言い方で表現する。このシステムはTopic編集チーム用に、定期制作プロジェクトに合わせてカスタマイズされています。プロジェクトの進行に沿って、拡張可能なフォーマットですべての作業を行うことができます。各号の企画から、ストーリー案、原稿依頼、初稿、編集、最終稿、写真、レイアウトなどのポスティング、レビュー、コメントまで、チーム全員がBasecamp社のProject Pathを使用している。カーペンター氏はいつもの作業にすっかり慣れていて、ページのナビゲーションボタンの文字にはほとんど目をやることなく、その代わりにスクリーン上の本文に集中します。緊急のポスティングがあると腕をつつかれたように反応し、自分からグループ全体に急ぎの質問をポスティングする際には、普通のオフィスで部屋の反対側にいる相手に大声で叫ぶ前に一呼吸おいて考えるのと同じように、すぐにできると分かっていても注意深くポスティングを行います。

若い編集者が集まったこの大規模ワークグループ、つまりWeb上のやり取りで成り立つこの集団にとって、BasecampのProject Pathは、離れていながら共に働くことを可能にしてくれるソリューションです。 ところで、彼らは誌面の外でのつながりを失わないために、編集会議や食事会で時おり顔をあわせ、仲間の顔を忘れないようにしています。

BasecampのProject Pathを見れば分かるように、人と人とのやり取りを仲立ちするソフトウェアは、そのソフトウェアが本来もつ「仲介性」を存分に発揮し、人間という極めて複雑なプロセッサの間に立って通訳者としての役割を果たすことが必要です。意思決定を行うユーザの摂理を尊重し、ユーザの思考を妨げるのではなく、敬意を払ってそれを促進するものでなくてはならない。They RuleやCommunicultureなど、社会性のある挑発的なWebサイトの制作者であるジョッシュ・オン氏は、そのことを分かりやすく述べています。「機能を主張しすぎないシンプルなツールを作れば、それを人が賢く使えます。設計者が構造をどの程度まで固定しておき、ユーザがどこまで自由に使えるか。そのバランスが肝心なのです。」

クリエイター個人のアイデアと力が集まる空間/空の器/フォーラムとしてのコラボレーション
Story Corpsプロジェクトは、グランドセントラル駅近くのグランドゼロに位置し、国内を巡回する移動型の音声スタジオです。数百万人という一般のアメリカ人が語る言葉を、後世への記録として録音しています。 このプロジェクトでは、録音されたものを聞いた観客が、さらに別の観客のために自分の言葉を追加して残すことができます。イルミネーションに浮かぶブースは単なる空間にすぎず、一般大衆がその空間で、口述による歴史の一部として、1つの物語を共に紡いでいきます。深い思いを込めて語られた言葉は、新しくやって来た人の心を温め、後に続く人々にも真摯な気持ちで参加しようという思いを抱かせます。Webサイトではプロジェクトの意義を記した声明を読むことができ、スポンサーのリストも掲載されていることで、プロジェクトへの信頼性が築かれています。それに安心感を持った人々は、前に訪れた人が残した録音を聞いて、さらに親しみを覚えると同時に、自分がそのコラボレーション空間で何をすれば良いかを知ることができます。つまり、この空間は規範的でありながら、その中で行われる交流の形は自由です。この2つのバランスを制作者が意識し、敏感に配慮していたことは、プロジェクトの成功を見れば明らかです。

人と人との交流を促すシステムを設計する者は、ソフトウェアであれ、家具や手順であれ、そのシステム自体が持つ再帰性に気付くことになるでしょう。システムを通して人は会話する。 この会話によって、システムはその用途を知らされ、ひいては改善され得るのです。それには設計者が、ユーザ間のインタラクションのために作ったフレームワークについて、自ら説明する必要がある場合も出てくるでしょう。

2004年から2005年にかけて、携帯電話で遊ぶConqwestという宝探しゲームがアメリカ西部で流行り、高校生の間で市から市へと広がっていきました。当時SS+K社でこのゲームの開発責任者を務め、現在は自らのarea/code社を設立しているケビン・スラバン氏は、ゲームが別の市へ広がる中で、ある場所のゲームプレーヤーから別の場所のプレーヤーへとゲーム攻略のヒントが送られるようになったと言います。こうしたやり取りを追跡したスラバン氏は、その内容を自らのヒントにして、ソフトウェアに改良を加えました。次の市に移動しながら、Conqwestは徐々に高度になっていったのです。

コラボレーションとは「みんなが自分に同意してくれること」というのはスラバン氏の冗談ですが、 自分には自分のやり方があり、他の仲間にもそれぞれのやり方があるとすれば、最終的なチームとしてのあり方に到達するまで、コンセンサスを繰り返し循環的に築いていかなければなりません。

コミュニケーションテクノロジによって、個人の働く場、グループがコラボレーションする場、そして仕事のペースが進化していきます。ソフトウェアは、人間どうしの関係を邪魔するのでなくサポートするものであれば、役に立つ。ただ、様々な形態でコラボレーションする人々の、働き方と時間、場所を尊重しなければなりません。人が集まって働くときに、技術をもって貢献し、経験を役立て、能力を提供し、気持ちよく振舞うといったことが求められるのと同様に、ネットワークを構成するツールにもまた、同じことが求められます。英国ランカスター大学科学研究センター・社会学部教授のルーシー・サッチマン氏は、Xerox PARC社で研究員を務めた経験も持ち、人間とコンピュータとのインタラクションについて人類学的なアプローチを続けています。彼女の意見では、コラボレーションを促進するソフトウェアの設計においては、人間が「その仕事を実際に成し遂げるために必要な判断を自由に行える余地」が十分に残されていることが重要なのだそうです。

与えられたフレームワークおよび空間の中で創造性を高めるための、問題解決手法としてのコラボレーション
リチャード・フロリダ氏は、自著『The Rise of the Creative Class』の中でこう書いています。「…恐らく、今の新しい時代が抱える最大の問題は、創造性と組織との関係の難しさだろう。 クリエイティブなプロセスは、単に個人的なものではなく、社会的なものだ。それゆえ組織化を必要とする。 しかし、組織には創造性を窒息させかねない要素があり、また実際そういったことは頻繁に起こっている。」

ネットワーク化の進んだ文化の中で、クリエイターたちは距離や時間を越えて容易に組織を構成することができます。しかし、たとえ役割や責任が明確化された小さなグループでも、やはり上下関係が存在することがあります。それがなくなってしまう必要はありません。ただ、そのことを認識しなくてはなりません。プロジェクトが続く間、コラボレーションを維持するには、チーム内の上下関係がどうであれ、その枠を超えて公平な会話が行われなくてはなりません。ここで「協力関係の構造」を支えるのが、コラボレーションソフトウェアです。これによって、個人の参加、個人間の議論、建設的なやり取りが可能になるのです。こうした見方をすると、チームメンバーを減らしてツールに置き換えられるとか、仕事の割当てのはっきりしない人員を置くよりツールを入れた方がいいなどと、誤った考えを持つことも少なくなるでしょう。

共同作業のための空間についても、これと同様の定義ができます。 家具デザイナーのブルレック兄弟は、彼らがデザインした組み換え可能なコラボレーションオフィス用家具Joynについて、次のように表現しています。「…共同作業のための共有ツール。…働く人に生活の場を提供する風景。人はオフィスに『暮らす』ものだから。」

15人用の大型テーブルを基本とするJoynは、まるでスウェーデン産のお菓子のようです。シャープな直線のテーブルに、趣味の良いフルーティな色合いの仕切りプレートを取り付けることができ、プライバシーの程度に合わせて高さを調節できるようになっています。 エルワン・ブルレック氏は次のように強調します。「私たちが目指しているのは、仕事環境を完璧に作り上げてしまわないということ。…あらかじめフレームワークを決めてしまわず、誰にも制限を課さないことです。…私たちのデザインは、すでにどこにでも存在している生活のあり方をサポートするための可能性を提供しているのです。」

ソフトウェアの観点から、ジョッシュ・オン氏もこれと同意見を唱えています。「空間の意味とは、利用されることによって作り上げられます。 シンプルなツールを介して、使う人が自分にとって意味ある空間を創出できるのです。」

文脈におけるコラボレーション
クリエイティブなコラボレーションは、単なるフレームワークや空の器、あるいは社会慣習の一形態、テクノロジと対話する方法などに換言してしまうことはできません。現実においてコラボレーションはそのすべてであり、つまり文脈に応じて、意図されたプロセスに従って行われる交流の一形態です。 人はコミュニケーションする生き物です。ものを書き、話し、そして行動に踏み切る自信を得るためにフィードバックを求める。行動については互いにやり取りし、調整し、予定を組み、割り当て、記録する。そのために紙を使い、電子メールやスプレッドシート、図表、スピーカーフォン、ガントチャート、そしてグループウェアを使用する。使いやすい紙も、ファイリングに便利なデジタルも活用する。

私たちは、コラボレーションしたいからコラボレーションを始めます。 打ち解けた環境で気の合う仲間や尊敬する人たちと共に働くことで、仕事が順調に捗り、互いの長所に頼り、自分の弱さを補うことができます。力を合わせてクライアントにクオリティの高いものを提供し、仕事がうまくいけば喜びを分かち合えるのです。

私たちはまた、必要にかられてコラボレーションを行います。職人として雇われていようが、企業の社員として働いていようが、複雑なプロジェクトの中では特定の役割が与えられ、作業の多くは厳密に統制されています。効率性が求められるなか、他の誰かがすでに予算の範囲内で、電話一本で終わらせてしまったようなことを習得するのに、時間をかけてはいられません。仕事の中でスキルを身につけるのは価値あることですが、たいていの場合、他の人にも覚えられる些細なことができるようになったところで報酬には結びつかず、「自己開発」の域に留めておくしかありません。

コラボレーションは、仕事の方法としては決して新しいものではありませんが、いま明らかに、私たちの経済のニーズ、デジタル時代のニーズ、そしてクリエイティブな仕事のニーズを満たす形態に、コラボレーションが変化しつつあります。Conqwestのようなマルチプレーヤーによるネットワークゲームの成功、StoryCorpsやProject Pathのようなコミュニケーション空間の成功が、それを裏付けています。MITメディア研究所のTreehouseのようなコラボレーション環境により、グループがインタラクティブに活動できる空間が新たに開け、それが社会的な交流を変貌させ、改善するためのフレームワークとなっていく。 社会的ネットワークのLinkedInやFriendster、meetup.com、オークション業者のebay、写真コミュニティのFlickr、自由書換え可能な百科事典のウィキペディアなどは、こうしたプロジェクトに参加する一般の人々も多くいることを示唆しています。グローバル化に期待と不安を抱く個々人は、互いに集い、分野の違いを超えて、多対多のコラボレーションのつながりを強化する準備が整っているのです。

コラボレーションネットワークにより、既存の仕事の方法は増加し、拡大していきます。コラボレーション空間はそれに取って代わるのではなく、変貌させるのです。 コラボレーションを行う人々が利口でも、ソフトウェアがそうでなければ、人はその先を行き、ソフトウェアがなくても可能な方法を考えるでしょう。しかし、人もソフトウェアも利口であれば、新しいものを生み出していくクリエイティブの力はテクノロジに後押しされ、その可能性は無限に広がることになります。

参考文献:

謝辞
2005年6月にニューヨーク市で集まり、このテーマに関する最初のクリエイティブな意見交換に参加・協力してくれたエレン・カーペンター氏、エディ・オパラ氏、ダン・ミラー氏、ケルビン・スラバン氏、ジェイク・バートン氏、アダム・グリーンフィールド氏、ヤエル・レインハーツ氏に心よりお礼申し上げます。 また、マイク・ベーク氏、ジュリアン・ウェルドン氏、アンジェラ・ウォラク氏、ディビッド・ウォマック氏、アリス・トウェムロー氏にも、心から感謝します。