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楽天株式会社にとって、アクセス解析の有効活用は経営課題だという。そのため、全社を挙げての取り組みが行われ、事業部を横断して導入を推進するための選任チームも作られた。最近では、iPhone/iPad, Android などデバイスへのサービス展開にも、アクセス解析を活用すべく検証を始めたという。なぜ、そこまでアクセス解析に力を入れているのだろうか? また、Web からデバイスへと対象が広がることによる影響はあったのだろうか? アクセス解析・最適化推進リーダーの清水氏と、編成部ユーザビリティ強化チームでスマートフォン推進を担当する脇阪氏に、楽天におけるアクセス解析とデバイスへの最新の取り組みについて、お話を伺ってみた。そこで見えたのは、一般的に使われている "制作" とは、異なる視点からの "制作" への取り組みだった。
なぜ、アクセス解析に力を入れているのか? と質問すると、楽天の成功の秘訣は、"仮説→実行→検証→仕組化" を継続して行うことだという話になった。噛み砕くと、まず、思いつきだけで進めるのではなく、そのアイデアがなぜ良いのかという仮説を立てて、実行後に検証可能な状態にする。さらに、検証結果をもとに仮説の立案からもう一度、という行程を繰り返す。そうやって、仮説の質、ひいてはサービスの質を高める仕組みを確立することで、長期的な競争力を確保する。それが楽天の理念になっている、という話だ。
従って、Web サイトの制作も、仮説をもとに制作が行われることになる。そして、サイトの公開は、サービスの提供だけでなく、仮説検証のためのデータを集める行為でもあるという訳だ。そう考えると、アクセス解析が標準装備と位置づけられているのも納得がいく。公開はサイト制作の終わりではなく、むしろ最適化の始まりという言い方もできるだろうか。清水氏曰く、「作りっぱなしでは価値がでない (保証されない) という認識」
楽天では、Web のアクセス解析に関しては、2006 年から本格導入を開始、その後 Adobe® SiteCatalyst® を全社導入する。3 年もの試行錯誤を行って、Web の最適化に結びつくアクセス解析の土台を作り上げた。しかし、スマートフォンやタブレットは、対応を始めてまだ日も浅い。そのため成功事例が少なく、仮説を立てるにも手探り状態だという。今後デバイス向けのサービスは増加し続けることが予測される。"そこ" に対しても最適化を効果的に行うには、自信を持って仮説を立てられるようになる必要がある。では、現在はどのような取り組みが行われているのか。具体的な事例をもとに解説して頂いた。
楽天ブックスは、楽天の中でもマルチデバイスへの取り組みが進んでいる事業部の 1 つだそうだ。既に Web サイトの iPhone 向け最適化や iPad アプリである "チラよみ" のリリースを行っている。それぞれの利用状況は以下の通りだ。
まず、iPhone 向けサイト最適化については、最初はトップページのみ最適化して、その後、段階的に商品ページやショッピングカートも最適化を行った。脇阪氏によると、最適化が進むにつれて、離脱率が低下しコンバージョン率が上昇する様子がはっきりと見てとれたという。Web に関しては、デバイス向けでも従来の指標が有効と考えて良さそうだ。
iPhone 対応前(左)と後(右)の画面。対応後の画面では、重要な情報と購入ボタンのみ表示されるように変更された。
一方、iPad アプリの "チラよみ" は、いろいろな雑誌が iPad で読める国内最大級の雑誌アプリとのことで、立ち読み感覚で雑誌を見ながら、実際に雑誌を注文したり、誌面で紹介されているアイテムを注文できる。
チラよみのトップ画面 (左) と、雑誌選択後の画面 (右)。そのまま雑誌を購入できる。
雑誌を閲覧しているところ。下の 3 つのアイテムはクリックして楽天市場から購入できる。
公開後の反応については、最初は男性ユーザーからのガジェット系の雑誌に対するアクセスが多かったそうだが、女性ユーザーの比率が増えるに従って、女性ファッション誌へのアクセスも増えてきているという。実際チラよみを起動すると、男性誌だけでなく女性誌の掲載も目立つ。今後も、解析結果を踏まえて事業展開を進める考えだ。
ダウンロード状況については、やはり iTune ストアのランキングに大きく影響されているという話だった。iTune ストアには同じ会社のアプリをお勧めする機能があるため、今後はこれを活用していきたいという。(現在は、"チラよみ" と "楽天ランキング" が Rakuten.inc のアプリとして登録されている)
ここまで聞くと、既に iPad アプリでも解析が出来ているような印象を受けるが、まだサーバーへのアクセス情報しか利用できていないため十分ではないのだそうだ。アプリならではの行動を把握できる、そんな解析の実現にいま取り組んでいる最中だという。
デバイス向けのアプリケーションを提供することで、多くの新しい課題が生まれる。例えば、アプリはオフラインでも使用することができる。正確なクリック率やコンバージョン率を知るには、オフライン中の閲覧も含めたデータが必要だ。また、あるユーザーが Web サイトとアプリ両方を使っていたとして、それぞれをどのように使い分けているのか? デバイスを提供することで Web に求められるものに変化は有るのか? どのような属性のユーザーがアプリをダウンロードしているのか? こういった問い 1 つ 1 つに、新しい仮説や結果を判断する基準となる指標の選定が要求される。アクセス解析にも、新しい指標に対してどのデータをどう取得すると最適化につながるのか、改めて検討が必要になる。
では、アプリではどのような解析が可能なのか。Web は基本的にページが解析の単位になるが、アプリでは時間軸での解析が行われる。例えば、マウスの動き、すなわち位置やクリックした場所を時間の経過と共に記録することができる。これにより得られる情報として清水氏が挙げたのは、「一般的な情報としては、滞在時間やリピート率、アクティブ率。興味深いものでは、インストールしてから使わなくなるまでの過程とか。あとは、削除されたのか使っていないのかとか」
このような解析から、成功するパターンを抽出して、企画、設計、開発に活かしたい考えだという。ユーザーを定着させるためのコンテンツの企画や、機能アップデートのタイミングの検討にも効果がありそうだ。また、定量的な効果を継続的に監視することで、ユーザーの変化に素早く気づいて対応できるという期待もある。まだ立ち上がったばかりのデバイスの世界では、ユーザー像や行動パターンの変化の速度が速い。他のアプリがヒットした影響で UI トレンドに変化が起こるかもしれない。UI ガイドラインは重要だが、ユーザビリティの定量的評価は必須という認識だ。もちろん、ユーザービリティテストは併用して実施すべきと考えている。マルチデバイス環境での操作性の統一も重要な課題としてとらえているそうだ。
アクセス解析では、設計や実装のコスト削減も大きな課題である。そして、大規模導入であるほど、この問題は顕著になる。iPhone / iPad アプリへの解析機能の組み込みについては、この点で苦労しているという。Apple 純正の開発環境しか使用が許可されないため、Objective C から直接低レベルの API を使わなければならない。これが手間のかかる作業なのだそうだ。
Android デバイスについては、これらの点は改善されるのではないかと期待しているようだ。Adobe® AIR® の Android 版が公開されれば、Flash® Professional や Flash® Builder™ を使って開発が行える。Flash プラットフォームであれば、より簡単にアクセス解析機能が利用できるライブラリを利用できるからだ。
最後に、サイトやアプリの開発体制についての話題にも触れてみた。すると、出てきたキーワードは "アジャイル" だった。仮説→実行→検証→仕組化を実践する中で、柔軟かつ素早い対応が重要視されていることが感じられる。ただし、そのための開発体制と方法は模索中とのことで、まだ確立されたものではないようだ。独自の開発方法を模索すると内製化が進んでいくのではないかと聞いてみると、脇阪氏から次のようなコメントがあった。「外部パートナーとの協業を行うと同時に、開発経験を通じて蓄積したノウハウから、当社での開発プロセスを確立していきたい」
最適化のサイクルを回すため、長期的にコミットできるパートナーが重要になってくるのは想像に難くない。しかも作るだけではなく、制作物の仮説を明確にし、検証/改善するところまで関わることが求められるようになるだろう。解析、最適化を前提にすると、制作の意味自体が変わってくる。なにしろ、「作りっぱなしでは価値が出ない」