
普段のお仕事の傍らグループ展の開催や個人的な制作活動も行われていて、CannesLions銅賞、東京インタラクティブ・アド・アワード金賞など国内外多数の受賞歴を誇る博報堂アイ・スタジオ クリエイティブディレクター 佐野勝彦氏によるセッションです。前回の中村洋基氏によるセッションを受け「上級編」として、これまで作成したAS2.0のコンテンツをAS3.0化することでどれほど効果があるか、また、実際の制作現場で役に立つTIPSの紹介という趣旨で行われました。
これは前出の中村氏同様、佐野氏が制作にあたる際の気構えにされていることだそうです。サイト表現としてのアイデアとそれを実現する技術を考えた場合、どうしても「ちょっと無理かも」と感じる場合があります。しかし考えることはみな同じで、難しそうなことは誰もが実現していない新しい挑戦への兆しということでもあります。「ちょっと無理かも」と思ったときは、それ即ち、「誰もが実現できていない新たな表現への挑戦」として「しめた」と思うようにしているそうです。
ここで佐野氏は自身のAS2.0の作品例としてVORDERFONE DESIGN FILEを紹介されました。「デザインファイル」という名前から考え出されたそのインターフェイスは、各ファイルの番号にそれぞれのコンセプトを持った機種が入っていて、さらにその中にはそれぞれの機種が持つ属性が整理されてラベル付けされています。そのラベルを元にその中に入っている属性をジャンル分けして取り出したり、並べ替えたり出来る。そのアイデアもさることながら、浮遊感溢れる近未来的でスピーディな心地よいインターフェイスや、インターフェイスが琴の弦を模していて、マウス位置によって音程が変わり楽器演奏がきるなど、大変アイデアに溢れたサイトです。
佐野氏自身、実際に作ってみるまでは「処理が多すぎて動くかどうか分からなかった」そうです。しかし、これを無事に動かすことが出来たことがその後の作品制作の際に「あそこで出来たんだから頑張ってみよう」と励みになったそうです。まさに「無理」と諦める前に挑戦したことが、また新たな次への挑戦の糧となった好例と言えるのではないでしょうか。
次に、「AS3のちょっと無理かも」ということで、機能が追加され、AS3.0の10倍速くなった処理速度を利用することで、さらに高くなった「ちょっと無理かも」という自身のハードルへの挑戦として、AS2.0で作成した作品をAS3.0に書き直した作品を紹介してくれました。

ActionScriptを使ったブログパーツ用の時計ですが、時間の進み具合にあわせて数字の塗りの部分が赤く塗られ、さらに秒針が進むのに合わせて数字がクルクルと回転します。このように徐々に書かれていく線を表現するためには、ActionScriptを使って座標に対して線を描写するプログムを実行させる必要があります。まずはその座標を取得するために、各数字のラインからアンカーポイントを取得し、百分率で表現するためにそのアンカーポイントに沿って座標を100分割する作業から行ったそうです。
これだけでも十分凄いのですが、これはまだAS2.0で、次にAS3.0のコードに書き換えられたサンプルを紹介してくれました。縦横無尽に飛び回る時計を15個に増やしたそうですが、それでもまったく動作が遅くなることもなくスムーズに処理されていて驚かされました。

ここで作業上のTIPSとしてFlsahの「コマンドの実行」による作業の自動化を紹介してくれました。アンカーポイントを取得する作業は、1つずつ手作業で行うのは気の長い作業です。しかし、Flashにはjsflファイルとしてパブリッシュ前のステージの状態をプログラムで処理する機能があります。佐野氏はこの機能を利用して数字のアンカーポイントの取得作業を自動化し、膨大な作業の軽減を図ったそうです。

次に紹介されたのは、シャープ、AQUOS Dシリーズのプロモーションサイト It'sDです。液晶テレビの形状やインターフェイスがリアルタイムに描画され、それがメニューにあわせて、ヘリコプターやピアノを模したアニメーションに変化します。ここでもjsflを使って元の形状から座標を取得するプログラムを組んで作業を行ったそうです。一般の方が目にするサイトはAS2.0で作成されていますが、佐野氏はここでAS3.0に書き換えたバージョンを紹介してくれました。
AS3.0バージョンでは、すべての線画を三次元で次々に描画していきます。その様はまさに圧巻でした。さすがに画面内のオブジェクトが増えてくるムービーの後半になると処理が落ちてくるのが分かりましたが、AS3.0の秘めたパワーの可能性を感じずにはいられませんでした。

東京のすべての地下鉄の時刻表情報をXMLとして保存し、そこから各時刻の電車の運行状況を時刻の表示にあわせてリアルタイムに表示するものです。「データを集めるのが大変だった」とは佐野氏の弁でもありますが、仕事の丁寧さに会場からも思わず感嘆の声が漏れました。FlashMX2004では東京版、Flash8ではニューヨーク版(未公開)、そしてAS3.0で3D化に挑戦されていて、それぞれ実際に紹介されました。
また、ActionScript3.0を使って三次元で演算を行わせた場合の注意点を紹介してくれました。三次元で物体を扱う場合、そのオブジェクトの「深度」の入れ替えが重要になってくるのですが、その深度は必ず「0」から始めないとエラーになってしまうそうです。同様のコンテンツに挑戦する場合は留意しましょう。
最後に佐野氏は自身の作品を「なんだか大変なことをやている」コンテンツだと自嘲しつつも、これらを紹介することでそれを見た私達が自分の中にある「ちょっと無理かも」というハードルを見直す切っ掛けになれば嬉しいと結びました。
