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インバウンド、爆買い…日本の旅行業界だからこそ外国人観光客に提供できる「おもてなし」とは

2016年05月12日

【POINT】

  • 旅行業界はその性質上、名前/性別/年齢などの旅行者情報を得やすい。これらのデータは多様化した消費者のニーズに応えるという目的で、大きく活用すべきだ
  • 「おもてなし」の質の高さこそが、日本の強みである。しかし旅行者が望む形で提供しなければ、彼らに届かない
  • デジタルによるパーソナライゼーションによって初めて、旅行者が必要とするサービスを必要とするタイミングで届けることができる
 

ここ数年、日本の旅行業界における状況の変化が著しい。とくに外国人観光客(インバウンド)の増加は、日々さまざまな形でニュースに取り上げられており、身近な事象として感じている方も多いだろう。
日本政府観光局のデータによると、2015年の外国人観光客は前年度の47%増の1973万人に達し、3年連続で過去最高を更新した。特に、「爆買い」で知られる中国人観光客に関しては、2015年に約499万人が日本を訪れ、日本での買い物の消費額はおよそ1兆4200億円だった。
 
観光立国としての様々な施策が功を奏しているともいえるが、その観光客たちを受け入れる国内の旅行業界は、このチャンスを最大限に活かせているのだろうか。
せっかく日本を訪れてくれた観光客に対して、彼らの期待に応えることができていなければ、次の旅行先に選ばれることはないかもしれない。
 
この活況を一時的な現象で終わらせないために、日本の旅行業界がやるべきことは何か。T&H(トラベル&ホスピタリティ)業界におけるデジタルマーケティングのスペシャリストである、モハマッド ガバー氏(Adobe Senior Marketing Manager, Industry Strategy, Travel & Hospitality)に、グローバルにおける旅行業界の動向と、日本の旅行業界がとるべき施策について聞いた。
 
 

旅行者は、「私に必要なサービス」を「必要なタイミング」で提供されることを求めている

 
「私たち消費者は現在、1日のほとんどをデジタル機器なしでは過ごせない」とモハマッド氏は語る。朝起きたらまず、スマートフォンをチェックし、通勤中はニュースを読んだり、音楽を聞いたりする。日中はPCを使って仕事をし、家族や友人とSMSやソーシャルメディアでコミュニケーションをとる。夜はiPadで動画鑑賞や読書をしてリラックスし、眠りにつく。人々のライフスタイルはここ6年で大きく変化し、便利さを提供してくれるデジタルデバイスは不可欠な存在となった。
 
「このライフスタイルが当たり前となった今、消費者は旅行シーンでも、企業から便利なサービスの提供を受けられるだろうと無意識に期待している。彼らは旅に出る時、フライトの予約、移動、空港やホテルでのチェックインや支払いなどの手間を、モバイルを使って便利かつ安全に解決したいと思っている」(モハマッド氏)
つまり消費者の企業に対する期待がより高まっているのだ。企業はそのニーズを読み取り、的確に応えていかなくては消費者を満足させることができない。
 
旅行業界は、その性質上、名前/性別/年齢などの個人情報を得やすい業態だ。これらのデータは多様化した消費者のニーズに応えるという目的で、大きく活用できる。逆に活用しないことは大きな機会損失になるとモハマッド氏は言う。消費者は自分自身のデータを提供する引き換えに、企業から質の高いサービスを提供されることを望んでいるのだ。
 
ただ、便利さを提供する際に企業が注意したいのが、「消費者の視点に立った便利さ」だ。
「アプリによるマーケティングを主流としたい旅行業や観光業のマーケターは、企業にとっての便利さではなく、消費者にとっての便利さを中心にアプリを開発することを意識しなくてはいけない」(モハマッド氏)
 
消費者にとっての便利さとは何か…企業は消費者のニーズを正確に知る必要があるのだ。
 
 

日本の旅行業界は「おもてなし」の力を活かすべきだ

 
日本の旅行業界において大きな柱となりつつある外国人観光客だが、彼らの訪日ブームに甘んじているだけでは、一時的な現象で終わってしまう可能性がある。彼らのニーズがどこにあるのか、的確に読み取らなければならない。
例えば、以前はツアーでメジャーな観光スポットを訪れることが、訪日観光客の動きの主流となっていた。しかし、ネットが普及しスマホでいつでも知りたい情報を検索できる今、その動きも変化している。自らネットで情報を検索し、SNSで話題になったマイナーなスポットを訪れることや、日本の文化を味わえる質の高い体験を求めて日本に来る個人旅行者(FIT)が増えている。彼らの期待に応えるための対応は急務だろう。
 
そんな変化のなか、モハマッド氏は「おもてなし」こそが日本の強みであり、今後も求められていくだろうと話す。
「日本における個々の外国人観光客への親切な対応は、非常に質が高い。他国との観光ビジネス競争の中でも優位に立てるだろう」(モハマッド氏)
 
ただ、そのおもてなしが観光客のニーズと合致していなくては、残念ながら彼らに届かない。
例えば、多くのホテルや旅館のWEBサイトは、日本語の案内が主体となっており、英語をはじめとする多言語で得られる情報量が少ない。また、各地方の観光協会などが作成する観光スポット案内は、多くがアナログなチラシやパンフレットでの配布に頼っているのが現状だ。ネットやスマホを駆使して情報を求める訪日観光客に対して、情報を提供する機会を逃しているのだ。
 
それに対し、「デジタルによって相手のニーズを知り、デジタルを通じておもてなしの心を提供していくことで、彼らに利便性を提供でき、心を掴めるだろう」とモハマッド氏は話す。彼曰く「デジタルによるおもてなし」だ。
 
モハマッド氏は、まず、デジタルによる「パーソナライゼーション」の重要性を強調する。その人がどんなニーズをもち、どんなライフスタイルを持っているのか。一人ひとりの人間像を明確にすることだ。パーソナライゼーションすることによって初めて、彼らが必要とするサービスを必要とするタイミングで届けることができる。
 
 

旅行者のニーズを汲み、「体験」を提供することとは

 
具体的にはどういうことなのか。モハマッド氏が挙げた、パーソナライゼーションの海外事例を紹介しよう。
 
1.
United航空は、旅行者のチェックインの手間を省くために、空港の外からチェックインするためのモバイルアプリを開発した。旅行者は空港の窓口に並ぶという時間と手間をかけることなく、搭乗24時間前からチェックインすることができるようになった。
ただ、約90%のユーザーが、モバイルからチェックインを行えるのは便利だと評価しているのに、実際は60%しか利用していなかった。というのも、残りの30%は国際線の搭乗者であり、パスポート情報がないとチェックインが完了できなかったのだ。この問題を解決するために、United Airlinesはさらに、iPhoneカメラでパスポートのスキャンできる方法を開発した。デジタルを通じて消費者のニーズを汲みとってサービスに反映し、顧客満足という「体験」を提供した好例である。
 
 
2.
大手ホテルチェーンのMGM グループは、宿泊者の立場に立ち、デジタルを通じたサービスを拡充。「旅行前」/「旅行中」/「旅行後」という宿泊者の段階に合わせて適切なサービス提案を行っている。例えば、ホテルに到着した客がその日どこで食事を取ればいいかを、客に探す手間をかける前に、モバイルを通して提案する。適切なタイミングで、宿泊者が求めているものに応えることに価値を置いているのだ。
また、宿泊者の意見を反映し、彼らにとって必要な情報をすべてWEBサイトに載せてアクセスしやすいようにすることはもちろん、電話やメールでも常にコミュニケーションをとれるようにすることで、満足度の高い体験を提供している。

 
2社の例は、あらゆる接点で、パーソナライズされた体験を提供することが、消費者との交流を深め、ビジネスの発展につながることを実証している。
 
これは、日本の旅行業界でもさまざまな形で応用することが可能だ。例えば、旅館では利用案内をデジタル化するというのも1つの手だろう。日本の様式に慣れない彼らに、位置情報をもとに自国の言語でアプリに旅館の利用案内を表示させるようにすれば、彼らは戸惑うことなく、リラックスして滞在を楽しむことができる。スマホカメラとアプリを組み合わせた拡張現実による館内案内という方法も考えられる。宿泊者は必要なときにすぐ望む情報が得られるし、旅館にとっても、多言語のさまざまな掲示で旅館の風情を損なうことはない。そんなデジタルによるコミュニケーションを通して、彼らのかけがえのない旅という「体験」を、さらに素晴らしいものとして提供できるのだ。デジタルを活用することで実現できる「おもてなし」は無限にある。
 
 

旅行業界がデジタルにシフトすることは、もはや不可欠だ

 
FITが今後ますます増えると、彼らの旅先における選択肢も多様化してくる。つまり、適切なターゲットに、適切な顧客体験を提供することは、絶好のビジネスチャンスであり、不可欠な要素となる。
 
モハマッド氏は、「Start now,scale fast(今すぐ始めて、すばやく発展すること)」と強調する。「家のペンキを塗りたければ、一度には塗れない。一箇所から始め、少しずつ塗っていく。それと同じように、デジタル化も優先順位をつけて取り組んでいけばいい」。まずはスピードが大切であり、デジタルへのシフトは、優先順位をつけて少しずつでも始めていくべきということだ。
 
「未来ではWEBサイトそのものがなくなる可能性だってある。例えば映画『her』(2013年米国公開、邦題『her/世界でひとつの彼女』)のようなパーソナルコンピューティングの未来が到来するかもしれない。リビングで映画を見ている時に、沖縄のシーンが出てきたとしよう。テレビに向かって『沖縄で楽しいのはどんなところ?』と聞いたらデータを出してくれる。『沖縄へのフライトを予約したい』と伝えれば、フライトを予約してくれる。そんな未来がくるかもしれない」(モハマッド氏)
 
デジタルデバイスと旅行の親和性はとても高い。2020年には、旅行者の半分がデジタルネイティブになり、企業からデジタルを通じて「顧客体験」が提供されることを当然のことと捉えるようになるだろう。そこには、これからの旅行業界が開拓すべき、巨大なポテンシャルがある。企業はデータを用いることで、適切な顧客体験を提供し、消費者との正しい関係を築くことができる。「今すぐ始めて、すばやく発展」の言葉どおり、まずは基盤作りから早急に取り組むべきだろう。
 

 

 

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