上田バロン氏の描くイラストレーションは、時にクールで時にキュートだ。アメリカンコミックのテイストを融合させた独特のイラストレーションからは、他の追随を許さない確固たる世界観を感じることができる。イラスト界の第一線で活躍する上田バロン氏に、新しいAdobe® Illustrator®の可能性とイラストへの取り組みを伺った。
イラストレーター 上田バロン
目が特徴的なキャラクターイラストレーションを中心に広告、出版、ウェブアパレル、ゲーム、テレビなど活動の幅を広げる

Illustratorとの出会い
今ではAdobe Illustratorを自在に使いこなし、緻密なイラストレーションを描くバロン氏だが、氏とIllustratorの付き合いは長い。
「初めてIllustratorに出会ったのは専門学校の頃でした。学校には音楽科やゲームデザインなど、いくつかのコースがあったのですが、当時はIllustratorを使ってイラストを描くことをまったく考えていなかったのでグラフィックデザインのコースを選び、そこでデザインの基礎を学び、ビジュアル制作や3Dソフトを使い様々な表現を試していました。そこではとくにIllustratorを使い込んでいたわけでなく、3Dで使うテクスチャを描くときなどに使う程度でしたね。」
専門学校を卒業したのち、ディスプレイデザインの会社に就職することになったバロン氏は、パッケージの展開図など、主にデザイン業務としてIllustratorを使うことになる。
「当時はまだマッキントッシュを使って製図を描ける人間が少なかったので、会社の中でも重宝がられました。ミリ単位での精密な図も描ければ、綺麗なフォントも自由に出力できるIllsutratorって、奥の深いソフトなんだなぁって実感しました。」
入社当時、まだ社内に2台しかないマッキントッシュはいつも奪い合いだったそうだが、仕事をしながらIllustratorの基礎をみっちりと学んだそうだ。そして、順調に仕事をこなすうちに三年が経過し、次のステップを意識するようになったバロン氏は、デザイン会社の退職を決意する。
「音楽が好きなので、以前から音楽に近い部分で仕事がしたいと思っていました。しかし、会社からは慰留を求められ、退社するギリギリまで会社の仕事をしていたので、次の就職先を見つけることができなかったんです。」
そんなバロン氏が世に出るきっかけとなったのが、ラジオ放送局FM802が主催する「digmeout」プロジェクトだ。関西エリアでは絶大な人気を誇るラジオ放送局であるFM802では、新人アーティスト発掘のためのオーディションを開催している。
ここで入選し、アーティストとしてのデビューを飾る人も多い。残念ながら、バロン氏はオーディションには落選したものの、これまでの活動を認められ、同局の番組におけるイメージキャラクターの制作やアートディレクションの仕事を請けるようになった。イラストレーター“上田バロン”はこうして誕生した。

上田氏の自宅兼作業場。これまでに描いたイラストや制作中のラフ画などがところせましと飾られている

全国高等学校体育連盟ラグビー専門部の公式キャラクターデザインを担当している
作品性を維持しながら新しい機能を取り入れる
バロン氏の作品は背景や服装のデザインなど、緻密な部分も含めて、すべてIllustratorを利用して描かれている。そこには線に対するバロン氏のこだわりがある。
「パスで線を描くって、他のソフトにはないIllustratorだけの良さですよね。ベジェを使えばあらゆる線が描ける。少ないポイントで如何に美しいラインを引くかということを常に心がけて描いています。」
ベジェの使い方で自分らしさを表現したい、とバロン氏は語る。実際にバロン氏の作品を見ると、綿密なイラストレーションであってもポイントの数が少なく、シンプルなオブジェクト構成になっていることがわかる。
そんなバロン氏に最新版であるIllustrator CS5について感想を聞いてみたところ、新機能の中でもとくに線幅ツールが気に入っているという。
「これまでペンツールでは、単一の太さでしか線を描くことができなかった。筆のタッチを再現するには大変な労力が必要だったわけですが、簡単にできるようになったことで、イラストの中でも使ってみたいと思いましたね。」
これまでにも、いくつかのバージョンアップを経験してきたバロン氏だが、新機能にはあまり興味が沸かなかったそうだ。しかし、今回のバージョンアップでは、点線の角を揃えやすくなったことなど、地味だが必要な部分での機能アップがされたことで、より完成度が増したと感じたという。
「筆の角度をシミュレートできる絵筆ツールも面白そうですね。ペンタブレットを併用して作品の中にぼやけたソフトなタッチを加えると、これまでにないタッチができそうです。」
シンプルなラインで表現してきたこれまでのイラストと大きく変わってしまいそうだが、新機能とイラストレーションの作品性の関係についてバロン氏は次のように語る。
「新機能によってイラストが変わるのではなく、自分のやりたいことに対して新機能をうまく利用する。ソフトウェアに使われるのではなく、ソフトウェアを使いこなしてこそ、自分のオリジナリティが活きてくるのだと思います。」
今後、Illustratorがどのように進化していこうとも、自分の作品性を維持しつつIllustratorの新しい機能を使って、作品の幅を広げていければいいと語ってくれた。

8月9日から始まる企画展“feu”用に書き起こしたオリジナルイラストレーション。企画展では、複数のアーティストが“火”をテーマとして作品を展示する予定だ。バロン氏は、憤怒する女性を描くことで火の裏テーマとしている。Illustrator CS5からサポートされた線幅ツールによって、これまで単一だったキャラクターのラインに強弱が含まれていることがわかる

書籍の装丁からキャラクターデザインまで、バロン氏が活動するフィールドは広い
