データベースを構築して利便性をアピール
このように、最新の動向に敏感な黒須氏は、ある出版社で実験的な試みを提案したそうだ。
書籍版の「地球の歩き方」のレイアウトデザインを担当する黒須氏は、専用の管理Webページから紙媒体のデータを更新するシステムを制作した。これにより、ライターが地球上のどこにいてもインターネット回線さえあれば即座にテキストや画像を更新することができる。しかも更新に必要なデータベースの設定からプログラムの作成まで、黒須氏が制作したというから驚きだ。
「弊社による『地球の歩き方』制作ワークフローでは、ライターさんに直接データベースのテキストデーターや画像を編集してもらい、InDesign上に自動組版を行っています。最新データーはデータベースとInDesignで常に同期しているので、拡張すれば情報公開用Webページとも同期できると思い、自動組版とクロスメディアを両立するシステムを作ってみました。」
これまでにもワンソース・マルチユースを基本としたソリューションを展開する会社や企業はあったが、個人レベルで同様のソリューションを作り上げた例はなかった。
「Web業界でCMSは当たり前になっています。その気になれば紙媒体の情報管理もCMSに移行できますし、InDesignとWeb制作を長く扱ってきた知識を生かせばスマートなクロスメディア制作のワークフローが作れると思っていました。」
品質を向上させつつ、顧客満足度を高める
より多くの仕事をこなしつつ、品質を向上させるためには、単純な作業をできるだけ自動化し、クリエイティブな時間をより多く確保することが有効だと黒須氏は言う。
「自動化したいというと、ただ単に楽をしたいと思われがちですが、本質はそこではないですね。いや、確かに飲みに行く時間が増えることもとってもうれしいんですが(笑)。本来であれば単純作業に費やされる時間を、自動化によって削減して、よりクリエイティブな作業に時間に割くことで、クオリティを向上させることが自分にとって一番大事なんです。」
アプリケーションが持つ機能で利用できるものは利用する。そうすることで機能に対する知識が深まり、作品にも反映されれば、より良い結果となって返ってくるということだ。
「結局、紙媒体のデザインでもWebサイトでも、また新しいワークフローでも、作ることが好きなんです。新しいものを作って、きれいになったとかステキになったとか、便利で使いやすくなったと感動してもえれば、また新しいことにチャレンジする意欲が沸いてきますよね。」
デザインは、見た目以外にもいろいろな形で人の心や行動に直結することができると信じている、と黒須氏は語ってくれた。
今後の展開と将来への取り組み
臨機応変にソリューションを展開する黒須氏だが、今一番興味のあるソリューションはどのようなものなのだろうか。今後の展開を伺ってみた。
「現在、印刷入稿後の画像差し替えなどに対応する必要もあることからInDesignデーターで入稿することが多いですが、PDF入稿のウェイトを増やしてもいいかな、と考えています。PDF入稿に移行することで、制作アプリケーションを気にすることなく入稿できる部分は大きなメリットですね。あとはやはり『地球の歩き方』でプレゼンしたように、紙面とWebを同一データベースで連携させたワンソース・マルチユースのソリューションでしょうか。InDesign、Webサイト、モバイル向けFlash Liteなど、データソースを統合することでスマートなメディアミックス戦略ができるようになるので、従来より圧倒的にスピーディーで低コストなマーケティングにつなげられると思うんです。現在、CMSをPHP+XHTMLで動かしていますが、FlexやFlashを使ってよりリッチなものにしたら面白いと思って、今進めているところです。」
紙からWebへ、Webから紙へとメディアを問わず活躍する黒須氏の視線は常に先を見通しているようだ。今後、同氏からは、どのようなアイデアが生まれてくるのか。活躍を期待しよう。

黒須氏がデザインを手がけた書籍(装丁のみ、本文デザインのみ、装丁+本文デザインのものが混在)。手前の三冊は、InDesignに詳しい同氏が執筆した著書だ。著書の多くは自らデザインを担当している

クロスデザインの社内風景。現在は2人のスタッフとともに活動している

「ステキになったとか、すごく便利になった、と感動されることが何より嬉しいですね。」と語る黒須氏

