スマートフォンやタブレットPCなど、新しいデバイスの出現によって日本のマンガ産業にも大きな変革が訪れている。マンガは紙で読むものという従来の常識を覆し、今では携帯電話で、あるいはPCを通じてマンガを楽しむ人達も増えてきた。これまで職人の世界と言われてきたマンガ制作の現場にもデジタル化の波は確実に押し寄せてきている。
"クールジャパン"と言えば、日本発のサブカルチャーを一大産業として世界に発信する戦略だ。中でも日本が独自に進化させてきた"マンガ"は、クールジャパンの中核をなす重要な産業のひとつと言えるだろう。株式会社集英社は、幅広いジャンルの雑誌や書籍を発行する総合出版社だ。しかし、週刊少年ジャンプを発行する出版社と言った方が通じるかもしれない。
週刊少年ジャンプは1968年に創刊され、現在では300万部を誇る週刊マンガ雑誌だ。DRAGON BALLやONE PIECEなど、いくつもの有名なタイトルをかかえ、日本国内のみ
ならず、海外にも広く名を轟かしている。日本のマンガ業界をリードする週刊誌であることは誰もが認めるところだ。
その週刊少年ジャンプが、共同印刷株式会社の協力を得て、今春からAdobe® InDesign®を利用したデジタルワークフローへと移行した。そこで今回は、週刊少年ジャンプの制作に携わるスタッフの方達にInDesignがもたらしたデジタルワークフローの利点などをインタビューした。
株式会社 集英社
週刊少年ジャンプやヤングジャンプなど、コミック系雑誌をはじめとして、幅広いジャンルの書籍や雑誌を発行する総合出版社。近年ではデジタルコンテンツ事業へのビジネスが拡大しつつある

週刊誌では初めての試み
今年の春、週刊少年ジャンプの制作体制がアナログからデジタルへと移行した。約300万部という膨大な発行数でしかも週刊というタイトなスケジュールの中で、デジタルに移行するには様々な苦労があったようだ。
「当社のコミック系雑誌の中では、ジャンプスクエアが先行してデジタル化を行っていました。しかし、週刊誌で完全にデジタル化されたのは週刊少年ジャンプが初めてなので、移行時には共同印刷さんとともに綿密な計画をたてました。」と集英社制作第四課に所属する丸山夢人氏は語る。
デジタル化と言っても、作家が紙とペンで原稿を描き、編集者が書体指定した文字を組んで製版するという基本的な流れに変わりはない。実際にデジタル化されているのは、組版から製版までのプロセスの一部分だけだが、週刊という短期間の出版サイクルにおいては、多少の時間でも結果として大きな違いとなって現れてくる。
では、InDesign の導入によって、どのプロセスが変わったのか、まずはマンガができるまでの流れを伺った。
入稿から印刷までの流れ
これまでのワークフローでは、まず編集者と作家が綿密な打合せを行い「ネーム」と呼ばれる構成のラフを作成する。この段階でセリフとコマ割が決定するので、作家が原稿を仕上げている間に編集者がセリフに写植の指定を入れて、印画紙への出力を印刷会社へ依頼する。最後に仕上がった原稿へ直接写植の印画紙を貼りつけて完全原稿とし、製版するという流れだ。
これに対し、InDesignが導入された現在では編集者がセリフに書体の指定を入れるまでは同じだが、セリフとなるテキストはInDesign上で直接入力されるようになった。原稿をスキャナーで読み込み、InDesignのページに割りつけられた状態で、セリフレイヤーに入力する。これまで文字を修正するには写植印画紙の切り貼りが必要だったが、これで部分修正も容易になった。
週刊誌は活版印刷なので、原稿は一度ネガフィルムに出力される。それを元に樹脂製の版が作成され、スタンプのようにインクが乗せられて印刷される。300万部もの部数を印刷するために樹脂製の版を多数消費するという。
写植書体とオープンタイプフォントとの違い
日本のマンガでは、セリフ部分に「アンチゴチ」と呼ばれる特徴的な書体が使われている。これは、漢字をゴシックで、ひらがなを明朝で表現するマンガ特有の組み書体だ。
その他にも、不安や恐怖を表現するときには古印体を使ったり、元気や驚きを表現する時には太めのゴシックに袋文字を使ったりするなど、キャラクターの感情や場面によって書体を自在に使い分けるのが日本マンガの特長だ。そのため、デジタル化に際して最も気を使ったのが写植とオープンタイプフォントとの違いであったという。
「オープンタイプフォントには、どんな書体もありそうですが、実はマンガでよく使用するユニークで特徴的な書体がなかなか揃わなかったんです。そのため、そうした書体の開発をフォントメーカーに依頼したり、合成フォントで対応するルールを作ったりしました。準備に時間はかかりましたが、仕上がったマンガを見て、ある号から書体が変わっていることに気づいた読者はほとんどいなかったのではないでしょうか。」
以前は表計算ソフトを使い、セリフの入力を行っていたそうだが、現在は、セリフ専用のテキストエディタを開発するなど、着実にデジタル化が進んでいるようだ。

週刊少年ジャンプの最新号。300万部という未曽有の人気を誇り人気タイトルはアニメ化されることも多い

今回のデジタル化への移行を担当した丸山夢人氏。デジタル化はコンテンツの持つ可能性を大きく広げたと語る

InDesignでのレイアウト作業中の画面。セリフの部分は専用のレイヤーにわけられ、組版仕様を登録した段落スタイルを活用して文字組を行う

