レコード会社やアーティストの所属事務所など、音楽業界を主なクライアントとし、ポスターや店頭POPなど各種印刷物のデザインを請け負う株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズは、同社が運営するソニー・ミュージックスタジオの社外向けカタログ「Sony Music Studios Tokyo Guidebook」をAdobe® Digital Publishing Suite®で作成し、無料でダウンロードできるiPad向けのデジタルカタログとしてリリースした。プロが撮影した画像と音源をふんだんに取り込み、技術者のこだわりが凝縮された内容になっている。
今回、同社がデジタル書籍のテーマとしてスタジオのカタログを選択した背景と制作過程における同社の取り組みを伺った。
株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズ
音楽・ゲーム・映像等ソフトウェアのパッケージ、POP等各種印刷加工物やWebサイトのデザイン、企画制作のほか、音楽スタジオの運営、録音機材の開発等、多角的な経営を行う制作会社

スタジオ技術者としてのこだわりをデジタルで表現
同社がデジタルコンテンツのテーマとして「スタジオのカタログ」を選択した主な理由として、今回のプロジェクトを推進した、ソリューションオフィス所属の前田義治氏は、次のように語る。
「そもそも当社は制作会社ですので、自社製品というものがありません。Digital Publishing Suiteが発表されて、さて何を作ろうかとなった時、貴重なヴィンテージ機材やスタジオのオリジナル機材など、数多くの機材を所有しているし、こうした機材の紹介やスタジオ内部の写真などを豊富なビジュアル要素とサウンド、ムービーを上手く組み合わせたデジタルコンテンツを作成したら面白いのでは、との発想から企画がスタートしました。」
同社が運営するソニー・ミュージックスタジオ(通称乃木坂スタジオ)は世界でも最大級のスタジオとして知られている。このスタジオの存在をミュージシャンや音楽業界関係者だけではなく、より多くの人に知ってもらいたかったのだそうだ。
実際、同社が制作した「Sony Music Studios Tokyo Guidebook」は、Digital Publishing Suiteを上手く利用することで、これまでの印刷媒体では不可能だった多くの表現を可能とし、楽器や音楽に知識のない人が読んでも楽しめるよう、様々な工夫がなされている。
「本来であれば、さらに多くの写真素材を掲載したかったが、ファイル容量が無限に増え続けてしまうことから断念しました」と語るのは、今回のプロジェクトを統括した前田義治氏。実際に触れてみればわかるが、豊富な機材の写真や、実際に機材を動作させてサンプリングされたサウンドが盛り込まれているなど、作り手の思いが詰まった作品に仕上がっている。
「音楽業界を目指す学生の人たちやミュージシャンの人たちに見てもらい、この世界を目指してくれれば嬉しいですね。」とテクニカルルームに所属するエンジニアの横田林三氏は語ってくれた。

まずはiPad版でノウハウを蓄積しつつ、今後はAndroid版も視野に入れると語る前田義治氏
貴重なアナログ機材を見ることのできる資料的な役割も
制作期間は、撮影やサンプリングの期間も含めておよそ三ヶ月。途中、震災を挟んだ関係で多少リリースが遅れたものの、思いのほか短期間で完成した。
「まず初めに行った作業は、所有機材のリストアップでした。現在ではあまり使用されない機材もふくめて、すべての機材を網羅し、撮影することが前提でしたので、これは大変な作業でした。」
スタジオが所有するすべての機材は、メンテナンスされ、使える状態にあるという。作品によっては最新のデジタル音源ではなく、アナログの機材によって作られた音源が必要なケースもあるからだ。
「例えば、まだデジタル機材のなかった頃に使われていたエコーマシンがあります。薄い鉄板を音の振動で物理的に振動させてエコーを生み出しているのですが、現在のデジタル機材にはない独特な音色を作ることができます。」
このエコーマシンの音は、デジタルカタログの中で音を聴くことができるので、ぜひ試してみてもらいたいと横田氏は語ってくれた。
制作はすべて同社に所属するデザイナーが担当している。これまでにも多くの仕事でInDesignを使い、デザインをこなしていることから、Digital Publishing Suiteも違和感なく、スムーズに使うことができたそうだ。
「InDesignでの作業よりも、パノラマ撮影や360度パンで見られるマイクの画像など、素材を用意する作業に多くの時間を必要としました。」と太田氏。
また、旧型iPadと最新のiPad2では、画像解像度が異なることから、画像を最適に見せるための解像度をいくつに設定したらよいのかなど、様々な試行錯誤を行う必要もあり、これらの作業に多くの時間を費やしたという。

すべての機材について、背面の画像も見せたかったが、容量の問題で収録できなかったと語る横田林三氏

Sony Music Studios Tokyo GuidebookのTOPページ。特に思い入れのある機材に関しては、回転して見ることができるなどのギミックが用意されている

