流行の移り変わりが激しいアパレル業界において、“スピード” は重要な鍵となる。世の中の反応に素早く反応し、製品化が求められるファッションデザインの現場でも、Adobe Illustratorが活躍していた。
閑静な住宅街だった代官山に再開発計画が立ち上がったのは1990年代のことだった。同潤会アパートなどの歴史的な古い建物が撤去されると斬新な建造物とともにアパレルショップやレストランが立ち並ぶようになり、たちまちオシャレな街へと変貌した。もともと原宿や渋谷に近い立地条件もあって、新しい代官山はファッションの流行発信地として全国的に知られるようになった。そんな代官山の通り沿いにTommy Hilfigerの本社はある。
本社前の通りに面するディスプレイには最新モデルの服が飾られているが、その多くはAdobe Illustratorを使ってデザインされたものだ。 今回は世界的にも有名なファッションブランドのひとつ“Tommy Hilfiger” を取材し、服飾デザインの世界ではIllustratorがどのように活用されているのかを伺ってきた。
株式会社トミー ヒルフィガー ジャパン
国内170店舗に商品を展開するカジュアルブランドメーカー。各世代に対してオーバーラップしたラインナップが人気を呼んでいる。

デジタル化への取り組み
Tommy Hilfigerは、1980年代にアメリカ人ファッションデザイナーであるトミー・ヒルフィガー氏が設立したファッションブランドだ。古き良きアメリカをモチーフとしたシンプルで親しみやすいデザインはたちまち人気を博し、キッズからシニアまで、幅広い年齢層に受け入れられている。流行の最先端を作り出すアパレル業界だが、一方では古くから伝わる技術が残る職人の世界でもある。いまでも鉛筆とスケッチブックでスタイル画を描いているデザイナーは少なくない。
そんな中、いち早くパソコンを利用し、デザイン作業に活用しているデザイナーがいた。Tommy Hilfigerに所属する鈴木啓文氏だ。鈴木氏は12年くらい前からデザイン作業にIllustratorを使うようになり、いまではその工程の多くをIllustratorに頼っているという。
今でこそ珍しくないが、当時はIllustratorを利用しているデザイナーは少なかったそうだ。そこで、実際にどのような工程を経て服ができあがるのかを鈴木氏に伺った。
「まず、Illustratorを使って、仕上がりを想定した図面を作成します。その後、その図面を海外にある本部へ見せて認証を得たのちに工場へ、寸法などを書き込んだ指示書とともに送付します。工場では、その指示書を元にパターンの作成を行なうわけです。」
以前であれば、デザイナーのスタイル画から型紙や図面を起こす作業を“パターンナー” と呼ばれる専門家に委託していたが、現在ではジャケット、コートなど袖付けなどが難しい物をのぞき、大抵のものはIllustatorを使って自身で作成しているのだそうだ。パターンナーとのやり取りの工程が省けた分、効率良く作業を行なうことができるようになったという。
「Illustratorを使うことによって作業効率が向上しただけでなく、豊富な書体を手軽に利用できるようになるなど、デザインの幅も広がり、イメージ通りのものができるようになった点が有難いですね。」と鈴木氏は語る。
デザインシミュレーターとしてのIllustrator
実際にデザインが確定し、製品ができあがるまでには、さまざまな試行錯誤がなされている。ポロシャツひとつとっても、ワッペンやロゴなどの小物を合わせるだけで無数の組み合わせが存在するからだ。色違いのケースを考えれば、さらに組み合わせのパターンは増えるだろう。
そのひとつひとつを手描きのスタイル画で再現していたのでは、時間はいくらあっても足りないはずだ。そこで、Illustratorを使うことで、デザインや色の組み合わせを色々と試している。いわばデザインシミュレーターの役割を果たしているわけだ。
「Illustratorを使う最大のメリットは、なんと言ってもいろいろな組み合わせを試せるところですね。Illustratorならパターン機能を使ってテキスタイルパターンも作ることもできるので、仕上がりに近いイメージを得ることができます。」
また、鈴木氏のパソコンの中には、過去に作成したアイデアが多数収録されているが、たくさんのライブラリの中から自分が必要とするアイテムを探すのにAdobe Bridgeが活躍しているという。

鈴木氏のパソコン内に収録された過去のデザインデータ。膨大なライブラリの中から目的のデザインを探しだすのにAdobe Bridgeが役立っている

テキスタイルパターンもIllusratorのパターン機能を利用して作成される

鈴木氏がこれまでにIllustratorを利用してデザインした服の数々

これまでに自身が手がけた製品を前に語るデザイナーの鈴木氏。デザインシミュレーターとしてのIllustratorに期待しているという

