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最先端の大学生に学べ 知的創造性でサバイブする

事例:瀬尾拡史

先生たちも細胞をCGで表現する方法なんて知らないので、どう教えれば良いのか困っていた

サイエンスCGとは人の体の中や細胞がどのような仕組みになっているか、タンパク質がどのような形状なのかなどを伝えるために使用される、学術を題材としたコンピュータ・グラフィックスだ。瀬尾さんは国内でその分野の最先端を走るパイオニアである。

瀬尾さんが初めて注目を浴びたのは4年前。当時は新しく始まる裁判員制度に向け、一般裁判員に司法解剖の結果を理解してもらうにはどう説明すればよいのか、医療界・司法界を巻き込んでの議論がされていた。そこで瀬尾さんは、自分が制作しているサイエンスCGを使ったらどうかと提案し採用される。当時まだ大学3年生。日本で初めての裁判員裁判で、CGを用いて傷や臓器の状態を説明したことはメディアでも大きく取り上げられた。

サイエンスCGムービー

サイエンスCGムービー:画面をクリックしてムービー再生

CGに興味を持ったのは中学2年生の時。NHKスペシャルで放送された「驚異の小宇宙人体」という、CG映像をふんだんに使用した大型番組を見たことがきっかけだった。高校でも生物の授業で同じ番組が教材として使われており、「いつかこれを作る人になろう」という夢を抱くようになる。

そのために大学は医学部に進学し、さらにCGの勉強をするため専門スクールであるデジタルハリウッドにも入学した。裁判用のCGも、医学部での多忙な生活を送る合間に制作したものだった。

「ゲームや映画を作りたい人が通う学校だったので、周りの学生とのスタンスは全然違いましたね。先生たちも細胞をCGで表現する方法なんて知らないので、どう教えれば良いのか困っていたみたいです(笑)」

瀬尾拡史

瀬尾拡史 Hirofumi Seo
1985年生まれ。東京大学医学部医学科在学中に、日本ではまだ馴染みの薄いサイエンスCGに憧れて専門スクールであるデジタルハリウッドに入学。2009年8月に行われた裁判員裁判第1号で使用された3DCG画像を制作。平成21年度東京大学総長賞・総長大賞受賞。医学部5年生の時には(アメリカ・カナダへの)短期留学も経験。本場での経験を積み、現在はCG制作をしながら研修医としても働く。

瀬尾氏Blog:
東京大学医学部医学科-ズバッと!東大な日々。-の、その後の日々。

http://medical3d.buzzlog.jp/

瀬尾氏ポスター
制作環境1
制作環境2


データや経験をもとにして客観的に作らないといけない

しかしそれで満足することなく医学部5年生のときにはアメリカ・カナダに短期留学し、科学雑誌の挿絵を描くような専門のイラストレーターを育てる学部に所属する。授業はデッサンの描き方から始まるが、練習台は人や風景ではなく、大腸や胃の標本だった。

「例えば脳をスケッチした時、ただきれいに再現するだけなら美大生のほうが上手だと思います。でも彼らは脳の部位や仕組みを知らないから、大事な部位が省略されてしまっていたりして、医療現場では使いにくいことが多い。専門知識がある人が描けば、なにに使われるかを理解してさらに適切な描写ができるんです」

求められるのは美術表現と学術分野、双方のプロフェッショナルな知識と技術。そして必要な能力は、正確に再現するデッサン力ではないことも、この分野の特徴だ。

「臓器を始めとした人体には個人差があります。多くの人に観てもらうサイエンスCGを制作する際、ある個人のものを正確に再現してもあまり意味がないんです。必要なのは、平均的な形。しかもアート作品ではないので、あくまでもデータや経験をもとにして客観的に作らないといけない。それが普通のCGといちばん違うところですね」

映像はAdobe Premiere ProやAfter Effectsを使用し、瀬尾さんがほぼひとりで制作する。出来上がったものを専門家にチェックしてもらい、修正を重ねて完成させる。学術の世界にはCGの知識を持つ人がそれほど多くないため、苦労も多いそうだ。

「今は映画やゲームでかなり高度なCG技術が当たり前のように使われているから、簡単に作れるものだと思われてしまうのがちょっと悩みですね。実際はすごく大変で、マンパワーも使うしマシンもフル稼働。『ここちょっと直して』って簡単に言われてしまいますが、すごく時間がかかるということはまだあまり分かってもらえていないですね(笑)」

瀬尾氏制作ムービーショット1
瀬尾氏制作ムービーショット2
瀬尾氏制作ムービーショット3


単なるアートではないCG制作のための人材を育てていけたら

サイエンスCGという分野はアメリカやカナダでは既に確立しており、日本は圧倒的に遅れた状況にある。国内の多くの研究者は「出来る人がいればお願いしたいけど、それがほとんどいない」と口を揃えるそうだ。そこに風穴を開け、パイオニアとなったのが瀬尾さんだ。雑誌の取材や講演依頼なども積極的に受け、Twitterで自身の活動を公に発信してもいる。それは、日本でもこの分野が広く一般に浸透してほしいという願いがあるから。

「自分が作った映像で、科学に興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいじゃないですか。医学部の中でも美術が好きな人はいるし、美大にも物理や化学のコアなファンもいる。そういう人を集めて、単なるアートではないCG制作のための人材を育てていけたら良いと思うのです」

少しでも科学に興味を持ってもらいたい。好きになってもらいたい。自身がかつて、テレビで見た映像に感動してこの世界に飛び込んだのと同じように、今度は自分がきっかけになりたい。サイエンスとCGという共に高度な専門分野の最先端で、瀬尾さんはその想いを胸に今日も新たな映像を作り上げていく。

(text:田島太陽)

瀬尾氏プレゼン風景



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