『たけしの万物創世記』『平成教育委員会』『わくわく動物ランド』『奇跡体験アンビリバボー』『松本清張―共犯者』『東京大空襲』といった番組をまったく聞いたことがない人はいないのではないだろうか。これらの番組制作にかかわり、現在はフリーランスの監督・プロデューサーとして制作活動を続けているのが、今回紹介する上川 伸廣監督である。上川氏が、メインの編集制作に使用しているのは、Adobe® Creative Suite® 4 Production Premium(以下、Production Premium)だ。Windows Vistaの64ビット環境をメインに使用している。
「ノンリニア編集システム自体は、SD版しかない10年以上前から使ってきました。個人で購入できるようなノンリニア編集ソフトウェアがAdobe製品にあることを、最近まで知らなかったんです」といって笑う。PhotoshopやIllustratorを使用して、番組に使用するグラフィックスやタイトル、テロップを制作してきたが、Premiere Pro、After Effectsの存在を知ったのは、3~4年前と比較的最近になってからだという。たまたま、知り合いからAdobe製品にも映像編集できるものがありますよと紹介されたことがきっかけだったそうだ。上川氏は「最初はコーナータイトルなどのごく短い素材映像の編集から始め、プロモーションビデオやライブビデオなどの編集へと活用範囲を広げていきました。Production Premiumは、編集、VFX、タイトル、サウンドを同時進行で行っていくという私の制作スタイルにベストマッチする製品でした」と話す。
編集・タイトル・MAの制作を同時進行
今回の取材直前には、Premiere Pro CS4を使用し、映像編集、タイトル、サウンドを組み合わせて、秋から始まる情報番組のパイロット版を制作していた。パイロット版とは、企画した番組をCMスポンサーなどに提案するために作成する、実際の放送枠に合わせたデモ映像だ。今回は25分の作品となり、すでに放送した番組の素材やサウンドなども組み合わせながら、ナレーション部分だけを別録りして編集したという。
上川氏の制作スタイルは独特だ。編集作業には、オフライン編集/オンライン編集という境界はない。それだけでなく、編集とMAの境界も曖昧なことが特徴である。収録後、ポストプロで最終コンフォーム用の非圧縮データのビデオキャプチャー作業と同時に、ノンリニア編集用の圧縮データを作成。この圧縮データをハードディスクで自宅に持ち帰って、編集作業をしている。

上川 伸廣氏(監督・プロデューサー)

正面2台のモニターには、WindowsマシンのほかMac Proもつながっており、切り替えて表示できる。右手にはキーボードもあり、映像に合わせてその場で楽曲も制作している

「Production Premiumを使うメリットは、総合的に考えられるということですね。素材映像に、どういうテロップを載せて、どんなサウンドを流しながら、どうエフェクトを追加すれば格好の良い映像に仕上げることができるか。私の場合、これを同時に並行して考えたいんです」
映像の尺を追い込んでからテロップを入れるのではなく、素材をつなぎながら編集段階で、タイトルやエフェクト、効果音、サウンドなどを追加してしまう。編集を終えてからサウンド・MAに移るということもしない。カットのつなぎを見ながら、必要な素材を追加してしまうのだ。
「サウンドを載せてみたら、映像が足りなくてサウンドが余ったり、映像を盛り上げたいのにサウンドが短かったりすることは、よくあります。ここで、従来の編集ワークフローのように、編集は終わってるから、サウンドの長さだけを調整するという考えは好きじゃないんです。この音楽ならこの部分の映像を伸ばしたいってこともあるじゃないですか。サウンドのタイミングに合わせて映像を伸ばしたり短くしたり、総合的に制作をしたい。ナレーションも編集しながら書きたいくらいです」
仕上がった作品は、オフラインデータをハードディスクでポストプロに持ち込むこともあるが、プロジェクトだけを担当者にメールしたり、オフラインデータとともにFTPサーバーにアップロードしたりすることも多くなった。ポストプロでは保存してあった非圧縮データをコンフォームし、納品用テープに書き出す作業だけなので、上川氏が立ち会うこともなくなってきたという。

編集、VFX、タイトル、サウンドを同時進行で行う上川氏の作業画面(Premiere Pro CS4)
制作、ポストプロ、放送局を結ぶ究極のファイルベース制作
「監督や演出家というと、PCや制作環境のことを知らない人も多いのですが、私はどんどん活用していきたいですし、編集システムで試行錯誤して研究するのが楽しいんです」と話す上川氏。どの制作会社の映像制作においても、技術部や編集部に専任で携わる人を除けば、技術的なことを熟知した監督やプロデューサーに出会えたことがないのが残念だという。
「本来は監督であり、個人で活動しているフリーランスですから、そこまで自分でつくり込まなくてもいいっていわれるんです。でも、せっかく使える制作環境があるので、もっと使い込んで制作ワークフローを良くしましょうよっていいたいです。ポストプロや放送局とのやり取りでは、いまだにデータやテープをバイク便で運ぶケースも多いんです。Production Premiumを使用し始めてから、輸送時間やポストプロへの移動時間がない分だけクリエイティブなことに時間を費やせるので、時間が圧倒的に節約できてクォリティを上げられる制作環境になったと実感しています。この制作環境で完パケした映像ファイルを、できることならそのまま放送局に送りたいですね」
上川氏は、プレゼンテーション用のプレビュー映像を、Encoreを使用してDVDやBlu-ray Discに書き出したり、Premiere Proから書き出したプロキシ映像や著作権、出演者、編集者などの各種制作資料はすべてデータベースソフトウェアで連携させたりといったことも行っている。編集、タイトル、VFX、楽曲制作、データベース活用~まさに上川氏でしかつくり得ない究極のファイルベース制作ワークフローが、そこにあった。

「編集システムで試行錯誤して研究するのが、楽しいんです」と上川氏
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