服飾デザインの仕事には欠かせない職人・パタンナー。あまり耳なじみのない職業かもしれませんが、デザイナーが生み出すデザインを洋服そのものに具現化するのは、実はパタンナーの仕事。彼らのデザインの現場はまさにマイスターの世界です。まずデザイナーが仕上げたスケッチやイメージを、パタンナーは型紙で立体に起こしていきます。それをデザイナーのチェックによって幾度かの直しをした後に、デザイナーのイメージどおりの洋服の型紙を作ります。型紙通りに布を裁断して縫い合わせ、やっと私たちが袖を通す服ができあがるのです。要はパタンナーはデザイナーと一心同体、服飾デザインの世界には欠かせない「洋服の設計士」ともいえるポジションであるといえましょう。
パタンナーの仕事の中でも、デザイナーがデザインに悩むのと同じくらいに大きな悩みの種になっているのがそのアナログな仕事現場です。いまだ、紙と鉛筆、それに定規が彼らの制作ツールの主流で、そのデジタル化にはまだまだ時間がかかると思われていました。よりよい仕事環境には、多額の設備投資が必要です。大手メーカーは専用のCADシステムとオペレーターを導入して、作業効率を図ることができます。しかし中小のアパレルメーカーではコストの面から導入は困難であるのが現状です。また、なんといっても服飾パターン作成に使われている既存のCADシステムが「アナログ」的な操作性とはほど遠いことがデジタル化を妨げる原因となっていました。CADは専門知識が必要な上に、「紙と鉛筆」という概念でデザインしていく方法ではないために、実際に作業するパタンナーの技術だけでは足りません。クリエイティブな仕事とはあまりにかけ離れたシステムに、パタンナーは悩み、思い通りにならないことをもどかしく感じたはずです。そういったことで、パタンナーの仕事現場でのデジタル化は奥手になっていた、といえるでしょう。
そこで登場するのが株式会社シーゲルの玉置浩一氏です。玉置氏はDCブランド全盛期の80年代、人気ブランド「BIGI」で当時のチーフデザイナーだった菊池武夫氏に師事し、90年の退社後からは、フリーランスで活動。15年余り第一線のパタンナーとして活躍しました。さまざまなアパレルブランドのパターンを作成していた玉置氏は、95年に知人のグラフィック・デザイナーからMacintoshとAdobe Illustrator®を勧められます。
「フリーで仕事をしていましたが、アシスタントはいませんでした。ですから、仕事量が生半可ではありません。正直、高価でもパターンCADを導入しようかと考えて試したりもしたんです。でも、CADは基本概念が数値。洋服を数値でおきかえることなんてできません。それにCADはデータベースソフトですから、1から物作りをしようと思ってもできないんです。まずは枠組みを決めた上でそれを調整していく、という手順になります。それではクリエイティブな制作環境とはいえません。
そんなときにすでにMacintoshを使っていたグラフィック・デザイナーの友人からIllustratorを見せられました。するとどうでしょう。今まで使っていたペンと定規と紙という、アナログなツールが画面にあるじゃないですか。これはパターンを作る上で利用価値のあるツールだ、とピンときましたね。実際に使ってみるとますますIllustratorに惹かれ、洋服のパターンを作るために革命的なツールになると確信しました」。
玉置浩一(たまきこういち)氏
株式会社シーゲル 代表取締役
The North Face専属チーフパタンナー