ハリウッド伝説の人物、シド・ダットンとビル・テイラーは、SF(特殊効果)マジックのパイオニア的存在と言われている。彼らのデジタルワークを紹介する
ジョー・シェプター
エディ・マーフィー演じるボーフィンガーが体を傾けながら交通量の多いハイウェイを横切るっている。1台の車が彼の前を轟音をたてて通過する。エディは爪先だって伸び上がり、両手をバタバタさせる。そして、おなじみの「オレっておおばかもの」というようにニヤリと笑ってまた走っていく。「じゃあ、次はこれを見て」と、米イリュージョン・アーツ社のシド・ダットンは言う。
リールが実行されると、今度はエディ・マーフィーは車が走っていないハイウェイを走っている。車がないのでドラマチックな感じは大きく損なわれている。前には何もないのにエディは爪先だって伸び上がり、両手をバタバタさせる。ここで「オレっておおばかもの」とニヤリと笑うのは観客のほうだ。そう、これもトリックだったのだ。
「車はみんな2次元と3次元のモデルなんだ」とダットンは言う。あの真にせまった映像は、マーフィーの演技と車の映像をAdobe After Effectsを使って合成担当者が作ったものなのだ。
ダットンとパートナーのビル・テイラーは、ロサンゼルスの倉庫の中で、撮影用の大きなマットペインティングのイーゼルの前に座っていた。白髪まじりの若いおじいさんのような雰囲気を持つ2人は、このようにして25年間やってきた。そして今日、彼らは過去の経験のすばらしさの紹介と同時に未来への旅も提供している。
2人は棚から古い油彩のマットペインティングを取り出した。風変わりで印象派の絵のようにも見えるキャンバスだが、レンズを通して撮影するとなんだかリアルに見えるのだ。向こう側には、できあがったばかりのプラスチックの船(彼らは現在もモデルを使っているのだ)があり、プラモデル用の接着剤の匂いがする。しかし、スタジオの別の場所では、厚い黒いカーテンに覆われたところで、若者達がPhotoshop、Maya 2.5(エイリアス・ウェーブフロント社製)、After Effectsに取り組んでいた。
撮影カメラマンのテイラーは2人のうちでは思索的タイプの人物である。テイラーとダットンは、ユニバーサル社が自前の特殊効果会社を持っていた頃、そこで伝説的なマットペインテイング作者のアル・ホイットロックの仕事をしているときに知り合った。その部門が廃止されたとき、彼らは装置を買い上げ、これを使ってイリュージョンアーツを設立した。その後150本の映画の仕事をした頃には、2人は特殊効果の世界全体が何度も打撃を受けるのを見て、Photoshopの神々、AfterEffectsの魔法使い、Silicon Graphics 3Dのグルといった偶像に帰依した。彼らの代表的な仕事である「スター・トレック ファースト・コンタクト」のピカード艦長の目からのプルバック(アカデミー賞ノミネート)や、「バードケージ」の冒頭の5マイルのショットは誰もが知っているシーンである。
彼らのスタジオを訪問すると、リアリティとは何かと問わずにはいられなくなる。あるシーンでは、飛行機が荘厳な嵐の周囲を飛んでいる。「これは現実的な雲堤ではないけど、神秘的な雰囲気がかもしだせるんだ」と、見せかけのニセモノとホンモノの雲を見分けられる者のみが持つ自信を持ってダットンが言う。また、テイラーも、第2次世界大戦時代の駆逐艦にうちあたる波を指さして、「これはただの干渉縞なんだよ。ちゃんとやれば波のように見えるんだ」と言う。
彼らのスタジオではおよそ20人が雇われているが、このような仕事をするスタジオとしては規模は小さい方だ。1度におよそ20ショットという健康的なスケジュールで仕事を進めており、主に劇場用映画とコマーシャルをてがけている。
唯一不利な点は、特殊効果の分野が常に進化していることで、常に進化している分野はビジネスを混乱させるものである。「何年も前、レイ・ハリーハウセンのような特殊効果マンは、1つの映画に必要な効果をすべて1人でこなしていた。そこに「スターウォーズ」が表れて、映画1本に大勢の手が必要になった。でも今じゃ、デジタル革命が起こって、腕のたつアーティストなら自宅のガレージでデスクトップコンピュータを使って自分で美しいショットが作れる。また昔のようになったんだ。」とテイラーは言う。
この中規模な会社にとってこの情況がどこまで続くかは、今後数年たってみないと分からない。結局モノをいうのが芸術性と経験だろうが、イリュージョンアーツはそれこそが強みなのである。「新しくすばらしいトリックがたくさんあるからといって古いトリックを忘れてはならない」とテイラーは言う。彼らの頭の中には古いトリックがまだまだたくさんつまっている。
ジョー・シェプター - アドビシニアエディタ。特殊効果にすぐダマされる。
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