小野田智の「世界の制作会社からコンニチハ!」
香港:Deep Interactive Asia
今月号の記事
今回からFlashクリエイターの小野田智さんによる長期連載のスタートです。昨年末、「小野田さんがバックパックを背負って世界一周の旅に出る」という話を聞きつけ、せっかくFlashクリエイターが世界を旅するなら、現地のWeb事情やクリエイティブの現場をレポートして欲しい! ということで、第1回目は「香港」、そして訪問した制作会社は「Deep Interactive Asia」です。
旅の経緯について
はじめまして、小野田智と申します。東京でしばらくWeb関連の仕事をしていたのですが、2009年の年末から長年の夢だった世界一周旅行に旅立つことになりました。単なる観光としてのバックパッキングというよりも、様々な土地やシチュエーションでの人々の暮らしを見ることができたらいいなぁと思いながら旅を続けています。
この旅行のことをアドビさんにお話ししたところ、一緒に何か面白いことをやろうということになりまして、各国のWebデザイン会社を訪ねて話を聞いてレポートするというこの企画が立ちあがりました。それぞれの国のWeb事情から、デザイントレンド、その会社のポートフォリオなどを毎月紹介していきますのでご期待ください。ちなみに、旅行の記録などは自分のブログにアップしてありますので、興味のある方はご覧ください。
また、感想や今後の訪問先会社のリクエストなどがありましたら、satoshi@firstclassbackpacker.infoまでお気軽にどうぞ。
香港雑感
第1回目は香港です。97年まで続いたイギリス統治時代の影響を色濃く残しながら、アジアとしての文化も併せ持った都市。立地から考えても、アジアの中心と言っても過言ではないでしょう。単なる観光地としてまず驚くことは、日本の影響力の強さ。日本の言葉を使うことが一種のトレンドのようで、ひらがなで書かれた看板が多く目につきます。

ネット事情は、なかなか良好のようです。カフェやショッピングモールには公衆無線LANが配備されていて、有料の場合もその場でサインアップして1時間単位で使用することができました。もちろん、月極プランなども格安で、現地の人々はどこでもネットに接続できる状態にあるようです。
そして通信インフラの安さは特筆に値します。固定、携帯問わず電話は市内通話無料、基本料金のみの固定プランとのことです。土地が狭い分、敷設コストが低いからなのでしょうか。携帯電話でネットを見るという習慣はまだ始まったばかりで、最近大人気のiPhone以外ではそれほど使われてはいないらしいのですが、ここ数年で普及する可能性が高いそうです。

インタビュー:Deep Interactive Asia
香港で訪れたのは、以前から交流のあるWebエージェンシー「Deep Interactive Asia」です。チーフコンサルタントのCurtis Makさんにお話を伺ってきました。
小野田:Deep Interactive Asiaのことを簡単に紹介してください。
Mak:設立当時は違う名前だったのですが、1998年にシステム開発の会社を立ち上げたのが始まりで、その頃は大手保険会社の業務システムの開発などを行っていました。そして、2003年に社名を「Deep Interactive Asia」へと改称し、よりクリエイティブを前面に押し出したエージェンシーとして動きだしました。当時は香港にはいわゆる「Webクリエイティブ」と呼ばれるような人たちはほとんどおらず、ナイキやコカコーラなど、表現に敏感な企業は海外のエージェンシーを使っていたものです。その頃は、「Flash開発者」という職種はまだ一般的ではなく、私たちが香港でその肩書きで募集した最初の会社の1つだと思います。
そして、2005年から始まった中国Leeジーンズとの仕事は、私たちをさらに次のステップへと押し上げるいい機会となりました。彼らにはアウトプットの提案だけでなく、その成果物を活用したマーケティングまで提案することになったのです。そこで、音楽とサイトが連動するプランを提案し、サイトのアクセス数が20倍以上に伸びるという成功を収めたのです。面白いことに、今日の中国では「Leeジーンズと言えば音楽」という印象が固まってきているようで、私たちとしてもうれしい限りです。
Deep Interactive Asiaでは、コーポレートステートメントとして「make it more engaging」を掲げており、その言葉が示すとおり、デジタルクリエイティブを単なるアウトプットで終わらせずマーケティングプランと連動させるコンサルティング、戦略提案を行えることが私たちの強みと言えます。

Deep Interactive Asiaのサイト。http://www.deep.com.hk/
小野田:ちなみに、アドビ製品はどのくらい使われていますか。
Mak:クリエイティブチームには7人ほどいて、彼らは毎日のように触っています。主に使用しているソフトは、Flash、Photoshop、Dreamweaverですね。また、最近は動画を使用する案件も多いので、After Effectsなども必要に応じて使用しています。あとは、バックエンドにはColdFusionを使用することが多いです。やはり、Flashをはじめとするアドビ製品との連携では一番使いやすいですから。

Deep Interactive Asiaのスタッフの皆さん。中央のスーツを着ている男性が、インタビューに応じてくれたCurtis Makさん
小野田:手掛けたサイトをいくつか紹介していただけますか。
Generation Mobile
http://www.genm.hk
このサイトは、香港CITIとのジョイントベンチャーとして立ち上げた、香港のモバイルライフについてのオンラインマガジンです。フルFlashで作っており、コンポーネントごとに更新できる仕組みになっています。Flashのおかげでアンケート結果のグラフやログインフォームなどにも魅力的な演出を施すことができました。そうだ、このサイトの中に街頭インタビューのようなコンテンツがあるのですが、よかったら小野田さんも参加してくれませんか? (※著者注 このあと逆に写真撮影までされまして、今後僕のインタビューコンテンツがサイトにアップされるそうです)
SHURE Sing-a-City Online Campaign
http://sing-a-city.com
SHUREというハイエンド音響機器メーカーのキャンペーンサイトです。新しいハンディレコーダーのプロダクトラインをローンチするということで依頼がきました。このサイトでは、ユーザーがその場で音楽を録音してアップロードすると、サーバー上で波形を解析して、その結果から街のグラフィックを生成する仕組みを開発しました。この録音機能にはFlash Media Serverを使用しているのですが、香港にはまだFMSをホスティングできるところがなく、サーバーを用意するのにやや苦労しましたね。今後はこのサイトにコミュニティ機能なども実装していく予定です。
【その他の作品】
Opel Motors Hong Kong
Greenpeace Climate Hero
http://climatehero.greenpeace.org.cn
Manhattan Hill Marketing Site of SHKP
http://www.manhattan-hill.com.hk/
CityU - TQE Program Enrollment Site
http://www.cityu.edu.hk/meem/tqe/
弊社では、普段はおよそ10~20くらいのプロジェクトが並行して動いています。大きいものだと、マーケティング提案や技術検証が必要なもので3~4ヵ月以上、簡単なFlashミニサイトのようなものだと、1~2週間程度で仕上げてしまうものもあります。どこの国でも同じかとは思いますが、クライアントの要求は日々高くなる一方ですが、それに応えられるように、またその要求のさらに上を行くレベルの成果物を提供できるように懸命に働く毎日です。
小野田:好きなデザイナーなどはいらっしゃいますか?
Mak:第一に、中村勇吾さんですね。ここ10年くらいずっと彼の作品には注目しています。日本の方のデザインに総じて言えることかもしれませんが、ミニマルで美しく、しかも機能的なデザインとなっています。
あとは、ポーランド人でPeter Jaworowskiさんという方がいるのですが、彼のデザインも素晴らしい。アートワークとして洗練されている上で使いやすさにも配慮されている。抜群のユーザーエクスペリエンスを提供するサイトをいくつもデザインされています。
小野田:クリエイティビティの源泉となるようなポイントがあったら教えてください。
Mak:世の中のあらゆることに目を向けることですかね。ただ単にそこにあるものを消費するのではなく、観察し、インスピレーションを得ることが大切です。例えば、街を歩いているときに道行く人々の行動を観察するのもユーザーエクスペリエンスを検証する上で参考になりますよ。会社としては、毎月第1土曜日に、皆が最近気になったデザインやニュースなどを持ち寄って発表する場を持っています。あくまでもカジュアルな雰囲気で話をすることで、チーム全体としての一体感のようなものを保てるようにしています。
Webの仕事とは面白いもので、その場に応じて様々な能力が必要とされます。ビジネス、クリエイティブ、テクノロジー、このすべてが必要な業界など他に探しても見つからないのではないでしょうか。その全方向をカバーしなくてはいけないという事実が逆に燃えさせてくれますね。また、この業界に携わる個人としての資質を挙げさせてもらうとするならば、それは自分自身のインサイト(考え方)を持つことです。単に流行の技術を追いかけるだけでなく、それを自分の中で理解してどのように活用していくのかを考えていくことが重要なのです。

小野田:最後に御社の将来に向けた方向性を教えてください。
Mak:私たちとしては、香港だけでなく、他のアジアのマーケットも重要だと考えています。今年中には現地の他社と協力して、シンガポールに支社ができる予定です。いつかは日本にも進出したいですね。また、先ほども触れていますが、デジタルコミュニケーションのすべてをカバーできるという私たちの強みを生かし、下流工程としてのアウトプットだけでなく、マーケティングの戦略提案など、より上流のステージから企画に参加し、クライアントとのパートナーシップを築きあげる仕事を多くできたらと思っています。
インタビューを終えて
フォーマルなインタビューとして2時間、その後にお食事にも誘われて追加で数時間ほどお話を伺うことができ、そのすべてが非常に興味深い内容でした。その後、話は日本と香港のデザイン観の違いから自国のアイデンティティにまで発展し、まさに「インサイト(自分自身の考え方)」をしっかり持つことが重要だということを強く感じる機会となりました。
また、香港の皆さんは日本のミニマルなデザインが好きだと口を揃えて言っていましたが、僕個人としては中華圏の華やかさに欧米の洗練が加わった香港のビビッドなデザインも1つの様式として美しいと感じます。手数が圧倒的に多いにも関わらず、くどさをうまく消したデザインは、アジアにありながら貿易の中心地として欧米の影響を受け続けてきた香港だからこそ生まれるものでしょう。これをいい機会に、今後も香港クリエイティブに注目していきたいです。
次回予告
来月は真夏のオーストラリアからお届け予定です。インタビュー先の会社は現在リストアップ中。この号が配信される頃には決まっていると思います。ちなみに、ドバイや中近東方面でよさそうな会社などありましたら、下記連絡先へお勧めいただけると嬉しいです。
小野田智
(おのださとし)
オーストラリアへの語学留学などを挟みながら東京でWebデザイナー/Flashクリエイターとして働くこと数年。2009年末より、長年温めていた世界一周旅行計画をついに実行に移し、現在も旅行中。
twitter : @satoshionoda
blog: ファーストクラス バックパッカー


