内田洋行の製品にみるFlashの汎用性とUCDの有用性

「株式会社内田洋行」と聞けば、オフィス家具をイメージする方も多いでしょうが、同社では次世代ソリューション開発センターを設立し、ナビゲーションシステムやCD試聴システムなど、様々な製品・空間のデザインを手がけています。その中にはFlashテクノロジーを利用したものも多く、また、デザインプロセスにはUCD(User Centered Design:ユーザー中心設計)という手法が取り入れられています。本記事では、内田洋行 次世代ソリューション開発センターの方々に彼らの取り組みとUCDの意義について伺いました。

Edge:次世代ソリューション開発センターを立ち上げた経緯や、これまでの取り組み・製品について教えてください。

三宅:次世代ソリューション開発センターは、2001年7月にスタートしました。当時、「これからの空間は、小型化したコンピューターが埋め込まれ、それぞれがネットワークに繋がる。その結果、空間全体のインターフェイスやコンテンツが重要になる」と予想して、その時代に対応するための技術者部隊として立ち上げ、IT系の人材も本格的に採用しました。組織のリーダーは1人(現センター長の村 浩二)だけで、中堅社員が2名、あとは新入社員全員と2年生社員9名の合計48名。文系理系混合で、学生時代の専門性も多岐にわたっていました。配属されたメンバーは「とにかく今までの内田洋行にはない、全く新しいことを考えなさい。ただし、社内の他部署の人には一切相談してはいけません。社外の人だけと繋がり、新しい内田洋行の姿を創りなさい」と命じられました。

最初は、「何をすべきか」を考えるところからのスタートでした。最先端のコンピューター技術、あるいは空間のインターフェイスを研究している国内外のいろいろな大学の先生や先端企業の研究所へ足を運び、勉強しながら研究を進めました。これら大学研究室や企業と共同研究も多く実施し、「これから世の中はこうなるだろう。では、何を創ろうか」というところから考えました。

社内で唯一連携することを許された空間デザイン部隊とともに、アイデアを空間の中で具体化する姿は、社外から見て1つの価値になっていました。そうすることで、社外の先生や研究者から、次々と他の先生や会社を紹介していただいて、今では、ユビキタスやインターフェイスの研究をしているところとは、ほとんど何らかの繋がりができています。

次世代ソリューション開発センターではこれまでに様々なものを手がけてきましたが、私達が行っているのは「場づくり」です。それは、「場」のしつらえ、「場」を制御するためのICT技術、「場」を演出するコンテンツなどを統合してデザインすることです。例えば、以下のような事例があります。

ITかかし 【ITかかし】

JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所との共同開発した、無人駅の情報提供システムです。鉄道職員が駐在していない「無人駅」では、列車の在線位置や周辺情報などの情報提供が不足しています。このシステムでは、列車の在線位置や周辺情報、緊急情報などを情報表示装置に表現することができます。また、音声での情報提供も可能となっています。
codemari(コデマリ) 【codemari(コデマリ)】

空間内にあるプロジェクター、音声・映像スイッチャー、ミキサーなどのAV機器を制御できるデバイスです。各機器の電源や音量、映像切り替えなどを瞬時に操作でき、その場に合った環境を簡単に作り出すことができます。アプリ開発にはFlash Liteを使用しています。
Tangible Table(タンジブルテーブル) 【Tangible Table(タンジブルテーブル)】

タンジブル・インターフェイスを指向したテーブル型のファニチャです。引き出しの中にある様々なモノを使って、そのモノにまつわる「情報」を引き出したり、操作したりすることができます。引き出された情報は、天板上のディスプレイに表示されたり、音楽になったり、照明の光度を変化させるという形で表出されます。

※内田洋行のサイト「UCD*UCD」では、これらを含む事例の内容や開発プロセスについて詳しい情報が公開されています。
http://www.uchida.co.jp/company/ucd/index.html

Edge:「&音試聴システム」や「けんさく君」といった製品では、Flashテクノロジーを利用されたそうですが、どのようなものなのでしょうか。

馬庭:「&音試聴システム」は、株式会社旭屋書店様が大阪の大型ショッピングモール「なんばパークス」に出店した新業態複合店舗「&音(andon)」、その店内に設置したジャズレーベル澤野工房コーナー用CD試聴システムです。

初めてジャズに触れる人にも敷居の高さを感じさせないようにし、快適な試聴の「場」を提供することを目指しました。従来のCD試聴機の機能を損なわないようにしつつ、既存のPC型試聴機にはない「聴きながら見ることができる」機能を取り入れています。また、RFID技術も利用し、店内にあるすべてのCDをシステムにかざすだけで試聴できるようになっており、便利で楽しく利用できるシステムを実現しています。

&音試聴システム
「&音試聴システム」の全体像。画面下にある受け手にRFIDタグ付きのCDをかざすだけで試聴できるようになっています

「&音試聴システム」のユーザーインターフェイス
「&音試聴システム」のユーザーインターフェイス。
試聴しているCDのジャケットや曲名、関連作品などの情報が表示され、聴きながら見ることができるようになっています

馬庭:「けんさく君」は弊社コンセプトショールームに設置している製品紹介用の検索システムです。コンセプトショールームにお越しくださったお客様に、製品をよりご理解いただくために、実物を見ていただきながらより詳細な説明をしています。また、色や素材のバリエーションのシミュレーションなど、実物ではなかなかできない部分を補っています。さらに、「製品紹介」という切り口のほかに「事例紹介」という切り口も用意し、製品の利用イメージを掴んでいただけるようになっています。

けんさく君
「けんさく君」システムは九州支店に移転中で、2月中旬頃に公開再開予定

「けんさく君」のユーザーインターフェイス
「けんさく君」のユーザーインターフェイス。選択した商品の情報だけでなく、
その商品の利用イメージも提示するようになっています

馬庭:実は、これらのシステムを含め、弊社のインタラクティブなデジタルサイネージの多く(UCD*UCDに掲載されているワイン検索システムなど)は、Flashを利用しています。様々な技術を使って開発してきた経験から、それぞれの技術の良いとこ取りをした結果、「外部デバイスとの連携やデータの取得・解析を管理するロジックはJava」、「インタラクティブな表示部分はFlash」というスタイルに自然と落ち着きました。

Flashが選ばれた理由はいくつかあります。まずは、デザインの面。アプリケーションを構築する際には見た目だけではなく使いやすさにもこだわっているので、Flashだとデザイナーが作成したIllustratorデータとの親和性が高いことやインタラクティブなユーザーインターフェイスを実現させるのが簡単であるというメリットがあります。開発のしやすさという面でも、メンバー内にはオブジェクト指向のエンジニアが多いので、ActionScript 3.0であればJavaやC#などと比較して教えることができるのでエンジニアの理解も早いですね。

JavaとFlashの連携には、弊社で開発したフレームワークを利用しています。主に2つの技術のデータをやりとりする部分です。イベントの引き渡しやオブジェクトの互換だったりとか。このフレームワークのおかげでデザインとロジックの分離を行うことができるので、上記2製品も含めて多く利用しています。

Edge:このようなシステムを開発する上で、UCD(User Centered Design:ユーザー中心設計)という手法を取り入れているそうですが、どのような手法なのでしょうか。

大丸:UCDでは、解決すべき問題を見つけ、分析し、形にし、評価するための様々な手法を提供します。例えば、観察調査、ワークモデル分析、ペルソナ法、シナリオ法、ワイヤーフレーム、ユーザビリティ評価法などが挙げられます。それらの手法を用いて、製品やサービスを作る最初から最後までの全過程において、ユーザーのニーズとゴールに焦点を当てるのがUCDです。

知る つくる 評価する

※各手法の詳細については、「UCD*UCD」をご覧ください。
http://www.uchida.co.jp/company/ucd/index.html

Edge:「ユーザーのことを考える」というのは当たり前のように思えます。あえて、UCDという手法が登場したということは、従来の手法では不十分、あるいはUCDを実践すれば新たなユーザーニーズやソリューションを掘り起こせるということでしょうか。

大丸:どのようなデザインであれ、「ユーザーのことを考えない」というデザイナーや開発者は存在しないと思います。しかしながら、デザイナーや開発者はユーザーではありません。自分自身の経験や偏見を持っているのは当然で、デザインするうちに、想定する場面ごとにユーザー像を自在に変えてしまうことがあります。いわゆる、開発者の利害に応じて思いどおりに行動する「ゴム製のユーザー」となってしまうのです。さらに、チームでデザインや開発を進める場合には重要です。もしメンバー間で想定するユーザー像について差異が生じてくると、目的を共有できず、結果として大変な問題を引き起こしてしまいます。

UCDは、ユーザーのニーズとゴールを明確に描くことで、これらの問題を解決する手法です。単なるユーザビリティを超えた、ユーザーにとって価値あるモノづくりを行うためのデザインプロセスだといえます。

Edge:「&音試聴システム」や「けんさく君」で、UCDを取り入れたからこそ生まれてきた要素があれば教えてください。

大丸:「&音試聴システム」では、操作フローやアプリのユーザーインターフェイス、RFIDを利用した際のシステムの振舞いまで、すべてが観察調査の結果分析に基づいています。例えば、「澤野のおすすめ」という画面項目は、開発計画にありませんでしたが、ユーザーが求めているものだという結果を得られたので、画面項目として追加しました。また、ユーザーインターフェイスでは、CDジャケットの画像を大きく表示し、試聴を途切れさせずに他のCDを探せる仕組みとなっています。これはユーザー要求を受けて、デザインを行いました。

澤野のおすすめ
「澤野のおすすめ」画面

ダイアログを表示
試聴中の曲を止めることなく、他のCDの概要を見られるようにダイアログを表示します

「けんさく君」においても、最初の観察結果に基づいて、ユーザーが商品とシーンを行き来しながら空間を作り上げられるユーザーインターフェイスを目指しました。

※内田洋行のサイト「UCD*UCD」では、「&音試聴システム」の内容や開発プロセスについて詳しい情報が公開されています。
http://www.uchida.co.jp/company/ucd/andon.html

Edge:UCDを導入したい場合、上記のような工程をすべて取り入れることが理想だと思うのですが、なかなか難しいそうです。まず手始めにするとすれば、何かアドバイスがありますでしょうか。

大丸:まず手始めとして、既存の製品に対するユーザーテストを行うと良いと思います。普段の自分達が、いかにユーザーを理解していないかということに気付かされ、ハッとするはずです。規模は小さくても構いませんから、まず始めてみることが重要だと思います。声を掛けやすい社内の方に被験者となってもらうことで十分です。そこから見えてきた課題を解決するために少しずつUCDの手法に取り組んでいけば良いのではないでしょうか。

 

馬庭智憲氏 三宅智之氏 大丸晃平氏 写真
左から、エンジニアの馬庭智憲氏、エンジニアの三宅智之氏、UCD担当の大丸晃平氏