FITC Amsterdam 2010レポート by 小野田智

「世界の制作会社からコンニチハ!」を連載している小野田です。本来ならば、今月号でご紹介したドバイから次の目的地であるカイロに直行するはずだったのですが、ラウンジでのんびりしていたらフランクフルトでの接続便を乗り逃がしてしまいまして、代替便まで10日間ほど待つハメに。そして奇しくもその日は「FITC Amsterdam」開催前日。「これはFITCに突撃して来いという神のお告げなのだ」と勝手に解釈し、急きょアムステルダム行きを決めました。スピーカーや関係者各位を除けば、日本人の一般参加者は僕一人。今回は一人の参加者目線から2日間にわたったFITC Amsterdamの感動をレポートさせていただきます。

FITC Amsterdamについて

まずはFITCについて簡単にご紹介しましょう。FITCはカナダのトロントをベースとする団体で、過去8年間にわたり世界各地でトップクラスのクリエイターを集めて大きなセミナーを運営しています。昨年末には東京でも「FITC Tokyo 2009」が開催されましたので、読者の皆さんの中には参加された方も多いのではないかと思います。

アムステルダムでの開催は3年連続3回目。ヨーロッパの主要都市からのアクセスも良く、またデザイン文化が強く根付いた街として当地での開催が定着しているようです。個人的に参加者に話しただけでも、ドイツ、スウェーデン、フランスなどヨーロッパ各所からデザイナーや学生達がこのイベントのために集まってきていました。

会場周辺
会場周辺。こういった場所を歩くと「ヨーロッパに来てしまったなぁ」とあらためて実感します

会場は市内中心部から徒歩20分弱の古風な建物。現地の人にしてみればごくありふれた建物なのでしょうが、これぞヨーロッパ!というデザインがごく自然に施された会場は日本人の視点からするといちいちカッコよすぎです。別館と合わせて4つの部屋で並行して行われたセッション数は2日間で50以上。今回は個人的に参加したセッションのいくつかをダイジェストでご紹介したいと思います。

螺旋階段
螺旋階段に沿って大部屋が配置されていた会場。あしらいのセンスがカッコいいです

基調講演:Adobe Keynote by Richard Galvan and Mark Anders

Flashチームのお二人AdobeのFlashチームのお二人による、Flash Platformのこれからとオーサリングツール次期バージョンのお披露目が行われました。Android携帯による最新のFlash Player 10.1のデモや、Adobe AIR 2、Flash Professional 次期バージョンの新機能紹介など。特にFlash Professionalのコードエディターの進化には期待大です。クラスの自動インポートやコードヒンティングなど、Flash Builder相当のコード補完機能が搭載される予定で、壇上でも「Flash Builderは要らないかもね」などというやりとりが。ただ、その後すかさずFlash BuilderとFlash Professionalのスムーズに統合されたプロファイリング機能も披露され、両方あるととても便利ということが強調されていました。

翌日には、AdobeのエバンジェリストによるFlash Player 10.1のマルチタッチ機能と、Packager for iPhoneについての詳細を解説したセッションにも参加しました。マルチタッチAPIがActionScript 3.0で完全に整備されていたり、端末のGPUを活用してパフォーマンスを上げるコマンドが用意されていたりと、iPhoneをはじめとするスマートフォン分野に対するAdobeの本気度が伝わってきました。夏までには正式に発表されるであろうCS4 次期バージョン、一人のユーザーとして待ち遠しいです。

 

ラウンジ
コーヒーなどが常備されていたラウンジ。一休みしながら企業ブースを見て回れます

セッション「Sixteen Colors」 by Peter Nistch

Peter Nistchコンピューターの世界がまだ16色で表現され、モデムの転送速度は1Kbpsも出ない時代、GUIなどというものも存在せず、画面に表示されるのは文字列の羅列だけ。当時のオタクたちはその限られた環境でもPCのディスプレイに絵を表現する手法を編み出しました。そう、アスキーアートです。スピーカーのPeterは、そのアスキーアートを敢えてFlashで再現してしまおうと、C/C++コードをFlash PlayerのAVM2仮想マシンにコンパイルする「Alchemy」という仕組みを使い、インベーダーゲームなどパソコン通信時代にお馴染みだった画面をアスキーアートで再現してしまったのです。

ascii invaders!
Peterによる「ascii invaders!」。実際にキーボードでプレイできます

そして、話はこの古き良き時代の再現だけでは終わりません。Flash独自の機能を活かし、入力された動画をリアルタイムでアスキーアートに変換する仕組みを作り出してしまったのです。特にvimeoという動画共有サイトにアップされた動画を変換するasciimio.comは必見ですよ。PVもアニメもすべての動画がアスキーアートに変換されてしまいます。また、このサイトには搭載されていませんが、エンジンレベルではWebカメラからの入力にも対応し、リアルタイムでアスキーアートに変換するデモも行われました。Peter自身は「全く無駄なものを作ってしまった」と自嘲気味に語っていましたが、VJ用途など活用の道は色々とありそうな気がします。

セッション「Cool Japanese Flash」 by Keiichi Yosikawa & Masakazu Otsuka

BOWの吉川佳一さんとカヤックの大塚雅和さん前回のトロントでの開催でも大盛況だった日本のFlashシーンを紹介するセッション。今回は、BOWの吉川佳一さんとカヤックの大塚雅和さんのお二人が参戦です。吉川さんはご自身も運営に関わっているライブコーディングパーティー 「DeskTopLive」の話やActionScriptで書かれたActionScriptエディターの話を、大塚さんはご自身が開発を担当しているwonderfl(リンク http://wonderfl.net/)のご紹介です。

今回のFITCは全体を通して、Flashのプロフェッショナルによる制作についてのプレゼンテーションが多くを占めましたが、このお二人の話はむしろ日本におけるFlashの普及についてがテーマかと。「ActionScript使いがヒーローになれるってどういうこと?」「完全無料のwonderflのおかげで、Flashの裾野が広がった」。現地の参加者たちも日本に根付いたFlash文化に驚きを覚えていたようです。

 

大塚雅和氏写真
大塚雅和
面白法人カヤック
技術部 
クリエイター

セッションの感想

wonderflに上がっている作品の紹介を絡めながら、機能やおすすめの使い方について話しました。最初に「wonderfl.netを知っている人?」と聞いたときに、半分近い人たちが手を挙げてくれたことに驚き、うれしかったです。紹介させていただいた作品の作者さんにも感謝!

FITCの感想

トップクリエイターのトークは、繰り返し聞いても刺激がたくさん! 個人的には、もっと実験しなければ!という焦りがでてきました。

今後の予定

wonderflを知っている割合に対して、使っている割合が少ないように感じたので、ヨーロッパでも日常的に使われるサービスになるようどんどん開発を進めます! そして、FITCでスピーカーがFlashについて話すように、開発者でない人がwonderflについて話したりイベントで使ったり、してほしいですねー。

 

吉川佳一氏写真
吉川佳一
BOW
プログラマー/ディレクター

セッションの感想

拙いプレゼン力ながらも、同行のお二人に助けられ、なんとか形にできました。一番見せたかった共同編集がうまく動かなかったのは残念でしたが、好きなことを楽しんでできたので良かったです。

FITCの感想

世の中には桁違いの変態がいることがわかり、勇気が出ました。特に一つのことを突き詰めて異次元に達する力は自分も見習いたいです。

今後の予定

今年もBOWで変わったものを色々作っていく予定ですが、その過程でできたものをなるべく多く共有できるようにしたいです。それと、英語をもっと話せるようになりたい。

 

セッション「Art of Play」 by Erik Natzke

Erik Natzke昨年のAdobe Max Japanや翌日のF-siteセミナーにも登壇したErik。FlashとActionScriptを活用しながら抽象的なアートワークを制作する彼のスタイルをご存知の方も多いかもしれません。プレゼンテーションの内容は、彼のアートワークにおける根幹の一つ「リボン描画エンジン」についての解説や、自分のタッチを活かしながら写真を抽象画風に加工する方法など。リボン描画エンジンの基本ソースは、Erikのサイトからダウンロードできるので興味のある人は覗いてみるといいでしょう。

ただ、このプレゼンテーションの目玉はテクニカルな事例紹介ではありません。彼のアートワークとその制作過程の映像を大画面スクリーンで堪能できることが大事なのです。もともとビルボード向けなど巨大なアートワークを制作しているErik。テクニカルな内容を解説しているのにも関わらず、事例の一つ一つが美しく会場はため息と歓声に包まれていました。ちなみに最近ご結婚されて出費が色々とかさんだらしく、「よかったらアートワークのプリントアウトを買ってね」との宣伝も。

 

参加者全員に配られたグッズ
参加者全員に配られたグッズ
自転車の街アムステルダムにちなんでバッグにも自転車のプリントがされていました

セッション「North Kingdom - An Inside View」 by David Eriksson

David ErikssonFWAの殿堂入りも果たしている、スウェーデンのトップエージェンシー「North Kingdom」による、自社紹介と「Adidas Team Geist」のメイキングです。North Kingdomの本社はスウェーデンの北部、ほとんど北極圏に位置するSkellefteåという小さな街。そんな僻地ともいえる場所でも数多くの優良クライアントを抱える彼らの制作スタイルは、徹底的なクオリティ主義。クオリティの高いものを作ればクライアントが気に入ってくれ、金銭的にも制作スタイル的にも自由を得ることができ、それによりまたクオリティが追求できるという好循環を実践しているようです。

Adidas Team Geistは、ワールドカップに向けたドイツ代表の軌跡を辿るサッカーゲーム&ミニストーリー。他にもGet the Glass など、豪華な3Dグラフィックを使ったゲームコンテンツを多数制作しているNorth Kingdomですが、ゲームそのものでPS3やWiiなどの専用機と勝負しようとは考えていないとのこと。当初はTeam Geistのキャラクターの動きはもっと作りこまれていたものだったらしいのですが、これだと逆にユーザーはコンソールゲームと比較しがちになってしまうので、敢えて動き方をシンプルにしたらしいです。それでも、綿密に作りこまれたストーリーと美しいアートワークはただのWebサイトを遥かに超えるユーザーエクスペリエンスを作りだしています。

アフターパーティー

FITCは、充実したセミナー群だけでなく、その後の二次会的なパーティーでも有名です。今回は、近くのクラブを貸し切って、深夜まで飲み放題のダンスパーティーが行われました。さすが外国人、お酒とダンスが大好きです。遠く離れた異国の地でしたが、Flashという共通の話題があるので誰とでもすぐに仲良くなれました。東京での開催時もそうでしたが、こういった横の繋がりを作る機会というのは非常に大切ですよね。

アフターパーティー
超豪華スピーカー陣も参加のアフターパーティー
目を凝らすと、この写真の中にもFlash界の有名人を見つけられるかもしれません

まとめ

海外のこうしたイベントに参加するのは実は初めての経験だったのですが、2日間にわたって行われた濃密なセミナーのせいで知恵熱のようなものが。多くの興奮とインスピレーションに自分の脳がオーバーヒート気味になってしまったようです。自分も彼らのように何か人を感動させるものを作りたい。そんな思いが心に強く刻まれました。

来月25日からは、FITCの本拠地トロントでも3日間にわたるイベントが開催されます。日本からの専用ツアーの申し込みは既に締め切られているようですが、個人手配でも行く価値は十分にあると思いますよ。また、大好評につき今年も年末に東京で開催予定とのこと。詳細は未定ですが、毎回超豪華メンバーが集結するFITC、今から年末が楽しみですね。


小野田智氏写真小野田智
(おのださとし)

オーストラリアへの語学留学などを挟みながら東京でWebデザイナー/Flashクリエイターとして働くこと数年。2009年末より、長年温めていた世界一周旅行計画をついに実行に移し、現在も旅行中。
twitter : @satoshionoda
blog: ファーストクラス バックパッカー