Google I/O 2010から見えてくるWebの未来・Adobeの未来
今月号の記事
米国サンフランシスコで5/19〜5/20に開催された「Google I/O」カンファレンスでは、事前から高まっていた私たちの期待を裏切らず、幅広い分野にわたってGoogle社の最新技術が続々と発表されました。ここ最近の、Flashバッシングを含んだWeb標準に関する議論、とりわけHTML5の動向や、Googleのクラウドコンピューティング、モバイルおよびリビングルーム戦略について現時点での回答となるいくつもの重要な動きが明らかとなりました。
そんななか、基調講演1日目にアドビCTOケビン・リンチ、そして2日目にアドビCEOシャンタヌ・ナラヤンが登壇、GoogleとAdobe、そしてその他のパートナーとともに進めている新プロジェクトの発表に加わりました。本記事ではそれらを改めておさらいし、それぞれがAdobeユーザーとWebの未来にとってどのような意味を持つのか考えてみたいと思います。
基調講演1日目のポイント
- Dreamweaver CS5の拡張機能「HTML5 Pack」のデモとAdobe Labsからの即日提供発表
- Illustratorで作成したアートワークをDreamweaverでWebページにSVGとして読み込み、JavaScriptデータ連携させるコンセプトデモ
- CSS3アニメーション作成ツールコンセプトデモ
- On2社から取得したVP8コーデックを含むWebビデオの新ファイルフォーマット「WebM」プロジェクト発表とFlash PlayerのWebM対応発表
基調講演2日目のポイント
- Android OSの新バージョン2.2(コードネームFroyo)の発表と、Flash Player 10.1とAdobe AIR 2.0のサポート表明
- Google TV発表とFlash Player 10.1の採用
Dreamweaver HTML5 Pack

1日目の基調講演後半パートにゲストとして登壇したケビン・リンチはまず、アドビがこれからHTML5に対応したツールを提供していくことを表明、その第一弾としてDreamweaver CS5をHTML5とCSS3に対応させる拡張機能「HTML5 Pack」をデモンストレーションしました。HTML5 Packが提供する追加機能は以下のとおりです。
- Media Queryに対応し、3つの異なるスクリーンサイズを同時にライブビュー表示できるMultiscreen Previewパネルの追加([ウィンドウ]-[Multiscreen Preview])
- Dreamweaverタグライブラリへの新規HTML5タグ、属性、属性値の追加とコードヒント対応
- 既存HTMLタグに新たな属性と属性値のコードヒントを追加
- 2D/3D Transformation、Animations、Background and Border、Basic User Interface、Line Layout、Media Queries、MultiColumn、Ruby、Text、Transitions等CSS3コードヒントの追加
- ライブビューの<video>および<audio>要素対応(要QuickTime)
- ライブビューのCSS3レンダリング改善
- [新規ドキュメント]ダイアログへのHTML5 starter layoutの追加
- 新規タグの、デザインビューにおけるレンダリング改善
ライブビューの表示エンジンとして組み込まれているWebKitの更新により、新しいHTML5要素とCSS3スタイルや効果のライブビュー表示が可能になったことと、コードヒント対応が最も特筆すべき点でしょう。
従来とまったく同じように、Dreamweaver内で表示と動作をチェックしながらHTML5/CSS3をコーディングしていくことができます。とはいえ、ブラウザー互換チェック機能などまだまだ更新されていない機能もあるため、実機でのブラウザーテストやAdobe BrowserLabを使った確認は欠かせません。
また、iPhone/Android等のスマートフォン、iPad等のタブレットデバイス、そしてPCと3つの異なった画面サイズに対し、CSS3のMedia Queryを使って自動的に適切なCSSを適用しプレビュー確認できるMultiscreen Previewも、マルチスクリーン対応が必須となる今後のWeb制作には力強い味方となります。
HTML5 PackはAdobe Labsから無償で提供されています。Dreamweaver CS5をお持ちでない方も、体験版と併用してすぐにお試しいただけます。Adobe BrowserLabはこちらから無償でご利用いただけますし、Dreamweaver CS5商用版または体験版をご利用の方は、Dreamweaver内から直接アクセスし、ローカルのHTMLページもテストすることが可能です。
1997年の誕生から一筋にHTMLデザイナーとデベロッパーの要望を形にしてきたDreamweaverのHTML5とCSS3サポートは当然の進化。現在標準策定に先行するかたちでブラウザー実装が着実に進んでいるなか、12〜18ヵ月の製品リリースサイクルを待たずHTML5関連技術の進化にあわせて対応機能を投入するために、拡張機能という形式での提供です。
今後もモバイルを含めたブラウザー間での微妙な実装・独自拡張の違い、新技術対応スピードの違い、加えてレガシーブラウザーサポート等の問題が作り手を悩ますことになりますが、それらをツール側で吸収することで、より多くの作り手が簡単・安全にHTML5やCSS3といった新技術を使いこなし、Web標準が広く普及・定着するよう、アドビは継続して製品の一層の機能強化を図っていく予定です。
Illustrator > DreamweaverのSVGワークフロー

このデモンストレーションでは、近い将来Adobe CS製品への搭載を検討しているSVG機能を紹介しました。
IllustratorはすでにSVG形式ファイルの読み込みと書き出しに対応していますが、このデモではIllustrator内で塗りカラーをCSSスタイルとして作成、アートワークとともにSVG形式ファイルとして保存しDreamweaverで編集中のHTMLページに挿入することで、JavaScriptで動的に表示を更新するSVG要素を作成しました。
このデモから窺えることは、近い将来SVGコードを一切意識することなく、また既存の制作ワークフローを大幅に変えることなくダイナミックなデータと連動する高度なSVGグラフィックを容易に作成できるようになるということ。そしてそれがイラストレーションツールとHTMLツールの連携によりスムーズに実現するであろう、ということです。
- Google I/O基調講演:ケビン・リンチのSVGデモ動画(英語)
(デモは00:08:20〜)
CSS3アニメーション作成ツールコンセプトデモ

こちらも製品化を検討している新ツールのコンセプトです。最終的にどのような形態で提供されるのかは明らかにされていません。
想定利用シーンはCSS3エフェクトやJavaScriptアニメーションを駆使した「HTML5」リッチメディア広告の制作。いくつかの画面「ステート」と画像レイヤーを用意し、ビジュアル操作で配置や属性の設定をしながら、一切のコーディングなくインタラクティブで表現力豊かな「HTML5」広告モジュールの制作をCSS3とJavaScriptのみで実現しています。
いまだデザイナーにとって使いやすいHTML5オーサリングツールが存在しないなか、ビジュアル操作でプログラムを書かず、誰もが高度な表現力を手にすることができるツールの実現にアドビが取り組んでいることが見てとれます。これが単体アプリケーションとして提供されるのか、はたまたWebアプリなのか、あるいはFlash ProやDreamweaverの追加機能として提供されるのかは不明ですが、今後の動向に注目です。
- Google I/O 2010基調講演:ケビン・リンチによるCSS3アニメーションツールデモ動画(英語)
(デモは00:00:00〜)
Flash PlayerのWebMフォーマット対応
残念ながら、現時点での主要ブラウザーにおけるHTML5ビデオ対応はH.264(高画質だが特許で守られている)とTheora(画質はイマイチだがロイヤリティーフリー)という2つのビデオコーデック形式に分かれており、統一(ひとつのビデオコーデックがすべてのブラウザーで再生できる状態)が実現する見込みもありません。
この分断化がHTML5ビデオ普及を妨げる原因のひとつとなっています。求められているのは、ロイヤリティーフリーでなおかつ高画質なビデオコーデック技術でした。
そこでGoogle社は2009年に買収したOn2社のVP8ビデオコーデックをオープンソース化し、同じくオープンソースの音声コーデックVorbisと組み合わせ、オープンなコンテナ形式に格納した新しい動画フォーマット「WebM」をロイヤリティーフリーで提供すると発表しました。この新しい動画フォーマットにはすでに主要ブラウザーベンダーMozilla、Opera、Microsoftが対応を表明しています。
YouTubeに収蔵されているビデオ(現在H.264あるいはSorenson Spark)も、高画質なものから順にVP8へのエンコードを開始し、ゆくゆくはすべてのビデオにVP8版を用意するとの発表もありました。
基調講演でケビン・リンチはFlash PlayerもこのVP8ビデオコーデックに対応すると表明(注:コーデックだけサポートしても意味がないのでこの文脈ではWebMフォーマットに対応と解釈するのが合理的)、Flash PlayerにVP8デコーダーを搭載して配布するため、配布開始から1年以内に10億以上のユーザーに普及させることができるとしました。
これが作り手にとって何を意味するか。ひとことで言えば「選択肢(Choice)が増える」ということです。なんらかの理由でH.264を使うことができない状況において、WebMのおかげでビデオを配信できるようになるとすれば、それは選択できる自由の勝利です。
いっぽうでこれは「またもうひとつ別の形式にエンコードしなければ」という形で手間が増えるということを意味するかもしれません。いずれにせよ、H.264しかサポートしない特殊なプラットフォームを除けば、HTML5ビデオはWebMが主流になっていくのかもしれません。そうなれば、最低限ファイルを2方式に書き分けるだけで済みます。
また、WebM未対応のブラウザーについてはすべて将来のバージョンのFlash Playerでカバーできるとすると、これも選択できる自由の勝利と言えるのではないでしょうか。
主要ブラウザーベンダーとアドビだけでなく、CPUベンダー、ハードウェアベンダー、エンコーダーベンダー、ビデオプラットフォーム等幅広い企業からのサポートを得ているWebMプロジェクトを見るにつけ、同じく幅広い分野の企業からサポートされているOpen Screen Projectと同様、Webにおいて技術が幅広く浸透するには、企業間の協調が非常に重要であることに気づかされます。
Flash Player 10.1 for AndroidとAdobe AIR 2.0 for Android

「インターネットでは、みんなFlashを使っていることが判明したよ!(会場内笑&拍手)」。Google社エンジニアリング担当副社長のヴィック・ガンドトラ氏は、基調講演で初披露されたFroyoリリースにおけるAndroid OSの高速化と様々な機能強化の一環として、Flash Player 10.1とAdobe AIR 2.0のサポートを表明しました。
ガンドトラ氏は「オープンであるということには、排他的ではなく、受け入れる姿勢が含まれる。それはすなわち技術革新に対してもオープンということだ」と続け、Webが開かれたプラットフォームであるべきだと主張しました。
また「中間レイヤー」によってソフトウェア品質とエコシステムが劣化するという一部の主張と真逆に、Androidアプリ開発基盤が仮想マシン(Dalvik VM)上に構築されているからこそ、将来まったく新しいハードウェアアーキテクチャに移行する際も現在のエコシステムがそのまま保たれるとし、オープンな開発環境の重要性を強調したのは興味深いことです。
Flash Player 10.1のパブリックベータ版は、Nexus Oneをはじめとする特定のAndroidデバイスにOTA(Over The AIR – ワイヤレス)アップデートがかかりOSが2.2にアップデートされ次第、Android Marketから入手しインストールすることが可能になります。いくつかのオンラインメディアにおいてはすでにその快適なパフォーマンスについてポジティブなレビューが紹介され始めています。
作り手にとっては、今後最も成長が期待されるスマートフォンプラットフォームでFlashコンテンツがサクサク動く、それだけで気持ちが高まってくるのではないでしょうか。
ただ、気になるのはPCでの再生を前提に制作された大容量のコンテンツの場合、いかに高速なAndroidデバイスであってもそのまま快適な再生ができないというレビューもあることです。もちろんそもそもターゲットマシンの能力が違うので当然のこと(ちなみにHTML5でもまったく一緒 – Flashと同じ高度な表現には必ず同程度のCPUコストがかかります)ですが、今後Androidのようなデバイスで当たり前にFlashコンテンツが見られるようになることを想定し、画面サイズも含め携帯デバイス向けに最適化されたFlashコンテンツを別途制作する必要が出てくるようになるのかもしれません。それはそれで悩ましいことですが。
- Flash Player 10.1 for Android Public Beta(英語)
(Android版Flash Playerのダウンロードを行うには、Android OS 2.2が搭載されたAndroidデバイスのブラウザーからのアクセスが必須です) - Adobe AIR 2.0 for Androidデベロッパーリリース申し込み(英語)
- Google I/O 2010ガンドトラ氏の基調講演動画(英語)
(Flash関連は24:25〜)
Google TVプロジェクトにアドビが参画
基調講演2日目に発表された「Google TV」プロジェクトは、年内に発売が予定されているGoogle TV専用TVを使うか、あるいはBlu-rayプレーヤーやセットトップボックスを既存のTVに接続することで、フルスペックのWebをそっくりそのままリビングルームに持ち込み、TVとシームレスに繋がった、インタラクティブな視聴体験を提供するプロジェクトです。
「TVでWebが見られる」だけではなく、Androidデバイスとの連携、他のユーザーとの通信や、ライブTV・Web配信・ローカルのメディアライブラリを横断して検索し、見たい番組を見たいときに楽しめるのがGoogle TVのユーザーベネフィットといえるでしょう。
ソフトウェアの視点から見てGoogle TVを構成する主要な要素はAndroid OS、Chromeブラウザー、そしてFlash Player 10.1です。Flash Playerが搭載される理由は「フルのWeb体験を提供するため」。これは同時に、アドビがGoogle社(Chromeブラウザー)およびIntel社(Atomプロセッサー)と連携しTV画面上でも快適に動作するようFlash Playerをチューニングできていることも意味しています。
このプロジェクトもIntel社、Sony社、Logitech社ほかのコラボレーションによって世に届けられ、従来閉鎖的だった「Web TV」を、より多くのユーザー、家電ベンダー、開発者、サービス提供者に解放された、よりオープンなものにしたいという願いが見てとれます。
作り手にとっては、TV画面という新しいスクリーンにHTML/Flash/Flash Videoといった制作物を届けることによって広がるチャンスとチャレンジ、そしてサービス企画者にとってはリビングルームで家族と一緒に時間を過ごしているユーザーにどんな体験を届けられるのかを考え、実現することができる新しい時代の到来といえるのではないでしょうか。
まとめ
Google I/O 2010での一連の発表に共通するテーマはオープンであること、そして「選択の自由」である、と考えるのはアドビの一方的な思い込みでしょうか(笑)?
現実のWebはHTMLだけでできているわけでも、もちろんFlashだけでできているわけでもありません。
これまでも、そしてこれからもHTMLとFlashはともに適材適所で選択され、車の両輪のようにWebを革新させていくために不可欠なものです。そしてモバイルやTVを含めたWebが今後より高度化し、複雑化していくにしたがって動作が一貫したランタイム(Flash)とWeb標準(HTML)の両方の重要性がさらに高まってくることも明らかです。
そのためにアドビは、WebデザイナーとデベロッパーがFlashだけでなく、HTML5/CSS3のような新しいWeb標準を活用して表現する手助けを、より良いツールやサービスを提供することによって実現したいと考えています。その第一歩が今回のアドビによるデモに垣間見えたとしたら幸いです。
いわゆる「オープンソース」であるかどうかという厳密な定義は別にして、幅広い分野の才能が参加できる開かれた場がWebであり、「プロプラエタリなプラグイン」であるFlashを含めたいまのWebのありようを肯定し、次世代のWebに繋げようというGoogle社の姿勢と決意が見られた今年のGoogle I/Oだったのではないでしょうか。
太田 禎一
(Teiichi Ota)
アドビ システムズ 株式会社
テクニカルエバンジェリスト
旧マクロメディア社でDirector、Flashなどインタラクティブなクリエイティブ ツールおよびWebデザイン・開発ツールのプロダクトマネジメント・マーケティ ングを担当。2005年12月よりアドビ システムズにてFlash Media Server、Adobe Connect、Flex、AIRなどFlashプラットフォームを基盤にした製品群の営業支 援、ビジネス開発、およびエバンジェリズムを担当。趣味はFlashカンファレン ス巡り。
twitter : @otachan
