Adobe
サインイン 注文状況 マイアカウント
Print
Jennifer Sterling Design
活版印刷:古いテクノロジーにフレッシュなアイディアを
2001年6月
San Francisco Museum
これは、サンフランシスコ現代美術館で開催されたジェニファー・スターリング作品展用のポスターである。この作品でデザイナーのスターリングは、旧来の印刷技術に新しいトリックを取り入れようと試みている。彼女の創作的コンセプトは、広いベージュのフィールドに、手書き文字風のスタイルを取り混ぜた文字セットを利用することにある。このアイディア自体は、さして珍しいものではないが、このポスターを活版印刷で作成しようとした点がユニークである。この手法を取り入れたことにより、このプロジェクトは一転して実験的なものとなり、彼女の言葉で言えば、「今までに聞いたこともない」ような試みとなったのだ。

活版印刷は、商業印刷の最古の方式であり、凸版印刷の手法を用いて、プレート上に活字とグラフィックスを並べ、その上にインキを塗り、用紙をかぶせて「プレス」するという技術だ(通常は、シリンダーを利用して、用紙を巻き込みながらプレートに押しつけて印刷する)。このようなプロセスを利用すると、「型押し」の効果が得られる。つまり、活字とグラフィックスが用紙に沈み込むような効果である。

15世紀半ばのグーテンベルクの時代に始まり、19世紀末に平版印刷にその座を譲るまで、活版印刷は印刷業界で利用された主要な手法だった。活版印刷機はもうすでに製造されていないが、実際には、現在でも多くの印刷機が使われている。スターリングのような現代のデザイナーたちが、この旧式の技術の風合いを見直し、自分たちの作品に手作り感を出したり、繊細な印刷文字を利用するために、わざわざこの技術を使おうとしているのだ。

当面のプロジェクト、すなわち、このポスターを作成するために、彼女は自分の初期の作品で利用したエレメントを用いている。ほとんどの文字は Adobe® Illustrator®を利用して作成され、最終版は Adobe InDesign®を用いてレイアウトを施した。

構成を組み上げてから彼女は、InDesignのネイティブ・ファイルをアトランタの印刷専門業者であるディクソンズに送った。このファイルを受け取ったディクソンズでは、ポスターの上半分を占めるベージュの領域の広さにびっくりしたそうだ。活版印刷は、広い範囲にスムーズにインキを乗せることはできないため、一般的には凝ったグラフィックスの印刷には用いられない手法だ。がしかし、スターリングは、まだらでガサガサしたバックグラウンドを作り出し、クリアーな型押し文字をその上にプリントした場合の対比を、意図的に狙っていたのである。そしてまさに、活版印刷こそ、このような狙いにぴったりな手法であると、彼女は考えたのだ。

exhibit
クリックして拡大イメージを見る
ジェニファー・スターリングはAdobe IllustratorとAdobe InDesignを利用して、展覧会を予告するこのポスターを作成した
Exhibit
文字の羅列に加えて、直線を利用する点もスターリングの作品の特徴である。活版印刷の技術を使って得られた「型押し」の効果は、彼女の作品にビジュアルな価値を与えるとともに、作品を実体感のあるものに仕上げている
この仕事のためにディクソンズでは、ハイデルベルクのシリンダー活版印刷機を整備し直して利用したそうだ。印刷オペレーターは、サマセット紙を3回印刷機に通して印刷した。ポスターの上部および下部のベージュの部分を刷るために2回印刷機に通し、3回目はこの矩形の上に重ね刷りする形で、黒い文字の部分を印刷した。

このようにしてできあがったポスターは、コントラストの集大成といったものとなった。強い文字のラインが薄い色合いの上で踊っているようだ。幾何学的な矩形は、整った構造を示している。一方で、踊っている文字列は混沌とした無秩序状態を思わせる。表面的な図像を見ると、思わず触れてみたくなる。がしかし、これを言葉で厳密に分析することは不可能だ。これこそまさにスターリングのオリジナルなのだ。ただし、美術館のギフトショップで買うことはできる。

活版印刷に関する考察
手仕事で作り上げた感触と実体感が見る者にアピールするため、活版印刷は招待状など、相手に洗練されたイメージを与えたい場合には優れた技法である。グレイ・ディクソンが経営するディクソンズ印刷では、自分の作品に活版印刷を利用してみたいと考えているデザイナーたちに、次のようにアドバイスしているそうだ。

・作品は小さくすること。壁紙のように巨大な作品は印刷できない。プレートは通常13x18インチ以上の用紙を通すことはできないのだ。スターリングのポスターを印刷する際に、ディクソンズで利用したハイデルベルクのシリンダーの場合でも、扱える用紙のサイズは最大で18x23インチまでだ。

カラーには十分に配慮すること。活版印刷では平版印刷ほどインクがスムーズに乗らない。

柔らかい用紙を選ぶこと。堅すぎる用紙だと、型押しの効果が充分に得られない。

・図柄はシンプルに。活字は従来からあるものを利用すること。線画はOKだが、写真はトラブルの原因となる場合もある。というのは、網がけがインチあたり110-150本程度しかできないからだ。ディクソンはさらに、活版印刷の全盛期にデザインされた書体を利用するように勧めている。カスロン、タイムズ・ローマン、クラレンドンなどの書体が特にオススメだそうだ。

ギャラリーに戻る