月からのメッセージを受け取り、デジタル技術を駆使してNASAの記録写真をドラマティックに変身させる写真家
アニタ・デニス
風景写真家のマイケル・ライトにとって、世界は必ずしも地球だけではありませんでした。アメリカ南西部の航空写真を撮っていた1990年代前半、まるで月面を思わせる砂漠の景観に彼は魅せられたのです。このときの印象がやがて「フルムーン」につながります。1960年代後半から70年代前半のNASAアポロ計画当時に撮影されたすばらしい映像を集めた写真展と同名の大判写真集です。
「風景として再構成してくれるようにと月が大声で呼びかけていた」とライトは言います。サンフランシスコにスタジオをかまえる彼の作品は、芸術写真センターやサンフランシスコ近代美術館に収蔵されています。「アポロ計画のアーカイブには、私たちがよく目にしていた10点あまりの使い古しの写真以上のなにかがあるという勘がしたんです」
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「風景として再構成してくれるようにと月が大声で呼びかけていた」
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ライトはヒューストンのNASAライブラリーに保管されている32,000枚の画像を選り分ける作業に取りかかりました。写真はいずれも著作権が放棄され、一般に公開されていたのです。エージェント経由で手に入るこうした写真の多くは4、5回のデュープを重ねたものですが、一連のオリジナルのポジやネガには、公開するだけのパワーがあると彼は確信します(オリジナルといっても実際には一次複写されたものです。ほんとうの原板は低温保管庫に保存されています)。彼はこれらの写真をデジタル技術で処理し、展示・出版作品に仕上げたのです。大判デジタルプリントを用いた写真展はロンドン、マドリッド、アムステルダム、サンフランシスコ、ニューヨークなど各地の美術館を巡回しました。「なんといってもたいへんだったのは、スキャンニングのためにネガをサンフランシスコまで送ってもらったことです」とライトは語ります。「根気と忍耐がいったし、たいへん高額の保険が必要でした」。
この「フルムーン」プロジェクトに取り組むまで、デジタル写真技術に触れたことのないライトは、高品質のプリントを得るには、それが不可欠だったから、と説明します。「どんなプロジェクトにも精度や細かさは欠かせませんが、今回の場合には、それが決定的だっと言ってもいいでしょう。画像はもともと科学目的で撮影されたものですし、しかも、そこに繰り広げられている世界は、大気がないせいで、現実離れを感じさせるほどシャープなのですから」。
デジタル出力にはこのほか、いったん確定させてしまえば、再生が可能というメリットがあります。「再現性があるのは、精神衛生上、実にすばらしい」とライトは言います。「まず自分の出力方式に合わせてキャリブレーションしたモニタ上でイメージを構成し、何回かのテストプリントを繰り返して調整し、最終的な仕上げを決める。そうすれば、コレクターや美術館からの依頼で、もう一枚プリントする必要が出てきても、ボタン一発ですむ。まったく同じものが出てくるんです――ピクセルのひとつひとつに至るまでね」。
オリジナルのフィルムからできるだけ忠実な複製を得るために、ライトはサンフランシスコにあるLotus Color社の協力を仰ぎ、Optronics ColorGetterのドラムスキャナを使って画像をデジタル化しました。1,200回に及んだスキャンニングは1回1回を手作業で処理し、情報のすべてをマスターに取りこみました。「フィルムの粒子以外に情報というのはあまりないのですが、念のために、下のしきい値をいくらか超えるところまで試してみました」とライトは言います。
取りこんだ画像をライトは自分のPower Mac 8500/120でAdobe Photoshopにインポートし、調整レイヤーやカーブ、複写ツール、その他の機能を使って汚れを除いていきました。「撮影したカメラに月面の埃がごっそりと入り込み、それがポジフィルムでは黒い点、ネガでは白い点になっていたんです。私が作成した画像では、それが全部除かれています」。
とりわけ興味深いのは画像のカラー補正です。月面での色彩の物理特性や本来は地球の大気内での撮影用に設計されているフィルム材の発色性が原因で、誤ったカラーが記録されているケースが珍しくなかったのです。オリジナルからの複製の手順も、やはり色を狂わせていました。シアン、マゼンタ、あるいはグリーンといった地球の色合いが加わっていたのです。そこでライトは、Photoshopの色相/彩度の調整やカラーバランスの補正機能を使って、こうした色かぶ補正したり除去していきました。「月は基本的にはグレーの世界なんですが、私の解釈はもちろん主観的なものです」と彼は言います。
ライトが当初考えていたのは、フィルムを使って最終的なプリントを焼くことでした。しかしその方法はとらず、写真集用の原稿ではEpsonインクジェットプリンターで画像を校正し、最終的には、Cymbolic Sciences LightJetプリンターとDurst Lambdaダイレクトデジタルプリンターで大判の画像を出力しました。「できあがったプリントは、今までに目にしたことがないほどシャープです」とライトは言います。
このフルムーン プロジェクトは、ニューヨークのAmerican Museum of Natural History'sのローズ・センター・フォー・アース&スペースで展示されました。また同名の写真集(Alfred A. Knopf, 1999) はAmazon.comで注文できます。
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