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Windows Vista上のJIS2004基準のフォントについて

Windows Vista上のJIS2004基準のフォントと
他のフォントの文字の形の互換性についての注意事項

2007年1月にMicrosoft®社の新しいオペレーティング・システム(OS)、Windows® Vista™が発売されました。Windows Vistaに標準で搭載されているシステム・フォント※1は、コンピュータ上で用いる文字の種類と文字コードを定めた日本工業規格、JIS X 0213:2004(以後、JIS2004と略称)に対応していますが、これらのフォントと、JIS X 0208:1990(以後、JIS90と略称)※2に対応する、従来のWindows XP上でのシステム・フォントやアドビ システムズ社(以下アドビ)の主要な日本語OpenType®フォントとのあいだに、文字の形に微妙な差異がある場合があります。※3このことは、フォントを用いる上で、文字の形の再現に影響を与える可能性があるため、注意する必要があります。

  1. JIS90/JIS2004基準のフォントで作成した文書における文字の形の差異
  2. JIS2004基準のフォントと今後の方向性

1. JIS90/JIS2004基準のフォントで作成した文書における文字の形の差異

前述のように、Windows Vistaに標準で搭載されているシステム・フォントはJIS2004基準で、従来のWindows XP上でのシステム・フォントやアドビの主要な日本語OpenTypeフォントはJIS90基準となっています。

現在のデジタル・フォントには、ある文字コードにどの文字の形を対応づけるかを定義した情報が含まれています。その対応関係が異なると、ある文字コードが与えられたときに表示・印刷される文字の形が違ってきます。JIS90基準のフォントは、文字コードをJIS90規格の文字の形に対応づけていて、JIS2004基準のフォントは、JIS2004規格の文字の形に対応づけているわけです。

a. Windowsのシステム・フォントでの文字の形の再現

フォントを使う具体的な手順に従って説明します。まず、「辻」と「葛」という文字をタイプして、システム搭載フォント(たとえばMS®明朝)を使って文書を作ります。※4もし、システムがWindows XP(またはWindows Vista以前の他のOSの場合)、次のような形で表示されるはずです。※5

では、そのテキスト・ファイルをネットワークや電子メールを使って、Windows Vistaが動いているコンピュータ環境に転送します。その文書をWindows Vista上で見ると、次のように表示されているはずです。

同じフォントの同じ文字であっても、表示される形が異なっていることがわかります。ただし、このようにOS環境が変わっただけで、文字の形に違いが生じるのは、Windows XPやWindows Vista上のシステム上に標準で搭載されているシステム・フォント(メイリオ™を除く)を用いた場合です。JIS90基準のMS明朝、MS P明朝、MSゴシック、MS UIゴシック、MS PゴシックなどのフォントとWindows Vistaに搭載されているJIS2004基準のMS明朝、MS P明朝、MSゴシック、MS UIゴシック、MS Pゴシックとは、ファイル名が同じで、フォント名の指定だけで新旧ふたつのバージョンを区別する方法がないためです。※6

JIS90基準からJIS2004基準に文字コードと文字の形との対応関係が変更された場合でも、フォント名も新しい名前に変更されていれば、明示的にJIS90基準のフォントからJIS2004基準のフォントにフォントを切り替えない限り、文字の形は変更されません。予期せずに文字の形が変わってしまうこともありません。しかし、従来のJIS90基準のフォントも、新しいJIS2004基準のフォントも、同じフォント名の場合ではどうでしょう。フォント名が同じだと、フォントが変えられていても検知できないので、文字の形が予期せずにJIS90基準からJIS2004基準に変わってしまう場合が生じてしまうのです。同様に、JIS2004基準のフォントがJIS90基準のフォントに変更されていた場合にも、逆方向の予期しない変化が生じることになります。このことは、Windows Vistaのメイリオ以外のシステム・フォントにあてはまります。

b. アドビのJIS90基準のフォントでの文字の形の再現

アドビのJIS90基準のフォントを指定した文書ファイルを、Windows XP上で作成して、それをWindows Vistaに転送した場合には、元のファイルと同じ形が表示されます。既存の文書の文字の形を再現する上では、アドビのJIS90基準のフォントで作られた文書には非互換性が生じることはありません。この理由は、現時点ではJIS2004基準のアドビのフォントがまだ存在しないというだけではありません。今後、アドビがJIS2004基準のフォントをリリースする場合でも、従来のJIS90基準のフォントとは異なるフォント名を採用する予定です。その場合、JIS90基準とJIS2004基準のフォントが区別できないために文字の形が予期しないものになる問題は起こりません。

別表「JIS2004とJIS90との文字の形の対照表(PDF: 584k)」はJIS90とJIS2004とのあいだで、文字の形の詳細が変更された文字を列挙したリストです。ただし、この表は、主にアドビのJIS90基準のフォントとJIS2004の文字の形とのあいだで差異のある文字だけを列挙しています。※3

c. JIS90基準のフォントとOSのシステム・フォントとの文字の形の差異

しかし、アドビのフォントを含む従来のJIS90基準のフォントとWindows Vista上のシステム・フォントやその他JIS2004基準のフォントの表示・印刷を比較すると、文字の形に差異が生じる場合があります。

2. JIS2004基準のフォントと今後の方向性

このように、JIS2004基準のフォントの登場によって、テキスト文書のやりとりにおける文字の形の再現性・安定性が損なわれる可能性が生じていることは否定できません。他方で、JIS2004基準のフォントの導入の背景、その目的を理解することも必要です。今後は、JIS2004基準のフォントが数多く開発され、利用されるようになると予測されるからです。

JIS2004基準のフォントは、文化庁の国語審議会が答申した「印刷標準字体」の文字の形に沿ってデザインされています(別コラム『JIS90/JIS2004基準のフォントの背景』を参照)。新聞紙面に使用する文字の形を「印刷標準字体」に近いものに切り替えることを表明した新聞社も既にあります。また、書籍出版の世界では、伝統的な活字で用いられてきた文字の形を尊重する考えが広く支持されてきました。そのため、略字体に倣った形を多く採用していたJIS90よりも、JIS2004の文字の形の方が受け容れられる可能性があります。さらに、JIS2004基準のフォントを標準で搭載するWindows Vistaの普及が進むにつれて、パーソナル・コンピュータ上での文書作成では、JIS2004基準のフォントが使われることが多くなると予想されます。

アドビでは、従来のJIS90基準のフォントで作成された文書の再現性と互換性を維持するため、現行のJIS90基準のフォントに対して変更を加える予定は現時点ではありません。他方、JIS2004への対応については、既にAdobe Font FolioTM 11をリリースしました。Adobe Font Folio 11には、JIS2004基準のAdobe-Japan1-6文字コレクションに対応する「小塚明朝® Pr6N」および「小塚ゴシック® Pr6N」の書体ファミリー、および従来の仮名フォントにAdobe-Japan1-3文字コレクション、JIS2004基準、人名用漢字に対応するための文字その他を追加して拡張した、「りょう® Text PlusN」と「りょう®ゴシックPlusN」の書体ファミリーが含まれています。

補遺 Mac® OS X LeopardにおけるJIS2004基準のフォントについて

Apple®社はJIS2004基準のヒラギノ®書体ファミリーのフォントを搭載したMac OS X 10.5 Leopardを2007年10月にリリースしました。同オペレーティング・システム上のメニューおよびダイアログの日本語表示などには、JIS2004基準のフォントが標準的に使用されます。(Mac OS X 10.4以前のバージョンでは、JIS90基準のフォントが用いられていました。)

Mac OS X 10.5 Leopardには、システムが標準的に用いるJIS2004基準のフォントだけでなく、従来から用いられていたJIS90基準のヒラギノ書体ファミリーのフォントも搭載されています。そのため、書体指定が可能なアプリケーションで作成した場合には、Mac OS X 10.4以前のバージョンのシステムに搭載されていたJIS90基準のヒラギノ書体ファミリーのフォントを用いて作成された文書の文字の形を、新しいMac OS X 10.5 Leopard上でも再現することが可能です。Mac OS X 10.5 Leopard上では、ヒラギノ書体ファミリーにおいては、従来の文書の文字の形が知らないあいだにJIS2004基準の形に置き換わってしまうような非互換性を回避することが可能となっています。(ただし、Mac OS X 10.4以前のシステムには標準ではJIS2004基準のフォントは搭載されていませんので、ご注意ください)。

なお、アドビのJIS2004基準のフォントのフォント名の末尾は、”Pr6N”、”StdN”または”PlusN”、JIS90基準のフォントでは、”Pro”または”Std”となっています。それに対して、Mac OS X 10.5 Leopardに搭載のヒラギノ書体ファミリーのフォント名の末尾は、JIS2004基準のフォントでは”ProN”または”StdN”、JIS90基準のフォントでは”Pro”または”Std”となっています。


JIS90基準/JIS2004基準フォントの背景

現在、パーソナルコンピュータ上で用いられている日本語フォントの多くは、いくつかの日本工業規格(JIS)で定められた文字セットを基本要素として含んでいます。例えば、小塚明朝® Pro のファミリーに含まれるフォントは、JIS X 0208:1990(以後、JIS90と略称)で定められた6,879文字を基本的な文字として含み、それ以外のさらに多くの文字・記号類を含んでいます。アドビのフォントを含め、従来の日本語フォントに含まれる主要な漢字の文字の形は、日本工業規格であるJIS90が定めた文字の形に従ってデザインされており、JIS90基準となっています。

Windows Vistaに標準で搭載されているフォントは、JIS X 0213:2004(以後、JIS2004と略称)に対応しています。このようなJIS2004基準のフォントには、JIS90基準のフォントに含まれていた文字がすべて含まれるだけでなく、やはりさらに多くの文字と記号類が追加されています。JIS90が6,879文字を収録しているだけなのに対して、JIS X 0213では11,233文字を収録しています。ただし、JIS90基準のフォントであっても、アドビの小塚明朝や小塚ゴシック®のProフォント(Adobe-Japan1-4文字コレクション※7に対応)の場合には、JIS90規格が定めた6,879文字よりもはるかに多い、15,444の文字・記号類に対応しています。これらの文字には、通常のJIS2004基準のフォントでは使うことのできない、漢字の異体字や追加の記号類も多く含まれています。そのため、JIS90基準かJIS2004基準であるかの違いは、必ずしもフォントの文字数の多寡、利用者にとっての便利さ、機能の豊富さをはかる尺度にはなりません。

JIS2004には2000年に文化庁の国語審議会が答申として発表した「印刷標準字体」の1,022文字が含まれています。JIS90にもそれらに該当する文字が含まれていましたが、168文字について、文字の形に差異がありました。そのため、JIS2004ではそれらの文字の形を「印刷標準字体」に合わせることにしたのです。

この変更の背景には、「印刷標準字体」が、伝統的な明朝体活字で用いられていた康煕字典(1716年)の文字の形を採用したことがあります。それに対して、JIS90の文字の形は、1983年に制定されたJIS X 0208-1983(JIS83)と基本的に大きな違いはありません。しかし、JIS83は、それ以前のJIS C 6226-1978が基本的には「印刷標準字体」と同様、伝統的な康煕字典の文字の形を採用していたのに対して、簡略化した文字の形を積極的に採用しました。そのため、JIS83制定当初、利用者のあいだに大きな混乱がもたらされました。「印刷標準字体」にJIS2004の文字の形を合わせた目的のひとつには、文字の形をより伝統的な形に戻すことで、JIS83がもたらした問題を克服することがあったと考えられます。

Windows Vistaの登場によって、従来から広く使われてきたJIS90基準のフォントと、新しいOSが採用したJIS2004基準のフォントというふたつの異なるタイプのフォントが共存することになりました。


1、ここでのシステム・フォントは、MS明朝、MS P明朝、MSゴシック、MS UIゴシック、MS Pゴシック、メイリオ™を意味します。

2、JIS X 0208:1990は1997年に改正されてJIS X 0208:1997となりましたが、収録文字数や文字の形には変更がなかったため、ここではJIS X 0208:1990を代表として扱い「JIS90」と呼び、その文字の形を基準とすることを「JIS90基準」と表現しています。

3、JIS2004基準のフォントとJIS90基準のフォントとで、具体的にどの文字の形が異なってくるかは、使用するフォントの書体デザインに依存して、それぞれ異なります。

JIS2004とJIS90との文字の形の対照表(PDF: 584k)

4、ここでの例では、テキストを表示するフォントを指定して区別できる形式の文書ファイルを作成することを想定しています。

5、本文書の図版中の文字の形の表示例はすべて、アドビの小塚明朝Boldの書体デザインを利用して制作されています。この書体デザインは、各OS環境での個別・具体的なシステム・フォントの書体デザインとは異なりますが、これらの表示例の目的は、この文書の主題である「JIS90/JIS2004基準のフォントで作成した文書における文字の形の差異」(主に「印刷標準字体」に由来する文字の形の差異)だけを典型的に明示することにあり、個別・具体的なシステム・フォントの書体デザインの実現形態を再現することを意図するものではありません。

6、Windows Vistaではじめて導入されたメイリオにはJIS2004基準のバージョンしかありません。

7、フォントに含まれる文字の範囲を定めるアドビの文字コレクションは、以下の技術文書『Adobe-Japan1-6 Character Collection』に記述されています。

http://partners.adobe.com/public/developer/en/font/5078.Adobe-Japan1-6.pdf

ただし、仮名フォントや特殊用途のフォントを除くアドビの日本語OpenTypeフォントが対応するAdobe-Japan1-3またはAdobe-Japan1-4文字コレクションは、すべてAdobe-Japan1-6文字コレクションの一部となっており、すべてこれに含まれます)。

2007年3月31日作成 2008年1月15日改訂