Webデザイナーのマイク・シーナは、みんなに少しくつろいでもらいたいようだ。机の上に両足を投げ出して、マグカップのコーヒーをうっかりシャツにこぼしたりしながら、彼のつくりだした5分間の世界にゆったり浸ってみてはいかがだろう。
「ぼくの特色って、永遠とも思えるほど時間のかかるFlashムービーをやっていることなんじゃないかな」。
「永遠」とはどうやら相対的な言葉らしいが、シーナのアニメーションは、実際に時間がかかる。トゥルーイズトゥルー(Trueistrue)という個人サイトで、彼は30分も続くモノクロのムービーを制作したことがある。円環の連続で構成されたこの作品は、おそらくひなたぼっこしている猫にとっても忍耐を要するものだったに違いない。まして、仕事を抱えた人間にとって、とてつもない長さなのは言うまでもない。
アニメーションと同じように、シーナの世界は、半分のスピードで動いている。そして、それをそのままに保つために一生懸命働いている。29歳の彼は、ミネソタ州イーガンに暮らしている。このミネアポリスの郊外では、Webへは56Kというノンビリしたスピードで接続する。そして、住民たちは、自分たちの町には、はたしてダウンタウンがあるのかどうかをめぐって、堅苦しい論争をすることもある。どういうわけか、シーナはこの町で忙しくしているのだ。彼はいくつかの企業のためにフリーランスとして働いており、正規に就職するのを避けようとしている。
「会社勤めはしたことがないんだ。飛行機のチケットを売ったりしたくないからね」。
シーナは昔からそれほど成功していたわけではないし、それほどノンビリしていたわけでもない。元ハウス・ミュージックのDJとして、7年間、華やかなパーティー会場のあちこちを行き来していた。「音楽が好きだったんだ」と彼は言う。「でもあの業界は深夜から朝までってスケジュールになる。それにウンザリしてきたのさ」。
やがてシーナは燃え尽きた。その頃、つまり1995年を迎える頃には、彼にも仕事が必要だった。可能性のある仕事といえば唯一、何年か前、ノース・テキサス大学で勉強したことのあるグラフィックアートだけだった。そんなわけで、彼は学生時代のポートフォリオを引っ張り出して、ほこりを払い、仕事を探し始めた。
「ミネアポリス界隈で150社の面接を受けたはず」と彼は言う。「でも、誰も雇ってくれなかったんだよね」。
暇をつぶすのにシーナが付き合ったのは、過激なフォント・デザイナーのチャンクだった。当時、ディジタル・タイプフェースを作るのが大流行で、チャンクのような人々が、ロックスター並みのステータスと世界的な信奉者を手に入れていた。やがて、シーナも彼らの足跡をたどる。ティーンエイジャーのファンが彼のタイプフェイスを真似したり、彼のWebサイトに群がったりはしたものの、仕事をみつけるチャンスにはほとんど結びつかなかった。
ようやく、彼はK-Telレコードに落ち着き先をみつける。深夜のテレビ番組で、大衆受けのする音楽を売っているので知られた会社だ。結果としてこれが、シーナにとっては、いろいろな奇妙な仕事の皮切りになる。次の仕事は、テレビ宣教師のビリー・グラハムのおかげで舞い込んできた。非常に古いメッセージを若い聴衆に伝えられる人物を求めていたのだ。本人もクリスチャンであるシーナにはうってつけの仕事で、3年間ここに腰を落ち着けた。
こうしている間にも、彼は自らの心の底に流れるものを途絶えさせようとはしなかった。ジョー・クラル、マット・デズモンドと手を組んで、テストパイロット・コレクティブ社(Test Pilot Collective)という洗練されたタイプ・デザインハウスを開き、数多くのフォントを発表したのだ。こうした方法で、シーナは、広大なデザイン界の底辺で熱心な支持を集める。ニューヨークからニューデリーに至るまで、さまざまなデザイナーが、熱狂とはほど遠い彼のビジョン、建築からインスピレーションを得たプロジェクト、悠然とした性格を受け入れのだ。
今年の初め、シーナはテスト・パイロットからもビリー・グラハムのもとからも去ったが、奇妙なクライアントはあいかわらずついて回っている。つい最近も、セルビア共和国だと主張するグループのために何点かのカンプを制作しているし、オンライン・グリーティング会社のために数点のデザインを仕上げたところだ。
スタイリストとして、彼が重視しているのは、スイスのデザイナー、ヨーゼフ・ミューラー=ブロックマンのグリッドをベースにしたシステムだ。シーナはどんなプロジェクトでも、Adobe Illustratorを起動するところから始め、グリッドを表示し、[グリッドにスナップ]を設定しておく。ここから通常は、彼が最初にセッティングしておいた明快で数学的なアウトラインにきっちり収まるのをたえず確かめながら、レイヤー単位でアニメーションを制作していく。
そう、コーヒーカップを手にして、デスクに脚を投げ出し、ゆっくり落ち着くといい。シーナはよく知っている。インターネット経済で唯一、金で買えないのは時間だ。だからこそ、それを浪費するのが楽しいのだ、と。
Adobe.comのシニア・エディター、ジョー・シェプターは、トゥルーイズトゥルーをみつめながら、カップからこぼれた紅茶のしみをシャツにつけて、この記事のインスピレーションを得た。