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欧州最大の有料放送事業者 英スカイが目指す 「完全にワンツーワンのパーソナライズ」とは(インタビュー)

2018年10月26日



【POINT】

  • より良い顧客体験を提供するには、人工知能(AI)の学習能力と、人間の感性を並走させればよい
  • マーケティング担当者がどれだけきれいなカスタマージャーニーを描いても、顧客はその通りに動かなかいことの方が多い
  • 顧客のオンライン行動から好みのスポーツを割り出し、ワンツーワンでプロモーションした結果、契約率は57%上昇した
 

英スカイは、衛星放送やケーブルテレビを運営する、欧州最大の有料放送事業者だ。そのほか、家庭用電話やブロードバンドインターネット、スマートフォンなどの各種サービスも提供している。さまざまなチャネルで顧客に接する同社は、どのようなアプローチで顧客体験を最大化しようとしているのだろう。2018年9月に開催されたAdobe Symposium 2018に合わせて来日した、英スカイ デジタルアナリティクスおよびデータ戦略担当 ロブ マクラフリン氏に話を聞いた。

個人情報は責任を持って管理し、それを利用してより良い提案を

個人情報は責任を持って管理し、それを利用してより良い提案を

――講演では、ビッグデータを使ったパーソナライゼーションへの取り組みとAIの活用について時間を割かれていましたね。マクラフリンさんはスカイに入社して約1年半ということですが、以前からデータを使った仕事をしてきたのでしょうか。

マクラフリン:これまで複数の会社に在籍し、一貫してデータを使ったデジタル戦略にかかわってきました。ビッグデータという意味では、キヤノンやバークレー銀行で、膨大なデータを可視化、分析する仕事に携わった経験があります。

――スカイのデータを初めて見たときの印象について、「きちんと運用されていない膨大な量のデータ」という発言が印象的でした。

マクラフリン:スカイは、メディア企業であり、かつコンテンツ企業です。ケーブルテレビの視聴履歴やwebサイトの閲覧履歴から、顧客にとって興味のある分野を発見する、などの施策はだれもが考えられることでしょう。ただ、顧客がそうした情報を使用されることに難色を示していて、せっかくのデータを運用することが難しかったのです。

「Netflixのようにリコメンドしてほしい」と一方では主張しながら、文化的に「個人情報は集めてほしくないし、使わないでほしい」という根強い考えもあります。Netflixは視聴履歴を分析しているのですが……。そこで、「個人情報は責任を持って管理します。それを利用することで、より良い提案をできるようにします」と顧客に伝えることから始めました。

2018年5月にGDPRが施行されましたが、「あなたの個人情報を使うことで、あなたにメリットのある提案をできるようになります」と伝えて、個人情報の使用に同意してくれれば、その範囲内で私たちはデータを使えます。いまでは90%以上の顧客が同意してくれています。

顧客に接して感じたことは、施策を考える上ですばらしいヒントになる

顧客に接して感じたことは、施策を考える上ですばらしいヒントになる

――データそのものはきれいな状態だったのでしょうか。

マクラフリン:だれかに入力してもらうデータではなく、自動的に集積されるデータがほとんどでしたから、クレンジングの必要はほとんどありませんでした。まず着手したのは、データをすべてデータウェアハウスに登録すること。Adobe AnalyticsAdobe Audience Managerからデータウェアハウスにアクセスできようにし、各種の分析を行います。そこで得られた分析結果をAdobe CampaignAdobe Targetに連携させて、施策を実行するという仕組みを整えました。

人工知能(AI)も使っています。人間が日々洗練させるモデルとAIを使うモデルを並列で走らせ、コンバージョン率を比較すると、AIからより高い成果を得られたケースもありました。ただ興味深いのは、人間がダメでAIが良いということではなく、人間の作ったモデルも成果を高めているのです。AIは確かに有益ですが、人間の考え方も大切です。スカイには3万人の同僚たちがいます。彼らが顧客に接して感じたことは、施策を考える上ですばらしいヒントになるのです。それはAIにはできません。AIの学習能力と、人間の感性を組み合わせること、あるいは並走させることで、より良い顧客体験を提供したいと考えています。

青の線がAIのコンバージョン率。人間の作ったモデル以上の成果をAIが上げた例も出てきたという

青の線がAIのコンバージョン率。人間の作ったモデル以上の成果をAIが上げた例も出てきたという (出典:スカイ、同社デジタルチャネルでの実測値にもとづく講演スライドより)  

――プロジェクトを始めるにあたって、数値目標などは定めましたか。

マクラフリン:私たちの部門では固有の数値目標を持っていません。目標を持っている事業部門が私たちの活動資金を拠出し、私たちは彼らの目標達成をサポートする、という位置づけになります。そもそも、私たちの仕事は継続的な取り組みであって、「四半期ごとに結果を評価する」というものではありません。数値目標を持たず、新しいことにどんどんチャレンジすることで、事業部門をより良くサポートするという役割分担は、公平だと感じます。

――事業部門からは、どんな要望を受けていますか。

マクラフリン:大きく3つの要望です。「売上を上げること」「解約率を下げること」そして「コストを抑えること」です。前の2つは、顧客体験をより良くするというアプローチで実現しようとしています。一方、コストを抑えるのはコンタクトセンターの負荷削減です。顧客からの問い合わせ対応に使う人的リソースを少しでも、デジタル化、セルフサービス化することが求められています。こうしたデジタルによる自動化に加え、「このお客様から、このような内容で問い合わせが来そうだ」ということを先回りして現場に伝えられるような仕組みを作ろうとしています。

顧客はカスタマージャーニーの通りに動いてくれない

顧客はカスタマージャーニーの通りに動いてくれない

――顧客獲得や顧客体験の最大化にあたって、カスタマージャーニーを整備しましたか。

マクラフリン:個人的には、カスタマージャーニーを作るという考え方にいまひとつピンと来ません。そうではなく、ひたすらパーソナライズを追求していけば良いと考えています。実際には、マーケティング担当者がどれだけきれいなカスタマージャーニーを描いても、顧客はその通りに動かなかいことの方が多いのです。カスタマージャーニー上に顧客をマップすると、一歩進んで二歩下がるような事象が大量に出てくるようなイメージになるでしょう。それでは正しく施策と成果を評価できません。

私たちが顧客体験を高めるために目指しているのは、完全にワンツーワンのパーソナライズです。「お客様がどれくらいスカイのコンテンツを楽しんでくれているか」を示す指標として、カスタマージャーニーではなく「カスタマーライフステージ」という言葉を使っています。

――具体的には、どのように「完全なワンツーワンのパーソナライズ」を進めようとしていますか。

マクラフリン:当社は、さまざまなサービスを提供しています。テレビだけでなく、インターネット、スマホ、家庭用電話などがあり、スマホアプリも作っています。たとえば、スマホアプリには子どもたちに大人気のものがあります。ある顧客は、テレビの視聴履歴から、子ども向け番組を楽しんでいることがわかるのですが、子ども向けアプリを使ってくれていません。こうした顧客に対して、アプリの利用を提案します。そのアプリはとても楽しく、きっと気に入ってくれるはず。そして、アプリを使ってもらうことで、さらにスカイのファンになってくれます。

私たちとしても、複数のサービスを利用してくれる顧客の興味や関心について、より深く理解できるようになります。多くの人に、複数のサービスを使ってもらい、彼らのことを深くわかるようになれば、傾向分析もできます。どんな行動をしている人が、どんなスポーツを好きかがわかれば、「好みである可能性の高い」スポーツ番組の放送予定を伝えることができます。当社は最近、Netflixとの提携も発表しました。当社のプラットフォームを通してNetflixのコンテンツを見られるようにしたことで、提案できるコンテンツも増えます。自分のことを深く知ってくれて、自分に合った提案をしてくれることは、すばらしい体験になるでしょう。そんな体験を顧客に提供し続けたいのです。

顧客のオンライン行動から好みのスポーツを割り出し、ワンツーワンでプロモーションした結果、契約率は57%上昇した

顧客のオンライン行動から好みのスポーツを割り出し、ワンツーワンでプロモーションした結果、契約率は57%上昇した(出典:スカイ、同社デジタルチャネルでの実測値にもとづく講演スライドより)

「複数チャネルを利用する顧客を一人として把握できる」ソリューションは限られる

「複数チャネルを利用する顧客を一人として把握できる」ソリューションは限られる

――最後に、アドビのソリューションを採用した理由について教えてください。

マクラフリン:いくつかのソリューションを比較しましたが、「複数のチャネルでさまざまなサービスを利用してくれる顧客を、『世帯』でなく『一人』としてワンツーワンで把握することができ、パーソナライズする」というニーズを充たせるのは、アドビのソリューションしかありませんでした。先ほどもお伝えしたように、現在使用しているのは、Adobe AnalyticsAdobe Audience ManagerAdobe Campaign、およびAdobe Targetです。それに加えて、広告配信の効率化を狙ってAdobe Advertising Cloudの活用も検討しています。

アドビは、AIとの親和性も高いです。私たちのチームには、博士号を取得したデータサイエンティストはいません。マーケティングの専門家でも、ランダムフォレストのようなマシンラーニングアルゴリズムを活用して成果を挙げられるのも魅力です。

――本日は、どうもありがとうございました。

ロブ マクラフリン氏

ロブ マクラフリン氏

イギリス 大手放送事業者Sky  デジタルアナリティクス、データ戦略担当

 

 

UNITE編集部


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