「インバウンド需要を取り込み、DMPを活用して稼げる地域づくりへ」 せとうちDMO インタビュー

2018年12月7日



【POINT】

  • せとうちDMOは、広域でインバウンド観光客を取り込むことに注力    
  • PRでインバウンド需要を喚起し、デジタルで直接アプローチ    
  • デジタルなら本当の意味でのPDCAを回せるようになる    

訪日外国観光客の数は右肩上がりに伸びている。「2020年に4000万人、旅行消費額8兆円」という政府が掲げる目標値も現実味を帯びてきた。国内各地域には、魅力的な観光地域づくりによって国際競争力を伸ばし、「稼ぐ力」を高めることが求められている。その牽引役として期待されるのがDMO(Destination Management Organization)の存在だ。

2018年11月現在、認定されている広域連携DMOは8法人。その先駆者的存在が、「せとうちDMO」だ。瀬戸内地域では、政府によるDMO認定制度が発足する前から、行政の枠をまたいだ地域連携が進んでいた。発足当初からの歩みを知るCMOの村木智裕氏に、同組織の設立経緯と現在、そしてデジタル活用について話を聞いた。

広域でインバウンド観光客を取り込むことに注力

広域でインバウンド観光客を取り込むことに注力

――せとうちDMOは、日本のDMOのトップランナーとして注目を集めています。設立の経緯について教えてください。

村木:2009年、現在の広島県知事が初当選する際に、広島県だけでなく瀬戸内地域全体での広域観光振興を公約に掲げたことを一つのきっかけに、瀬戸内地域にある観光コンテンツをプロモーションしたいという思惑で一致した7県が連携し、瀬戸内地域として観光振興を推し進めていこう、という動きが出てきたことが始まりです。まずは2015年、行政の枠組みを超えた推進母体となる組織を作り、取り組みを始める下地としました。ちょうどそのころ東京五輪が決まり、地方創生の方針の中で「日本でもDMOのような機関が必要だ」ということが政府発表にも明記されたことが追い風となり、2016年にDMOへ発展改組することになりました。

――各地方自治体も個別に観光プロモーションを行っています。その棲み分けはどうなっているのでしょう。

村木:DMOという組織になってまだ3年目。まだきれいに業務分担できているとは言えません。ただ、「せとうちDMOは、広域でインバウンド観光客を取り込むことに注力する」という方針は明確にしています。長距離を移動して来日する方は、基本的に長期にわたり広域を周遊するので、各県単位で訴求しても魅力的なデスティネーションとして感じてもらえません。広域で取り組むことが効果的なのです。

各自治体の観光局やローカルDMOには、タビナカで観光客が楽しめるコンテンツを用意することに注力してもらい、広域にインバウンド観光客を集めてくるのが私たちの役割になります。

DMOによる稼げる地域の仕組みづくり

――せとうちDMOの組織図を見ると、2つの株式会社があります。株式会社は利益を追求する組織になりますが、それらを中核に絡ませた理由は何なのでしょう。

村木:株式会社の瀬戸内ブランドコーポレーションは、観光関連事業への投資と事業者の育成を行います。一般社団法人のせとうち観光推進機構は、プロモーションを行うわけで、地域の産業を育成して売るものをもっと魅力的にしていくための投資事業です。また、せとうちDMOメンバーズは、会員組織です。旅行関係、物産関係に加え、交通関係など観光にビジネスチャンスを見いだしている事業者が参加し、ネットワーキングやビジネスマッチングを行っています。一言で表せば、イノベーションを起こす場です。すでにある優れた観光コンテンツや物産を連携することで、新たなコンテンツを創出したり、より良くしたりする。そしてそれをプロモーションするのがこの二つの組織が連携して行うせとうちDMOの活動の特徴だと思っています。

――せとうち観光推進機構の運営資金は、どこから出ているのでしょう。

村木:現状では各県や参画企業からの負担金を頂いています。ただ目指すべき理想は、観光で潤った事業者と受益分担する関係、事業者から収益の一部を還元していただくTID(Tourism Improvement District)のような仕組みを作ること。欧米では定着しているモデルですが、日本はこれから。そこで、自治体や企業の理解を広め、行政からの支援に頼らずに観光を推進するという流れにしていきたいと考えています。

――TIDは、京都市で2018年10月に導入された宿泊税のようなイメージでしょうか。

村木:似ていますが少し違います。税金として徴収すると、行政の一般会計に入ってしまい、観光のためだけに使えません。TIDなら、観光振興を目的に集めた財源として観光のためだけに使うことができます。「観光の振興によって利益を得た人たちが、その得たお金を自分たちのために使える」という事実は、観光にかかわるすべてのプレイヤーにとって大きなモチベーションになります。ただ、TIDをスムーズに導入するためには、私たちの活動を地域で観光にかかわるすべての事業者に理解していただく必要があります。そのために様々な指標を設けて、活動の成果を“見える化”していくことに取り組んでいますが、その中でも、大きな可能性を感じているのが、デジタルの活用になります。

PRでインバウンド需要を喚起し、デジタルで直接アプローチする

PRでインバウンド需要を喚起し、デジタルで直接アプローチする

――現在、デジタルではどのような施策を展開していますか。

村木:webコンテンツを作りながら、広告展開を行っています。広告予算は、ほぼデジタル以外に使っていません。そして、そのすべてを海外の旅行者に対する認知拡大に投資しています。

――成果は出てきていますか。

村木:まだデジタル投資と成果の関係をクリアに数字としてお見せできないのは残念ですが、我々がターゲットとして取り組んでいる国の伸び率が、全国平均値を大きく上回るようになってきているのは確かです。瀬戸内地域は東京や京都に比べればまだまだインバウンド観光客が少なく、母数が少ないので伸び率だけでは語れないのですが、全国を上回る数値が出始めたのはうれしいですね。ただ、勝負はこれからです。

――予算配分はどうなっていますか。

村木:プロモーション予算を最も割いているのは、正式には“Representative”と言いますが、海外のPR会社のような会社を使って行うPR(Public Relations)活動です。ここに65%を使っています。旅行博などのイベントに出展するだけでなく、継続した市場となるそれぞれの国の関係者とのリレーション構築に注力し、メディアや旅行会社などとの関係を深めることで、それぞれ国での瀬戸内の存在感そのものを高め、結果としてメディアでの露出拡大や旅行商品造成の増加につなげていくわけです。

そして、残りの35%の大半をデジタルに投資しています。こちらは、インターネットを利用して旅行先を知る、または選択する人が増えている状況を踏まえて、ターゲットに直接リーチすることを狙っています。デジタルの強みである「興味関心を持った人や、旅に行きたいと考えているタイミングを狙って情報を伝えることができる」という特徴を活かした取り組みだと思っています。

――国内向けには注力していないのでしょうか。「瀬戸内Finder」は優れたオウンドメディアだと感じますけれど。

村木:オウンドメディアである「瀬戸内Finder」は、少ない予算で長く続けてきた取り組みで、個人的にもとても愛着があります。国内において瀬戸内地域は十分に知名度があるため、広告費はほとんど使っていません。検索などによる流入で、良いコンテンツを作り、中身を見てもらうことに注力しています。月間60万PVを超える月もあり、せとうちDMOメンバーズの会員事業者が広告を出す場としても機能しています。

――デジタル施策は、オウンドメディアと広告に絞っているのでしょうか。

村木:予算が限られているため、いまは事業も制約されます。ただ、DMPを使って旅行を計画している人たちの動きを捕捉し、われわれの活動がどう役に立っているのかについて把握したいと考えています。例えば、我々のwebサイトに入ってきた人のデータを蓄積し、その後のプロモーションに活用したり、webサイトに入ってきた人や広告を見てくれた人が、その後OTA(Online Travel Agent)などで宿や航空券の予約をしたデータを入手することで、デジタル投資の投資対効果を数値化したりなど。その取り組みは進めています。

――将来、たとえばTIDがうまくいくなど、資金に余裕ができればやりたい施策はありますか。

村木:データ基盤の活用、優れたDMPを構築して運用していくことが第一です。そのDMPを中心に、デジタルを活用したデータにもとづく施策を展開していきたいです。住んでいる国によって明らかな好みの差はありますし、人の好みもさまざまですから、より深いパーソナライズにもとづいたワンツーワン施策も実施することが理想です。最も予算を割いているPRでも、たとえばオンラインメディアが記事化してくれた際に、その記事を読んだ人がどれくらい観光に来てくれているのかを知りたいとなれば、デジタルを使って正確にタグ付けすることで、それも可能になります。現在は手つかずになっているタビナカ、タビアトの施策も積極的に実行していきたいですね。

――現時点で、デジタルは有効だと感じていますか。

村木:以前は、紙のチラシを大量に作ってイベントに出展する活動が中心でした。いまは、大きく変わっています。イベントの出展だけの事業はゼロ。現地にオフィスを置かずにPRファームにすべてを任せています。そして、それを確実に成果へと結びつけるのが、デジタルの役割です。ROIを考えると、デジタルの価値はイベントを大きく上回ります。デジタルなら本当の意味でのPDCAを回せるようになる、というのが最大の収穫ですね。

――DMOとして、どのような将来像を描いていますか。

村木:地域全体に観光収入という利益をもたらすのが私たちの役割です。広域DMOとして地域DMOや地方自治体と連携し、彼らが行う個別コンテンツの魅力を高める活動をサポートしながら、地域全体に観光客を呼び込む戦略を立て、デジタルを活用して実行します。得られた利益の一部はTIDの仕組みを通して還流してもらい、私たちがその資金を使ってより優れたデジタルマーケティングを展開します。それが理想です。

――本日はありがとうございました。

せとうちDMO(一般社団法人せとうち観光推進機構) CMO 村木 智裕 氏

せとうちDMO(一般社団法人せとうち観光推進機構) CMO
村木 智裕 氏

広島県庁にて財政課、県議会議長秘書等に従事。2013年から「広島県 瀬戸内 海の道プロジェクト・チーム」に所属し、せとうちDMO(一般社団法人せとうち観光推進機構および 株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション)の設立を担当、一般社団法人せとうち観光推進機構の総括マネージャーとして経営企画・海外プロモーションに従事する。2018年、株式会社 Intheory を設立。せとうちDMOのCMOほか、その他自治体のデジタルマーケティングアドバイザー等を務める。

 

UNITE編集部


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