基礎から押さえる「CXM」:改めて注目されるカスタマーエクスペリエンスマネジメント

2019年3月15日



【POINT】

  • デジタル変革への取り組みの進展に伴い、CXMにも改めて注目が集まっている    
  • 現在は「デジタル変革の第三の波」が訪れており、顧客理解のためのテクノロジーと、顧客対応のためのテクノロジーがその本質である
  • 視点を「自社の効率化」から「顧客の期待に応える」ことへと転換させることで、高いレベルの顧客体験を提供することができる
 

CXとは、CXMとは

CXとは、CXMとは

いまデジタル変革(デジタルトランスフォーメーション)は、「なぜ」から「何を」「どうやって」と語られることが増えてきた。同時に、「エクスペリエンス」にも改めて注目が集まっている。この二つの現象は、CXMというキーワードから探ることができる。そこで、現在進行しているデジタル変革の本質とは何か、CXMとは何か、順次紐解いていこう。

まずはCXというキーワードから見ていく。「カスタマーエクスペリエンス(CX)」にはしばしば「顧客体験」「顧客経験価値」という訳語が使われる。このキーワードには当事者として「顧客」が含まれているが、もう一つの当事者「企業」も隠されている。よってCXとは、企業と顧客の間で発生するあらゆる事象であり、顧客が何らかの感情の変化を起こすことを指している。企業による何らかの施策の結果、あるいは顧客の行動の結果として産まれるのがCXだ。

当然ながら顧客は常に、自分にとって意味のある、価値あるCXを期待している。企業も、顧客が満足するようなCXを提供したいと望む。そして、いつでもどこでも「望ましいCX」が導かれるよう、あらゆる企業活動、あらゆる顧客接点をあるべき状態に維持し、改善し続ける企業活動が、「カスタマー エクスペリエンス マネジメント=CXM」なのだ。漢字で表せば、「顧客体験管理」「顧客経験価値管理」のようになるだろう。この記事では略語CXMを用いる。なお文献等によっては「CEM」という略語も見られるが、意味は同じだ。

さて、「カスタマーエクスペリエンス(CX)」や「カスタマー エクスペリエンス マネジメント=CXM」について説明したが、これは何も最近になって出てきた用語ではない。広く注目を集め始めたのは、B.J.パイン氏とJ.Hギルモア氏が1999年に上梓した「The Experience Economy(訳書名『経験経済』)」だと言われる。またバーンド H.シュミット氏は1999年に「Experiential Marketing(訳書名『経験価値マーケティング』)」を、2000年に「Customer Experience Management(訳書名『経験価値マネジメント』)」を出版している。

では、なぜいま再びCXMが注目を集めているのだろうか。それは、デジタル変革の歴史から読み取れる。

デジタル変革小史

デジタル変革小史

では次にデジタル変革について、歴史的な時間軸で振り返ってみよう。

デジタルテクノロジーによる企業システム商用化の源流は、1950年代にさかのぼる。それ以来、デジタルは人間の作業を省力化、効率化するために使われてきた。大量の工数をミス無くこなすデジタルの領域は、テクノロジーの発展とコストダウンに伴い、企業の様々な領域へ浸透した。「EDP(Electronic data processing 電子データ処理)」や「OA(Office automation オフィスオートメーション)」といったキーワードの時代だ。

「デジタル変革の第一の波」とも呼べる大きなトレンドは、1980年代から始まった。それは「ERP(Enterprise Resources Planning 企業資源計画)」と呼ばれる。財務会計、生産計画、サプライチェーン管理、人財管理などの領域だ。それ以前には孤立分散していた企業内システムを、相互接続可能な設計のシステムに置き換えることで、基幹業務を横断的に連携させ、劇的な効率化を図る。すなわち最初のデジタル変革は、基幹系統合システムの登場と発展であった。

続く「デジタル変革の第二の波」は、「CRM(Customer Relationship Management 顧客関係管理)」と呼ばれる、1990年代から2000年代にかけてのトレンドだ。基幹業務に加えて顧客対面業務を対象とし、同じく孤立分散していたシステムを横串で統合し、対面業務の効率化や質的向上を図る。すなわち第二のデジタル変革は、フロントオフィス系システムの発展であった。「SFA(Sales Force Automation 営業支援システム)」もこの部類に含まれる。

そして時を同じくして、PC、インターネット、モバイル、ソーシャルなど、「デジタルテクノロジーのコンシューマライゼーション」と呼ばれる現象も進展した。それ以前のテクノロジーは、政府や企業用途として産まれ、徐々に民生へ裾野を広げていくものだった。それがこの時代、最先端のテクノロジーがはじめから消費者向けとして提供されるようにシフトしていったのだ。

企業のためのシステムから、顧客のためのシステムへ

企業のためのシステムから、顧客のためのシステムへ

そして、現在進行中のデジタル変革は、「第三の波」となる。しかも現在のデジタル変革は、これまでの二つのデジタル変革と、根本的に性質が異なる。その原動力が「CX」なのだ。

先行した二つのデジタル変革、すなわちERPとCRMは、社内業務の効率化や可視化を目的とした、「企業自身のためのシステム」だった。システムのユーザーは社員となる。

一方で現在進行中のデジタル変革は、「顧客の期待しているCX」を実現するためのシステムなのだ。主たるユーザーは顧客自身であり、社員の役割はユーザーたる顧客を支援する立場となる。

デジタルのコンシューマライゼーションが進展した結果、顧客の周りには孤立分散したシステムがあふれている。第二の波の時代に登場したPCとwebサイトや電子メール、ケーブルテレビのSTB(セットトップボックス)やゲームコンソールなどに加え、スマートフォンとアプリ、ソーシャルメディア、ウェアラブルデバイス、AIスピーカー、AR/VR、コネクテッドカーなど、枚挙にいとまがない。企業の側も、会員アプリ、キオスク端末、スマートサイネージなど、顧客向けのデジタル接点を展開している。個々には盛衰や置き換えもあるかもしれないが、大きなトレンドとしては、より複雑化してゆく。それぞれのシステムは利便性を提供すべく登場とする一方、これだけ選択肢が増えていくと、煩雑さも増していく。結果、習慣として残り、使われるシステムや接触するブランドは限られ、顧客を囲い込もうとする企業の企ては、裏目に出てしまう。

仮に顧客の利用するシステムがたった一つだったとしても、それだけで「顧客の期待しているCX」は実現しない。実現するうえでの必要条件は二つ、「顧客は何を期待しているか」をシステムが理解すること、そして、「顧客の期待していること」をシステムが提供することだ。

第三の波として進行中のデジタル変革とは、本質的にはこの二つ、顧客理解のためのテクノロジーと、顧客対応のためのテクノロジーによって構成されている。顧客にとっての複雑さを解消し、顧客のニーズをスムーズに満たせるようにすることが、デジタル変革の目的なのだ。優れたCXは、顧客を引き付け、競合企業との差別化を産む。企業が囲い込むのではなく、顧客から選ばれるのが、現代のビジネスの基本ルールだからだ。

顧客理解のためのテクノロジー

顧客理解のためのテクノロジー

顧客について深く知ることができれば、顧客により心地良くなってもらう施策を打てるようになる。ERPやCRMには、過去に取引したことのある既存顧客の属性情報やトランザクション情報が記録されている。これらは、顧客理解のための情報源の一つとして重要だ。

一方、顧客の気分や状態は、時間の経過によって変わっていく。たとえば自分に適した車を探してwebサーチをしている時ならば、車の試乗会の広告表示が嬉しい体験となるかもしれない。しかし、“全く関心がない”タイミングの場合、執拗な広告表示はブランド価値を毀損してしまう可能性もある。顧客の感情を読み解き、デジタルで彼らに接しているときの感情にまで目を配ることが求められている。代表的な手法としては、行動情報の収集、分析によって実現される。非定型データ、かつてビッグデータとして騒がれた部類の情報だ。

属性情報と行動情報を適切に組み合わせれば、顧客理解を深めることができるのは、自明だろう。ここでやっかいなのは、ひるがえって、ERPやCRMに記録されたデータの孤立分散だ。従来のこうしたシステムは定型情報を蓄積している。一般的に「System of Record(SoR記録のためのシステム)」とも呼ばれてきた従来のシステムには、明らかな限界がある。企業の効率化を目的として収集したデータしか含まれないため、顧客の感情を読み解く情報源にはならない。また、顧客理解という目的のために設計されていないため、うまく接続できない。

当然ながら、その対象には「既存顧客」だけでなく「まだ取引したことのない匿名状態の非顧客、潜在顧客」まで含まれなければならない。そこで第三の波として登場してきたのが、「Experience System of Record(エクスペリエンスのための記録システム)」なのだ。

顧客対応のためのテクノロジー

顧客対応のためのテクノロジー

次に、顧客対応のためのテクノロジーを検討する前に、テクノロジー登場以前の顧客対応を振り返ってよう。顧客が店舗を訪ねたとき、「馴染みの店員さん」ならば、顔を覚えていて、挨拶をしてくれる。日々のさりげない会話の中で、顧客の人となりをつかみ、表情や身なりから、その日の気分もわかってくれる。店員は表情や声、身振りなどを通じて、顧客とのやり取りを行い、その反応をみながら、臨機応変に会話や行動を変えていくことで、顧客の期待に応えていく。

デジタルテクノロジーにおいても、要領は同じだ。非対面の何らかのデジタル接点の場合、表情や声、身振りに変わって、音声、画像、動画などが使われる。タッチやスワイプ、クリックなどの顧客の反応は、顧客のニーズをあらわすシグナルとなる。店員が問いかけるのと同じように、顧客が関心を持ちそうな選択肢を提示し、好みを直接尋ねることもできる。AR/VRなどのイマーシブテクノロジーが進歩すれば、あたかも目の前にいるかのような体験をデジタル接点で提供できるだろう。音声テクノロジーが進歩すれば、音声認識AIと音声発話AIによってデジタル会話も実現するだろう。

こうした顧客対応のためのテクノロジーを一般的に、「System of Engagement(SoE:エンゲージメントのためのシステム)」とも呼ばれる。SoEの課題は、エンゲージメントの発生するデジタル接点の状況が、常に変化していることだ。さまざまに進化し、盛衰し、変容を繰り返している。コンシューマライゼーションによって顧客を取り巻くデジタル環境は複雑化しているが、その状況の変化に、SoEはいちはやく対応できなければならないのだ。

また顧客対応において決定的に重要なのが、「何を伝えるか」だ。デジタルにおいては、音声、画像、動画などの、顧客に伝えるための情報、すなわち、コンテンツである。これは店員にとっての表情や声、身振りに相当する。

顧客対応の良否を決定付けるのは、コンテンツの量と質だ。たとえ商品やサービスが良い出来だとしても、その価値を顧客に分かりやすく伝える適切なコンテンツがなければ、顧客を満足させることはできない。そのため、望ましいCXを成立させるうえで必要となるコンテンツの質と量を担保するためのシステムも、SoEの要素として欠かすことができない。そうでなければ、顧客にとって企業は、見当外れな提案をし、執拗な接客を行う店員のようなものになってしまうだろう。

CXMをどうやって実現させるのか

CXMをどうやって実現させるのか

ここまでの内容を振り返ろう。

デジタル変革は、コンシューマライゼーションの結果として、CXを目的とする時代に至った。望ましいCXを維持し、改善し続けるための企業活動がCXMとなる。

ではどのようにCXMは実現されるのか。その必要条件は、顧客を理解すること、顧客の期待に応えることの二つ。この両者を継ぎ目なく企業全体にわたって提供し、ユーザーたる顧客の感情を動かし、全社員がユーザーを支援することのできるシステムこそが、CXMを現実のものとすることができる。当然そのシステムは、ERPやCRMが築いてきた資産も最大限活かせるものでなければならない。言い換えると、Experience SoRとSoEが高度に融合したデジタルテクノロジーこそが、CXMのためのシステムなのだ。

そのようなシステムは、現時点で存在するのだろうか。Adobe Experience Cloudは、その数少ない選択肢だ。幅広いテクノロジーベンダーのイノベーションを見つめ、客観的なベンダー市場評価結果をレポートとして提供しているGartnerやForresterはそれぞれ、このテクノロジー領域を「エンタープライズマーケティング ソフトウェアスイート」および「デジタルエクスペリエンス プラットフォーム(Digital Experience Platform: DXP)」と定義し、この領域に所属するベンダーを評価している。詳細は各社のレポートを参照してみて欲しい。

CXMをどうやって実現させるのか

CXMのビジネス価値

第三の波に載り、CXMへと積極的に投資している企業は、第二の波に留まっている企業に比べて、具体的な経営的効果を上げている。Forrester Consultingによる調査レポート「エクスペリエンス投資がビジネスに及ぼすインパクト」によれば、デジタルプラットフォーム全体のROIは3年間で242%と試算されている。

「顧客を中心に据えたビジネスモデルを実現したい」と考えている企業は多い。顧客体験の向上を目指す取り組みも盛んだ。しかし、これまでの延長ではうまくいかない。視点を「自社の効率化」から「顧客の期待に応える」ことへと転換させる必要があるのだ。そのうえで、顧客理解を深め、顧客の期待しているエンゲージメントを提供し、一人ひとりに最適な施策を打てるようになれば、高いレベルの顧客体験を提供することができるだろう。

 

UNITE編集部


関連資料

マーケティングの中核概念は、いつの時代にも普遍的です。デジタル時代におけるマーケティングの中核概念を一つずつ整理し、アドビはそれをどう捉え、Adobe Experience Cloud をデザインしているかを解説します。


おすすめ情報

アドビがお手伝いします

企業のデジタル変革は、組織横断の幅広い取り組みとなります。これには、新たな経営戦略、組織編成と人材育成、ビジネスプロセスの刷新、そして「顧客体験のための企業システム基盤」の構築などが含まれます。

アドビはこれまでも、グローバルで多様な業界のブランド企業のために、テクノロジーとサービスを提供してきました。それが、顧客体験管理(CXM)のためのプラットフォームであるAdobe Experience Cloudと、アドビコンサルティングサービスです。顧客インテリジェンスやDMP(データ管理プラットフォーム)、リアルタイムCDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータ基盤の構築、パーソナライゼーションに欠かせない膨大なコンテンツを生成し活用するためのコンテンツ基盤の構築にご興味をお持ちの方は、アドビへご相談ください。