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小売の顧客体験は顧客を知ることから始まる

SearsやJCPenney、Woolworthsなど、旧来の小売事業者が運営してきた店舗は、単に買い物をするだけの場所ではなく、モールの主力店として、または街の要として、地域が頼りとする存在だった。顧客がこうしたブランドに対して感じるロイヤルティの大部分は、小売事業者と地域とのつながりによるものであり、新学期の時期ともなれば、友人も隣人も、必ずSearsを訪れたものだ。

現在では、わざわざ店舗に出向く必要はなく、数回のクリックだけですぐに商品が届く。AmazonやeBay、Alibabaなど、大手小売事業者の中には、実店舗をまったく持たない企業もある。 

デジタル化された世界で顧客を魅了するには、店先で顧客を歓迎するだけでは不十分だ。必要なのは、心のつながりを築いて顧客を引き込み、再訪問をうながす顧客体験である。Forresterの調査によれば、顧客体験が与える印象は、多くの業界でロイヤルティの最大の予測因子となっている。そして、その傾向が最も強く現れているのが小売業界だ。

顧客のロイヤルティを向上させる心のつながりを築くために必要になるのは、クリエイティブ広告を使用したキャンペーンや戦略より、ひとつに統合された、顧客に結びつく正しいデータである。

アルベルト・アインシュタイン。

「あらゆるレベルで顧客とのつながりを築くには、顧客を理解することが必要です。データなしに、顧客を知ることはできません」

Michael Klein
アドビ、小売業界戦略ディレクター


顧客の心をつかむ

顧客の心をつかむの画像

 

顧客体験中心のビジネスを展開する小売業界のトップ企業は、まず、顧客の心を動かす要素を把握するために必要なデータの種類を特定するところから始めている。目的とするデータは、顧客に関する情報だけでなく、どのような体験に顧客が最もよく反応するかについてのインサイトを提供してくれるものである必要がある。

ハーバードビジネスレビューに発表された調査によれば、感情的につながった顧客には、満足度の高い顧客の2倍の生涯価値が存在する。感情的につながった顧客は、より多くの商品やサービスを購入し、訪問頻度が高く、価格への感応性が低いほか、ブランドからの提案にも高い関心を示し、ブランドを頻繁に人に勧めてくれる。

しかし、購入に至る経路はほとんどの場合、迷路のように入り組んでいる。そのため、顧客の特徴や購入につながる顧客体験を把握するためには、様々なタイプのデータが必要になる。 

以前、Home Depotでオンライン担当ヴァイスプレジデントを務めたMike Amend氏は、分析は顧客を定量的に理解するための本質的な役割を担っています。(データにもとづいて)カスタマージャーニーを把握し、顧客体験が摩擦を起こしているポイントや、顧客が脱落しやすいポイントを把握できます」と語る。 

こうした情報を精度高く把握するためには、電子メールやダイレクトメール、CRMのデータを含むファーストパーティのデータだけでなく、オンライン訪問者のweb閲覧行動やコンバージョン履歴などの追加情報が必要になる。さらに、セカンドパーティとサードパーティのデータも活用する必要がある。こうしたデータを組み合わせることにより、オーディエンスをより適切にセグメント化し、類似(look-alike)モデリングを使用して新しいオーディエンスを見つけ、顧客の属性管理を強化できる。

大手小売事業者のTargetは、顧客の心をつかむためにデータがどれほど重要かを認識している。データを活用して、顧客のセグメント化を10年以上にわたって実施し、マーケティング活動をパーソナライズしてきた。その結果、引っ越しや結婚など、人生の重要なイベントに合わせてオファーやクーポンを提供し、顧客の共感を獲得してきた。データは現在もTargetの成長を支え、顧客がいることをデータが示す場所で顧客に対応している。データは、オンラインでの活用需要が増えていることを示している。Internet Retailerによれば、2016年第1四半期のTargetのオンライン売上は、前年比23%増加した。2015年同期は、前年比38%増であった。 

オンラインで成功し続けるTargetの事例が示すように、優れたデータ戦略とは、顧客のプロファイルやニーズを明らかにするだけでなく、顧客がどこでどのようにしてブランドと関わっているかを明らかにするものだ。実際、ハーバードビジネスレビューの調査によれば、オムニチャネル体験によって関係づけられた顧客は、感情的なつながりが非常に強く、一貫して収益性が高いと報告されている。


顧客とつながり、共感を得る

顧客とつながり、共感を得るの画像

 

データがあふれている世界では、適切なソースから必要なデータを収集することが大きな課題となる。カスタマージャーニーの複雑さが増すにつれて、小売事業者は、実店舗やオンラインなどのチャネルをまたいで一貫性のある顧客体験を提供することが必要であることを認識しているがそのためには、シームレスなクロスチャネル体験の実現に役立つデータを収集する必要がある。

Retail Weekの記事が取り上げた調査によれば、実店舗を訪れた顧客は、その小売事業者が自分のデジタルジャーニーを「把握」していることを期待するようになっている。この調査に協力した顧客の約3分の1(32%)は、小売事業者のwebサイトやアプリで見せた事前の行動、例えば、ウィッシュリストや買い物かごの放棄、関連のあるソーシャルメディアでの発言などを、店舗側がきちんと把握し、それにもとづいたサービスの提供を期待すると回答している。

Home Depotなどの小売事業者が、期待に応える顧客体験を提供するためには、オフラインとオンラインの両方を活用する必要がある。そのためには、適切なデータ、すなわちリアルタイムかつクロスチャネルのデータが必要だ。 

1:リアルタイムのデータを収集して対応

顧客がいまどこで何をして、何を望んでいるかを知ることは、非常に重要だ。リアルタイムのデータインテリジェンスが生み出す正確な顧客プロファイルがあれば、一貫性を保ちつつ、よりパーソナライズされた顧客体験を提供できる。つまり、顧客ニーズを見ながら対応することが可能になるのだ。 

Home Depotでは、データをリアルタイムに収集する仕組みにより、顧客を最も魅了できるオファーやコンテンツのタイプを、低コストですばやく突き止められるようになった。さらに、顧客がまさに今、求めているものを知ることができる。同社は、モバイルアプリを利用して顧客の居場所を知り、情報にもとづいて瞬時に顧客体験をカスタマイズできる。例えば、電気製品の売り場にいる顧客に、商品の配送と設置の無料クーポンをオファーするなどだ。

2:デジタルの顧客接点をまたいで顧客を特定

カスタマージャーニーは複雑で曲がりくねっている。Econsultancyによれば、40%の顧客はジャーニーの開始時と終了時で使用しているデバイスが異なる。さらに、顧客は使用デバイスを問わず、小売事業者が自身を理解してくれることを期待している。

例えば、スマートフォンで買い物かごに商品を追加すれば、ノートPCやタブレットでも同じ閲覧履歴や買い物かごにアクセスできると考える。しかし、顧客がこのようにデバイスをまたぐシームレスなショッピング体験を求めていても、それを実現することは容易ではない。デバイスをまたいでデータを取れなければ、コンバージョンのデータは不正確になる。属性データは陳腐化し、顧客セグメンテーションは不完全となり、その結果、顧客体験の一貫性が失われ、パーソナライズされていない顧客体験を提供してしまう結果につながる。

この課題を克服する方法はある。顧客にログインまたは認証を求めるサイトでは、デバイスと顧客の関係を特定することが可能だ。また、認証の手間を顧客に課す代わりに、メンバーのデバイスの使用状況のデータを共有するデバイスコープに加わる方法もある。このようなリソースを活用すれば、顧客だけでなく、顧客が使用しているデバイスの情報も入手できるので非常に有用だ。重要なのは、ここで共有されるのはデバイス間のリンク情報だけであり、顧客のプロファイルやサイト訪問データは共有されないので、顧客のプライバシーが保護される点だ。

デバイスコープを利用すれば、不明なデバイスを使用している常連客を認識できるだけでなく、顧客のデジタルジャーニーにおいて分断された顧客接点をつなぐことができる。その結果、デバイスの変化に翻弄されることなく、一貫性のあるパーソナライズされた顧客体験を提供することが可能になるのだ。

James Trudgian(アドビ、パートナーイノベーションリード)

「異なるデバイスデータをつなぎ合わせることができれば、顧客の特性に注目しなくても顧客の1日を追いかけることが可能になり、デバイスレベルでパーソナライズされた、新鮮かつ適切なコンテンツを提供できるようになります」

James Trudgian
アドビ、パートナーイノベーションリード


顧客をあらゆる角度から分析

顧客をあらゆる角度から分析の画像

 

必要なデータを揃えるだけでは不十分だ。効果的にデータを活用して、顧客の感情的なモチベーションを誘発できる要因を、顧客ごとにより正確に特定する必要がある。しかし、そのために必要となる顧客の全体像は、複数のデータソースを統合しなければ構築できない。 

多くの小売事業者では、組織の各所にデータが分散している大規模なレガシーシステムだけでなく、縦割り組織による部門間の壁もデータを統合するための障害となっている。こうした分断をなくすことは容易ではないが、顧客の心をつかむコンテンツを把握するためには、統合された顧客の全体像が必要だ。

Econsultancyによれば、コールセンターのデータを活用し、webサイトへの顧客の訪問と、オンラインとオフラインの両方でやり取りしている顧客をマッピングし、追跡しているマーケターは30%未満である。しかし、顧客の全体像を構築するには、オフラインとオンラインの両方のデータを利用して、カスタマージャーニー全体を解明することが必要だ。 

また、実店舗の購入データからは、顧客がよく買い物をする時間帯や平均店舗滞在時間、来店頻度、購入した商品のカテゴリなど、実店舗における顧客の購入行動に関するインサイトを取得できる。この包括的な顧客情報を活用すれば、オンラインとオフラインの商品の陳列を変更したり、デジタルプロモーションのオファーをさらにパーソナライズすることが可能になる。

例えば、スポーツ用品店でゴルフクラブを一度だけ購入した後、ゴルフ用品をお勧めする電子メールが継続的に届くようになった顧客がいたとする。こうした購入後のオファーは、店頭でクラブを購入したという、たったひとつのデータにもとづいている。しかし、この顧客は実際には、クラブは贈り物として購入したものであり、顧客自身はゴルフをしないのだ。そうであれば、電子メールのオファーをいくら届けても意味がない。 

しかし、オンラインにおける検索行動と店舗への来店データを照合した結果、顧客がテニス用品を頻繁に購入していることがわかったらどうだろうか。このように、顧客の情報をより広く集めて統合すれば、相手に見合った魅力的なオファーを提供することが可能になるのだ。

あらゆるデータを統合し、ひとつの顧客像を構築することにより、あらゆる時間帯やデバイスをまたぐ顧客の全体像が手に入る。この顧客像をもとに、顧客が期待する体験を提供し、ロイヤルティを向上させ、収益を増加させることができる。


データにもとづく顧客体験を活用

以前、SearsやJCPenney、Woolworthsなどでは、パーソナライズされたブランド体験を店員の手で顧客に提供していた。今日では、そうした心のつながりを構築する方法は多様化している。そのひとつが、データの活用である。

しかし、データを収集してつなげるという、あまりにも大きな課題を前にして、多くのマーケターはデータにもとづく業務の進め方に二の足を踏んでいる。Econsultancyによれば、データにもとづくマーケティングの機会は2016年の16%から2017年には12%に減少している。

 

データドリブン型マーケティングの機会の減少を示すインフォグラフィック

2016年

データドリブン型マーケティングの機会の減少を示すインフォグラフィック

2017年

データにもとづくマーケティングの機会は、2016年の16%から2017年には12%に減少

しかし、機会は依然として存在しており、現実的には、TargetやHome Depot、Amazonといった大手の小売事業者は、データの活用を積極的に推進し、顧客とつながり、より魅力的な体験を提供している。市場競争に勝ち残り、顧客のロイヤルティを高め、新規顧客を獲得したいと望む企業は、この3社と同様にデータにもとづくマーケティング手法を導入し、顧客体験をパーソナライズし、より多くのオーディエンスを獲得できる体制づくりに努める必要がある。

 

「2017 Digital Trends」、Econsultancyとアドビ(2017年)
Alan Zorfas氏とDaniel Leemon氏、「An Emotional Connection Matters More than Customer Satisfaction」、ハーバードビジネスレビュー(2016年8月29日)、https://hbr.org/2016/08/an-emotional-connection-matters-more-than-customer-satisfaction 
「The Art of Integration」、アドビ(2016年)
Christopher Ratcliff氏、「More Than 40% of Online Adults Are Multi-Device Users: Stats」、Econsultancy(2014年3月7日)、https://econsultancy.com/blog/64464-more-than-40-of-online-adults-are-multi-device-users-stats/
「Empowering Customers Through Digital at Home Depot」、Adobe Experience Cloud(2015年6月15日)、https://www.youtube.com/watch?v=uxRsAXGCnL4
「Home Depot Execs Discuss Future of Retail, Smarter Home」、Home Depot(2016年8月2日)、https://corporate.homedepot.com/newsroom/home-depot-execs-discuss-retail
「How to Build the Right CX Strategy」、Forrester(2017年1月10日)
Michael Klein氏、対面インタビュー(2017年4月18日)
Salesforce、「Opinion: How to Build an Emotional Connection with Your Customers」、Retail Week(2016年8月22日)、https://www.retail-week.com/analysis/retail-voice/opinion-how-to-build-an-emotional-connection-with-your-customers/7011369.article
Sandra Guy氏、「Target’s Q1 Ecommerce Sales Account for a Growing Share of Revenue」、Internet Retailer(2016年5月18日)、https://www.digitalcommerce360.com/2016/05/18/targets-q1-e-commerce-sales-account-growing-revenue-share/
「Understanding the Customer Journey」、Econsultancy(2015年4月)、https://econsultancy.com/reports/understanding-the-customer-journey/


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