漫画やイラスト・デザイン制作で役立つラフスケッチ(ラフ)の描き方
イラストや漫画を描く際に、最初のアイデアスケッチや下描き前のスケッチに当たるものがラフスケッチ(ラフ)です。イラストの場合は画面全体の構図を考えるために役立ちます。漫画の場合は物語の進め方やページの割り振り、コマ割りのバランスなどを考えるために役立ちます。今回は、漫画やイラスト・デザイン制作で役立つラフスケッチ(ラフ)の描き方を解説します。
ラフスケッチの定義とは
ラフスケッチ(以下、ラフ)とは何でしょうか。ラフの定義にはかなり幅がありますが、言葉の意味としては、「おおまかなもの」です。
イラストのラフの定義とは
イラストであれば、描くものの大きさと配置くらいを示す簡単な図を手早く描いたものから、人物の外見的特徴や表情、ポーズくらいまでの情報を描き込んだもの、さらに小物などの要素も描き込んだものなど、いろいろな段階のラフがあります。
漫画のラフの定義とは
漫画であれば、キャラクターのセリフをふくめたストーリーをコマ割で区切っていくものをラフ(ネーム・ラフ等)とする場合もありますし、下書きに近い状態のものをラフとする場合もあります。漫画内の1ページや見開きページだけ、構図や見せ方を考えるために、何通りものラフを作成する場合もあります。
いずれの場合も、ラフとは、イラストや漫画を描くための設計図のような役割を果たしています。画面内に必要な要素をデザインするためのものです。1枚または数ページ分のスペースに対して、「どこに」「どんな要素を」「どのように描くか」という情報が、わかりやすく入っていれば、ラフとしての役割を果たすことができます。
ラフの描き方
イラスト制作やマンガ制作など様々なケースにおけるラフの描き方やポイントを紹介します。
イラスト・デザイン制作のラフの描き方
イラストは1枚の決まったフレーム内に、表現したいものを描きます。
フレーム内のスペースに要素を配置する
多くの場合、縦長や横長の長方形のフレーム内に収めますが、印刷物のデザイン上、多角形や円形など、複雑な形のフレーム内に、要素を配置することもあります。
いずれの場合も、そのイラストで表現したいことを元に、スペースに対して、「どこに」「どんな要素を」「どのように描くか」を考え、ラフを作成します。
前提条件に応じて配置決定をする
図は実際に漫画単行本の表紙制作のために作成された2段階のラフと実際の表紙です。物理学者であるレントゲンの伝記であり、子ども向けの本であることから、主人公のレントゲンの人物イラストをメインにした表紙にすることが、前提となっています。
そうした前提条件のもと、最初に、図1のような簡単なラフを作成し、スペース内にどのように人物を配置するか(全身かバストショットかの別や、大まかなポーズについて等)決定します。
物理学の実験道具はわかりづらいため、紙とペンで学者らしさを出し、もっとも有名な功績であるX線写真を背景に入れるというアイデアが書かれています。
また、表紙用の図版のため、タイトルが入る部分などのデザインのためのスペースなども考慮してあります。
数パターンラフを作成する
図2は、図1のラフをもとに、人物のポーズや体の角度などを変えて数パターン作成されたラフです。メインとなる人物イラスト作成用のラフのため、一旦、タイトル用の囲みは、背景図版を除いた状態になっています。
デザインなどを入れ完成させる
図3は、完成図です。図2のラフをもとに細かい修正を入れた人物のイラストに、背景の図版を加え、タイトルや著者名などがデザインされています。
マンガ制作のためのラフの描き方
漫画の場合もイラストと同様に、まず決められた枠内に伝えたい情報を整理して配置するためや、魅力的な構図を模索するためにラフが役立ちます。
ページやコマに入れる情報をわかりやすくまとめる
漫画の場合は、複数のページ、複数のコマで構成されているため、ストーリーの流れなどを確認するためには、ラフの段階で、それぞれのページやコマの中にどのような情報を入れるのかをわかりやすくまとめておきましょう。
漫画制作時のラフのポイントを意識する
図は漫画の見開きページのラフです。漫画製作時のラフの主なポイントをいくつかピックアップしました。
・人物を大きめに描く場合は、ラフの段階でポーズや表情を大まかに決めわかりやすく描いておく
・書き文字になる笑い声や、擬音語や擬態語もコマの中にどのように入れるかわかるように書いておく
・人物は簡略化して描く場合も、どちらを向いているのかやどんな表情をしているのかはわかるようにしておく
・実際のセリフを誰が言ったのかわかるように書き入れておく
・キャラクターが一目でわかるように人物のラフには名前の一文字などを入れておく
・場面が変わった時は、そのコマの場所がわかるように書き入れておく
漫画内容に応じて情報量を調整する
ラフの描き込みの程度や、盛り込む情報量はケースバイケースです。今回は、伝記漫画であるため、「いつ」、「どこで」、「だれが」、「何をしているのか」という事実関係のわかりやすさに重きを置いたラフとなっています。実際に完成した漫画がこちらです。
アナログツールを利用してラフを描くポイント
どのくらいの精度までラフとして描くかによって使用する画材は異なります。
鉛筆とクロッキー帳の組み合わせが一般的
最初のアイデアスケッチや大まかな構図を描く場合には、鉛筆とクロッキー帳の組み合わせがよく使われています。
鉛筆はBや2Bなどやわらかいと描きやすい
好みにもよりますが、鉛筆はBや2Bなどやわらかめの芯を使うと、描きやすく、消しゴムで消す場合にも紙にあまり跡を残さず消すことができます。ラフのようにすばやく描く作業はやわらかい画材のほうが描きやすいという人も多いようです。作風によっては、万年筆や筆ペンなど、ラフの段階から、独特のタッチをイメージしておいたほうがよいという場合もあるでしょう。
ノートやスケッチブックを利用してもOK
また、描くための地はクロッキー帳以外にも、ノートやスケッチブックなどでも構いません。アイデアスケッチ的に何枚も描くために、クロッキー帳などを使うのがもったいないという場合は、裏面が白い不要な紙をまとめたものでも構いません。
その場合は、紙質は同じもの(ザラ紙と上質紙を混ぜない等)にし、コート紙のようにすべりが良すぎる紙は避けたほうがよいでしょう。
ポイントは、最終的に描く図版と同じ大きさ、もしくは同じ縦横比の枠線を引くことです。アイデアスケッチ程度のラフであれば、フリーハンドで描いた枠線でも問題ありません。
複数ページにわたる漫画などのラフを作成する場合は、左右見開き状態で枠線を引いた図を複数配置したラフ用紙をつくっておいても便利です。
デジタルツールを利用したラフのメリット
最近は、ペンタブレットなどを用いてデジタル環境で、イラストや漫画を制作するケースが増えています。デジタルツールを利用したラフには様々なメリットがあります。
アナログとデジタルを併用できる
ラフまでは紙と鉛筆を使って描き、それをスキャンしたものをベースに、さらに描き込んだラフを作成していくというアナログとデジタルを併用するケースも多くあります。
描き直しがすぐできるので、不要な線が残らない
デジタル環境でのラフ制作が便利なのは、描き直しがすぐにできるので、不要な線を残さずにラフを作成できる点です。
ラフは手早く大まかに描くため、アナログの場合はあまり消しゴムを使わずに、複数の線を残したまま、下絵に移る場合があります。複数の線が混じり合っていると、正しい線がわかりづらくなるため、不要な線はない方が次の作業がやりやすくなります。
ライトボックスがなくてもOK
また、アナログ環境の場合、ラフから下絵を起こす際に、ライトボックスという下から光を当てることでラフの線を参考にしながら下絵を描くための装置等が必要になりますが、デジタル環境であれば、レイヤーを分けてラフの線を薄くしたり色を変えたりした上に、下絵の線を描いていくことができます。
ラフの作成・管理・修正が簡単
下絵にペンを入れたものがこちら。この後、さらにトーン処理などをして完成させます。漫画など、複数ページにわたるラフを順序立てて作成し、管理する場合も、ページを並べ替たり、修正したりといった作業が簡単に行えます。
自分に合ったツールや手法で、創造力を活かしたラフを作成し、クオリティの高いイラストや漫画づくりに役立ててください。
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