加工で写真の雰囲気を変えるには

今や、スマートフォンでも当たり前となった写真の加工。さまざまな項目のスライダーを動かすだけで、まったく雰囲気の違う写真に仕上げられます。

 

巷で言われる「エモい」写真は、どんな加工をすればきちんと仕上がるのか知りたい人も多いでしょう。「かわいい」「かっこいい」「フィルム風」「モノクロ風」に加工する手法もあります。ただフィルターをかけて終わり、ではなく、雰囲気が変わっていく仕組みを理解した上で加工ができるようになれば、元の写真の状態から、さまざまなシチュエーションに素早く仕上げることができるはずです。

 

今回は、プロのフォトグラファー・レタッチャーとして活躍されている井上依子さんに、初心者でも簡単にできる「写真の雰囲気を変える加工方法」についてお話を伺いました。

写真の雰囲気を変える加工機能

 

まず写真の雰囲気を変えるための加工の機能をおさえておきましょう。編集ツールに備わっている基本的な機能としては、下記の5つが挙げられます。

 

  • 明るさ……写真全体の明暗を調整する機能
  • コントラスト……明るい部分と暗い部分の「明るさの差」を調整する機能
  • 彩度……色の強みや鮮やかさの度合いを調整する機能
  • シャープネス……写真の輪郭を強調しクッキリと見せる機能
  • モノクロ……写真を白黒にする機能

 

これらの各機能を組み合わせて「かわいい写真」「かっこいい写真」など、用途にあった雰囲気の写真に仕上げていくことになります。最近ではスマホに標準装備された写真管理アプリに、簡単に加工ができるフィルター機能が搭載されていますが、慣れてくると細かな調整ができないことに気がつくでしょう。

 

写真編集アプリであるAdobe PhotoshopやAdobe Photoshop Lightroomにもフィルターとして機能する「プリセット」があります。一般的なスマホの写真管理アプリよりも多彩で精密な加工を施せますので、さらに踏み込んだ加工に挑戦したい人には検討してみると良いでしょう。

 

今回は、シーン別に加工例をご紹介していきます。「〇〇をこう加工すれば〇〇風になる」といった具体的な編集方法を説明していますので、ぜひ覚えておきましょう。

 

写真を「エモく」加工するには

 

昨今、日常的に「エモい」という言葉を使う機会が増えました。写真においても「エモい」と表現されることがありますが、一体どのような写真を指しているのでしょうか。

 

エモい写真とは

 

一般的には、ドラマティックな風景写真を「エモい写真」と呼ぶ傾向があります。本稿では、エモい写真を「非日常を感じられて色彩が綺麗な写真」と定義し、エモい写真に仕上げる2つのポイントを解説します。

 

エモい写真に加工するコツ

(加工前→加工後)

 

  • 影になっている部分を明るくする

逆光で撮影すると被写体が暗く写ってしまいます。影で黒くなっている部分を明るくして、色味をや表情を引き出しましょう。「シャドウ」を上げたり「ブラックポイント」を下げたりすることでも影を明るく調整できます。

 

  • 自然の色から少しずらした色のフィルターをかける

今回は、夕焼けの色よりもピンク色がかったフィルターを適用しています。自然の色から少しずらした色合いに加工することで非日常を感じさせます。

 

【井上さんのワンポイントアドバイス】

空が写っている写真は、全体的に明るくすると雲の輪郭が白飛びしてしまう(白く消えてしまう)のでやりすぎに注意しましょう。

 

写真を「かわいく」加工するには

小さな子どもやスイーツなどの写真を、「加工でもっとかわいい雰囲気にしたい」と感じる人もいるはずです。どんな要素があればかわいい雰囲気に仕上がるのでしょうか。

 

かわいい写真とは

ここでは「光や色がふんわりと感じられるような写真」をかわいい写真と定義します。パキッとコントラストがついた写真とは真逆の方向になるでしょう。かわいい写真に仕上げるコツを解説します。

 

かわいい写真に加工するコツ

(加工前→加工後)

 

  • コントラストを下げて明暗差を減らす

「コントラスト」を下げることで、彩度の差や明暗差が減り柔らかな雰囲気になります。「シャープネス」をマイナスに持っていける場合や、「ぼかし」機能を足せる場合はそちらを利用するのも方法の一つです。

 

  • 明度を上げてふんわりとした雰囲気に

「露出」や「明るさ」を上げていき、ふんわりとした雰囲気を演出します。白飛びするギリギリを試してみましょう。

 

【井上さんのワンポイントアドバイス】

かわいい系の写真は、どこか夢の中にいるようなふんわりとしたイメージで、明るさを足していくと良いでしょう。明暗差があると、もともと明るい箇所がすぐに白飛びしてしまう可能性が高いので、コントラストを下げてから明るさを調整するのがおすすめです。

 

写真を「かっこよく」加工するには

人物や乗り物を撮影しても、どこか野暮ったく見えるものですが、その写真を加工によってかっこよく仕上げていきましょう。

 

かっこいい写真とは

「かっこいい」というイメージに含まれている要素として、「クール」「ハード」「重厚」「さわやか」などが挙げられます。

 

色のメリハリをつけ派手な傾向にしたり、コントラストを高めて明暗差を出したり、あるいは全体的なトーンを暗めにして落ち着いた雰囲気を出すなど、幅広い表現が考えられます。今回は「コントラストを高めてパキッとした写真」をかっこいい写真と定義して、具体的な加工のポイントを紹介します。

 

かっこいい写真に加工するコツ

(加工前→加工後)

 

  • 彩度を落として色味を抜く

彩度を下げて、壁や人の肌の赤みを減らします。人物は、あえて肌の色を冷たい色味に寄せることでクールな雰囲気に仕上げることができます。そのため、ここはあえて血色を減らす方向で調整しましょう。

 

  • コントラストを上げてパキッとした雰囲気に

「かわいい」写真でも「露出」や「明るさ」を上げましたが、ここでは服のシワの陰影を消す目的で明るくしています。建物などの無機物のみだと色味を変更するだけで「かっこいい」写真にできますが、人物も引き立たせるためにコントラストも上げてメリハリのあるパキッとした雰囲気にしています。

 

【井上さんのワンポイントアドバイス】

彩度が高すぎるとかっこいい雰囲気から遠ざかりますが、彩度を落としすぎると墨っぽくなる(グレーがかった色合いになる)ので確認しながら進めましょう。

 

写真を「白黒」に加工するには

何気ない写真もモノクロにすることで、ストーリーを感じさせるような雰囲気に変身させられます。白黒写真に加工するコツを紹介します。

 

白黒写真とは

文字通り白黒の写真を指しますが、カラーの成分を抜いただけでは良い写真にはなりません。白と黒の間には、数百ものグレーカラーが存在していて、どのグレーを取り入れるのかによって見る人に与える印象は変わります。雰囲気の変化をよく観察しながら加工しましょう。

 

白黒写真に加工するコツ

(加工前→加工後)

 

 

  • 「モノクロ」フィルターを適用する

フィルターで「モノクロ」を選びます。最近ではモノクロにも種類がありますので、お好みで選んでみましょう。どこか黄色みを帯びたシルバートーンと呼ばれるフィルタースタイルもあります。

 

  • コントラストと明度を調整してグラデーションを表現する

モノクロフィルターでカラー情報を抜いたら「コントラスト」や「露出」を操作して、極端に白飛びや黒潰れしている箇所を調整して完成させましょう。

 

【井上さんのワンポイントアドバイス】

真っ白(白飛びしている状態)と真っ黒(完全に黒潰れしている状態)の間には、「階調」と呼ばれるグラデーションがあります。カラー写真の中にあるさまざまな色を白〜黒のグラデーションの幅に置き換え、繊細なグレーを意識することで、白黒写真がより魅力的に仕上がります。色を感じられるような白黒写真を目指すと良いでしょう。

 

 

写真の用途に合わせた雰囲気づくりをしよう

異なるシチュエーションに仕上げるための実例を紹介してきましたが、ちょっとした加工が仕上がりを左右することがお分かりいただけたと思います。

 

フィルター加工でも簡単に写真の雰囲気を変えることはできますが、今回の作例のように、各機能を自分で調整することでより希望の雰囲気に近づけることができるでしょう。 

 

これらの作業に慣れて自分のレベルが上がると、フィルター加工だけでは物足りなくなってくるはずです。さらに細かく追い込んだ表現をしたい人はPhotoshopやLightroomを使うことで、イメージにより近く・早くたどり着くことができるでしょう。

 

Lightroom

Photoshop

 

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取材協力:井上依子(いのうえ・よりこ)

日本大学芸術学部写真学科卒業、広告写真制作会社を2社経由後、フリーランスでフォトグラファー/レタッチャーとして雑誌、広告、web媒体で活動中。2021年から、CCCフロンティアデザイン株式会社にてフォトディレクターとして撮影に関わる窓口も業務委託で行っている。

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(取材・執筆:赤坂太一 編集:ノオト)

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