この文字組み、どっちが正解？ベースライン調整のセンスを磨いておこう
現場で使えるデザインセンスを、2択クイズで身に付ける「デザインクイズチャレンジ」。
グラフィックデザイナーの鷹野です。
デザインの現場では、文字の並び方（文字組み）をいかにキレイに見せられるかが大切。
早速、クイズを出します。
以下の3つの作例を見て、AとB、あなたはどちらの「文字組み」のほうが洗練されていると感じますか？
1問目「電話番号のハイフン」（難易度★）
2問目「時刻のコロン」（難易度★）
3問目「丸括弧」（難易度★★）
いかがでしたか？
私が考える答えは・・・
1問目の答え：B
2問目の答え：A
3問目の答え：B
以上が私なりの解答です。
これらの作例はそれぞれ、ベースラインを意識した文字組みになっているかどうかの違いでした。
ではここからは、洗練された文字組みを実現するために大切なベースラインについてのノウハウを解説していきます。
それぞれの作例のAとBで、何が異なっていたのか？を説明し、作例で用いられていたデザインテクニックについてご紹介します。
1．電話番号のハイフンの天地に気をつける
では、1問目から振り返っていきましょう。
AとBとの違いは、ハイフン（-）の上下の位置（天地）です
上記のAの作例では、ハイフン（-）が少し下がっていて、全体的にバランスが悪くなっています。
いっぽう、Bの作例ではハイフン（-）の位置がちょうど上下中央に来ているように見えます。
実は、普通に文字を打ったままだと、上記の「A」のようなハイフン（-）の位置になりがちです。
なぜそのような現象が起きるかを詳しく解説していきます。
詳しく解説していきます。
ハイフン（-）を使う際は、天地中央への配置を意識しよう
ハイフン（-）の位置がおかしく見えてしまった原因は、欧文フォントならではの設計にあります。
それについて解説する前に、和文（日本語）フォントと欧文フォントとの違いについて取り上げます。
まず、和文フォントについてです。
和文フォントは「仮想ボディ」と呼ばれる正方形を基準に設計されており、文字の幅と高さが等しく揃えられています。
これは、和文は「縦組み」の文章にも対応する必要があるためです。
一方、欧文フォントは横組みでの美しさを前提として設計されています。
そのため、文字ごとに高さや幅が異なっています。
たとえば高さは「ベースライン」「エックスハイト（xハイト）」「アセンダー」「ディセンダー」といったラインによって構成されています。
そして、多くの欧文フォントでは、ハイフン（-）はボディサイズの天地中央に配置されるようになっています。
天地中央に配置されること自体は問題ないのですが、欧文フォントはそれぞれで天地中央の基準が異なるため、数字や大文字の中にハイフン（-）が混ざった際に、その位置が中央より少し下がって見えることがあります。
そのため、以下の電話番号のように数字だけが並んだ際、ハイフン（-）は構造的に下がって見えるのです。
1問目のAの作例は、まさにこの仕様によって生じたものでした。
このようにハイフン（-）の位置が気になる場合、Illustratorをお使いであれば「ベースライン」を調整することで解決できます。
調整したい文字を選択し、【文字】パネルの【ベースラインシフト】を用いて数値を変更し、位置を調整します。
実はこの【ベースラインシフト】といった細かな調整は、初心者やビジネス向けの簡易アプリでは実現できないことがあり、それが、IllustratorやAdobe Photoshop、Adobe InDesignといったプロ向けのアプリを使う理由でもあります。
このようにハイフン（-）ひとつの配置にもこだわれるかどうかが、プロのデザイナーとしての美意識でもあります。
さらに、一部のフォント（例：貂明朝）では、大文字用の記号が備わっていることがあります。
Illustratorなどのプロ向けアプリを使っていれば、【文字】パネルの【オールキャップス】をクリックするだけで大文字のために用意されたハイフン（-）に切り替えることもできます。
ぜひ覚えておいてくださいね。
2．時刻のコロン（：）の天地にも気をつける
続いて2問目を振り返りましょう。
2問目の答えは「A」でした。
AとBの違いは「コロン（:）」の位置です。
このコロン（:）も、そのまま使うと、少し下がって見える場合があります。
そのため、時刻表示でコロン（:）を使う場合は、電話番号のハイフンと同じく、Illustratorの【ベースラインシフト】などを用いて、天地中央に調整するようにしましょう。
コロン（:）の場合、半角のコロン（:）ではなく、全角のコロン（：）を使うことでバランスをとる方法もあります。
ただし、以下のような注意点があります。
- 欧文フォントには全角のコロンは収録されていないため、その場合は文字化けするリスクがある
- 和文フォントの全角コロンを使うと、前後の文字間が広く空いてしまい、数字とのバランスが崩れやすい
そのため、実務的には半角のコロン（:）を用いたうえで、Illustratorの【ベースラインシフト】などで整えるのが確実で美しい方法といえるでしょう。
ちなみに、ハイフン（-）やコロン（:）の位置を調整するとよいのは、電話番号・郵便番号・時刻といった数字が並ぶときです。
通常の欧文の文章内では、フォント本来の位置のまま使用するのが基本です。
なぜなら、欧文フォントはベースラインやエックスハイト（xハイト）、アセンダー、ディセンダーといった目に見えない基準線をもとに設計されており、文章全体のリズムがその基準線によって保たれているからです。
そのため、通常の文章の中で、個別にハイフン（-）やコロン（:）の位置を動かしてしまうと、リズム感や統一感が崩れ、かえって不自然に見えてしまうのです。
くれぐれも注意しましょう。
3．丸括弧（パーレン）は全角のものを使う
最後に3問目のふり返りです。
3問目の答えは「B」でした。
AとBの違いは丸括弧（パーレン）についてです。
（※丸括弧は「パーレン」と呼ばれることが多く、英語のparenthesis（パレンシス／パレンセシス）に由来します）
欧文の丸括弧（パーレン）は、キャップハイト（大文字の高さ）に揃えてデザインされるのが基本です。
また、多くの欧文フォントではわずかに下寄りに調整されています。
この仕様によって、大文字や小文字と並んでもリズムが崩れないようになっています。
いっぽう、和文フォント内で丸括弧（パーレン）を使う際には注意が必要です。
和文フォントには、欧文設計を踏襲した記号類が含まれていることもあり、日本語の文章内で半角の丸括弧を使うとベースラインがズレたり、括弧の内側に不自然なアキが生じることがあります。
全角の丸括弧（パーレン）は前述した仮想ボディに収まり、前後の文字と自然に並ぶため、文章全体の見た目が安定します。
このような理由から、日本語の文章内では全角の丸括弧（パーレン）を使うのが望ましいのです。
※ただし近年では、半角と全角の括弧類を同じデザインに揃えたフォントも増えてきており、フォントの選び方によっては半角の丸括弧（パーレン）を使っても違和感の少ないケースがあります。
括弧（カッコ）の前後のアキを詰めるには？
数字と和文が連続する場合のアキや、括弧（カッコ）の前後のアキを詰めたいことがあります。
このアキを無くそうとして、半角の記号を安易に使うのは避けるべきです。
和文フォントではベースラインやアキの不自然さを招きやすく、かえって読みづらくなる場合があります。
また、Illustratorを使う場合、英数字や括弧の前後のアキを詰めるために【文字】パネルで【アキなし】と設定すればよい、という方法をたまに目にしますが、本来の機能の誤用です。
正しい方法は、IllustratorとInDesign上で【文字組みアキ量設定】をカスタマイズして調整することです。（初心者向けアプリやPhotoshopにはこの設定はありません）
この設定については、説明が少し難解になるため、別の機会で解説します。
なお、Illustratorでは新しい文字組み設定も開発中です。
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別の方法では、簡易的にアキを詰めたい場合に【段落】パネルの【文字組み】を【なし】に設定する方法があります。
ただしこの場合、句読点が半角扱いとなり、アキが完全になくなるため、長文のように読みやすさを重視する文章には不向きです。
上記のように「日付」や見出し、キャッチコピーなどの短い文でのみ活用するようにしてください。
まとめ：文字間調整（カーニング）のセンスを磨くポイント
今回は洗練された文字組みを実現するために大切なベースラインについてのノウハウを取り上げました。
最後に今回のノウハウのまとめです。
1．電話番号や時刻ではハイフン（-）、コロン（:）を天地中央に調整する
数字だけが並ぶ場面では、ハイフン（-）やコロン（:）が下がって見えることがあります。
Illustratorなどのプロ用アプリに備わっている【ベースラインシフト】を使って、文字の上限の位置を調整すると、数字の並びが美しくなり、見た目が安定します。
2．和文では、全角の丸括弧（パーレン）を使う
半角の丸括弧（パーレン）は欧文での使用を前提としているため、和文で使うとベースラインや文字間に不自然さが出やすいです。
そのため、和文の文章では全角の丸括弧（パーレン）を使いましょう。
3. アキの調整は【文字組みアキ量設定】を基本とする
Illustratorの【文字】パネルの【アキなし】で強制的に詰める方法は誤った使い方です。
正しくは【文字組みアキ量設定】を編集すること。
簡易的にアキを詰めたい場合には【段落】パネルの【文字組み】を【なし】にする方法もあります。
ただし、見出しやキャッチコピーなどの短い文でのみ活用するようにしてください。
お相手はグラフィックデザイナーの鷹野 雅弘でした。
本コーナーでは、あなたのデザイン力のアップにつながる様々なクイズが用意されています。
ぜひほかのクイズにもチャレンジしてみてください。
※本コンテンツは、それぞれのデザイナーが自身の感性で理想とするデザインを語っています。
クイズの答えはひとつの参考としてください。
執筆：鷹野 雅弘
株式会社スイッチでグラフィック＋エディトリアル＋ウェブ制作＋講師。
大阪芸術大学 客員教授、Adobe Community Evangelist、CSS Nite主宰。
著書に『10倍ラクするIllustrator仕事術～ベテランほど知らずに損してる効率化の新常識』など。