動画のテロップはなぜ必要?作り方のコツや注意点を解説
「テロップ」は、テレビ画面に映し出される文字やイラストなどの総称です。以前は、映像制作の現場で使われていた専門的な用語ですが、最近ではテレビやYouTubeなどでもよく使われるため、一般的な言葉になりました。
実際、ホームビデオなどの作成でも、動画内にテロップを入れている人もいるでしょう。しかし、動画制作でテロップを入れてみると、見にくかったり、イメージと合わなかったりして、作るのが大変であることがわかります。それは、最適なテロップを作成するためには、文字や色、効果など、たくさんの知識が必要だからです。
ここでは、Adobe Premiere Proのエバンジェリストで、YouTubeチャンネル「プレミアノートPremiere Note」を運営している市井義彦さんに、テロップとは何か、動画におけるテロップの必要性とともに、テロップの作り方やコツなどを解説していただきます。
テロップはtelevision opaque projectorの略で、元々はテレビで放送される映像に、テレビカメラを使わずに、文字やイラスト、写真などを挿入する機械の名称でした。最近では、ソフトウェアで作成できるようになったこともあり、映像に挿入する文字やイラストをテロップと呼ぶようになっています。
「スーパーインポーズ(superimpose)」と呼ばれることもありますが、これはスーパーインポーズという言葉が複数のものを重ね合わせることを指しているためです。ですから、正確には文字やイラストなどをスーパーインポーズしたものがテロップといえるのです。
テロップの歴史
テレビでテロップが使われ始めた頃は、テロップを制作する専門の業者がいて、文字やイラストを白黒で印字(または手書き)して、「テロップカード」を作ってもらうのが主流でした。そのテロップカードを、当時数千万円以上する編集システムの機械、つまり前述した「テロップ」に読み込み、配色して映像に重ね合わせるという、煩雑な手順を踏まなければならない大掛かりなものだったのです。ですから、現在のように気軽にテロップを多用することはできませんでした。
しかし、時代とともにテロップは進化し、「パソコンで文字を打ってデザインする作り方」が導入されると、華やかなでインパクトのあるテロップや、矢継ぎ早に入るアニメーションテロップなど、さまざまなスタイルが登場したのです。
テロップと字幕の違い
「映像に文字を重ねる」という意味では、「字幕」という言葉もあります。字幕とテロップには、どのような違いがあるのでしょうか。
字幕は音声の理解を補助するための文字で、翻訳字幕と言語字幕の2種類があります。翻訳字幕は、外国映画などで、タイトルやセリフ、説明、配役を日本語にしたものを指します。一方、言語字幕は、子供には難しい漢字の読み方を伝える字幕や、聴覚障害者向けの字幕などもあります。そして、これらの字幕をスーパーインポーズして、映画のフィルムやテレビ映像に重ねたものを「字幕スーパー」と呼ぶのです。
テロップと字幕は、見た目にはあまり違いはありませんが、テレビ用に開発した「テロップ」という技術が元になっているか、重ね合わせるという意味の「スーパーインポーズ」という言葉が元になっているかという違いがあります。また、字幕は「文字」だけですが、テロップは「文字」だけではなくイラストも含まれる点が異なります。
近年は、テレビ業界で使われるテロップも進化し、単に情報を伝えるだけではなく、そのコンテンツが伝えようとする世界観・空気感の構築にも利用されているといえるでしょう。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
YouTubeの世界では、テレビ業界でいわれる「字幕」のことを、「テロップ」と呼ぶケースもあります。例えば、番組内で交わされる会話をすべて文字に起こして表示することを、「フルテロップ」などといいます。これは、野球のファウルとサッカーのファウルの意味が違うように、業界が異なれば表現の仕方が違うということだと思います。ですから、どちらが正しいということはありません。
テロップはなぜ必要?
現在は、パソコンで簡単にテロップを制作できますが、以前は高額な機器とコストをかけてテロップが作られていました。なぜ、そこまでしてテロップを入れていたのでしょうか。続いては、テロップを入れる必要性についてご説明します。
伝えたい情報をより正確に伝えるため
テロップは、テレビの映像や音声だけでは十分に伝わらないことを補足するために生まれました。今ではテロップは、伝えたい情報をより正確に伝えるために必要不可欠なものといえるでしょう。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
映像だけでは、どうしても伝えきれない部分があります。映像で語られている話が長かったりすると、人によっては、意味を受け取りきれない場合があるかもしれません。このようなケースでは、話の意味をまとめて、短い文字に置き換えてテロップにします。また、テロップでは、話をしている人が実際に言葉にしていなくても、会話の意図をくみ取って文字にすることがあります。これにより、視聴者が誤解せず、正しい内容を理解してもらえるのです。
映像制作者の意図を伝えるため
映像の正しい内容を理解してもらうだけでなく、制作者の意図を含めた演出方法としてのテロップもあります。例えば、女性コメンテーターが登場するシーンで、ポップなカラーでふんわりと浮き上がるような紹介テロップを使えば、アイドル歌手のようなかわいらしさを演出できます。
一方、スタイリッシュなカラーで素早く表示される紹介テロップを使えば、スポーツ選手のようなカッコ良さを演出できるでしょう。
ポジティブに盛り上げたいときは、明るめの色やグラデーションを使用したテロップ、ネガティブな展開のとは、あえて暗い色を配色したオドロオドロしいテロップにするなど、色や動きを使って視聴者に情報を伝えることもできるのです。


【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
映像にテロップを載せることは万国共通ですが、日本のテロップはかなり独特で装飾がさまざまです。特に、テレビのバラエティ番組では、華やかでインパクトのあるデザインが多く見られます。また、テロップが出るタイミングと同時に、サウンドエフェクト(SE)を入れることで、より視聴者を作品に感情移入させることが可能です。このテロップデザインの引き出しの多さが、日本のテレビ業界を支えていると思います。
ストーリーの展開を強調するため
番組やストーリーの展開に合わせてテロップを入れることで、内容を強調する演出もあります。
例えば、「コメントフォロー」と呼ばれるものがありますが、これは、出演者がしゃべる言葉に合わせて、その言葉をなぞるように出すテロップです。前段であった「伝えたい情報をより正確に伝えるため」の内容が「コメントフォロー」ということになります。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
出演者や視聴者以外の視点から見た「ツッコミテロップ」もあります。例えば、「!(感嘆符)」や「?(クエスチョンマーク)」などを第三者の視点で入れることで、「ここは驚くシーンだよ」と視覚的に誘導することが可能です。
映像の視聴を補助するため
テロップは、聴覚に障害を持つ人や、音声を聞かずに映像を見ている人に向けた、補助的な役割も果たします。例えば、電車やバスなどで動画を視聴する場合に、テロップがあればヘッドフォンなどをつけなくても動画の内容を理解することができるのです。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
YouTubeでフルテロップの動画を作るのは、音なしで動画を視聴できるようにするためです。これは視聴の補助的な役割というよりも、どこでも見られることで再生数を稼ぐ目的もあります。
日本で使われるテロップ表現
日本のテロップ文化は特殊で、欧米にはない独自のスタイルを持っています。続いては、日本でよく使われるテロップ表現をご紹介します。
制作には、Adobe Premiere Proでテキストなどを編集するときに使用するエッセンシャルグラフィックス機能や、Adobe Photoshopなどを使うと便利です。
ストローク(境界線)
テロップの文字にストロークと呼ばれる境界線をつけることで、デザイン性が豊かになり、華やかな印象を与えることができます。また、メリハリをつけ、文字がはっきりと読み取れる効果もあります。
反対に、ストロークをつけないと、元になる映像によっては色が重なってしまい、文字を視認しにくくなる場合もあるでしょう。


【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
サンプルのテロップベースは、Premiere Proのエッセンシャルグラフィックスでも作れますが、さまざまなテクニックが必要になります。作り込みが必要なテロップベースであれば、Photoshopのほうが、素早く作れます。
Premiere Proで文字に背景をつける方法については、下記の記事で詳しく説明しています。
グラデーション
テロップの「塗り」と呼ばれる文字本体の色の部分に、色の明暗や色調を少しずつ変化させていくのが「グラデーション」です。文字が単色の場合だと、どうしても色の演出に限界があります。しかし、文字にグラデーションをつけることで、多彩な表現が可能になます。また、デザイン性も向上するでしょう。

【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
文字にグラデーションをつけると、とても艶やかになり、動画のクオリティが高く見えます。Photoshopを使うと、ストロークにもグラデーションをつけることができるので、より豪華なテロップが作成できます。
Premiere Proで文字にグラデーションをつける方法については、下記の記事で詳しく説3明しています。
Premiere Pro でのテキストグラデーションの適用 | Adobe
アニメーション
テロップの文字そのものに動き(アニメーション)をつけるテロップもあります。例えば、一文字ずつ出現させたり、文字が震えるように揺らしたりできるので、静止している文字に比べて演出効果が高くなります。

【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
Premiere Proのエッセンシャルグラフィックスには、文字をアニメーションできるテンプレートもあります。このテンプレートを利用すれば、初心者でも簡単に文字のアニメーションを作成できます。
また、凝ったアニメーションを作りたい場合は、Adobe After Effectsを使用するといいでしょう。
Premiere Proで文字にアニメーションをつける方法については、下記の記事で詳しく説明しています。
パーティクル
粒子のような光を帯びたパーティクルと呼ばれるCGを使い、テロップを彩る方法もあります。パーティクルは単体で使うのではなく、背景を透過させるアルファチャンネルや描画モードを使用し、文字色部分にも「キラキラ光る星」「煙」「炎」など、動きのある素材を適用することで、さらに多彩な表現が可能になります。

【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
日本のテロップは、編集時における工夫で、より豪華で楽しい印象を視聴者に伝えるよう、進化を遂げてきました。特に、バラエティ番組では、本当に華やかでインパクトのあるデザインや装飾が多く見られます。
テロップ制作のコツや注意点
テロップについての知識や種類を学んでも、実際に作るとなると難しい部分もあるでしょう。最後に、テロップ制作のコツや注意点をご紹介します。
使用するソフトウェアを使い分ける
テロップの制作には、Premiere ProやPhotoshopを使い分けるようにしましょう。例えば、簡易的なテロップであればPremiere Proのエッセンシャルグラフィックスを使って作るほうが、映像の上に直接作成できて便利です。また、凝ったテロップを作るのであれば、Photoshopを利用すると簡単に作れます。
テロップの文字を拡大したい場合は、Adobe Illustratorを使って作ることをおすすめします。Illustratorならこれは、文字を拡大しても文字の端がカクカクしない、ベクター画像でテロップを作ることができるからです。ベクター画像は、描画する場所の座標を数式にしたデータで作られているため、文字を拡大しても文字の端がカクカクすることがありません。
また、テロップに凝ったアニメーションを追加したい場合は、After Effectsが必要になるケースがあります。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
Premiere Proのエッセンシャルグラフィックスでも、グラデーションや文字の背景などが簡単につけられるようになりました。ですから、ある程度のレベルのテロップは、Premiere Proでも十分に制作が可能です。Premiere Proで作れば、別ファイルを生成することもありませんし、プロジェクト内で完結できますので、映像制作を中断しないですみます。
視認性に注意する
テロップ制作の注意すべき点として、視認性があります。いくらカッコいいテロップを作成しても、背景と同色で一体化してしまっては意味がありません。そこで、ストロークをつけたり、テロップベースをつけたりして、背景と差別化しましょう。
特に、テロップベースを使うと、完全に背景の映像素材と文字を遮断できますので、ストロークでは十分視認性が出ない場合に便利です。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
映像では、文字にストロークをつけることが多いですが、紙媒体ではあまり見られない印象があります。これは、動画の場合は背景が随時変わっていくため、ストロークをつけないと文字を視認できない部分ができる可能性があるからです。印刷物では背景が固定されているので、文字を視認できるようにデザインすればストロークをつける必要はないのです。
文字に演出を加えて強調する
文字に演出効果を加えて強調させるのも、テロップ制作のコツです。例えば、テロップに使用する文字をすべて同じ大きさにすると、どの言葉が大切かわかりません。しかし、一部を大きくして強調すれば、視聴者にその言葉が大切だと伝えることができるのです。同様に、大切な言葉だけ色を変えるという演出もあります。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
1つの画面にたくさんの色が入ると、見にくくなることがあります。強調したい言葉があるときには、テロップをシンプルにして、目立たせたいところだけを目立たせるのがコツです。
視聴者がテロップを認識できるように意識する
テロップの目的は、視聴者に情報を伝えることです。ですから、表示したテロップの文字をきちんと認識できるかが重要になってきます。また、視認性だけではなく、「読める文字数にする」ことも重要です。
例えば、外国映画の日本語字幕は、セリフ1秒に対して4文字以内で、最大20文字までが基本といわれています。文字数が多いと、視聴者がテロップの内容を認識できなくなりますから、テロップの文字数にも注意が必要です。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
テロップを表示する時間が決まっている場合は、内容を意訳して表示する文字数を減らすことも行われます。また、文字数だけでなく、表示している時間も大切です。いくらテロップの文字数が少ないからといって、一瞬で文字が消えてしまっては、視聴者はすべての文字を読むことはできないでしょう。どれくらいの時間表示すればいいのかは文字数にもよりますが、ほかの人に認識できるかどうかを見てもらうなどして、感覚をつかんでいくといいでしょう。
テロップのフォントや色に注意する
自分のイメージに合ったテロップを作るためには、ソフトウェアを操作する知識も必要ですが、デザインに関連した知識もあると便利です。
例えば、表示する文字の種類となるフォントは、ゴシックや明朝の違いを知るだけでも、テロップ制作のクオリティが変わってきます。さらに、テロップに使う色の持つイメージを理解していれば、視聴者に与える印象を変えられます。
【プレミアノートPremiere Note/市井義彦】
フォントの知識だけでなく、文字に関する知識もあると便利です。例えば、文字と文字のあいだを示す「字間」も重要です。字間を設定しなくても問題はありませんが、場合によっては文字と文字の隙間が空きすぎて、違和感が出る場合があります。例えば、AとVを並べた場合、字間の設定が同じでも、ほかの字間よりも空いて見える場合もあるでしょう。テロップをきれいに見せるためには、字間の調整も必要なのです。
適切にテロップを使って、動画の内容を伝わりやすくしよう
テレビ番組ではもちろんのこと、YouTubeなどで見る動画でも、当たり前のようにテロップが使われています。テロップを使うことで、動画の内容をよりわかりやすくしたり、華やかな印象を与えたりすることができるからです。
そして、動画の内容がわかりやすくなることで、視聴者にとっても見やすい動画になるでしょう。テロップを上手に使って、より見やすく、楽しい動画を制作してください。
(取材協力:プレミアノートPremiere Note)