このグラデーション、どっちが正解？グラデーションのセンスを磨いておこう
現場で使えるデザインセンスを、2択クイズで身に付ける「デザインクイズチャレンジ」。
アートディレクター／デザイナーのコネクリです。
今回、私は「グラデーション」についてのクイズを出題します。
早速ですが、3問クイズを出します。
以下の3つの作例を見て、AとB、あなたはどちらの「グラデーション」がよいと感じますか？
1問目「金をきれいに表現しているグラデーションはどっち？」（難易度★）
2問目「濁りのないグラデーションはどっち？」（難易度★★）
3問目「光源を意識したグラデーションはどっち？」（難易度★★★）
いかがでしたか？
私が考える答えは……
1問目の答え：B
2問目の答え：B
3問目の答え：A
以上が私なりの解答です。
あなたがよいと感じたグラデーションは、AとBどちらでしたか？
ではここからは、私なりの解説です。
それぞれの作例のAとBで、何が異なっていたのか？を説明し、作例で用いられていたデザインテクニックについて紹介していきます。
1．金をきれいに表現するためのグラデーション
では、1問目から振り返っていきましょう。
この問題は金（GOLD）を表現したグラデーションとしてきれいに見えるのはどっち？というものでした。
私が選んだ答えはBです。
なぜなら、Bのほうが金（GOLD）特有の「色の揺らぎ」を表現できていると感じるためです。
実は、AとBでは「色相」「彩度」「明度」の調整が異なっています。
Aは彩度と明度の変化のみで構成されたグラデーション、Bは彩度と明度に加え、色相の変化で構成されたグラデーションです。
このAとBの作例の違いについて、詳しく解説していきます。
グラデーションの基本となる、色の三属性を理解しよう
グラデーションを効果的に使うためには、まずは「色」に関する基本的な知識が必要です。
色を扱うためには 「カラーモード」 という考え方を知っておくことが大切です。
カラーモードとは、コンピューターや印刷で色をどんな仕組みで表現するかという方式のこと。仕組みが違えば、見え方や使う場面も変わります。
代表的なカラーモードとして、「RGB＝テレビやディスプレイの光の仕組み（光の三原色）」「CMYK＝印刷で使うインクの仕組み」のほか、人間の感覚に沿って色を調整できる「HSB」が挙げられます。
「HSB」では、色を以下の3つの要素で調整できます。
- 色相（Hue）
赤・青・黄・緑といった色そのものの種類を指します。
- 彩度（Saturation）
色の鮮やかさの度合いです。
彩度が高いほど鮮やかな色になり、低いほどくすんだ色（グレーに近い色）になります。
- 明度（Brightness）
色の明るさ・暗さです。
明度が高いほど明るい色（白に近い色）になり、低いほど暗い色（黒に近い色）になります。
グラデーションもこの3つの要素の変化で構成することができます。
この「HSB（色相、彩度、明度）」というカラーモードは、人間が色を認識する際の感覚に近い3つの要素です。
このモードの色相をわずかにずらすことで、より深みや温かみのある「色の揺らぎ」を表現できます。
そのため、グラデーションをコントロールしたいときには、HSBモードで調整していきます。
作例のグラデーションを「HSB」で比較する
それでは、先ほどの作例AとBのグラデーションの違いを、HSB観点で見ていきましょう。
1．色相（Hue）の比較
Aは「黄」系統の色だけで構成されているため、単調で、金属特有の「色のゆらぎ」が感じられにくいです。
一方、Bは「赤褐色」→「橙」→「黄」と、色の系統に変化があり、実際の金（GOLD）のような温かみと深みを表現できています。
2．彩度（Saturation）の比較
AとB、どちらも明るい部分では彩度を抑え、暗い部分では彩度を強めています。
3．明度（Brightness）の比較
AとB、どちらも明るい部分では明るく、暗い部分では暗くなるよう、光沢の強弱に差を付けています。
上記のHSBの画面に設定された色や数字を見ていただければわかるように、AとBの大きな違いは「色相」です。
金（GOLD）の実際の表面は、光を強く反射しつつも、周囲の色や光の温度を取り込んでいます。
そのため、金（GOLD）の質感を再現するには、色相を「黄」系統の単純なものにするのではなく、「赤褐色」→「橙」→「黄」というように、色相をずらすことが大切です。
本物を観察することで理解が深まるため、実際に観察して金を表現してみましょう。
カラー変更に便利な「生成再配色」について
1問目の「金」の作例から「銀」に変更したい場合、スウォッチやカラーパネルでいちから設定するのは手間がかかります。
そんなときに便利なのがIllustratorの生成AI機能「生成再配色」です。
例えば「銀」といったプロンプトを入力すれば、配色を自動で提案してくれます。
一口に銀といっても様々な配色があるため、生成再配色でベースを作り、その結果をもとにグラデーションを調整するのがオススメです。
2．色相が離れているグラデーションの中間色の設定
続いて2問目を取り上げます。
2問目は、水色とピンクという「色相が離れているグラデーション」の「中間色の設定」を問うものです。
実は、作例Aは「水色→ピンク」の2色のグラデーションであるのに対して、Bは中央に紫を加え、「水色→紫→ピンク」の3色のグラデーションで構成されています。
作例Aは中間色が少し濁って見えますが、Bは中間色の濁りが解消され、より滑らかで美しいグラデーションとなっています。
そのため、私は「B」を正解にしました。
この問題のように、色相が離れている色同士でグラデーションを作る場合、中間色の設定が重要です。
ではここからは、なぜ、作例Aが濁って見えたのかを説き明かしていきます。
補色に近い色同士になると、中間の彩度が下がり濁っていく
色相が離れている色同士は「補色に近い色同士」ともいえます。
補色とは、以下の「色相環（色の輪）」において、互いに正反対の位置にある色のことです。
実は、補色に近い色同士でグラデーションを作ろうとすると、中間色が濁りやすくなります。
以下は「色相環（色の輪）」の図です。
この図を見ていただければわかるように、補色に近い色同士になると、中間の彩度が下がり濁っていきます。
では、中間色がどれくらい濁って見えるのか、中間色だけを取り出してみてみましょう。
今回の作例の水色とピンクを「RGB」というカラーコードで見ると、以下のようになっています。
RGBとは、光の三原色（Red＝赤、Green＝緑、Blue＝青）を基にした色の表現方式です。
●水色
R：0／G：255／B：255
●ピンク
R：255／G：0／B：150
そこで、この水色とピンクの中間色をRGBで平均化すると、以下のように中間色を算出できます。
R：(0+255)÷2≓127
G：(255+0)÷2≒127
B：(255+150)÷2≒202
以下が「R：127／G：127／B：202」という色です。
グレーに近い色になっていて、あまり美しいといえませんよね。
このままだと、中間色が濁ったままです。
そこで、中間色を単なる計算式で算出するのではなく、人の目で設定する必要が出てきます。
中間色を人の目で設定する
色相が離れている場合に美しいグラデーションを作るには、色相環の図を用いて、人の目で美しい中間色を選択します。
色相関上の中間色だと鮮やかすぎるため、青のハンドルを中央に近づけ、今回はRやGを混ぜて、あえて少し濁らせることで、最適な中間色を設定しています。
グラデーションの中間色のにごりは、Photoshopでは補間方法が強化されており、以前より自然できれいな中間色が得られやすくなっています。
また、Illustratorでも2025年リリース予定のバージョン30.0で改善される見込みです。
ただし色の組み合わせにより、まだ調整が必要なケースは残ります。
中間色がにごる理由とその改善方法を理解し、どのような色の組み合わせでも美しいグラデーションを作成しましょう。
3．グラデーションの光源は一貫性が大切
最後に3問目を取り上げます。
3問目は、作例AとBのボタンを比較し、どちらのグラデーションのハイライトがよいか問うものです。
作例Aのボタンは2つとも、光源が左上で統一されており、同じ空間で同じ方向から光が当たっているように見えます。
一方、Bのボタンは、グレーのボタンの光源は左上、青のボタンの光源が右上と、ちぐはぐです。
また、青のボタンは光源が右上に設定されているにもかかわらず、影が右下に落ちているため、リアリティに乏しく、さらに違和感が生じています。
グラデーションは、単なる色の変化だけでなく、デザインに立体感や奥行きをもたらします。
その際に大切なのは、自然な光を演出することです。
特に、複数の要素にグラデーションを適用する際には、「光源の一貫性」を意識することが大切です。
光源に一貫性がないと、不自然さを感じさせ、デザインのまとまりがなくなってしまいます。
グラデーションを適用する場合は、光源をどこに設定するのか（どこから光が当たっているか）を明確にし、光源に合わせた自然な影の位置を意識しましょう。
まとめ：美しいグラデーションを表現するためのポイント
今回はグラデーションに関するクイズと、デザインテクニックを取り上げました。
最後に今回のノウハウのまとめです。
1．グラデーションは「色相」「彩度」「明度」を調整する
1問目の作例では、金（GOLD）の質感を再現するうえで、「HSB（色相、彩度、明度）」というカラーモードを用いて色相をわずかにずらし、より深みや温かみのある「色の揺らぎ」を表現しました。
2．色相が離れている（補色に近い色同士）場合、中間色に気を配る
補色に近い色同士になると、中間の彩度が下がり濁っていきます。
そのため、中間色に気を配るのが大切です。
色相環の図を用いて、人の目で美しい中間色を選んで使いましょう。
3．グラデーションの光源は一貫性が大切
グラデーションを適用する場合は、光源をどこに設定するのか（どこから光が当たっているか）を明確にし、光源に合わせた自然な影の位置を意識しましょう。
今回は美しいグラデーションを実現するためのノウハウについて解説しました。
お相手はアートディレクター／デザイナーのコネクリでした。
本コーナーでは、あなたのデザイン力のアップにつながる様々なクイズが用意されています。
ぜひほかのクイズにもチャレンジしてみてください。
※本コンテンツは、それぞれのデザイナーが自身の感性で理想とするデザインを語っています。
クイズの答えはひとつの参考としてください。
執筆：コネクリ
Photoshop, IllustratorのTipsを動画などで紹介するナマケモノ｜個人としての仕事は動画制作『アーティストに学ぶ 33ーアドビ公式』『1分解説 - Photoshop』、登壇『Adobe MAX Japan 2025』『朝までイラレ』、 著書『デザインの仕事がもっとはかどるAdobe Firefly活用テクニック50』（インプレス）など6冊