アクセシビリティ

Adobe IDEAS 2006


ゲストセッション2 「Design meets Flash」

15分の休憩をはさみ、ゲストセッションの第二部がスタートした。実はこのセッションの後半では、観客を参加させるあるイベントが用意されていた。観客は、このイベントに参加するため、休憩時間のあいだにあらかじめ配布されているカードに印刷されたQRコードを携帯電話で読み込んでおくよう連絡されていた。果たして何のためのQRコードなのか。観客の間でさまざまな憶測を呼びつつ、セッションがスタートした。

インタラクティブPDFマガジンの制作現場

ゲストセッションの第二部では、株式会社Eat Creative によるPDF マガジンの制作行程がいくつかのデモンストレーションとともに紹介された。

Eat Creative は、「世界でもっともセクシーなフード雑誌」である『eat』を発行したクリエイティブ・エージェンシーとして知られている。『eat』 はこれまでのグルメ雑誌とは異なり、食をテーマにアート的な要素をふんだんに盛り込んだマガジンだ。 Eat Creative では、その『eat』 での経験とスキルを元にPDF マガジンである『10²』を発行するに至った。

『10²』は、「10」をキーワードに複数のアーティスト、ライター、クリエイターが参加したコラボレーションタイプのマガジンで、Web 上で配信されている。同マガジンでは、ハイパーテキストによってWeb 上のサイトとリンクしながらインタラクティブ性を持たせ、通常の印刷物では不可能なレイアウト、企画が多く盛り込まれている。その例として、会場の画面上でいくつかのデモンストレーションが披露された。

電子顕微鏡で拡大された虫の企画では、毛の1本1本までがはっきりと見えるほどクローズアップされた虫の写真が画面に登場。写真の横には、肉眼では読めないほど小さな字でその説明が記されている。これは、PDFのズームインツールを使わないと読めないように、あえて小さくしているのだという。ズームすることで、顕微鏡を覗いているような気分にさせるという、おもしろい仕掛けだ。また、ある映画に関する企画では、記事中にその動画ファイルを組み込んで、クリックひとつで見られるようになっている。読者にとっては、監督へのインタビューなどを、映画を見た直後に読める、そして制作側にとっては、映画に関する詳しい説明を省ける、という利点がある。

その他、インタビュー記事の冒頭部分だけをページに載せ、続きはポップアップノートで読めるようにしたものや、実際のマガジンでは実現に至らなかったものなど、PDF特有の機能が生かされたさまざまなアイデアが紹介された。

このように、『10²』は雑誌のフレーバーを残しつつ、まったく新しいメディアとしての可能性を追求している。では、PDF マガジンが本当に成功したのか、という問いに制作メンバーは「Yes and No」と答えた。「Yes」 というに対してまず、大きな宣伝効果を得ることができたという点があげられる。そしてPDF マガジンは配送や印刷に費用がかからない。これらに回す費用を他のことに集中させることができる。また、誌面を構成するライターやアーティストは誌面サイズやページ数の制限を受けることなく自由な発想が可能になるということも重要な利点のひとつだと語った。

しかし、現在のところ若干のデメリットも存在するという。つまり、多くの要素を盛り込んだあまりサイズが大きくなりすぎてしまった点だ。しかしこれは記事ごとにファイルを分けて、それぞれ個別にダウンロードすることを可能としたことで解決できたそうだ。会場は、PDF の持つさまざまな可能性について、Eat Creativeから多くのヒントをもらいEat Creative のデモンストレーションが終了した。

ベースメントファクトリープロダクションによるスクリーンセーバーのライブ制作

今回のセッションにおいてメインイベントとも言えるセッションがスタートした。このデモンストレーションでは、Adobe IDEAS 2006 オリジナルのスクリーンセーバーをFlashで制作する試みだ。スクリーンセーバーの背景をグラフィティアーティストのDRAGON氏に依頼し、朝から屋外でライブペイントをおこなってもらっていた。そのDRAGON氏が壇上に登場し、巨大なアートボードを壇上で完成させたところで、デモンストレーションがスタートした。

観客は、デモンストレーションの参加に必要なQRコードの入力をすでにすませ、サイトへアクセスするだけの状態だ。そこに今回のデモンストレーション用Flashコンテンツの制作総指揮を担当したベースメントファクトリープロダクション 北村 健氏が入場すると、会場はモデレーターの指示にしたがい、観客が一斉にQRコードが示すサイトへアクセスした。

すると、巨大モニターに映し出された画面に自分の分身となるキャラクターが登録された名前とともに映し出される。携帯電話の数字キーを押すことによって、キャラクターを移動させたり、セリフを入力し送信ボタンを押すと、キャラクターに会話をさせることもできる。このシステムに会場は大いにわきあがった。観客は、このキャラクターを携帯電話で操作し、好みの書体を指示するエリアへ移動させることで、スクリーンセーバーに使う書体イメージを多数決で決定した。

続いて、ニュースリーダー機能を追加するかどうかの決定がされた。これは会場の観客ではなく、ゲストセッションのパネラーが赤か緑のパネルで、賛成と反対を決定する方法を採用した。パネラーが赤のパネルを掲げれば賛成となり、緑のパネルを掲げると反対を意味する。Flash 8で制作されたコンポーネントが、カメラを通じて色を判別し、リアルタイムで円グラフをジェネレートする。もちろん全員一致で賛成となった。

最後に、スクリーンセーバーの動きを決定するデモンストレーションにすすむ。今度は会場からの拍手の大きさで決めようという趣向だ。観客が拍手をするとFlashで作成されたグラフが拍手の大きさによって、リアルタイムで伸び縮みする仕組みになっている。

今回の判定アプリケーションは、わずか一週間で制作をおこなった。ベースメントファクトリープロダクションでは、ユーザー参加型のコミュニケーションデザインに注目しているという。Flash には、そのための機能が多く備わっていることを解説してくれた。今回は、実際に大人数が参加した状態でのシステム稼働は初めての経験だったため、正常に作動するか心配されたが、大きな混乱もなく最後のセッションが終了した。