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2016年04月07日
【POINT】
アドビは22日〜24日(米国時間)、デジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Summit 2016」を開催した。過去10年にわたって開催された米ユタ州ソルトレイクシティからネバダ州ラスベガスへと会場を移し、過去最高の1万人超が参加した今回。経営戦略の中核的存在となったデジタルマーケティングにおいて、企業が向かうべき未来はエクスペリエンスビジネス(顧客体験中心のビジネス)であることをアドビは強く印象付けた。
初日の幕開けとなったキーノートステージ。アドビCEOのシャンタヌ ナラヤンは、企業は製品ではなく、エクスペリエンスを販売する時代になったと訴えた。
「エクスペリエンス時代には、顧客は素晴らしい体験を求めている。企業はどうやって顧客の期待に応えたらよいか、見つめ直さなくてはいけない」。
企業を取り巻く時代背景に応じ、事業を支えるテクノロジーも変遷を遂げてきた。在庫管理、給与計算、会計などの「バックオフィスの波」、顧客関係管理(CRM)などの「フロントオフィスの波」を経て、現在は「第三の波」となるエクスペリエンス ビジネスの時代に突入している。「すべての産業に属する企業にとって、エクスペリエンスこそが競争力の源泉となるのだ」と述べ、エクスペリエンスは企業の最重要の投資事項になったと伝えた。
矢継ぎ早にされた発表の中心は、クロスデバイスの消費者認識ネットワーク「Device Co-op(デバイスコープ)」。多様なデバイスを使いこなす利用者を、Device Co-opは個人情報を秘匿したまま安全に紐付ける。この紐付きを、ネットワーク参加企業は協調し合うことで相互に拡張できる。結果として企業はデバイス相手ではなくその先にいる消費者個人を相手にすることになるため、より消費者の目線に立ったコミュニケーションを行うことができるのだ。
もうひとつが、既に北米では急速なデジタル化の進んだテレビ事業者向けのサービス。まずOTT(オーバーザトップ)と呼ばれるコネクテッドデバイスを接続したテレビへの動画/広告配信プラットフォームの整備だ。Summitに参加した大手スポーツチャンネル幹部はOTTがデジタル視聴の中で飛び抜けて長い視聴時間を持ち、さらに友人や家族と視聴する割合が比較的高いとも指摘し、収益化が最も容易とみている。
アドビは視聴体験を高める施策として、テレビ番組配信プラットフォーム「アドビプライムタイム(Adobe Primetime)」にレコメンドエンジンなどのパーソナライゼーション機能を加えた。また、デジタルテレビ視聴の効果測定を精緻化するため、コムスコアと提携を結んだと発表した。
二日目のキーノートでは、いかにテクノロジーが進展しても顧客体験を生み出すうえで欠かせないストーリーテリングについて、様々なストーリーテラーたちの経験や価値観が語られた。
玩具メーカー最大手マテルのリチャード ディクソンCOOは、同社最大のヒット商品であるバービー人形が、その誕生から停滞期を経て、髪質、人種、体系、肌の質、顔を多様化させるなど、ブランドの再定義を繰り返すことで、バービー人形に新たなストーリーを生み出せた、と力説した。
ハリウッド俳優ジョージ クルーニーは、ソーシャルメディアがセレブリティの生活にさまざまな影響を与えているが、映画のヒットに影響していることなどについて老獪な語り口で話し、1万人を笑い転げさせた。
経験は消費者と企業との相互作用で生まれる。人の心を躍らせるには、マーケターの誰もがストーリーテラーとなり、独自の経験を作り出していかなければならないだろう。
いまや、このようなストーリーを生み出すことを、ビッグデータや機械学習が支える時代だ。今回のSummitでは、
などのテクノロジーが紹介された。マーケターは膨大なデータに埋もれることなく、ストーリーに集中することができる訳だ。
また、デジタルサイネージとモバイルを組み合わせてパーソナルな体験を生み出すテクノロジー、レジを通らず決済できるスマートバッグなど、エクスペリエンス ビジネスのあり方を提案するデモにより、観衆からの注目を集めた。
エクスペリエンスは突き詰めれば一対一の相互作用から生まれる。つまり、企業は個人一人ひとりと向き合わなければならない。マスマーケティングからワン トゥ ワンマーケティングへと大きく舵を切ったマクドナルドのように。モバイルという個人と強く結びついたデバイスが世界を包み込んでいるいま、パーソナライゼーションは遠い未来ではなく、今そこに開けた世界なのだ。
世界各国から集った1万人のマーケターの熱気を見るに、それは市場が求めている必然の変革であろう。
UNITE編集部
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