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小売を再定義する丸井:「常にECを考えている販売員」が届けるオムニチャネル体験

2017年12月21日

【POINT】
  • 店舗とECの連携を強め、ECへの貢献を店舗に成果反映する制度を策定
  • ECをオムニチャネルの主軸に置いたことで、「体験ストア」という新しいチャネルのアイデアが生まれた
  • 小売をよく知る社員のスキル育成が、デジタルをより効果的に活かすことにつながる

 
首都圏を中心に商業施設を展開することで知られる株式会社丸井(以下丸井)は、「顧客と共に開発する」体制で、ブランド各社の取り扱いと共に、SPA(製造小売)としてプライベートブランド事業に取り組んできた。“丸井ファン”がモニターとして商品企画段階から深くコミットしており、いまでは、服や靴、バッグが中心の強力なブランドに育っている。小売事業とフィンテック事業を両輪に、業態転換を含む時流適応の変革と、顧客やパートナーとの共創を理念として、独自のビジネスを展開する同社。2016年4月、小売事業においてプライベートブランド事業とEC事業を統合、「オムニチャネル事業本部」を誕生させた。

統合の狙いは。実際に行った施策は。そして、丸井はチャネルをまたいでどのようなデジタル戦略を実行しようとしているのか。取締役 オムニチャネル事業本部長 伊賀山 真行氏とオムニチャネル事業本部 部長 臼井 毅氏に話を聞いた。
 
 

ECを育てるために店舗がある

 
 
――丸井のオムニチャネル事業本部は、EC部門とプライベートブランドの企画/販売部門が統合して生まれたそうですね。
 
伊賀山氏
 
伊賀山氏:丸井は“時流適応業”なんですよ。約30年前に新卒で入社して以来ずっと感じてきたことは、「革新/進化させ続ける」企業風土を持っていることです。お客様のニーズは常に変化しています。お客様のニーズに対応するためには、過去の成功モデルを壊してでも進んでいきます。オムニチャネル事業本部は、まさにその風土を体現し、ECと自社ブランド、そして他社とのパートナーシップを活かしながら、これまで丸井がやってこなかった業態にもチャレンジする部門です。
 
臼井氏
 
臼井氏:丸井というブランドは小売業の印象があると思いますが、実は複合企業なのです。小売と金融が一体になっていて、ITや物流のグループ会社もあります。社員はグループ内を異動することが多く、さまざまなビジネスを経験しています。動きの激しい時代ですから、これからはどこがビジネスの中心になるのかわかりません。ただ、お客様が求めている価値を提供することに変わりはありません。オムニチャネル事業本部は、お客様に価値を提供するビジネスを創り上げる役割を担っています。
 
――オムニチャネル戦略を平たく言えば、「すべての顧客接点で同等の顧客体験を提供する」という意味になります。2008年にはEC在庫と店舗在庫の統合、最近では店舗とECの購買データ統合などの施策も話題になりました。プライベートブランド部門とEC部門を統合して新しく事業部化し、オムニチャネルを冠にした狙いはどこにあったのでしょう。
 
伊賀山氏:私たちのオムニチャネル戦略は、ECを主軸にしたものなのです。「ECを育てるために店舗がある」と言い換えるとわかりやすいでしょうか。これが、他社との大きな違いになります。あくまでも中心はECに置き、お客様に商品をお買い上げいただくチャネルは従来の店舗に限りません。
 
臼井氏:自社運営のECサイトを成長させることはもちろん大切なのですが、チャネルは複数あります。Amazonや楽天にも出店していますし、KDDIグループと協業する「Wowma!(ワウマ)(※1)」のアパレルカテゴリではかなりの部分をお任せいただいています。このように、お客様とのすべて接点でより良い体験を提供することが私たちのミッションなのです。つまり、オムニチャネル事業本部は、オムニチャネル エンゲージメントのための部門と位置づけることができます。今までにない顧客体験と価値を創造し、その体験と価値をお客様に提供することになります。
 
(※1)「Wowma!」とは、KDDIコマースフォワード株式会社とKDDI株式会社が共同で運営する通販サイト
 
 

「シューズ体験ストア」は、ECが主軸だからこそ実現できたアイデア

 
※マルイwebサイト掲載画像より
 
――ECに力を入れるにあたって、店舗との社内競合に悩む企業の声も聞こえてきます。丸井では、その部分をクリアできていますか。
 
臼井氏:私は立ち上げ時のEC部門に居たのですが、当時から会員情報統合や在庫共有など店舗との連携を意識して作っていました。たとえば、ECで在庫が切れたら店舗から在庫を供出してもらい、それを売り場の成果として反映する仕組みがあります。店舗で買い物をしてくれたお客様の中から、ECを使っていただいていない方にECをご案内する施策もやりました。その際にも、店頭レジでクーポンを発行してEC売上につながれば、送客と見なして店舗に成果反映する制度を作りました。店舗は協力的ですし、長い間やっていますから定着しています。
 
伊賀山氏:実際に、「ECを伸ばすためにこういう施策をしてみたらどうだろう?」と提案してくれる店舗のスタッフも多いのですよ。たとえば、ECではレビューを見てお買い上げいただくことが多いため、お客様にレビューを書いていただくことが大切になります。店舗のスタッフが来店中のお客様に、「ぜひレビューを書いてくださいね」と一声かけてくれることも多く、よい協力関係が育っています。常に頭の中にECを置いてくれる店舗スタッフが居ることが、私たちの強みです。
 
――現在、プライベートブランド事業に占めるEC売上の割合はどれくらいなのでしょう。
 
伊賀山氏:全体で25%程度になりますが、レディスシューズでは30%以上です。私たちのレディスシューズは、19.5~27.0の全16サイズをそろえ、日本人成人女性の足のサイズの99%をカバーしています。おしゃれで、履き心地が良く、しかも値段も抑えた自信作です。一度使っていただいたお客様に、別デザインをお買い上げいただくことも多く、ECに向く商品ですね。
 
レディスシューズ
 
――丸井のレディスシューズと言えば、販売用在庫を持たず、商品サンプルをずらりと並べて実際に試してもらい、ご購入いただく時は通販在庫からお届けする「ラクチンきれいシューズ体験イベント」が注目を集めています。この取り組みもオムニチャネル事業本部の主導でしょうか。
 
伊賀山氏:オムニチャネル事業本部の最新事例であり、ECが軸だからこそ実現できたアイデアです。靴の場合、買う前に履いてみたい、触ってみたい、というニーズがほかの商品より大きいのですが、ECだけではそうした声にこたえられないことが課題です。そこで、私たちが丸井の店舗がないエリアに出て行くことにしました。ショッピングモールのイベント会場に期間限定で出店し、商品サンプルを並べます。靴業界の常識に反して店頭在庫は持ちません。お客様にはその場で試し履きをしていただいて、気に入っていただければ、後日配送することになります。
 
臼井氏:いままで約50カ所で開催しました。ショッピングモールに入居するシューズブランドからは売上影響を心配されるようなのですが、実際のところ、私たちがイベントをやると、靴を買いたいお客様が増えるわけで、それらの店の売上げも上がるようです。モール全体の集客にもつながりますから、数多くのお問い合わせをいただいています。
 
 

ECを10年後にもしっかりと存在する事業として確立させる

 
 
――体験ストアというチャネルが増えたわけですね。では、オムニチャネルの主軸になるECの現状についてはどう評価していますか
 
ECを10年後にもしっかりと存在する事業として確立させる
 
伊賀山氏:デジタルを使ってお客様により良い体験を提供するという意味では、これからが本格的なスタートです。長くカタログ通販の文化があったため、これまではお客様をパーソナライズする取り組みに弱く、手作業に頼りがちでした。アドビのソリューションを採用したことで、この文化を大きく変えられるはずです。すでにスタッフの意識は変わりつつありますよ。
 
臼井氏:私たちは、デジタルに強くはありません。一方、さまざまな部署を経験してきたスタッフは、丸井のビジネスのことをよく知っています。そこを踏まえると、小売のDNAを備えた自社スタッフのデジタルスキルを育成する方が効果的だと判断しました。アドビのソリューション採用にあたって、アドビのコンサルタントの方に、社内のスタッフがAdobe Experience Cloudを使いこなすためのトレーニングコースを作っていただきました。これからは、丸井のことをよく知るスタッフが、アドビの知識を生かしてデジタルを使いこなしていける体制を整えます。
 
伊賀山氏:ソリューションそのものが魅力的だったために採用したわけですが、私たちの求めていたデジタルスキル全般まで包含したトレーニングメニューを作っていただいたことで、アドビと弊社がベンダーとユーザーという関係から、一歩踏み込んだパートナーシップを結べたなと感じています。人材育成は、当社の見えないパワーになるはずです。これからも良い協力関係を築き、これから出てくるさまざまな課題をひとつずつクリアしていきます。
 
――デジタルの浸透は、丸井のビジネスにどのような影響を与えると考えていますか。
 
伊賀山氏
 
伊賀山氏:定量的にものを見る力がつくでしょう。店舗のリアルな情報はPOSしかなく、POSでは、「お客様にお買い上げいただいた」という情報しか取れません。売れなかった商品については、売れない理由やお客様の検討状況などを推測するしかないのです。もちろん、トピックは現場の販売員から上がってきます。ただ、上がってくるのは「面白い情報」止まりなんですよ。販売員の印象に残ったお客様の意見だけが吸い上げられるので、本当のところがわからない。ECであれば、科学的に分析することができますから、それだけでも優れたフィードバックを得られるはずです。
 
――最後に、今後のECおよびデジタルと、オムニチャネル事業本部の方向性について教えてください。
 
伊賀山氏、臼井氏
 
臼井氏:商品企画についても、顧客体験の向上についても、新しいチャレンジを繰り返していきます。お客様の求めているものは常に変化します。私たちは、個々のお客様が求めているもの追求し、パーソナライズして新しい価値を提供し続ける必要が出てきます。既存の考え方にとらわれず、ドラスティックな“ビジネスの再定義”を繰り返していける組織にしていきます。
 
伊賀山氏:丸井は80年以上の歴史があり、常に時代の変化に対応してきた結果として今があります。ただ、同じペースでは生き残れません。私は30年間丸井に勤めていますが、これだけ変化のスピードが速い時代は初めての経験になります。ですから、「10年後」をターゲットに置きます。社内にデジタルの考え方を浸透させ、主軸となるECを10年後にもしっかりと存在する事業として確立させます。ECが軸になれば、小売店という枠にとらわれない発想が出てきます。体験ストアに続く新しいチャレンジにも期待してください。
 
――本日はどうもありがとうございました。
 

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