2019年のマーケティング予測:注目すべき5つのトレンド

2019年1月15日



【POINT】

  • 相手を知り最適な体験を届けるため、データとクリエイティブの統合への投資が進む
  • 「顧客のシングルビュー」の実現と個人データ保護の両立が、パーソナライゼーション戦略の成熟をもたらす
  • デジタル変革の次の段階は、「顧客体験マネジメント(CXM)」が焦点になる
 

「何事も、体験するまでは現実となり得ない」 - ジョン キーツ

 

英国の詩人 ジョン キーツのこの言葉が、200年後に共感を呼ぶことになると誰が想像できただろう? それもビジネスの世界で。

実際、アドビがForrester Consulting(フォレスター コンサルティング)に委託した調査(2018年4月)では、「顧客体験の改善がこの先1年の最優先事項のひとつである」と回答したビジネスリーダーが80%に達している。同様に、顧客のロイヤルティ向上も優先事項とみなされている(81%)。

この顧客体験の新時代においては、「データとクリエイティブの連携が企業の競争力を左右する」と識者らはみている。2019年には、パーソナライゼーション、よりイマーシブな(没入感のある)モバイル体験、そしてB2Bにおける戦略アカウントへの全社的アプローチが、さらに重要になっていくだろう。

それだけではない。「顧客のシングルビュー(別々に存在している顧客データをひとつに統合すること)」の実現が、業界を問わず企業に切望されている。いかにして顧客の信頼を損なうことなく個人データの統合を行なっていくかが、今後も焦点となっていくだろう。また、より迅速かつ効率的な顧客対応を目指し、顧客の行動にタイミング良く対応するための社内インフラの整備にも、企業は力を入れていくとみられる。

では2019年に注目すべき5つのマーケティングトレンドやデジタル市場の予測を、より詳しくみていこう。

2019年のマーケティングトレンド (1) :

顧客体験を差別化する「データドリブン クリエイティブ」

2019年のマーケティングトレンド(1): 顧客体験を差別化する「データドリブン クリエイティブ」

適切な顧客体験を実現するためには、その前提として、相手のことをよく知る必要がある。それが「データドリブン」あるいは「データ駆動型」という考え方の発端だ。そして、より秀逸な顧客体験を実現するために、「データによる知見とクリエイティブの統合が必要になる」と、アドビでマーケティング戦略&コミュニケーションVPを務めるステイシー マルティネは予測する。

「データにもとづいたクリエイティブへのアプローチは、マーケターの生産性を高め、適切なコンテンツを、適切な顧客に、適切なチャネルで、迅速に提供できるようにします。現在最もイノベーティブな企業に共通しているのは、複数ソースからデータを統合して、一人ひとりの顧客を一元的に把握する能力です。データの活用は今や必須事項ですが、一歩抜きん出るためには、データから得られた知識とクリエイティブを統合する必要があります」(マルティネ)

データによる知見とクリエイティブを統合することを「データドリブン クリエイティブ」と呼ぼう。そしてこれを実現するには、クリエイティブチームによる制作プロセスの初期段階において、データや分析の専門家を引き入れるべきだと言う。

「先見の明がある企業では、すでにデータとクリエイティブの統合方法を考えています。コラボレーションがイノベーションにつながることは、一般的によく知られています。オンライン/オフラインを問わず変わりつつある消費者行動を理解するためにも、クリエイティブチームは、データ/分析チームとより緊密に協力していく必要があります」(マルティネ)

コンサルティング大手マッキンゼーにおいて、パートナーおよびデジタルマーケティング部門のグローバルリーダーを務めるジェイソン ヘラー氏も、この点に同意している。この数年、マーケティングではファネルの最下層、つまり、購入まであと一歩の顧客を偏重する傾向があり、カスタマージャーニーにおけるその他の部分が軽視されるケースが多かったという。

 

実際、短期的なコンバージョン行動を重視するあまり、顧客との継続的なエンゲージメント推進や、長期的なブランド価値の構築につながる仕事を犠牲にしているマーケターは少なくない。顧客体験がより重要視されている2019年、こうしたマーケターは路線変更を迫られるだろう、とヘラー氏は述べている。

「マッキンゼーでは2018年初め、ビジネスの成長を促すためのデータとクリエイティブの統合について調査を行いました。その結果、日常的にデータとクリエイティブの統合に努めている企業は、データとクリエイティブ両方の能力を有しながら、このふたつを分けて管理している企業に比べ、2倍の成長を遂げていることがわかったのです」(ヘラー氏)

さらに上記の調査によると、両分野の統合を試みている企業の多くでは、右脳と左脳の両方が強い「両脳タイプ」の人材獲得に努めていることが明らかになった。2019年は「データドリブン クリエイティブ」への投資が進む年になるといえるだろう。

 

2019年は全社的に広くデータやアナリティクスの研修を行う企業が増え、特に、クリエイティブチームのデータ能力開発に投資する会社が多くなる、とアドビのマルティネは予想している。

「“データの民主化”により、データへの即時アクセスと理解が社内の様々な部門で促進されます。この動きは、より迅速な意思決定で成功する機敏なチームを生み出すでしょう」(マルティネ)

2019年のマーケティングトレンド (2) :

小売業界における「体験型コマース」の進化

2019年のマーケティングトレンド(1): 顧客体験を差別化する「データドリブン クリエイティブ」

これまでECは、迅速に在庫をさばく目的で商品を底値で売ることに専心し、マーケティング施策もこれに追従してきた。しかし、「体験経済」が業界に浸透するにつれ、特に小売のECの売り方が変わってきている。体験型コマースの登場に伴い、企業は全社的な発想の転換に迫られている、とマルティネは言う。

「単に取引を勝ち取ろうとする従来の戦略から、顧客体験、そして顧客との継続的な関係性を中心に戦略を変えていく必要があります」(マルティネ)

そして、顧客の心に響くコンテンツをいかに制作するかという点が2019年の小売戦略のカギになるとマルティネは予測している。顧客の関心を育て、実際に購入する時になったら、自社のブランドや店舗を最初に思い出してもらえるようなコンテンツ制作が重要だという。

「これは、ブランドへの愛着心を育む上で基本中の基本です。単発の取引は短期的な結果をもたらしますが、ブランドと製品を心から愛してくれるファンは、一生買い物を続けてくれるでしょう」(マルティネ)

調査会社Dun&Bradstreet(D&B)のオーディエンスソリューション部門SVP、アヌディット ヴィクラム氏もまた、2019年の体験型コマース戦略を成功させるには、「真に統合された体験」の構築がカギになるとしている。

「複数のチャネルやプラットフォームをまたいだ体験をいかにシームレスに構築するかが、今後も焦点になるでしょう。消費者とのタッチポイントは増え続け、そのうちのひとつが、いつかは購入ポイントとなるわけですが、様々なタッチポイント間の摩擦や弱点を解消していかなければなりません」(ヴィクラム氏)

新しいプラットフォームに関していえば、音声インターフェイスや拡張現実などの没入型テクノロジーが消費者側で浸透している。そこで企業は、こうした新しい体験をカスタマージャーニーに統合していくことが大きな課題となる。実際、Amazonの音声AIアシスタント、Alexa(アレクサ)は2020年までにeコマースの売上に100億ドルをもたらすと、投資銀行RBCキャピタルマーケッツは予測している。

 

「音声インターフェイスがブランドやマーケティングの武器になることに、もはや疑いの余地はない。問題は、いつ音声への移行が起こるかだ」と、マーケティングソリューション企業MomentFeedのロバート ブラットCEOは述べている。

 

音声サーチから音声エンゲージメントへの移行が現実のものとなるとき、小売企業としては、競合に先んじて移行対応済みの強みを手にしていたい。ユーザーは、「おすすめナンバーワン」しか耳にしなくなるからだ。

 

また、体験型コマースへの進化は、オンラインだけでなくオフラインでも発生する、とマッキンゼーのヘラー氏は述べている。オンラインストアと実店舗の両方で買い物をする顧客は、どちらか一方でだけ購入する客よりもLTV(顧客生涯価値)が30%も高いという。

 

そして、消費者が実店舗で買い物をする際にも、モバイル端末がより重要なデジタルタッチポイントになるとヴィクラム氏は予測している。現在、約6割の買い物客が店内で商品情報と価格を検索しており、2019年にはさらに増えるだろう。世界中に何百万人というユーザーを持つiOSが拡張現実に対応した今、買い物客をとりまく店舗内の環境に、リアルタイム情報を合成していくようなモバイル体験の開発が進んで行くと思われる。

2019年のマーケティングトレンド (3) :

個人データ保護とパーソナライゼーションの両立

2019年のマーケティングトレンド(3): 個人データ保護とパーソナライゼーションの両立

マーケティング業界で「パーソナライゼーション」が議論されて久しいが、ヴィクラム氏によると、現在のマーケティングのパーソナライゼーションは「非常に基本的なレベル」にすぎないという。しかし、2019年には「One to Oneマーケティング」を実現するべく、企業によるコンテンツとデータの統合が進み、パーソナライゼーション戦略はより成熟していくと同氏は見ている。

 

パーソナライゼーションの真価を引き出すためには、別々に存在している顧客データを統一し、「顧客のシングルビュー」を実現しなければならない、とヴィクラム氏は述べている。これにはマッキンゼーのヘラー氏も同意している。

「顧客のシングルビューは、今時のマーケターが望み得る最も重要な資産であり、これはパーソナライゼーションの要となるだけでなく、次世代マーケティングの投資回収能力の核をなすでしょう」(ヘラー氏)

とは言え、組織内でのデータ統合は、根拠もなく困難だと思い込まれる“迷信”が存在している、とヘラー氏は指摘する。人間(の思い込み)が顧客のシングルビュー実現を阻んでいるのだ。

 

しかしテクノロジーの観点から見れば、業界は確実に進歩を遂げている。具体的には、2018年9月に発表された、アドビ、SAP、マイクロソフトによるオープンデータイニシアチブが挙げられる。これは、企業内の様々な組織に存在するデータを統合して顧客のシングルビューを構築する、3社の力を合わせたテクノロジーだ。

 

パーソナライゼーションを大きく進める上でのもうひとつのカギは、企業の内部編成にある。2019年には「アジャイルマーケティング」モデルを採用する企業が増えるだろう、とヘラー氏は予測している。このモデルでは、畑違いの人員から成る「部門横断チーム」が実験的な試みで協力し、データとテクノロジーから価値を引き出す取り組みが可能となる。

 

企業のパーソナライゼーション戦略においては、プライバシーも当然大きな役割を果たすようになる。欧州のGDPR(EU一般データ保護規則)や、カルフォルニア州プライバシー法(2020年1月より施行)などの新法も登場し、戦略とコンプライアンスの整合がますます重要になるだろう。

「企業は法令に則ったデータ収集を重視し、消費者の信頼を得ていかなければならない。協業するパートナーを選ぶ際、企業はプライバシーを考慮して設計された製品やサービスを探し、自社に託されたデータを守っていく必要があります。プライバシーとは、顧客を尊重することであり、自身の個人データをどう活用するか、消費者側がコントロールできるようにすること。透明性を確保し、データと引き換えに得られるものの価値を消費者が理解できるように、企業は説明していくべきです」(マルティネ)

2019年、多くの企業は、マッキンゼーの言う「コンセントマネジメント機能」を持つようになるだろう、とヘラー氏は言う。すなわち、法律に則った顧客データの管理と保護方法を定め、データ活用のガバナンスを確立するということだ。

「これは、法令が存在するかどうかにか関わらず、企業が必ず果たすべき義務であると思います。プライバシー法はいずれ必ず発令されるので、今から対応を進めていけば、将来的により大きな成功が約束されるでしょう」(ヘラー氏)

2019年のマーケティングトレンド (4) :

B2BにおけるABM(アカウントベースマーケティング)の普及

2019年のマーケティングトレンド(4): B2BにおけるABM(アカウントベースマーケティング)の普及

アカウントベースマーケティング(ABM)はまだ発展の初期段階にあるが、テクノロジー企業はABM戦略の活用において他の業界に先んじている。「多くの企業はABMの重要性を認識しているが、適切なスキルとリソースを社内に有していない」とD&Bヴィクラム氏。ただし、2019年にはABM戦略への注目がより高まると同氏は予測している。

 

デジタルマーケティング企業R2iの戦略&アカウントサービスSVPであるメアリ ギルバート氏によれば、B2B企業が成功するには、マーケティングとセールスの連携をより強めることが肝要だという。二者の緊密な連携により、ターゲットとなるアカウント(法人顧客)に対して、足並みの揃った働きかけが可能になる。セールスとマーケティングのトップは、ターゲット戦略に合わせた人員配置、テクノロジー、管理モデルを整えていくべきだ、とギルバート氏は呼びかけている。

「ABMは、単なるターゲット戦略やテクノロジーツールではないと認識しなければなりません。ABMは、ビジネスの成長につながる機会との距離を縮め、至近距離を保ち、勝ち取っていくという企業のあり方そのものを指しています。ターゲットに関する一連の優先事項を見極め、これにあったマーケティング、セールス、テクノロジーのソリューションを構築していくことは、短期的に最適な成果を生み出すだけでなく、ビジネスの将来設計そのものを形作ります。ABMとは、ビジネスを劇的に変え得る総合的な戦略を意味するのです」(ギルバート氏)

しかし、全社をあげてABMに取り組むには、顧客のシングルビューが不可欠だ。

「真にアカウントベースのアプローチを取っていくのであれば、計測方法の再考が必要でしょう。新たなKPIや評価基準を追う必要があるのです」(マルティネ)

2019年ABMの成功を評価するために計測すべき代表的な指標として、マルティネは以下を挙げている。

  • セールスサイクルの長さ
  • ターゲット広告を見ている顧客の保持率
  • 商談が始まった戦略アカウントの数

2019年のマーケティングトレンド (5) :

「エクスペリエンスビジネス2.0」デジタル変革は次の段階へ

2019年のマーケティングトレンド(5): 「エクスペリエンスビジネス2.0」デジタル変革は次の段階へ

「デジタル変革(DX)とは、目的ではなく過程である」という言葉は、誰もが耳にしたことがあるだろう。過去数年を通じてマーケターは、DXに関わる要素、すなわち人材、プロセス、テクノロジーを科学的に解明しようとしてきた。次は何をしたらよいのか。

 

デジタル変革の次の段階として、肥大したマーケティングテクノロジーを「スリムダウン」し、システムとテクノロジーの相互運用を改善していくことが重要になる、とD&Bのヴィクラム氏は考えている。

 

マルティネもこの点に同意しており、さらに、デジタル変革の次の段階は、顧客体験マネジメント(CXM)になると付け加えている。

「顧客体験を真に変革したいと意図する企業は、『リアルタイム』『インテリジェント』『予測可能』の三拍子が揃った顧客データを必要としています。行動データ、取引データ、決済データ、オペレーションデータ、その他さまざまな顧客データを統合して顧客の全体像を掴み、すぐにアクションが取れるようなデータフローの構築に努めること、これが企業にとって2019年に注力すべき点となるでしょう」(マルティネ)

マーケティング変革の次の段階は、アジャイル志向だ、とマッキンゼーのヘラー氏は分析する。803人のCMOを対象としたガートナーの調査によると、マーケティングリーダーの89%が、何らかの形でアジャイルを実践していると回答している。しかし、マーケティングにアジャイル志向のアプローチをフルに適用している企業は21%にすぎない。

 

アジャイル志向という概念は、オペレーションモデルと組織編成の両方に適用される、とヘラー氏は解説する。

「アジャイルを採用するということは、組織の編成方法を変え、業績の管理方法をも変えることを意味します。多くの企業は、テクノロジー部門と製品開発部門でのみアジャイルを実践している。今後は、マーケティングやセールスなど、商業的な部門でもアジャイルを取り入れる企業が増えていくでしょう」(ヘラー氏)

2019年はマーケティングにアジャイル志向を取り入れる傾向が顕著に進むだろう。

 

UNITE編集部


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