映像に臨場感を与えるフォーリーサウンド、効果音制作のポイント

フォーリーサウンド＝作り出された効果音

映画やテレビ番組のような映像コンテンツだけでなく、ゲームの世界においても、効果音は重要な役割を持っています。

ジャケットのファスナー音やマグカップを置く音等々、その効果音は無数にあると言えるでしょう。しかし、そこに登場する音は、映像編集時に、そのシーン、その瞬間に合わせて作られている可能性があります。

こうしたオーダーメイドの効果音は「フォーリーサウンド」と呼ばれます。これは考案者であるJack Foleyさんにちなんで名付けられました。効果音集から取る音源ではなく、生録音するものなので、通常の効果音（サウンドエフェクト）とは区別されています。

「フォーリーサウンドは、ライブパフォーマンスとデジタルサウンド編集の奇妙な融合です」（フォーリーアーティスト／John Roeschさん） 

フォーリーアーティストは、足音、剣での戦い、そのほか何であっても、物体同士の間で生じる音をスタジオで作成します。これは映画のサウンドデザインにおいて重要な要素になっています。「いい作品には、フォーリーサウンドが使用されています」と、サウンドミキサーのMatt Coffeyさんは話しますが、残念ながらほとんどの人はその存在を知りません。「いい仕事をするフォーリーアーティストは、そこにいることを視聴者に知られないものなんだ」（フォーリーアーティスト／Gregg Barbanellさん）

フォーリーサウンドの必要性

制作中に録音されるサウンドエフェクト（プロダクションサウンドエフェクト、略してPFX）のほとんどは、フォーリーサウンドの品質に及びません。さらに、フォーリーサウンドが必要になる、単純な理由がひとつあります。それは、映画を他の言語に翻訳する際、効果音だけのトラックがあれば、音声編集者は外国語のセリフと効果音のトラックを重ねることができることです。このためにも、フォーリーアーティストは、映画のセリフが入ったトラックに含まれる音とは別に、個別の効果音を録音する必要があるのです。

既存の効果音を使わない理由

「電子音楽のように、いい音だとしてもそこにはソウルがないかもしれないから」とRoeschさんは言います。ざわめきや群衆の足音などの環境音は、ライブラリ音源から取得できます。しかし、ほかの音は個別に録音しています。それは単に鉛筆を拾ったり、本を置いたりするといった音ではなく、“特定の瞬間に”、“特定の登場人物が”、“特定の本や鉛筆を扱っている”音に似せるのです。

「優秀なフォーリーアーティストは、すべての音に、そこに込めるべき感情を入れます。フォーリーサウンドは人間らしさをもたらすものなのです」（Barbanellさん）

サウンドデザインはチーム競技

シームレスに連携して働く音響チームにはさまざまな役割のスタッフがいます。

フォーリーアーティスト

一般的に、フォーリーアーティストは、2人がチームとなって映画に合わせて小道具で音を出していきます。優秀なフォーリーアーティストは、アスリートのようにきちんとした身体管理をしていて、映画の登場人物の、ほぼ全員の歩き方と動きを再演することができます。また、音を通して感情を伝える才能を持っています。「フォーリーの分野で優秀な人材は、俳優の素質があると思います。物語を語ることができるのです」（Roeschさん）

フォーリーミキサー

フォーリーミキサーは、フォーリーアーティストが作成する音をそのとおりに録音し、仕事に役立つフィードバックを提供します。「ミキサーのためにできる最善のことは、マイクに触れたり動かしたりする前にはそれを知らせ、フィードバックに耳を傾けることです」とRoeschさんは言います。「ミキサーの仕事はカメラの視点から音がどのように聞こえるはずかを検証し、自然な音を録音することなんだ」（Coffeyさん）

音声編集者とサウンドデザイナー

サウンドデザイナーは、レコーディングを開始する前にプロジェクトを大局的に眺め、SFX（特殊効果音）に含める必要がある要素のビジョンを考え出します。音声編集者やサウンドミキサーは、そのビジョンに基づいて、効果音が作品のサウンドトラックにうまく溶け込み、セリフや音楽に合うようにしています。

フォーリーサウンド、3つの分野

フォーリーアーティストとミキサーは、仕事を3つのカテゴリ（歩行、小道具、布地）に分けています。3つの区分の中で、おもな登場人物それぞれを網羅する、さまざまなサウンドトラックを録音します。

歩行

足音はかつて「ステッパー」や「フォリーウォーカー」と呼ばれ、フォーリーアーティストにとって欠かせない仕事です。「微妙な違いを表現すること。これがすべてです。同じ足音が繰り返しているように聞こえるのは望ましくありません」（Barbanellさん）。フォーリーアーティストは、適切なムードを把握するだけでなく、歩行するのにちょうどいい状態の地面と、登場人物に合った靴を見つける必要があります。「中古品店で自分の靴を右足だけ脱いで、そこにある靴をほぼすべて試着して歩き回るんです」（ Barbanellさん）

小道具

小道具の録音の場合、フォーリーアーティストは登場人物が動き回るときに出す、すべての音を再現します。登場人物が触れる物の種類は非常に多いため、フォーリーのスタジオは、奇妙な小物でいっぱいのフリーマーケットのようです。フォーリーアーティストにとって、ユニークな音を立てるものをいつも探す姿勢は非常に大切です。家に眠っているもののなかに、いい音を奏でるすごい小道具があるかもしれません。たとえば、ガラクタをしまい込んだ押し入れにある不揃いな金物、割れた花瓶、古いガラス……何でも試してみましょう。

布地

布地の録音の場合、フォーリーアーティストは登場人物が動き回るときに布地が擦り合う音を収録します。これにはカーテンを開ける音や、ダンスホールで女性がドレスを翻す時の音など、布製のものが発するあらゆる音が含まれています。

実物から出る音が本物らしく聞こえるとは限らない

タバコの箱からセロハン包みをむしり取る音と、火のついたタバコのジュッという音が似ているとは思いも寄らないでしょう。しかし、映像制作者が聞いている音は、現実の世界で聞こえる音とは違うようです。「実物から出る音がいつでも本物らしく聞こえるとは限りません。映画では銃が動くたびに音がしますが、現実にそんなことは起こらないのです」（Coffeyさん）

実生活ではありえない何かの音を創作しなければならないことがよくあります。「ポテトチップスの袋を手に取って開ける音はご想像通りです。でも、吸血鬼が心臓に杭を撃ち込まれて灰になるときの音は、どのように聞こえるでしょう？」（Roeschさん）

「経験を積むごとに、ひとつの効果音でも、最適な音をいろいろな方法で作れることがわかってきました。何が正しい、何が間違っているという問題ではないのです。どの方法ならうまくいくかがすべてなのです」（Barbanellさん）

一般的にフォーリーサウンドで使われる手法には、次のようなものがあります。

• 暴力や流血の表現：野菜と生肉は身体から出る音を出すのにぴったりです。「セロリは骨折を表現する場合に便利です。パスタも同様に使えます」（Roeschさん）

• 葉や土の表現：優秀なフォーリーのスタジオには、思いつく限りの歩行環境に加えて、土を入れた穴があり、水を入れて泥を作れるようになっています。丈の短い草の音が必要なら人工芝を使い、丈の高い草や乾燥した葉の音が必要なら、古いフィルムテープでざわざわした音を表現します。

• 氷や雪の表現：雪の場面では、枕カバーに米やコーンスターチをぎっしり詰めたものが使えます。コーンスターチでキュッキュッという雪の音、米でザクザクいう雪の音を表現します。

• 水とお湯の表現：水を注ぐときと、お湯を注ぐときでは音が違います。液体の音を模倣するときは、できるだけ正確に表現しましょう。

Adobe Auditionでフォーリーエフェクトを作成する

Adobe Auditionを使って、映像に効果音をつけてみましょう。フォーリー効果音の録音開始準備ができたら、Auditionに動画をインポートします。そうすると映像トラックと同期しながらサウンドを録音できます。動画トラックを確認しながら効果音を直接Auditionに録音して、タイミングを合わせていきます。Auditionのマルチトラックエディターでは、録音した個々のクリップが自動的にWAVファイルとして保存することができます。

作品内の音を維持する

フォーリーの録音を開始する前に、プロダクションサウンドエフェクト（PFX）トラックを聞いてください。PFXは、制作中にセリフを録音するマイクから拾った音のことです。PFXトラックの中に、重要な音、たとえば登場人物が鍵をジャラジャラ鳴らす音などが入っていることがあります。フォーリートラックでは、こうした音をできるだけ正確に一致させます。

マイクと仕事場

マイクは2本用意しましょう。1本は、ショットガンマイクまたはマイクブームを音を出す方向に向けて設置し、もう1本はダイアフラムのコンデンサーマイクを離れた場所に設置して、反響音を拾います。典型的なタイムラインでは、ほぼ8トラックが歩行音、7トラックが小道具、1トラックが布地という割合になります。再生中や編集中に、聞いている内容を正確に把握できるよう、効果音のトラックに名前をつけるときは、細心の注意を払いましょう。