Adobe Illustratorで幾何学模様を描くには
丸や多角形、長方形などの基本図形を組み合わせ、特定のリズムで複製や変形を繰り返すことで生まれるのが幾何学模様です。繰り返す形状や色合いを変えることでアレンジがしやすく、各国の伝統模様をはじめとしたさまざまなバリエーションが存在します。模様の成り立ちを紐解きながら、デスクトップアプリやモバイルアプリを使って美しい模様づくりに挑戦してみましょう。
古くから装飾に取り入れられていた幾何学模様
幾何学模様の代表例として挙げられるのが、紀元前10世紀末ごろの古代ギリシアでみられる「幾何学様式」です。定規とコンパスのような道具を使って直線や円、多角形などを組み合わせて文様を生み出すというもので、陶器の装飾として施されていたのがはじまりです。
その後の天井や壁面のモザイクなどにも幾何学的な表現が見られ、紀元前の頃から身近な装飾として取り入れられていたのがわかります。
日本でも、弥生時代のころの土器には洗練された幾何学模様があしらわれています。
これらの幾何学的な表現は、のちの和柄や家紋のようなモチーフにも数多く引き継がれ、現代のデザインでも一般的に使われるものとなっています。シンプルな市松模様や、うろこ模様、麻の葉模様などはそのひとつと言ってよいでしょう。
伝統模様として受け継がれるものがある一方で、抽象的なデザインの幾何学模様はその時代に合わせてアレンジされ、繰り返しデザインのトレンドになっているとも言えます。
図形の数学的な動きによって生まれるパターンや、モノグラムを利用したパターンなど、シンプルな図形の組み合わせで生まれる幾何学模様はモダンなデザインを象徴するものとして、パッケージやテキスタイルなどのグラフィックに採用されています。
Adobe Illustratorで幾何学模様を描くには
一見すると細かく、複雑な処理を行なっているように見える幾何学模様ですが、よく観察するとシンプルな図形を組み合わせ、複製や変形を繰り返すことで構成されているのがわかります。
とはいえ、手作業で正確に基本図形を描き、同じリズムで変形処理を繰り返し行なうのは、面積の大きいものほど大変な処理です。幾何学模様のための図形描画や割りつけには、デジタルの力を駆使できるAdobe Illustratorを使うのがよいでしょう。
まずはIllustratorで楕円や多角形、長方形などの基本図形を描きます。
これらはすべてライブシェイプとして描画されるため、円から角度を指定して扇形を作る、多角形の角の数を変える、長方形の角の形をアレンジするといった作業は、「変形」パネルやウィジェットの操作だけで完了します。図形の角度を変えたり、回転コピーをしたり、基本図形にアレンジを加えて、幾何学模様の元となるモチーフを完成させましょう。
幾何学模様のモチーフが用意できたら、パターン編集モードやリピートグリッドなどの機能を使って、どのようにモチーフを敷き詰めるか設定します。タイルの種類やグリッド、行・列の反転などが編集可能なオプションとして用意されています。
どちらの機能を使った場合も、後から何度でも再編集が可能です。気になる部分があったら納得できる仕上がりになるまで細かく調整できる点も、デジタルならではの強みと言ってよいでしょう。
パターン作成に便利なIllustratorの「リピートグリッド」
Illustratorにはオブジェクトを一定の法則に従って繰り返す「リピート」という機能があります。
「リピート」には、円環状に繰り返す「ラジアル」、格子状に繰り返す「グリッド」、反転させる「ミラー」という3種類の処理が用意されています。この中でも、長方形のエリア内に選択中のアートワークを敷き詰めることに特化しているのが「リピートグリッド」です。
幾何学模様のモチーフを選択し、「オブジェクト」メニューの「リピート」から「グリッド」を実行するとデフォルトの設定でグリッドが作成されます。バウンディングボックス上のウィジェットをドラッグして間隔や大きさを自由に調整してみましょう。これらの設定にアクセスするには、「オブジェクト」メニューの「リピート」から「オプション」を選ぶ、またはコントロールパネルやプロパティパネルを使用します。
また、ダブルクリックもしくはコンテキストメニューから「選択リピートを編集」を選んで編集モードに切り替えれば、リピート元のオブジェクトをあとから編集することも可能です。
より自由に幾何学模様を作れるパターンスウォッチ
リピートグリッドで作成できるのは長方形のエリアのみですが、自由な形状の線や塗りに模様をつけたい場合はパターンスウォッチが便利です。
幾何学模様のパターンを作成するには、モチーフを選択して「オブジェクト」メニューの「パターン」にある「作成」を選びましょう。メニューからパターンを作成すると、自動的にパターン編集モードに切り替わります。このとき、リピートグリッドと異なり、アートワークに使われている複数の線や塗り、効果やブラシなどは分割されてしまう点に注意しましょう。
パターン編集モード中に表示されるパターンオプションパネルでは、タイルの種類や大きさを変更できます。モチーフに合わせた設定を行なえば、幾何学模様風のパターンの完成です。スウォッチパネルでパターンのサムネイルをクリックして、オブジェクトの線や塗りに自由に適用しましょう。
作成したリピートグリッドやパターンに使われているカラーを変更するには、「オブジェクトを再配色」を活用するのがおすすめです。
色を変えたいオブジェクトを選択し、「編集」メニューにある「カラーを編集」から「オブジェクトを再配色」を実行するとダイアログが表示されます。
このダイアログにはアドビのAI技術・Adobe Senseiの技術を活用して、画像や別のアートワークから色を抽出する「カラーテーマピッカー」、重み付けを変更する「目立つカラー」といった機能が表示されていますが、数値指定などで正確に色をコントロールしたい場合は「詳細オプション」をクリックしてダイアログを切り替えましょう。
「オブジェクトを再配色」では、線や塗りなどの属性に関係なくカラー単位での編集が可能です。カラー値を直接指定する、カラーホイール上をドラッグする、ハーモニールールを適用するなどの方法で、カラーバリエーションをかんたんに作成することができます。
なお、「オブジェクトを再配色」はリピートグリッドに直接実行することはできません。リピート編集モードに切り替え、グリッドのオブジェクトをすべて選択した状態で実行すると、カラー変更がグリッド全体に反映されます。
写真から幾何学模様のパターンを作れるAdobe Capture
Adobe Captureはスマホのカメラを通じて素材を作成できるモバイルアプリです。ブラシやシェイプ、カラーテーマなどのほか、Adobe PhotoshopとIllustratorで利用可能なパターンを作成できます。
iOSまたはAndroidでAdobe Captureを起動して「パターン」に切り替えると、そのときカメラに写っている被写体でパターンがプレビューされます。
画面上部のボタンからパターンの色数変更やラスタライズ・ベクター切り替えなどが可能で、エフェクトを変更してさまざまなデザインを作ることができます。作成したパターンはCCライブラリに保存して、デスクトップアプリケーションで利用しましょう。
Adobe Captureでは、その時カメラに写っているものだけではなく、カメラロールなどに保存された画像からパターンを作成することも可能です。何気なく撮った写真から美しいパターンが作成できないか、さまざまな設定を試してみるのがおすすめです。
llustratorやAdobe Captureを使えば、単純な図形をすばやく組み合わせて、幾何学模様やテキスタイル、パターンをかんたんに作ることができます。ひとつの図形から、または身近にある風景、被写体から、自分だけの模様をデザインしてみましょう。