鉛筆でデッサン・鉛筆画を描いてみよう

あなたが一番最初に手にした筆記用具はなんでしょうか? 多くの人は「鉛筆」と答えるのではないでしょうか。書くうちに芯はすり減り、削ってはまた使う。短くなれば短くなるだけ、勉強をした証と誇らしく思った人もいるでしょう。

一般的な筆記用具として知られる鉛筆ですが、美術の世界では立派な画材。基礎的な描画技術を高めるためのデッサンだけでなく、鉛筆そのもので作品を作り上げる鉛筆画、鉛筆アートなど幅広く使われています。ここでは画材としての鉛筆の特徴、魅力を紹介します。

筆記用具としての鉛筆、画材としての鉛筆

鉛筆には芯の硬さ、濃さによっていくつかの種類があります。

芯が硬いタイプにはH(Hard)、芯が柔らかく色濃く描きやすいタイプにはB(Black)の文字がつき、硬いほうから、10H…5H…H・F・HB・B…5B…10B、と非常に数多くの種類が用意されています(メーカーによって種類が異なります)。

筆記用具として鉛筆を使う場合、多くはHB、B、2Bの鉛筆を使っていたのではないでしょうか。

しかし、鉛筆を画材として使うときには、色の濃淡や線の太さをより細かくコントロールするため、多くの、ときに20種類もの鉛筆を使います。その結果、一種類の鉛筆では描きだすことができない、繊細な階調と緻密な表現を可能になるのです。そう考えると、いわゆる筆記用具としての鉛筆(HBやB)は画材として使われることもあると言えますが、あくまであまたある道具の一部であり、それだけでは豊かな表現は難しいと言えるでしょう。

実際にBとHでは表現にどのような違いが出るのでしょうか。

下の写真は10Bの鉛筆と9Hの鉛筆で線を描いたものです。10Bの鉛筆は芯が柔らかいため、力を少し入れるだけで芯が崩れ、粒子が紙に移ることで濃く、太い線を描くことができます(写真上)。芯を長く出すことで紙と触れる芯の面積を広くしていくと、太い線=面として描くこともできます。一方、9Hの鉛筆は芯が硬いために細く削ることでシャープで細い線を描くことができる、というわけです(写真下)。

陰影を面として構成していく際にはBの鉛筆で濃淡をつけていき、Fの鉛筆でディテールの調整を行なうことで仕上げていく、そうした使い分けによって一枚のデッサン、鉛筆画が描かれていきます。

デッサンに使う道具としての鉛筆

鉛筆はデッサンにおいて木炭と並んで一般的な画材です。

鉛筆デッサンでは先ほど触れたように硬い/柔らかい、薄い/濃いという鉛筆の特徴を使い分けて描いていきますが、鉛筆以外にも描いた線、面を消すための消しゴム(練り消しゴム)、色をぼかすための擦筆(さっぴつ)という道具などが使われます。

擦筆は描いた線や面の上をこすって使用する紙製の筆で、B系の柔らかい鉛筆を使って描いた部分に擦筆でこすると、紙に乗せた粒子が紙になじみ、自然な階調に仕上げることができます。

鉛筆デッサンや木炭デッサンでぼかすときは指でこするのでは? と思うかもしれません。しかし、指でこすると指の脂が紙や色材に移ってしまい、その上に画材を乗りにくくなるという難点があるのです。そのために油分を含まない擦筆を使うことで、筆跡を消し、粒子だけを自然に紙に定着させています。擦筆には太さによりいくつかの種類があり、ぼかしたい面、弱めたい色の広さによって使い分けていきます。

紙に対してどう鉛筆を当てていくかによっても表現を変えることができます。

たとえば、芯を長く出した鉛筆を寝かせると面として描くことができ、細く削った鉛筆を立てると細い線として描くことができます。どのような硬さ、濃さの鉛筆を、どう削り、どういった角度で紙に当て、どのくらい力を入れるか。鉛筆による表現はそうした選択の蓄積によって生み出されているのです。

デッサンと鉛筆画

鉛筆を使った絵には習作としてのデッサン、模写もあれば、作品としての鉛筆画もあります。

同じように精密、緻密に見える絵でもその間にはどのような違いがあるのでしょうか。答えはシンプルで、描いた本人が習作として描いたか、作品として描いたかという意図に依ります。SNSでも、鉛筆で描かれたまるで写真のような人物画、風景画がたびたび話題になりますが、デッサンの延長としてこうしたリアルな絵を描くこともあれば、スーパーリアルを作風として作品を作るということもあるでしょう。いずれにせよ、それが鉛筆画としての作品なのかどうかは本人次第ということになります(なお、鉛筆画で数々の作品を残した作家も存在します)。

鉛筆画(作:塩澤海斗)

iPad+Frescoで画力のトレーニング

絵が上手くなりたい、イラストが上手くなりたいというとき、必要な訓練にはどのようなものがあるでしょうか。一般的にはデッサンと模写がよく画力の上達のために必要な訓練として挙げられます。

デッサンは物事を注意深く観察し、空間、質感、陰影を含めた対象の見え方を正確に捉えるための、目と手の訓練とも言える作業であり、鉛筆画に限らずすべての造形、表現、デザインの基本となるスキルです。一方、模写は見本と同じように描くことでその表現方法を学ぶものと言えます。いずれも大切な訓練ですが、これから始めてみようという人は、まずデッサンから始めてみるとよいでしょう。

デッサンには「これを知っていればうまくなる」というなお手軽なコツはありません。また最終的に人物画やキャラクターイラストを描いてみたいからといって、最初から人物デッサンに取り組んでしまうと、思うように描けない難しさに圧倒されてしまうかもしれません。

デッサンのコツはとにかくよく見て、何枚も描き続けること。これしかありません。最初は「テーブルの上に置かれたリンゴ」のようにシンプルなモチーフを選ぶとよいでしょう。輪郭ばかりを意識して描くのではなく、正確な形、光の当たり方、影の落ち方、それによる質感の変化等を意識しながら、空間を写し取っていきます。慣れてきたら、静物以外にも、風景、植物、動物、人物というように、さまざまなモチーフにチャレンジしてみましょう。訓練を積むことで鉛筆だけでさまざまな質感の違いを表現できるようになります。

鉛筆デッサン/デッサンには質感の異なるモチーフを選択し、描き分けられるように訓練をする(作:塩澤海斗)

これまできちんとした鉛筆デッサンを学んだことがない人にとっては、いざやってみようとしても、道具を揃えることに躊躇してしまったり、必要であることはわかっていても最後の一歩が踏み出せずにいるかもしれません。

そんなときは、iPad ProとApple Pencil、そして鉛筆画はもちろん油彩や水彩も再現できるスケッチアプリ・Adobe Frescoを試してみてはどうでしょうか。線の太さや濃淡、筆の角度や強弱まで、手描きと近い感覚を再現できるだけでなく、鉛筆や木炭はもちろん、水彩や油彩まで好きな画材で好きなだけ描くことができます。でも、実際にデジタルでの練習は画力の向上につながるのか、不安に思う人もいるかもしれません。

「デジタルとはいえ画材のひとつなので、鉛筆とは素材こそ違いますが描画材が違うというだけですから、基本的なデッサン力は身につくと思います。形の捉えかたや色の濃度などの勉強になるはず。デジタルと鉛筆を交互に使いながらそれぞれの画材に慣れることが一番だと思います」(東京造形大学 助教 宮﨑勇次郎さん)

「明暗の調整をする力、自然なトーンをのせる力は養われると思います。失敗してもすぐに元の状態に戻すことができますし、途中の画像をコピーして違う濃さをのせてみて、どちらが最適かどうか比較するというようなことも簡単ですよね。紙や鉛筆などの道具を揃える必要もなく、道具が減ることもありません。デジタルの作品なら劣化させることなく残すことができるのもアナログにはないメリットですね」(東京造形大学 塩澤海斗さん)

一方でアナログでしか得られないものもあります。

「B系の鉛筆がどれくらいぼかしやすいか、H系の鉛筆がどれぐらい硬いのか、といった道具を扱う感覚は、実際に鉛筆で描いてみないとわかりません。紙や鉛筆の質感や描く時の力加減などの感覚を楽しむことができるのはアナログで描く魅力のひとつです。

また、手で直接、紙に描いて完成した作品は、それひとつしか存在しないもの。コピーして増やせるものではありません。だからこそ、その作品の価値を高く感じられることもアナログならではだと思います」(東京造形大学 塩澤海斗さん)

「紙ならではの素材感はデジタルでは得られないものです。ただそれも描画材の違いにすぎません。アナログでもデジタルでも、一枚の絵を描きあげる喜び、達成感は変わらないと思います」(東京造形大学 助教 宮﨑勇次郎さん)

描きたいときに、描きたいものを、描きたいように描くことができるのは携帯できるiPad ProとFrescoならではの魅力。デジタルで練習を重ねて、アナログで鉛筆と紙の質感を楽しみながら描く。それぞれのメリットを生かして、自分ならではの鉛筆画にチャレンジしてみませんか?

(協力:東京造形大学 絵画専攻領域)

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