効果的なトーンの使い方

モノクロの漫画などで、白と黒の間の中間調を表す部分をよく見ると、細かい黒い点の集まりで中間調が表現されていることがわかります。アナログな手法で作成された漫画の場合、この中間調を表現する点模様のほか、規則的な模様の多くが「スクリーントーン」などの名称で呼ばれるフィルム状のシートが貼り込まれています。

現在、漫画制作の現場ではデジタルな手法が主流になっているため、トーンの効果は画像ソフトの機能によって加えられることが増えていますが、「どんな場合に」「どんな種類のトーン効果を」「どのように入れればよいのか」という基本は、アナログもデジタルも変わりません。今回は、実際の漫画誌面などを例に、効果的なトーンの使い方、トーンの選び方、アナログとデジタルで変わるトーンの貼り方を解説していきます。

トーン(スクリーントーン)とは?

トーンは、網点や万線をはじめとするさまざまな模様を印刷したフィルム状の透明な圧着シートです。

よく知られる「スクリーントーン」という名称は、イギリスのレトラセット社の商品名です。日本ではトーンを販売する会社が、各社固有の商品名をつけています。

この記事では、特段の事情がない限りは「トーン」という呼称で統一します。

網点・万線とは

網点とは規則的に並んだ小さな円形の点、万線とは規則的に並んだ平行線のことです。網点や万線のトーンには、線数やパーセンテージといった数値で密度や濃度の段階が多数あるため、必要に応じて使い分けます。網点の濃度が徐々に変化したグラデーションのトーンもあります。

トーンの柄・模様の種類

そのほか、チェックや星、千鳥といったパターン模様の図柄、集中線や点描などの効果用の図柄、木目や砂目などのテクスチャの図柄、バラなどの花や鳥の羽、レースなどのイラストの図柄、空や水面、森林や街並みなどの背景用の図柄など、非常に多くのバリエーションがあります。

また、黒く塗られた部分に白で模様を入れたり、画面をハーフトーン見せるなどの特殊な効果をつけたりするために使う白インキで印刷されたトーン(ホワイトトーン)もあります。

中間調や陰影を表現するほか、服の模様や建物などのテクスチャを表現したり、背景効果をつけたりと、トーンは漫画やイラスト制作のさまざまな場面で活躍します。

トーンの意義と効果

トーンを貼る前と後/『コミック版世界の伝記35 ゴッホ』(漫画:フカキ ショウコ、監修:木村泰司/発行:ポプラ社)より

白と黒のモノクロ2階調の漫画で、白黒以外の色や陰影を表現するには、もともとは網点や線、カケアミなどを手で描き入れていました。服などの模様も同様に手描きです。

トーンを使うことによって、こうした中間階調や陰影、細かい模様などを、誰でも簡単に表現できるようになりました。

図は19世紀のヨーロッパを舞台にした漫画の一部で、左はトーンで効果を入れる前のもの、右はトーンで効果を入れたものです。トーンの効果が入ることによって、画面にメリハリがつき、リアリティも増しています。

3つのコマには、2人の男性が着ている服や小物、ソファ、クッションといった5種類の布地が登場していますが、トーンで差別化することで、それぞれ別々の色や素材感ついています。

また、1コマ目の男性の服装が、共布でのくるみボタンがついたジャケット、ベスト、パンツが同じ布でできた三つ揃えであることなども同様にわかります。

漫画などに登場するキャラクターの場合、男性は女性に比べて服装のバリエーションをつけづらく困ることもありますが、トーンでスーツの色や素材感を変えたり、ネクタイの柄を変えたりすることで、変化をつけることができます。

おしゃれなキャラクターを表現したい場合は、服装のトーン選びを工夫してみましょう。

トーンの選び方・使い分け

トーンの選び方・使い分けを紹介します。線数やパーセントの違いを理解することがポイントです。

線数とは

最もよく使われる網点トーンや万線トーンは、線数とパーセンテージ(万線は線の太さを示すミリメートル等の単位)によって、点の大きさや線の太さ、密度、濃度などが異なります。

線数とは、1インチ(25.4ミリメートル)の間にいくつの(線)が入るかを示すものです。

線数の数値が大きくなるほど、点や線の数が多くなります。網点のパーセンテージは、1インチ四方に黒い部分が何パーセントを占めているかを表しています。パーセンテージが高くなると、濃度が高くなっていきます。具体的には点の大きさが大きくなります。

万線の場合は、線が太くなることで、濃度が高くなります。線数とパーセンテージの表記はメーカーによって異なりますが、網点トーンは「60L/20%」、万線トーンは「60L/0.2mm」のように書かれていることが多いです。Lは(LINE)の意です。

線数の選び方・使い分け

では、線数の選び方や使い分けはどのようにすればよいのでしょうか。市販されているトーンの線数は、10L〜100Lくらいの幅がありますが、実際に漫画などで使われる網点トーンの線数は、40L〜60Lが中心です。

これは、網点トーンで陰影などを表現したい場合、線数の数値が小さすぎると、隙間が多いため濃淡を表現する用途に適さないことと、線数の数値が大きすぎると印刷の際に網点が潰れてしまうことが理由です。

重ね貼りをするときはモアレに注意

アナログでトーンを貼る場合、陰影などを表現するために網点トーンを重ね貼りするというテクニックを使うことがあります。幾重にも陰影がつくことで、物を立体的に見せたり、重厚感を強めたりすることができます。

ここで注意したいのは、重ね貼りをする網点トーンは必ず同じ線数のトーンを使うことです。ちがう線数のトーンを重ねると、モアレという干渉模様が現れます。

重ねた網点トーンの角度が異なっていても、モアレが発生します。角度によって現れるモアレが異なるため、あえてモアレを効果にする表現方法もあります。

パーセントの選び方・使い分け

パーセントの選び方や使い分けは、図版内で使いたい用途の濃さに準じます。白や黒以外の色をどんな濃さで表現すればよいかは、Photoshopなどの画像加工ソフトで、フルカラーのイラストや色見本をグレースケールにして目安にするとよいでしょう。

原稿と印刷物とのサイズの差に注意する

ここで注意したいのは、原稿と印刷物とのサイズの差です。原稿が原寸で印刷される場合は、実際の原稿の見た目の濃度を大まかな基準とすればよいですが、縮小される場合は、原稿よりも濃く印刷される可能性が高いため、その分、濃度を低くしましょう。

原稿と印刷物の濃さの違いは、印刷する用紙や印刷機によっても変わることがあるため、注意が必要です。

トーンの貼り方

トーンの貼り方はデジタルかアナログ原稿で変わります。

デジタルトーンの貼り方

まず、画像加工ソフトを利用したデジタルトーンの貼り方を紹介します。

Photoshopなど画像加工ソフトを使う

漫画制作をデジタル環境で行う場合、Photoshopをはじめとする画像加工ソフトを使うことで、漫画原稿にトーン効果を加えることができます。

トーン効果のあるブラシなどを利用する

グレースケールにした部分をモノクロ二階調でハーフトーンスクリーンに加工して網点化したり、トーンパターンの画像を指定範囲に貼り込んだり、ブラシを使って描き込んだりと、さまざまな方法があります。

Photoshopユーザー向けに無償提供されているKyleブラシでは、トーンの代わりになるような表現が可能なものがいくつも用意されています。

デジタルトーンのメリット

デジタルトーンとも言われる画像加工ソフトによるトーンを使うと、アナログでトーンを貼るよりも時間が短縮できたり、簡単にやり直しができたりと、とても便利です。細かいことですが、原稿にカッターによる傷やトーンくずによる汚れがつかないことも、メリットのひとつです。

アナログトーンのような多種多様の模様が、デジタルトーンでも素材として販売されているため、緻密な模様が入った衣服や建築物を描いたり、点描やベタフラッシュを入れた印象的な画面を演出したりすることができます。

消しゴムツールやブラシツールで削りやぼかし効果を加える

また、デジタルトーンも、アナログトーンのように、消しゴムツールやブラシツールで削りやぼかしといった効果を加えることができます。

オリジナルのトーン効果をつくるのも

市販品ではなく、自分でデジタルの画像パターンを作成したり、手描きした模様や画面効果を取り込んで作成したりしたデジタルトーンとして使うことで、ほかにはないオリジナリティあふれる画面をつくることも可能です。いろいろと工夫をして、自分の絵柄や漫画のテイストに合ったトーン効果を使いこなせるようにしましょう。

アナログ原稿でのトーンの貼り方

次に、アナログ原稿でのトーンの貼り方を紹介します。トーンを貼るための道具の準備やトーンの切り貼りがポイントです。

カッター、ヘラ、定規を準備する

アナログ原稿でトーンを貼る際に最低限必要なものは、トーン、カッター、ヘラや定規など圧着に使う道具の3つです。

カッターは、通常の文房具として使われているものは刃の角度が60度ですが、トーンを切ったり削ったりする場合は、45度や30度のカッターを使用することもあります。また、トーン用のカッターやデザインナイフといった細かい作業に適したカッターもあります。

このほか、トーンを削る際にはトーンの削りかすをとるための練り消しゴムや、やわらかい削りの効果を出したい場合は表面が硬くて粗い砂消しゴムなどを使う場合があります。

大体の大きさに切って貼りたい場所に置く

(イラスト:フカキショウコ)

今回は人物の茶色い髪と眉毛を表現するためにトーンを貼ります。最初に、半透明の台紙がついた状態で原稿の上にトーンを重ねて、だいたいの大きさに切り取ってから、切り取ったトーンを貼りたい場所に置きます。ある程度の大きさに切った方が作業しやすいのと、トーンの裏面には仮着するための接着剤がついているため、使わない部分にホコリなどがくっつかないようにするためです。トーンは薄いフィルムなので、あまり力を入れて切ると、台紙や原稿まで切ってしまいます。力加減には気をつけましょう。また、カッターの切れ味が悪いと、切るために力を入れてしまいがちなので、切りにくいと思ったら、カッターの刃を交換してみてもよいでしょう。

一番外側の線に沿ってトーンを切る

(イラスト:フカキショウコ)

トーンを貼る部分の一番外側の線に沿って、トーンを切っていきます。細かい部分をうまく切り抜くのが難しい場合は、大まかな形に切って残しておいても構いません。必要な部分よりも内側に切ってしまうと、トーンの網点が欠けた状態になってしまうため、その後の貼り足しなどの細かな補正が必要になりますが、大きめに残った部分は、仕上げの際に削ることで比較的簡単にフォローできます。

トーンを取り外す

適当な部分で切ってトーンを取り外しても構いませんし、最後にまとめてトーンを取り外しても構いません。

トーンを削る

(イラスト:フカキショウコ)

髪の生え際はトーンとの境界をぼかしたいため、カッターをねかせて網点をけずっておきます。トーンを削った場合は、原稿を汚さないように練り消しゴムでこまめにトーンのけずりかすを取っておきましょう。

トーンの抜け、欠け、ずれがないかなどを確認する

(イラスト:フカキショウコ)

髪と眉のトーンが切り抜けました。トーンの抜けや欠け、ずれなどがないかなどを確認します。

トーンをこすって定着させる

問題がなければ、仮着状態のトーンをしっかりとつけるために、トーンの上に台紙をあてて、ヘラなど平なもので丁寧にこすります。トーンがしっかりと定着したら完成です。削りを入れる場合は、定着させてから削ると細かい作業がしやすくなります。

(作画・取材協力:フカキ ショウコ/記事内のすべての画像は『コミック版世界の伝記35 ゴッホ』漫画:フカキ ショウコ、監修:木村泰司/発行:ポプラ社 の本文原稿または制作途中の原稿を使用しています)

Illustratorを始めましょう。

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