フォトバッシュとは?Photoshopを使った作成手順と注意点を紹介

「フォトバッシュ」は、複数の写真を合成し、色味や質感を調整してイラストを描く技法です。写真をもとに作成するためリアルさを演出でき、さらに素材の組み合わせ方や加工の仕方によって独自の世界観を表現できます。この技法は架空の世界や幻想的な風景をリアルに描くのに向くため、漫画やゲーム、映画などの完成イメージを作成する際によく用いられます。
そのためフォトバッシュでは、異なる写真素材を違和感なく合成する必要があります。
この記事では、画像編集アプリ「Adobe Photoshop」を使って、フォトバッシュでイラストを作成する方法について解説します。
Photoshopを使えば、写真の切り抜きや加工が自由にできます。また、切り抜いた写真素材の境界線を、AIの機能を使ってカンタンに馴染ませられます。そのため、ツギハギ感のない自然な見た目に仕上げられます。
なお、Photoshopは7日間無料で体験が可能です。本記事の内容を参考にして、ぜひフォトバッシュでのイラスト作成をお楽しみください。
フォトバッシュとは
「フォトバッシュ(Photobash)」は、複数の写真を組み合わせて、イラストやアート作品を作る技法です。写真素材に含まれる陰影や色彩などをそのまま取り込めるため、非常にリアルな質感を再現できます。また、写真素材を使用することで、ゼロから細部を描く手間が省けます。
そのため、イラストや漫画の背景、映画やアニメのコンセプトアートなどにおいて、高品質なビジュアルを作る際に利用されています。
コラージュとフォトバッシュの違い
フォトバッシュと似たイラストの作成方法に「コラージュ」があります。
両者はイラスト作成に使う素材が異なります。
- コラージュ:写真やイラストのほか、布や雑誌の切り抜きなど様々な素材を使う
- フォトバッシュ:写真素材を使う
「コラージュ」では写真以外の素材も使い、素材の質感や色味を活かして作品を作ります。
一方「フォトバッシュ」では、主に写真素材を使います。写真のリアルさを残しながら、写真を合成したりフィルターを使って写真の質感を変えたりすることで、イラストを作ります。
Photoshopを使ってフォトバッシュでイラストを作る方法
ここからは画像編集アプリ「Adobe Photoshop」を使って、フォトバッシュを用いたイラストの作り方を解説します。Photoshopは世界中のクリエイターに使われている、PC向けの画像編集アプリです。画像の補正やエフェクトの追加はもちろん、AIを使った画像合成など多様な画像編集が可能です。
Photoshopには、デスクトップアプリ版とweb版があります。ここではデスクトップアプリ版を使って、フォトバッシュをする方法を解説します。
以下のリンクからアプリをダウンロードして、7日間の無料体験をお試しください。
なお「Adobe Illustrator」というツールでもイラストを作成できます。しかし、フォトバッシュのように画像の色味や質感を調整したり、合成したりする作業が多い場合は、Photoshopのほうが作業しやすいです。
参考:Illustrator と Photoshopの違い:最適な選び方
そのため、ここからは、Photoshopで以下のイラストを作る手順を紹介します。
大きく5つの手順に分けて、作り方をみていきましょう。
- コンセプトを決める
- 写真素材を選ぶ
- 写真を加工する
- 写真を合成する
- 質感を統一させる
【手順1】コンセプトを決める
まずは、どんな世界観のイラストを作りたいのか「コンセプト」を考えましょう。
イラストを作る前にコンセプトを考えておくことで、構図や使いたい画像素材を定めやすくなります。
今回のイラストは、以下のコンセプトをもとに作成しています。
【コンセプト】
森の奥深く、切り立った崖の上に佇む城。森を抜けた旅人たちに安心感を与えつつも、どこか怪しげで近寄りがたいイメージ。
コンセプトを考えたら、ラフを作成し構図を考えましょう。
「近景」「中景」「遠景」に分けて、配置したい要素も大まかに描いておくと、後でラフを参考にしながら素材を配置しやすくなります。
ラフイメージは、四角や三角などの図形を使って描いたり、手書きで描いたりするなど簡易で問題ありません。同時に、コンセプトを表すためのライティング(光の当たり方)やカラーも考えておくと、後で画像編集を進めやすくなります。
【構図】
- 近景:暗めの木々を配置
- 中景:崖の上にある城を配置
- 遠景:森・山・空を配置
【演出】
あおりのパースで城を見上げるようなアングルにして、城の威圧感・大きさを表現
【ライティングとカラー】
- ライティング:夕焼けのようなバックライトで城を照らし、怪しさを表現
- カラー:暖色と寒色両方のグラデーションで城を照らし、温かさや安心感を与えつつ、冷たさや怪しさも表現
【手順2】写真素材を選ぶ
コンセプトが決まったら、イラストに使う写真素材を集めましょう。
以下の2点を意識して素材を選ぶと、後で加工しやすくなります。
- 似たパース(遠近感)の画像を選ぶ
- 似たライティング(光の当たり方)の画像を選ぶ
フォトバッシュでは、複数の写真素材を合成したときにツギハギ感が出ないよう、それぞれの素材の遠近感や光の当たり方を統一する必要があります。
例えば、城の画像は左から光が当たっているのに対し、背景の木の画像は右から光が当たっているように見えると、一枚のイラストとして見たときに違和感を覚えやすくなります。
同様に、各素材のパースやサイズ感があっていない場合も、ちぐはぐな印象を与えます。
後でパースや光の当たり方を調整するのは手間がかかるため、合成後に馴染みやすそうな画像素材を選んでおきましょう。
特にパースの調整には時間がかかります。
パースとライティングの両方を考慮して素材を集めるのが難しい場合は、パースが似た素材を優先して選びましょう。
写真素材探しに役立つ「Adobe Stock」と「Adobe Firefly」
フォトバッシュでは、自分が描きたいイメージと近い見た目の写真素材を使いましょう。イメージと写真素材の見た目が大きく異なると、思うようなイラストを作成できません。
例えば、日本の城と洋風の城では見た目が大きく異なり、表現できる世界観も異なります。
そのため、たくさんの素材を見て、自分のイメージに合う素材を選びましょう。
具体的には、次の2つの方法がオススメです。
1.「Adobe Stock」で写真素材を探す
「Adobe Stock」とは、数億点以上の画像素材を提供するストックフォトサービスです。
提供されている画像の多くはロイヤリティフリーです。
無料でたくさんの高品質な画像素材を使用でき、さらに有償プランを契約するとより多くの画像を使えます。
サブスクリプション形式の年間プランなら、30日間無料で体験ができます。
ぜひイメージに合う写真素材を選んでみてください。
2.「Adobe Firefly」で写真素材を生成する
なかなか素材を見つけられない場合は、無料で使える画像生成AI「Adobe Firefly」で画像を生成してみましょう。
Fireflyを使えば、テキスト(プロンプト)を入力するだけで高品質な画像を生成できます。
例えば、以下のように Fireflyにテキストを入力するだけで、洋風の城の写真をカンタンに生成できました。
Fireflyには、無料プランとプレミアムプラン(有料プラン)があります。
プレミアムプランなら、より多くの生成クレジットを使用でき、理想のイメージに合うまで画像生成を試しやすくなります。
FireflyはPhotoshopの開発元であるアドビが提供しており、クリエイターが安全に使えるよう設計されています。イメージに合った写真素材を見つけたいときは、ぜひFireflyも活用してみてください。
今回は、Adobe Stockから画像素材を選びました。
次の手順では、これらの素材を加工・合成し、実際にイラストを作成していきます。
【手順3】写真を加工する
まずはそれぞれの画像素材を、合成しやすい形に加工します。
ここでは、城の画像の背景を削除し、城だけを切り抜きます。
【手順】
- Photoshopで画像を開き、レイヤーパネルで画像のレイヤーを右クリックし、「スマートオブジェクトに変換」を選択
- 「選択ツール」で被写体や素材を選択し、レイヤーパネルの下部にある「レイヤーマスク」のアイコンをクリックして切り取る
【画像加工に役立つPhotoshopの機能】
- スマートオブジェクト
元の画像データを残した状態で、画像を劣化させずに画像の編集ができる機能です。画像の拡大や縮小、変形といった編集を繰り返しても、画質を落とさずに編集できます。
- 選択ツール
オブジェクト選択ツールや被写体選択ツールなど、自動的に被写体の境目を判断して範囲選択をするツールです。選択範囲の境界線の調整もでき、被写体をきれいに切り取れます。
- マスク
選択範囲を表示または非表示にする機能です。後から選択範囲の調整ができ、選択した境界線の微調整も可能です。
画像を切り抜いたら、以下のようにラフイメージに沿って画像素材を配置します。
【手順4】写真を合成する
続いて、切り抜いた画像を合成し、馴染ませます。
ここでは、以下の工程について解説します。
- 「自由変形」で素材の大きさやパースを調整する
- 「生成塗りつぶし」で境界線を調整する
- 「ブラシツール」でで背景の細部を描き足す
- 「レイヤーマスク」を使って透明感のある素材を足す
- 「色調補正」機能を使って光の当たり方や色味を調整する
- 遠近感を調整して奥行きを出す
「自由変形」で素材の大きさやパースを調整する
ラフイメージをもとに、切り抜いた画像素材の大きさやパースを調整しましょう。
Photoshopの以下の機能を使えば、画像素材をカンタンに変形できます。
- 自由変形:大きさや角度を調整できる
- 多方向に伸縮・遠近法:パースを調整できる
- ワープ:部分的に歪ませたり、カーブを描いたりといった変形ができる
各機能を使って写真を変形する方法については、以下の記事や動画を参考にしてください。
「生成塗りつぶし」で境界線を調整する
写真が重なっている境界線を馴染ませ、一枚のイラストとして自然な見た目になるように加工しましょう。
Photoshopの生成AIを使った機能のひとつである「生成塗りつぶし」を使えば、調整したい箇所を選択ツールで選択するだけで、周辺の画像素材に馴染むように自然に塗りつぶせます。
例えば、以下の左上にある画像の、林と空の境界線をブラシで塗りつぶすだけで、自動で右の画像のように加工できました。
「生成塗りつぶし」の使い方は、該当箇所を選択ツールで選択し、画面に表示されているバーの「生成塗りつぶし」をクリックしてキーボードの「Enter」キーを押すだけです。
なお、「Enter」キーを押す前に生成したい要素をテキストで入力すると、テキストで説明した要素を追加することも可能です。
例えば以下のように、草が生えている部分を砂の地面にカンタンに置換できます。
さらに「生成拡張」を使えば、生成AIを使って自動で画像を拡張できます。
使いたい写真素材の大きさが足りないときは活用してみましょう。
生成拡張の手順について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
「ブラシツール」で背景の細部を描き足す
草や木、地面などの複雑な造形やテクスチャは、「ブラシツール」に登録しておくと、違和感なくきれいに描けます。
例えば以下のように草の画像をブラシとして登録すると、線を描画した時に草の画像が複製されます。
登録した画像どうしの間隔や散らばり度合い(散布)、傾きの設定も可能です。
そのため、草花や地面、背景の木を描くために同じ画像をランダムに複製したい場合に特に役立ちます。
ブラシの使い方やカスタマイズの方法については、以下の動画を参考にしてください。
「レイヤーマスク」を使って透明感のある素材を足す
雲や霧、光といった透明感のある素材は、「レイヤーマスク」を使って合成してみましょう。
「レイヤーマスク」とは、画像のレイヤーに重ねるようなイメージで、画像を直接編集せずに、画像の質感を変えたり素材を追加したりできる機能です。
例えば、レイヤーマスクに霧の写真素材を使い、城の画像に載せるだけでカンタンに霧を追加できます。
上の画像では、色を重ねると白く見える「スクリーン」という描画モードで、霧の画像を載せています。描画モードは他にも以下のように複数の種類があります。表現したい見た目によって使い分けましょう。
- 乗算:下のレイヤーに色や暗さの情報を上からのせる(暗くなる)
- 加算:下のレイヤーに色や明るさの情報を上からのせる(明るくなる)
- オーバーレイ:下のレイヤーに色と明暗の情報を上からのせる(明るい所はより明るく、暗い所はより暗くなる)
- ソフトライト:オーバーレイよりも柔らかい印象で色と明暗の情報をのせます。
レイヤーマスクの詳しい使い方については、以下の記事を参考にしてください。
「色調補正」機能を使って光の当たり方や色味を調整する
画像素材を合成したら、各要素の光の当たり方や遠近感を調整しましょう。
「色調・彩度」「明るさ・コントラスト」「トーンカーブ」を使用して、画面全体の色や明るさを調整します。
- 色相彩度:色や彩度を調整
- 明るさ・コントラスト:明るさとコントラストを調整
- トーンカーブ:明るさやコントラスト・色調を調整
上記項目は、画面上部の「ウィンドウ」から「色調補正」パネルを開くと調整できます。先に紹介したレイヤーマスクを使うと、画像の一部分のみの調整が可能です。
Photoshopで色調やライトを調整する方法については、以下のページを参考にしてください。
遠近感を調整して奥行きを出す
各素材の色味などを調整できたら、「空気遠近法」を使って、画面全体に奥行きが出るように調整しましょう。
「空気遠近法」とは、遠くにあるものを淡い色合いで表現することで、遠近感を表す技法です。
遠くの木々を空と同じ色に近づけたり、かすんで見えるようにぼかしたりすることで、画面の奥行きを表現します。
この前にご紹介した「色調補正」の機能を使って、色味やかすみ度合いを調整しましょう。
【手順5】質感を統一させる
最後の仕上げに、イラスト全体に同じ質感の効果を加えましょう。
イラスト全体に、水彩絵の具で書いたような質感やざらつきといった共通の質感を加えることで、素材が浮いて見えにくくなります。
合成したイラストを画像データとして書き出し、その画像にレイヤーマスクで質感を加えます。以下の画像では、「グラフィックペン」や「インク画」といったフィルターを適用しています。
- 粒上:ノイズをつけ、夕日の温かみや影の怪しさを強調
- グラフィックペン:アナログ感を足す
- 塗料:カメラのレンズのようなボケ感を再現し、全体に柔らかさと温かさを足す
- エッジのポスタリゼーション:色数を減らし境界部分を強調し、イラスト調に加工
Photoshopでのフィルターの使い方については、以下のページも参考にしてください。このページでは「ドライフィルター」というフィルターを使って、写真を絵画風に加工する方法を解説しています。
全体に質感を足したことで、最終的に以下のように統一感のあるイラストに仕上がりました。
フォトバッシュでイラストを作成する基本的な手順は以上です。
Photoshopで使える生成AI機能も活用して、ぜひフォトバッシュを楽しんでくださいね。
写真素材を使う際の注意点
フォトバッシュに使う写真素材を選ぶときは、素材の販売元(配布元)の商用利用や二次創作に関するルールを確認しましょう。
なぜなら、基本的に写真や画像には著作権や肖像権があるからです。
ストックフォトサービスなどから素材を取得する前に利用条件をよく読み、フォトバッシュに使用しても問題ないかを確認してください。著作権や肖像権が心配な場合は、自分で描いたイラストや撮影した写真を使いましょう。
Adobe Stockの使用については、以下の利用規約を参考にしてください。
Photoshopでフォトバッシュを楽しもう
フォトバッシュで特に難しいのは、異なる写真素材を自然な見た目になるように加工することです。そんな難しい加工も、Photoshopの生成AIを使った「生成塗りつぶし」や「生成拡張」を使えばカンタンにできます。
Photoshopは7日間無料で体験ができます。
この記事で紹介した機能や加工をぜひ試してみてください。
Photoshopのプランにはいくつか種類があります。
この記事でご紹介したAdobe StockやAdobe Fireflyの有償版が使えるプランもあるので、作業したい内容にあわせて選んでみてください。