プライバシー保護のために必要な写真編集
スマ―トフォンやデジカメで写真を撮って、SNSやブログなどWeb上にアップロードする。これは、今や誰もが日常的に行っていることです。しかし、写真によってはそのまま使用すると、通りすがりの人の顔が入っていて肖像権の侵害になってしまったり、個人情報や企業の機密情報などが写り込んでいて情報漏洩につながったりする危険性もあります。そうならないためには、必要に応じて写真を編集しなければなりません。
今回は、フォトグラファーの長野竜成さんに、どういったものが写り込むと情報漏洩につながるのか、写っていた場合はどのように編集すればいいかなどについて教えていただきました。
目次
- 写真への写り込みによって、情報漏洩や肖像権侵害につながる危険性と注意点
- 他者のプライバシーや肖像権の侵害
- 本名・住所など個人情報の漏洩
- 会社の機密情報の漏洩
- 写真編集で隠すべき情報
- 外の景色
- ガラス・金属の写り込み
- 書類・PC画面に写る情報
- EXIFファイル
- 情報を隠すための方法情報を隠すための方法
- スタンプ
- 修復ブラシ
- モザイク
- ぼかし
- 塗りつぶし
- トリミング(切り取り)
- EXIFファイルの削除
- 写真編集ソフトを活用して、安全に写真を楽しもう
写真への写り込みによって、情報漏洩や肖像権侵害につながる危険性と注意点
現在は、写真が高画質化しているため、小さく写っているものも拡大すればはっきり見えてしまいます。また、ぼんやり写っているものを、編集ソフトやアプリで鮮明にすることも可能です。そのため、撮影時にも十分注意しなければ、何気なく撮影した写真が重大な情報漏洩につながったり、肖像権の侵害になったりする恐れがあります。ここでは写真の写り込みがトラブルにつながりかねない例をご紹介します。
他者のプライバシーや肖像権の侵害
多くの人がスマホを使うようになった現代では、スマホで気軽に写真や動画を撮影できるようになりました。このことにより、本人の許可なく撮影者によって写真が拡散されてしまうという問題が増えています。知人・友人であっても、許可なく写真をWeb上にアップロードすれば、ケンカやトラブルの元になることもあるでしょう。例えば、無断で友人とライブに行った写真をSNSにアップしたとします。もし、その友人が会社に別の理由を伝えて休みを取っていたとしたら、その写真から友人の嘘がバレてしまう可能性もあります。そうなると友人の立場がありませんから、勝手な投稿は避けたいものです。
また、通りすがりの人でもその人の顔がはっきりとわかる写真を無断でSNSなどに投稿するのは危険です。その日・その時間にその人がそこにいるのを知られてしまうことが、何か大きな問題につながる可能性もあります。そうなると、最悪の場合、プライバシーや肖像権の侵害を訴えられることもあり得るので注意が必要です。まずは、撮影時に他人が極力写り込まないように注意し、もし写っていた場合は顔がわからないように編集しましょう。知人の場合は、Web上にアップロードする前に掲載許可を取るとスムーズです。
本名・住所など個人情報の漏洩
鏡やガラスに顔が写り込んでいたり、写真の隅に写っていたハガキなどに書かれた住所が見えてしまったりと、写真から本名や住所、電話番号などの個人情報が漏洩する可能性があります。また、周辺の景色や看板から自宅の住所が特定されることもあるので、撮影時にも注意が必要です。
【長野さんのワンポイントアドバイス】
たとえ顔が写っていなくても、バッグやスマホケースなどから個人が特定される例もあります。いつも身につけているものや特徴のある持ち物などは、写真に写り込まないように配慮しましょう。
会社の機密情報の漏洩
撮影時にパソコン画面や仕事の書類が写り込むと、重大な機密情報の漏洩につながる恐れがあります。撮影の時点でパソコンが写り込みそうなら、そのパソコンの持ち主に声をかけて写っても問題ない画面に切り替えてもらったり、周囲に書類がないかを確認したりといった気配りも大切です。
写真編集で隠すべき情報
撮影した写真に次のような情報が写り込んでいた場合は、編集で消したり隠したりする必要があります。写り込んでいないかの確認をしましょう。
外の景色
窓からの景色や背景から、自宅や勤務先などの個人情報がわかってしまうこともあります。周辺のお店や病院などの看板、地名が記載されている電柱などが写っていないか確認を。
ガラス・金属の写り込み
ガラスや鏡、金属など、反射性のあるものに、個人情報や機密情報につながるようなものが写り込むことがあります。そういったものが写真内にある場合は、画像を拡大して写り込んでいないかチェックしましょう。
書類・PC画面に写る情報
意図せず写り込んだ書類やハガキ、パソコンやスマホの画面なども、拡大すると内容が読める場合があります。「大きく写っていないから大丈夫」と思わずに、小さくても写り込んでいた場合は消したり隠したりしましょう。
EXIFファイル
ほとんどのスマホやデジカメでは、写真撮影をすると「EXIF(Exchangeable Image File Format)ファイル」が付随します。これは、露出レベルや撮影日時、撮影場所、使用した設定など、画像の情報がすべて書き込まれているデータファイルです。
そのため、EXIFファイルが付随したままの画像をWeb上にアップロードすると、その画像をダウンロードすれば誰でも画像の情報を見ることができてしまいます。主なSNSでは自動でEXIFファイルを削除してくれますが、全てのSNSで削除されるわけではありません。
個人情報の漏洩につながる恐れがあるので、Web上にアップロードする写真はEXIFファイルを削除してから使用しましょう。
【長野さんのワンポイントアドバイス】
スマホの場合、カメラの「位置情報」をオフに設定してから撮影すれば、EXIFファイルに撮影場所は記録されないので、気になる方はあらかじめオフにしておきましょう。
最近は、年配の方もスマホを使いこなしていますが、EXIFファイルのことまでは知らない方も多いです。ご家族がWeb上にアップロードした写真から個人情報が漏れることも考えられるので、周囲の方の設定も確認しておくと安心です。
情報を隠すための方法
「写真の中に見られたくない情報が写り込んでしまったけれど使いたい」という場合は、写真を編集する必要があります。ここでは、プライバシーを保護する写真編集の方法について紹介します。
スタンプ
SNSで使用する場合は、アプリに搭載されている「スタンプ」で隠すのが一番手軽です。車のナンバーや人の顔など、範囲が狭いものを隠すのに向いています。
修復ブラシ
Adobe Lightroomの「修復ブラシ」という機能も使いやすいです。消したい対象物を選ぶだけで、AIが周辺情報を読み取って違和感なく消してくれます。Photoshopにも同様の機能があり、Lightroomより細やかな指示を出すことが可能です。
モザイク
「モザイク」は、選択した範囲にある色を溶かして見えづらくするものです。写真全体のイメージを大きく崩すことなく情報を隠すことができます。そのため、対象物を自然に隠すなら、「塗りつぶし」よりも「モザイク」が良いでしょう。ただし、「モザイク」も広い範囲で使うと違和感が出るので、狭い範囲に使うのが適しています。Photoshopやスマホ用の画像編集アプリなどで加工できます。
Photoshopでモザイク加工をする方法は、こちらの記事でご紹介しています。
▷画像の一部をぼかす方法 | 写真をピクセル化
ぼかし
選択した部分をぼんやりさせる「ぼかし」も、情報を隠す際には便利です。「通りすがりの人の顔がわからないようにしたい」「風景は見せたいけれど看板の文字は読めないようにしたい」など、写真の雰囲気を大切に残すならぼかしが効果的。広い範囲で使ってもあまり違和感がありません。Lightroom、Photoshopなどを使用すれば、簡単に加工できます。
Photoshop、Lightroomでぼかし加工をする方法は、こちらの記事で紹介しています。
▷写真にぼかしを加える方法
塗りつぶし
「塗りつぶし」とは、一色のカラーで塗って隠す方法です。Photoshopやその他画像編集アプリで加工できます。ただし、塗りつぶした箇所は目立つため、広い範囲で使うと写真のニュアンスを壊してしまいます。そのため、広い範囲を隠す場合は「モザイク」や「ぼかし」のほうが良いでしょう。
トリミング(切り取り)
不要な部分を除いて構図を整える方法です。写真の端に不要なものが入り込んでいた場合に「トリミング」を使用すれば、写真のニュアンスを崩すことなく見せたいものだけを見せることができます。ただし、写真の中央に写り込んだものを隠すのには不向きです。Lightroom、Photoshopなどの編集ソフトをはじめ、スマホに標準装備された写真管理アプリの編集機能でも加工できます。
EXIFファイルの削除
撮影日時や撮影場所の情報を隠したい場合は、EXIFファイルごと削除するのが得策です。EXIFファイルは、Lightroom、Photoshopやその他画像編集アプリなどで削除することができます。
【長野さんのワンポイントアドバイス】
Web上に写真をアップロードする場合は、パソコンやスマホで使いたい写真のスクリーンショットを撮り、その画像を使うのも手です。画質は少し落ちますが、こうすればEXIFファイルは付随しません。手軽な方法なので、ぜひ試してみてください。
写真編集ソフトを活用して、安全に写真を楽しもう
写真をWeb上に公開する前には必ず、情報漏洩につながるものが写っていないかを確認し、もし写っていた場合にはアドビ製品で編集してから使いましょう。せっかく撮影した写真ですから安全に活用して、写真を楽しんでください。
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取材協力:長野 竜成(ながの・りゅうせい)
フォトグラファー
1994年、東京都生まれ。高校卒業後、日本を放浪する中でフォトグラファーの道を志す。その後、フリーランスのフォトグラファーとして、マガジンハウスやヤフーなどの雑誌・Web媒体の他、Honda、FIATなど有名ブランドの撮影を担当するなど、幅広く活躍。人と向き合うことに重きを置き、被写体となる人物の生き様や雰囲気を、独自の色彩感、温度感で表現している。
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(取材・執筆:神代裕子 編集:ノオト)