デジタルツールはICT教育の「文房具」となるか STEAM教育と試行錯誤のサイクルが育む、
生徒たちの創造力
経済産業省の指針でも名前があがり、生徒たちの創造力を育む教育手法として注目を集めている「STEAM教育」。その実践を進める教育現場において、デジタルツールはどのような役割を果たすことができるのでしょうか。
経済産業省による取り組みでも注目される教育モデル「STEAM(スティーム)教育」によって、新しく芸術領域をベースにした「幅広い知識・教養」が重視されるようになりました。また、新卒採用で求めるスキルとして「創造的問題解決能力」をあげる企業担当者も多く、今後は身につけた知識を利用した「創造力」を育むことが、教育現場に求められるようになるでしょう。
学校に電子機器の導入が進められ、ICT教育が推進される現在において、デジタルツールの価値はどのように変化していくのでしょうか。どのような形で教育をサポートでき、どのような活用ができるのか、STEAM教育におけるデジタルツールの役割を考えます。
【目次】
1. 豊富な知識から考える力を伸ばす、「STEAM教育」とは
1. 豊富な知識から考える力を伸ばす、「STEAM教育」とは
ここ最近、「STEAM教育」という言葉をよく耳にするようになりました。経済産業省によるの「未来の教室」ビジョンにも「学びのSTEAM化」という形で用いられているこの言葉は、デジタル技術と共存していくこれからの教育において、外せないキーワードとなっています。
STEAM教育とは、「STEM(ステム)教育」に、「Arts(芸術分野も含めた、幅広い基礎教養)」を加えた教育手法のことです。
STEM教育は、2000年代ごろに、科学技術に熟達した人材を育成するための国家戦略としてアメリカで推進された教育モデルです。「科学(Science)」、「技術(Technology)」、「工学(Engineering)」、「数学(Mathematics)」を分野横断的に学ぶことから、それぞれの頭文字をとって「STEM」とされました。
その後、ICTやAIが発展するにつれ、機械に任せられることは機械に任せ、人間は人間ならではの創造性を発揮できるようにという考えから、STEMに「Arts」を加え、「STEAM教育」と呼ばれるようになりました。
この「Arts」を「芸術」とする見方もありますが、これは実はリベラルアーツ(Liberal Arts=幅広い基礎教養)のことを指しており、創造的な方法をもってして目の前の課題に向き合うことも目標とされています。
日本でも小学校でのプログラミング必修化など、ともすれば「理系」分野の重視ととらえられがちなSTEM教育に対し、STEAM教育がめざすのは、文理横断の幅広い教養教育だといえるでしょう。つまり、STEAM教育は、これからを生きる子ども達に必要な「創造的問題解決力」を育むための教育モデルともいえるのです。
2. 創造的問題解決力を育むため、学校に求められること
経済産業省の「未来の教室」ビジョンにおける、「学びのSTEAM化」。具体的には、「『知る』と『創る』が循環する学びを実現すること」とされています。これはつまり、文理を問わず、知識の習得(=知る)だけでなく、得た知識をベースにした思考と課題解決(=創る)を繰り返すことで、学びを深めていくのが理想形である、ということ。
ここで重要なのが、STEAM教育ではこれまでの学習で重きを置かれてきた「知る」ことに加えて、「創る」が重要とされていることです。社会のさまざまな課題を解決し、新たな価値を生み出す力を次世代に手渡す……。これこそが、STEAM教育の目的なのです。
「創造的問題解決力」を重視する傾向は、実社会からのニーズにも如実に現れています。世界経済フォーラムが2018年に発表した「仕事の未来レポート」では、今後重要度が高まる人間ならではのスキルとして、創造性や分析と問題解決力などが上位にあげられています。
またアドビが2018年と2020年に就職活動中の学生から人気の高い東証一部上場企業の新卒採用担当者を対象に実施した「新卒採用時に重視するスキル」調査でも、就職人気企業の採用担当者の8割以上が、「課題解決方法の発想力・着想力」を新卒採用で特に重視するスキルとしてあげています。
コロナ禍の状況にも象徴されるように、先の見通しが立ちにくい社会で、企業の最前線では「自ら課題を見つけ、発想と創意工夫で解決する力」が求められていることが見て取れます。自由回答でも「自ら考えて行動できることが大切」といった回答が目立ち、創造的問題解決能力重視の傾向が今後も高まっていく可能性が示されているのです。
これら社会の要請を踏まえると、これからの教育機関には「学生たちの創造力を高める教育」がますます期待されるようになるでしょう。
3. 試行錯誤のサイクルを、デジタルツールがサポートする
課題解決に欠かせない「創造性」を発揮するには、子どものうちから課題解決型の実体験を重ねるのが理想的です。実体験を通して試行錯誤を重ね、失敗も成功体験も積み重ねることで、子ども達のクリエイティブコンフィデンス(自身の創造性への自信)が養われます。
アドビ製品をはじめとしたデジタルツールを活用するメリットは、やり直しがしにくい「紙と鉛筆」のアナログ作業と比べ、試行錯誤が簡単で、「試行錯誤のサイクル」を高速化できること。ツール活用によって課題解決プロセスの各段階におけるアウトプットがより良いものとなり、結果としてプロセス全体の質が高まっていきます。
また、授業や学校での取り組みにデジタルツールが使える環境があれば、子どもたちは当たり前の文房具として使い方や活用方法を身に着けることができます。
たとえば、アドビ主催の「Hello! SDGs クリエイティブアイディアコンテスト」で優秀賞を受賞した東別院小学校の児童は、Adobe Express(アドビスパーク)を使って「Our SDGs 私たちの提案する 豊かで幸せな未来」というテーマをWebサイト、ポスター、動画で表現しました。
Adobe Expressには著作権フリーの素材やテンプレートが豊富に備わっており、簡単な操作で美しいデザインに仕上げることができます。こういったデジタルツールの特性を生かし、一連の作品は実質2週間ほどで作り上げられました。
同じく優秀賞に選ばれた成城学園高等学校の生徒は、「持続可能な水作り」をテーマにAdobe Premiere Rushで動画を制作。世界の多くの人びとが汚れた水を飲んでいる現状を指摘し、実際に濾過器を作る工程を動画にまとめています。
動画編集はまったくの未経験だっただけでなく、コンテストまで日がない中での制作を進めた生徒達。それでも、使いながら動画編集ツールにも慣れ、最終的には豊富な機能を使いこなして作品を仕上げ、Adobe Expressを通してアウトプットしました。
他にも、たとえばキャンパスの案内動画をAdobe Premiere Rushで作成する、研究発表ポスターをAdobe IllustratorやAdobe Photoshopで作成するなど、デジタルツールの教育シーンでの活用例は多岐にわたります。
イラストや動画、Webサイトといった多様な表現方法をシームレスに行き来できるアドビ製品の特長が、子ども達の思い描くアイディアを表現するにあたって重要な役割を果たしているのです。
4. デジタルツールが「新たな文房具」になる
デジタルツールは、これからの世代が創造性を育むための「新たな文房具」として当たり前のツールになっていくでしょう。学校現場にもぜひ各種のデジタルツールを取り入れ、子ども達の創造的問題解決能力を育む試行錯誤の場を充実させていただければと思います。
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(執筆:夏野かおる 編集:ノオト)
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