写真撮影
魅力的な科学写真の世界
科学を専門にする写真家は、カメラで自然現象のデータを集め、記録します。さまざまなタイプの科学写真について学び、撮影スキルを伸ばしていきましょう。
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科学写真とは?
科学写真とは、科学的調査や、工学や医学といった応用科学で、データ収集や記録のために撮影される写真です。科学写真は美しい自然界の写真でもありますが、主な目的は、正確な画像を記録し、他者と共有して科学を発展させることにあります。
科学写真の役割
写真撮影は、1830年代に銀盤を使ったダゲレオタイプの撮影が成功するとすぐに、科学分野でのツールとして、その可能性が学術界で注目されました。実際、月の写真の写真で最も古いものは1840年に撮影されています。そして現在もそうであるように、科学写真は、データを記録すると共に科学を教えるためのツールにもなったのです。
データとしての写真
20世紀を通じて写真技術が発達し、また、電子顕微鏡、デジタルカメラ技術、NASAのハッブル宇宙望遠鏡などの開発と共にさらに発達していった科学写真は、細胞の構造から宇宙で起こるスーパーノバまで、あらゆる分野にまでその存在感を高めていきました。
「現在では、データを引き出すために画像を加工する方法が何種類もあります。スライドに写っている細胞組織のどれくらいが特殊なタイプなのか知りたい場合、組織染料とソフトウェアを使えば、ピクセルの42%が特殊な細胞のタイプであることが分かります。後処理で、画像からデータを引き出すことができるのです」と写真家のヘザー・ウィルソンさんは語ります。
良質な写真は仮説を証明することにも、またはそれに反論することにも使われます。ウィルソンさんは、古生物研究を進める中で、化石から新しい生物を発見しました。「見つけた生物の特徴を他の専門家に見せる必要があります。自分が発見した新しい物に対して、他人が反論したり、それを認めたりするには、本当に画質の良い写真が必要です」とウィルソンさんは言います。
教材としての写真
写真の画像は科学者以外の人に、自然界についてより詳細な情報を提供し、言葉や数字では表せない何かを写すことで重要な発見へと導きます。例えば気候科学の分野で写真は、人類が直面している危機の重要さを力強く訴えています。
「科学写真は人々に訴えかけ、注意を引きつける存在でなければなりません」と語るのは、環境保存写真家のエレン・モリス・ビショップさんです。インパクトのある写真を撮ることができれば、より多くの人から関心を集めることができるのです。
多様な科学写真
現在、ほとんどの科学分野で写真が使われています。ここでは、少ない数ですが、科学と写真が融合した例を紹介します
天体写真
夜空の写真は、宇宙の構造とその起源を私達に教えてくれます。天文学者は分光学において、惑星から跳ね返る光の波長を分離することで、惑星の大気を作る化学的構造を知ることができます。また、惑星、彗星、月、銀河などの写真は、宇宙をつくり上げる物質がどのような動きをするのかも教えてくれます。
地球科学
地理学、気象学、海洋学といった分野ではいずれも良質な写真を必要とします。この分野の写真は岩の形成、侵食のプロセス、大気の循環、気象システムについて私達に教えてくれます。水中写真は、科学者が海中の生物を調べ 、その生態を解明するのに役立ちます。水中写真はまた、珊瑚礁の白化現象を記録することで、海のエコシステムが、どの程度健全な状態であるかを測定するのに役立ちます。
生物学
地球上には約870万種類の植物や動物がいると科学者は想定していますが、そのうち100万種類ほどしか確認されていません。昆虫のクローズアップを捉えるマクロ撮影 でも、あるいはアフリカゾウの移動パターンを研究する場合でも、写真によってデータを記録し、発見した物に人々の関心を引きつけることができます。
科学分野の写真家になる方法
科学分野の写真家の多くは、最初からプロの写真家になろうとしたわけではありません。彼らは科学の研究を追求するという仕事の過程において写真家としてのスキルを発展させていったのです。「遺伝学や地質学の論文では、科学者自身が写真を撮っていることが多いです」とウィルソンさんは言います。科学者以外では、まず写真家としてスタートし、特定の科学分野に興味を持って、それを追求しながら学んでいく、というケースもあります。
既に写真家になっている方であれば、科学のことを学びましょう
科学の写真を撮影するのに、専門的な科学者になる必要はなく、また大学の学位や博士号を持っている必要はありません。ただ、スタート地点においてある程度科学の教育を受けていると有利です。科学の講義のために写真を撮ったり、教授のアシスタントとして働いたりすれば、その間に撮った写真をポートフォリオの作成に生かすことができます作品の被写体が山であっても天の川であっても、自分が興味を持つ題材について理解を深めていくと、それを写真でより巧みに表現し、説明できるようになります。
肉眼で見ることができない物の画像を捉えることに興味がある場合は、大学ならば電子顕微鏡やレントゲンの機械など高価な機器所有しているでしょう。講座や調査を通して、このような機器の使い方を学び、それらを使って画像を作成するスキルを身につけて自分のポートフォリオに加えていきましょう。
「基本的な写真のスキルがあれば、撮影に必要な作業をより簡単に行うことができますが、このような機器があれば、さらに色々なインスピレーションを得ることができます。」
既に科学者になっている方は、写真について学んでいきましょう
撮影のスキルを身につけていくのに、高価なツールを用意する必要はありません。どのようなデジタルカメラでも、科学写真を撮ることができます。「iPhoneやAndroidなど、良質なカメラが付いているスマートフォンなら、どれを使ってもマクロ画像が撮ることができます。画像の質は良いですし、また従来のカメラでは出来ないことも、スマートフォンなら出来ることが幾つかあります。例えば、パノラマ撮影などです。」とビショップさんは語ります。
科学を学ぶと同時に、写真についてもできる限り学びましょう。そうすれば、より良い写真を撮ることができ、さらにクリエイティブな写真も撮ることができます。写真撮影については、絞り、f値、ホワイトバランス、フォーカススタッキングなど技術的なことを学びましょう。カメラの設定をどのように調整すれば、良い写真が撮れるのか分かってきます。
「基本的な写真のスキルがあれば、撮影に必要な作業をより簡単に行うことができますが、このような機器があれば、さらに色々なインスピレーションを得ることができます。私のデジタル一眼レフには、多くのメニューがあります。その機能を知ることはとても大切なことです。後処理で編集でできることには限りがあります。ですから欲しい画像は十分にを撮っておく必要があります」とウィルソンさんは語ります。
ビショップさんは、写真の講習を受けることを勧めています。「充実したワークショップはいくらでもあります。1ヶ月間の撮影コースから、地元の博物館での撮影講習会などさまざまです。ワークショップによっては、色々な種類のレンズやカメラの可能性を認識することでしょう」とビショップさんは語ります。
たくさん写真を撮る
デジタルカメラなら、バッテリとメモリカードがあれば、何枚でも角度やカメラ設定変えてスナップ写真を撮ることができます。「撮影の練習のために写真を何枚も撮って、その後撮影した写真を見て、その写真で自分は何を本当に撮りたかったのか考えましょう。デジタル画像なら、画像をいくら捨てても環境を汚しません。私の大好きな言葉に、アンセル・アダムスが言った『暗室の中で最も重要な機材はゴミ箱だ』というのがあります」とビショップさんは言います。
加工は軽めにとどめる
科学写真を編集する時は、人の目で見える状態から基本的にはあまり変えない方が良いでしょう。Adobe Photoshop やPhotoshop Lightroomなどの編集ソフトがあれば、画像に軽微な補正を加えることができます。
「私は、写真の腕がもっと良ければカメラでできたであろうこと、またはもっと光の状態が良かったらできたであろうことをPhotoshopを使って実現しています。Photoshopの本当に優れている点は、影とハイライトが各段良いことです」とウィルソンさんは言います。
ウィルソンさんは古生物学の仕事で、平面的で光が反射しやすい化石を撮影しなければなりませんでした。「明るすぎる部分や暗すぎる部分があって、どこかを白飛びさせずに、すべてのディテールを見せられる写真を撮るのは、大変難しいことでした。ですから、Photoshopのようなソフトを使て、部分的に露出を変えられるのは大変助かりました。これで、自分の目で見た時と同じような画像を、人々に見せることができるようになったので」とウィルソンさんは語ります。
科学とアートを融合させるコツ
科学者が、一般社会に向けて研究を発信し、対話を生み、より大きな社会的インパクトを与えるには、美しい写真で興味を引くことも一つの手です。
「現在、科学者はみんな研究のために写真を使っていて、写真の構図、色、シャープネス、正確さなどを時間をかけて調整しています。こうすることで、人がその写真を見て、それが何なのか、もっと理解することができるようになるのです。構図などは、良い写真の必要な条件なのです」とビショップさんは言います。
ビショップさんはまた、文章の書き方やジャーナリズムの講習を受けることも勧めています。「一般向けの文章を書く方法を学ぶことはとても大切なことです。みんながカール・サガンやE.・O・ウィルソンのような作家になる必要はありませんが、二人とも作家であり科学者でもありました。彼らは一般の人々の心を強く掴む能力があり、それは科学者が目指すべきことの一つでもあります」とビショップさんは言います。
関心の対象にかかわらず、自分の周りの世界に好奇心があり、そしてそれをカメラで捉えたいなら、それが科学分野の写真家になる道への第1歩となります。
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