写真に編集を加え、より良い1枚に仕上げてみよう
友人同士で旅行やランチの写真をやりとりする場合、撮影してそのまま相手に送るケースがほとんどではないでしょうか。しかし、せっかく友人が良い笑顔で写っていても、顔が暗いままでは表情がよく見えません。ですから、適正な明るさに修正してから送ってあげたほうが相手にも喜ばれるはずです。個人的な趣味の写真においても、こうした編集を意識するとより魅力を伝えられる1枚に仕上がりますが、初心者にとってはどこをどう編集すればいいのか悩ましいところです。
今回はプロのフォトグラファー・レタッチャーとして活躍されている井上依子さんに、被写体別の編集ポイントの見極め方について解説していただきました。
目次
- そもそも写真編集とは?基礎知識をおさらい
- プロの現場では写真編集が必須
- 写真の編集でできること
- 編集ポイントを見極めるコツ
- 人物
- 自然・風景
- 料理
- 編集しやすい写真の撮り方
- 白飛び、黒潰れを避ける
- トリミングを意識して余白を広めにとる
- RAWで撮影する
- 編集・レタッチを繰り返して写真の質を高めよう
そもそも写真編集とは?基礎知識をおさらい
写真編集とは、撮影した写真をより良いかたちに仕上げていく作業のことです。プロの世界では「レタッチ」とも呼ばれています。では、具体的に写真編集でどんなことができるのでしょうか。
プロの現場では写真編集が必須
私たちが普段、雑誌や街の広告写真を目にして「どんな編集が加えられているのだろう?」と意識することはほとんどないでしょう。しかし、プロのフォトグラファーでさえ、用途にあった編集を必ず加えています。プロの現場では、撮影したまま未編集で写真を使用する「撮って出し」をすることはありません。
例えば、人物を暗い環境で撮影した場合、人の肌は自然光下で見るよりも写真のほうが明らかに色味を失います。ですが、編集によってその色味を変えて、より健康的な雰囲気の写真に仕上げることができます。
「自然が一番」では限界があり、より良いゴールに向かうためにレタッチは欠かせない作業なのです。
写真の編集でできること
では具体的に写真をどのように編集するのでしょうか。主要な要素として、明るさ(明度・露出)、コントラスト(明暗の差)、色合い、彩度(鮮やかさ)、傾き補正、トリミング、シャープネス(輪郭の強さ)などが挙げられます。このほか雰囲気を一気に変更できる“フィルター”を活用することも編集の一つです。先程の「レタッチ」は、これらの総称でもあります。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
写真の編集方法や仕上げ作業には正解があるわけではありません。例えば、友人にプレゼントする写真と商業広告で使う写真ではまったくゴールが変わってきます。編集の”やりすぎ”を避けつつ、よりよい仕上がりにするための感性も必要になってきます。
編集ポイントを見極めるコツ
実際にいくつかのシチュエーションごとの編集方法を紹介していきますので、コツをつかむまでのガイドとしてみてください。
人物
プロフィール写真やポートレート写真など、手法はさまざまでも主役は「人」です。そして人物をより良く見せるための最重要ポイントは「肌の色」です。
写真に映る人物の肌の色がくすんでいるなど色合いが不自然だと、表情が良くても健康的には見えません。まずは「色合い」を調整して、自然なスキントーンになるところを探ってレタッチをしましょう。
次に全体的な明度(露出)を調整すると、写真全体の雰囲気も明るくなりますが、光が当たっている箇所が白飛びしない程度に留めておきましょう。
人物のレタッチは「ネガティブな要素を極力無くす」ことが目的ですが、修正方法を間違えたり、やりすぎたりすると不自然な仕上がりになるので注意が必要です。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
人の肌は千差万別で、肉眼で綺麗に見えても写真では浅黒く見える方もいます。メイクの問題ではなく、カメラとの相性などもありますので編集を施すことで写真として完成させる意識を持ちましょう。
ポートレート写真やプロフィール写真を撮影するポイントは、こちらの記事で紹介しています。
▷きれいなポートレート写真の撮りかた
▷プロフィール写真のきれいな撮りかた
自然・風景
雄大な山肌や海などの風景写真では、空気中を漂う微粒子などの影響により、遠くにあるものが霞んで写るケースがあります。実際に近くで木の葉を見ているような山肌にするには彩度やコントラストを上げるか、明るさを落として白く霞む箇所を落ち着かせる手法があります。また水平線が傾いていると締まりのない画になってしまいますので、傾き補正機能で修正しましょう。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
新緑や紅葉などの鮮やかな景色を撮影したのに、どこか素っ気ない色味に写ることがあります。その場合は、彩度を上げて色味を少し強調してあげると、木々の美しさがより伝わる写真になります。
自然の写真を撮影するポイントは、こちらの記事で紹介しています。
▷自然写真を撮るポイント
料理
料理写真は美味しそうに見えることが重要で、暖色系の色合いに仕上げるケースが多いです。飲食店での撮影は、照明の光と自然光が混ざったり、料理に綺麗に光が当たらなかったりする場合もあるため、窓際の自然光が射し込む明るい席であれば電球の光を避け、自然光が弱い店の奥であれば電球の光を頼りに、できるだけ光の種類を1つに絞り、後の編集で色合いを変更すると良い結果になるでしょう。また食器の汚れなどは事前に拭き取っておきたいところですが、レタッチ時に除去する場合もあります。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
料理が美味しそうに見えない要素はさまざまあります。例えば、スープやドリンクの液面にできている気泡を除去すると、完成度がグッと向上します。
料理の写真を撮影するポイントは、こちらの記事で紹介しています。
▷食べ物や料理の写真を美味しそうに見せる撮り方
編集しやすい写真の撮り方
ここまで編集の必要性や具体的な編集ポイントの例を解説しましたが、思い通りの写真に仕上げるためには、撮影時の心がけや準備も重要であることがおわかりいただけたかと思います。最後に、編集を意識した撮影のコツを紹介します。
白飛び、黒潰れを避ける
編集が難しい例として真っ先に思い浮かぶのが、「白飛び」と「黒潰れ」をしている写真です。例えば風景を撮影していて、建物に露出を合わせると空が明るく白く写る(白飛びする)ことがあります。その状態の写真は、あとで空の青さを取り戻そうとしてもデータ上は真っ白に記録されており、明度を下げても青くなりません。逆に写真の一部が真っ暗になっている(黒潰れしている)場合も同様に、明度を上げても写っていたものが浮かび上がることはありません。
快晴の青空を表現する写真であれば、雲の輪郭を認識できるくらいまで暗めに撮っておいて、後で明るさや鮮やかさを編集していくスタイルが良いでしょう。暗い場所で撮影する場合はある程度ISO感度を上げる必要がありますが、上げ過ぎるとノイズが発生してしまい、編集でキレイに除去することは難しいです。ISO感度の設定は慎重に行い、暗く写ってしまったら編集で明るく調整しましょう。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
シャッターを切る時点で完成形に寄せようとすると、後の編集ができない写真になりがちです。明るい部分と暗い部分の差が少ない写真の方が、多様な編集を加えやすく重宝します。
トリミングを意識して余白を広めにとる
写真の用途が多岐に渡り、特に縦横の比率を変更する可能性がある場合は、トリミングできるように余白を広めに撮っておくと良いでしょう。余白の場所にテキストを乗せる場合は、文字を配置するスペースも考慮しましょう
RAWで撮影する
デジタル一眼レフなどで撮影する際、写真の保存形式を“JPEG(ジェイペグ)”ではなく”RAW(ロウ)”に設定して撮ることをオススメします。
JPEGファイルよりもRAWファイルの方が含まれるデータの情報量が多く、色味や明るさの調整幅を大きくとれます。またRAWファイルは編集作業を繰り返してもほとんど画像が劣化しないのに対し、JPEGファイルは保存する度に少しずつデータが劣化していきます。そのため、複雑な編集を加えるのであればRAWファイルが適しているといえます。最近ではスマートフォンでもRAWファイルで撮影できる機種が登場しています。
一方で、RAWファイルは情報量が多くデータサイズも大きいため、SDカードなどのストレージ容量を圧迫する可能性があります。そうした懸念を避けたい方は、保存時のファイルサイズを「Lサイズ」など大きめに設定してJPEGのみで保存すれば、トリミングをして画像サイズが小さくなっても十分な解像度を残せます。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
カメラの性能が向上し、高画質なJPEG写真を撮れる時代になりました。けれども、RAWで撮影したほうがより繊細な編集が可能になり、結果的に写真の質も上がります。Adobe PhotoshopやLightroomなどのアプリケーションで編集作業をする方は、RAWでの撮影を習慣づけていくことをオススメします。
編集・レタッチを繰り返して写真の質を高めよう
写真の編集についてご紹介してきましたが、慣れていない人にとって、編集をどこで止めるか、やりすぎになっていないか、見極めるのが難しいかもしれません。
こればかりは、自分が良いと思ったポイントで編集を終えるのが正解である、ということなのです。プロフォトグラファーであれば、業界基準となる発色機能を持つディスプレイで編集作業を行うのが当たり前ですが、趣味でそこまで設備を揃える人は少ないでしょう。
自分が心地よいと感じたところで編集を止め完成となりますが、常に「色味と明るさ」を意識すると完成に近づくスピードも上がっていくはずです。あえて調整のスライダーを極端に動かしてみて、写真が破綻するポイントを見極めるのも良いでしょう。
今回ご紹介した編集内容よりも「もう少し追い込めればもっと良くなるはず」という欲求が出てきた場合は、さらに詳細な編集機能を持つ写真用アプリケーションLightroomやPhotoshopを使ってみるという道も用意されていますので、こちらも検討してみてください。
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取材協力:井上依子(いのうえ・よりこ)
日本大学芸術学部写真学科卒業、広告写真制作会社を2社経由後、フリーランスでフォトグラファー/レタッチャーとして雑誌、広告、Web媒体で活動中。2021年から、CCCフロンティアデザイン株式会社にてフォトディレクターとして撮影に関わる窓口も業務委託で行っている。
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(取材・執筆:赤坂太一 編集:ノオト)