イベントレポート『「リケジョ」なんて言葉がなくなる日まで〜ICT分野におけるジェンダー・ギャップ解消のために』

2024年4月24日、国際ICTガールズ・デーにちなんで、『「リケジョ」なんて言葉がなくなる日まで〜ICT分野におけるジェンダー・ギャップ解消のために』と題したイベントが、青山学院アスタジオにて開催されました。

この記事では、そのイベントレポートをお届けします。

イベントの主催である国際NGOプラン・インターナショナルについて

このイベントを主催するプラン・インターナショナルは、世界80か国以上で活動を展開する国際NGOです。1937年の創立以来、世界の子どもや若者、地域の人々と共に主に途上国の貧困や不平等をなくすため、地域開発を進めてきました。昨年、日本事務局創立40周年を迎えています。

プラン・インターナショナルは、「すべての子どもたちの権利が守られ、女性が差別されない公平な社会を実現すること」を目指し、活動しています。今回は、ある2つのことを考える機会となれば、との思いで当イベントを企画しました。

ひとつめは、重要な社会基盤となるIT技術分野において、ジェンダー・ギャップの解消に必要なことは何か。そして二つめは、ジェンダー・ステレオタイプ(※)に捉われず、女性が自由に職を選択し、活躍するためのヒントは何か、ということ。

これらを考えるにあたり、ICT関連企業や新卒・転職向け人材事業に携わっている企業さまを招待し、お話を聞きました。

(※ジェンダー・ステレオタイプとは、ジェンダーに基づく固定観念のこと)

今回のイベントは、以下の3部で構成されています。

  1. ものまねタレント、丸山礼さんへのインタビュー
  2. ICT関連企業の取り組みについてトークセッション
  3. ICT体験として、Adobe Fireflyで画像生成AIを体験

イベントが開催された4月25日は、国連が定めた「国際ICTガールズ・デー」。

日頃からプラン・インターナショナルの活動に参加している、プラン・ユースグループの

村田さんより、まずは「国際ICTガールズ・デー」について紹介いただきました。

村田さん:

「国際ICTガールズ・デー」とは、女性が情報通信技術(ICT)の分野において、研究やキャリアを検討・奨励する世界的な取り組みです。国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU)が、毎年4月の第4木曜日を「国際ICTガールズ・デー」と定めています。

ユニセフによると、途上国では15〜24歳の女性の約90%がインターネットを利用できず、ジェンダー間の情報格差が問題となっています。ジェンダーに関係なくインターネットや科学技術を利用できるようにし、女性が革新者、創造者、そしてリーダーになるなど、本来の能力を発揮できるようにすることが必要です。

そして、実はこの問題は途上国に限ったことではありません。

OECDに加盟している38カ国を対象に、ITエンジニアの女性比率を、民間企業が調査したところ、日本は38カ国中22位と下位にあることが分かりました。また、科学、技術、工業、数学(STEM)分野を専攻する女性の割合も、OECD加盟国の平均が32%であるのに対し、日本では大卒女性全体の17%にとどまっています。

さらに、2022年に日本の高校生2000人を対象に実施したジェンダー・ステレオタイプに関する意識調査では、4人に1人が、進学・就職などの進路決定にジェンダー・ステレオタイプが影響していると答えています。

このような状況を改善し、ジェンダー平等を実現するためには、女性がICTのスキルを身につけICT分野で活躍することが重要です。

本日は、ジェンダー・ステレオタイプにとらわれずに自ら進むべき道を選ぶことについて、諸先輩たちのお話からヒントを得られれば嬉しいです。

1. タレント、丸山礼さんへのインタビュー

最初のプログラムは、スペシャルゲストとしてお招きした、タレントの丸山礼さんへのインタビューです。

―丸山さんは、どのような学生生活を過ごされましたか?

のんびり屋なので、ぼんやり何も考えずに生きていました(笑)

とはいえ、学校にいると「課題をしなきゃいけない」とか、「進路を決めなくちゃいけない」とか、そのつど悩んだりすることも色々あって。その中で「自分って何ができるんだろう」「何が得意なんだろう」ということに向き合って過ごしてきた学生生活ではありましたね。

ただ、通信簿には「落ち着きがない」「枠からはみ出している」「おしゃべりの集中力を学業に活かして!」といつも書かれている学生だったので・・・やっぱり気ままに生きてきたんだと思います(笑)。

―これまでにリーダーシップを発揮した経験はありますか。ご自身の経験から何が得られたかを教えてください。

中学生の頃に生徒会に入って、副会長をやっていました。

生徒会の活動って、学園祭のスケジュールを組んだりとか、体育館の鍵を取りに行ったりとか、学校の色んなところを走り回ったりするんです。そうやって動き回るのがすごく好きだったこともあって生徒会をやっていたんですけど。

あるきっかけから高校でも生徒会に入って、最後には生徒会長になりました。

そのきっかけっていうのが、高校の入学式で先輩が校歌を歌ったときに「元気がない…!」って率直に感じたことだったんです。「せっかくこんな素敵な校歌があるのに」「ちゃんと歌えば絶対もっとよくなるのに!」って。

それを担任の先生に伝えたら、「じゃあ、あなたが学校の真ん中に立つ人になってみたら?」とアドバイスされて。それがきっかけになって、高校1年から生徒会に入ったんです。で、部活にも入らずに、文化祭では自分がオープニングアクトで登場しちゃったり(笑)

当時から“地元で一番面白い女性”になりたかったので、吹奏楽部の演奏会で司会をやったり、友人のYouTubeに出てみたり、有志の学生を集めて地元の盆踊りを盛り上げてみたりと、学外でも活発に活動していました。

ただ、それだけじゃなく各クラスのよい部分を表彰するとか、校風をよくするためにもちゃんと活動していました。

―今日、会場にいらっしゃる学生の方も今後、進路を選択していくなかで迷われることもあるかもしれません。

丸山さんも今に至るまで、ご自分で進路を決めるシーンがたびたびあったことと思います。今のお仕事を選んだ理由や、きっかけとなった出来事がありましたら教えてください。

これまでの話を聞く限りだと、順風満帆の学生生活に聞こえたかもしれません。

でも決してそんなことはなく、お調子者だった私を嫌う人も当然いましたし、嫌がらせもありました。勉強も部活も生徒会も頑張らないと!と自分に鞭打っていたら、突如パンクしてしまったこともありました。

表面的にはよく見えても、気付かぬうちにダメージを受けていたんです。

学校の先生に相談しても、元気でお調子者のイメージが強い私ですから、「丸山なら乗り越えられる!」と、頑張りを促す返答ばかりでした。

そんなとき、私の安らぎは保健室でした。保健室の先生は「ゆっくり休んでいいよ」と認めてくれたんです。そして「駄目なことばかりを見るのではなく、得意なことに目を向けることが大切だよ」と教えてくれました。

そういうこともあってか、次第に保健室の先生になりたいと思い始め、教育大学を目指して勉強していました。が、高3の夏に、申し込んだことすら忘れていたお笑いの養成所から突然電話がかかってきて、札幌のオーディションに呼ばれたんです。

それで、そのオーディションで披露したモノマネが高い評価を受けて、すぐに合格の電話がかかってきました。自分でも気付いてなかった能力を認めてくれたことが嬉しくて、お笑い芸人を目指し始めました。高校では特進コースだったのにもかかわらずです(笑)。

私の急な方向転換に学校の先生たちはびっくりしてましたが、最終的には「大学は大人になっても入れるから、いま君がやりたいことをやるべき」とアドバイスまでいただけました。

ただ、その後すぐに単身で東京に渡ったのですが、とにかくお金がなくて・・・(笑)

アルバイトをしながら養成所に通って、ネタも考えなくちゃいけない。デビューをさせてもらったものの、売れない時期が続きました。所持金は600円しかなく、交通費もない中でオーディションに行っても受からない。「全然うまくいかないな、人生」と思っていました。でも、強みであるモノマネ芸だけは大切に磨きつづけました。

そんなときにYouTubeの作家さんにお会いする機会があって、そのご縁でYouTubeを始めてみたら、ショート動画が大バズしたんです。当時はショート動画が珍しかったこともあって、それも運がよかったんだと思います。バズりがきっかけで企業から声がかかるようになり、少しづつ仕事につながっていきました。

諦めずに芸を磨いていると、なにかのタイミングで結果につながるんだと実感しました。

―人生のさまざまな局面でチャレンジをしてきた丸山さんですが、これからどんなチャレンジをしていきたいですか

ジャンルを問わずに、当たって砕けることを続けていきたいです。砕けてもその破片を拾って、観察して芸の肥やしにしていくことで道が拓けていくと思います。

―これから社会へはばたく大学生の皆さんにメッセージをお願いします。

負けたくない気持ちがなにより大事だと思います。

そもそも負けたくないものを見つけるのも難しいことだと思いますが、「私、これだったら周りの人より少し上手にできる・・・!」と些細な気付きを見つけることから始めてもいいかと思います。

もちろん、チャレンジの途中でへこたれてもいいんです。へこたれたときに素直に周りの大人に頼れば、手を差し伸べてくれる人はきっと沢山います。で、へこたれたら好きなお菓子を食べて、また踏み出してください! 私もそう生きています(笑)

自分を長い目で見て許してあげる、そんな大人になって欲しいです。

―丸山さん、ありがとうございました。

2. ICT関連企業でジェンダーギャップを解消するためのヒント

次に、ICT関連企業や新卒・転職むけ人材事業に携わっている企業のご担当者を招いて、IT技術関連職におけるジェンダー・ギャップを解消するために必要なことについてトークセッションを行いました。

パネラーは以下の方たちです。

―ICT関連の仕事をすることについてお話を伺います。

北村さんは文系出身で、編集プロダクションを経てWeb制作会社に就職、そして現在はマイナビで副編集長というご経歴ですが、どのような経緯だったのでしょうか。

マイナビ 北村: もともとは服飾学校に進学し、子供服を作りたいという目標がありました。大学で技術を身に付けるとともに、他のことにもチャレンジしたくなり、編集のアルバイトもしていました。

当時はSNSが台頭してきた時期で「これからはWebだ!」と考え、大学卒業後にウェブ制作会社に入社し、ディレクター、プランナーを5年間経験しました。そんなとき、東日本大震災が起こり、仕事で関わっていた会社の新卒入社式などが無くなってしまったんです。

その際「学生のために自分がなにかできないか?」と考え、現在所属するマイナビに辿り着きました。

―山口さんも文系出身で、現在はアドビというIT最前線の企業におられます。

アドビ 山口: 実は直近(2024年4月22日付)でアドビ株式会社(日本法人)で初めて女性社長が誕生しました。

アドビ社員の3割は女性ですが、役職が上に行けば行くほど女性が少ないのが現状です。

ただ、性別によって評価が変わることがないのはありがたいと感じています。

―明石さん、大手IT企業に所属していて日々感じることを教えてください。

日本オラクル 明石: オラクルでも女性・男性関係なく仕事に取り組める環境にありますが、ある意味それがプレッシャーでもあります。完全に実力主義ですからね。

ただ、アドビさんと同様に上に行けば行くほど女性が少なくなる傾向がありますので、その状況の中で、しっかりと自分の意見を言えるかが重要です。女性ならではの視点だけでなく、グローバル企業であれば日本人ならではの視点も必要です。

自分の個人としての意見が求められるのが責任重大でもありますし、やりがいにもなります。

―ロールモデルがあったら教えてください

マイナビ 北村: ICT企業では理系のみが求められているわけではありません。私も文系出身です。

文系でも社内の開発者の言葉を、クライアントやユーザーにわかりやすく伝える橋渡しとして活躍している人も数多くいます。

相手の立場に立つ力、言葉にする力、イメージを共有する力といったコミュニケーション能力を持って、その環境に飛び込む勇気さえあれば、結果につながってくるでしょう。

アドビ 山口: 私も最初からICT企業を考えていたわけではありません。

大学3年生の時にアメリカに留学する機会があり、将来的に結婚したり、出産した際に手に職があったほうがいいと考え、翻訳の仕事に興味を持ちました。当時、翻訳が活発だった業界はICT業界と医薬品関連、そして特許関係だったのですが、その中から「将来的にICTの知識を持っていたら役立ちそう」と考え、選んだことがこの業界に入ったきっかけです。

ITの知識はほぼなかったのですが、学生時代に雑誌編集などサークル活動の中でアドビの製品を利用しており、親しみと憧れもあったので飛び込みました。

日本オラクル 明石: 実は、オラクルではロールモデルが多いんです。新卒採用でも半数が女性を採用していますし、エンジニアも半数が女性です。また、研修でも未経験の段階からすべてを教えていく体制が整っています。ITの知識よりもコミュニケーション力など基礎的な力も求められています。

ICTと聞くと、ひたすらプログラミングして開発しているイメージがあるかもしれませんが、それはほんの一部です。

エンジニアでも営業に同行してクライアントに機能説明をする機会があります。そしてクライアントはIT専門家ではないので、初心者に向けてわかりやすく説明するスキルが必要です。

なので、「自分ももともとはITがよくわからなかった」という人こそ、クライアントや初心者と同じ目線に立つことができます。

アドビ 山口: 文系でも活躍できる領域はたくさんあります。担当している営業パートナーがアドビ製品を売りやすくするための施策を一緒に考えたり、勉強会を開いたり、チラシを作って一緒にキャンペーンを打ったり。いろいろな感性、感覚をもった人たちが必要なんです。

さらに、エンドユーザーは男性・女性が半分ずつなので、女性の意見もとても大切です。

マイナビ 北村: 例えば、「英語が苦手だから外資系企業は無理」と自分にリミットをかけていないでしょうか。自分が何をしたいのかを見失わないことが大切です。

社会人のリスキリングも一般的になってきています。現に私も産休時に資格を取得しました。自分の使える時間は自分でコントロールできる時代になっていますし、職位が上がったからといって自分の時間がなくなるわけでもありません。

ですから、挑戦する前に「自分には無理」とあきらめずに、英語が苦手だとしてもオラクルさんやアドビさんにエントリーしてみてください。

―最後に一言お願いします

マイナビ 北村: 自分を信じて挑戦して欲しいです。年齢・性別関係なく、一歩踏み出して未来を切り開いて欲しいと願っています。

アドビ 山口: キャリアのきっかけはいろいろなところにあります。学生時代は興味があることに時間が使える大事な時期ですから、やりたいことは全部チャレンジしてください。

日本オラクル 明石: どんどん欲張ってわがままに動いてください。「私なんて……」と思わず、10年後の自分がどうなってるかなんてわからないですから、いま大切だと思うことを見つけて、取り組んでください。

―北村さん、山口さん、明石さん、ありがとうございました。

3. 画像生成AI「Adobe Firefly」を体験しよう

最後に、ICTの体験として、アドビの画像生成AI(Adobe Firefly)を参加者の方に実際に体験していただきました。

まずはアドビの山口からFireflyについて簡単に紹介しました。

アドビ 山口:

最近では私たちの身近なところにデジタルコンテンツがあふれています。

例えば、広告や電子カタログ、プレゼンテーションやPDF、動画に至るまで、私たちは日常的にデジタルコンテンツに触れており、それらはすべて誰かがデザインしたものです。

デザインはプロのクリエイターやデザイナーが行っていますが、デジタルのクリエイティブの需要の高まりに共有が追い付かなくなっている状況です。

そこで、プロでなくてもより簡単にクリエイティブなデザインができることを目指したのが「Adobe Firefly」です。

Adobe Fireflyは、画像を切り抜いて合成したり、テキストを入力するだけで画像を生成したりすることができる画像生成AIです。Fireflyは製品単体で使うこともできますが、Adobe Express、Adobe Photoshop、Adobe Illustratorといったアドビの各アプリにも画像生成AI機能として搭載されています。

また、Fireflyは著作権違反にならないように考慮した設計になっており、さらにダイバーシティや公序良俗にも反しない画像生成をおこなうよう設計されているので、安心して利用することができます。Fireflyを活用すれば、プロのデザイナーも、そうでない人でも、誰でも素敵なクリエイティブ・デザインが作れます。

そして今回は、Fireflyが機能として搭載されたデザインツール「Adobe Express」を体験いただきます。Adobe Expressは、オンラインツールとしてブラウザで使えるだけでなく、モバイルアプリでも使えます。そしてモバイルアプリでもFireflyの機能が使えますので、ぜひ体験してみていただければと思います。

このあとイベント参加者の方は、Adobe Expressに搭載されているFireflyの画像生成AI機能を使って、簡単に新しいコンテンツを作れる楽しさを体験しました。

今回のイベントを通じて、ジェンダーや固定観念にとらわれず、ICT分野に興味を持っていただく機会になれば嬉しいです。