左のデザインは文字要素が揃っていなかったり、写真との余白も少しずつ違ってバラバラになっています。右のデザインは「文字を揃える」「写真との余白を揃える」「大きなタイトルと小さな情報をグループにする」といった意図が伝わる配置になっています。
これらの3つのポイントを意識して、「ごちゃごちゃデザイン」から脱出しましょう!
(注1)参考文献:失敗から学ぶユーザーインタフェース 世界はBADUIであふれている
図版作成協力:星川萌美(株式会社コンセント)
Vol.3では「デザインの基本品質」について考えていきたいと思います。今回の記事制作の参考資料として「Adobe Illustrator初心者向け講座」で制作されたデザイン例を100点以上送っていただき、つまづきやすいポイントがどこかを探りました。
たとえば、誕生日パーティのDMをデザインする場合。良くあるデザイン例の特徴を再現してみました。デザインがイマイチに思えてしまう要因には、いくつかの共通点がありそうです。
これらを改善したら、以下のような案が考えられそうです。写真やイラストは同じものを使っていますが、最初のごちゃごちゃデザインと比較して、かなりスッキリした印象にすることができましたね。
ではそもそも、なぜわたしたちは、ごちゃごちゃしたデザインを「良くない」と感じるのでしょうか? そのヒントは「人間の認知」にあると考えています。
実際に体験するために、以下の2つの問題に答えてみてください。
両方とも答えは「6つ」。さて、数えるのにそれぞれ何秒くらいかかりましたか?
2つの図は両方とも「50つの要素のなかから、6つを見つける」という状況でした。同じ数であっても、黄色い丸を選ぶことは一瞬でできますが、数字の場合はもっと時間がかかったのではないでしょうか。数字だとひとつひとつ順番に10の位を追っていかないと「90以上かどうか」を判断しづらいですが、色の違いはざっと眺めただけですぐ気づくことができます。
このように、すべての要素を順番に確認しなくても、瞬間的に把握できるという視覚は「前注意特性」と呼ばれています。(注1)
先ほどのデザインを、色数に注目して比較してみましょう。
抽象的な図に置きかえてみると、使われている色数に大幅な違いがあることがよくわかります。人間の知覚は「色の違い」を瞬間的に把握することができますが、左のように色数をあまりにも増やしすぎてしまうと、すべてが違いすぎてどこを見てよいのかが分かりづらい。右のように最低限の色数に絞ることで、全体の中で色が違うところ(今回では白)に、自然と目が行くようになります。
このような視覚の特性は、色だけではありません。他にも「サイズ」「位置」「角度」「形状」「質感」なども同じように作用します。これらの違いは意識しなくても瞬間的に知覚できるため、デザインに強い影響を与えるのです。
文字サイズが大きいところに目がいく
ひとつだけ傾いている場所に目がいく
質感を変えている場所に目がいく
こうした特性を踏まえて考えると、ごちゃごちゃしたデザインが「不快」に感じられやすい理由がわかります。せっかく人間は色や形の違いを瞬間的に認知する力を持っているのに、要素を詰め込みすぎてしまうと、知覚に負荷がかかりすぎてしまう。その結果、「なにを伝えたいのかわからない」「どこを見ればよいのかわからない」と思われてしまうのです。
まずはこのような「ごちゃごちゃデザイン」に陥らないように心がけましょう。そのための3つのポイントを解説します。
まずはじめに、要素を最低限に減らすことが重要です。これまで見てきたとおり、人間は色や形や配置や角度や質感などなど、違いを敏感に感じ取れる目を持っています。それを活かすためには、要素を減らして余白を作ったり、色や形を味わうことができるゆとりを、デザインにも与えましょう。
必要最低限の要素で静かな状態を作って初めて、伝えたいことや見せたい印象に気づいてもらえるための土台となる空間が生まれるのです。
エレガントな印象を目指した誕生日パーティのDM。左は要素が多すぎて、せっかくの華やかなイラストも窮屈そうです。右のように要素を減らすことでスッキリし、文字やイラストを味わう余白が生まれました。
同じ構成要素でグラフィックを作っても、選ぶ書体や色、あしらいによって、まったく違う世界観を作れるのがデザインの面白いところ。でも、あれもこれもと欲張って好きな表現をすべて取り入れてしまうとカオスなデザインに。大切なのは「合うものを少しだけ」の意識。要素に統一感をもたせることが重要です。
左のデザインにはいろんな方向性の要素が混じっていました。「カジュアルな印象の手描きイラスト」「エレガントな印象の書体」「強い存在感がある花の写真」。全部を盛り込むとまりがなくなってしまいます。手描きイラストや花の写真を主役に設定し、その他の要素を似た印象で統一することでまとまりを出すことができます。
最後に意識したいのは「意図的な配置」です。人間の目は「位置」や「角度」の違いにとても敏感。揃えるべきところは揃え、差をつけるべきところは差をつけることで、見る人を混乱させないデザインにすることができます。
左のデザインは文字要素が揃っていなかったり、写真との余白も少しずつ違ってバラバラになっています。右のデザインは「文字を揃える」「写真との余白を揃える」「大きなタイトルと小さな情報をグループにする」といった意図が伝わる配置になっています。
これらの3つのポイントを意識して、「ごちゃごちゃデザイン」から脱出しましょう!
(注1)参考文献:失敗から学ぶユーザーインタフェース 世界はBADUIであふれている
図版作成協力:星川萌美(株式会社コンセント)
株式会社コンセント アートディレクター
武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業。雑誌・書籍・広報誌・学校案内などのアートディレクション/デザインを行う。現在はエディトリアルデザインにとどまらず、グラフィックデザイン、webデザイン、コンテンツデザイン、映像制作など、媒体を問わず幅広いジャンルの「伝わるデザイン」を手がけている。著書に、企画編集・デザインも自身で行った『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』(MdN)がある。講演・ワークショップの実績多数