Vol.4
世界観をつくるのは楽しい。
デザインをより良くするためのヒント
前回Vol.3ではデザインを見る人の目を混乱させないための「基本的な品質」についてお伝えしました。でも、デザインに必要なのはそれだけではありません。見やすくわかりやすくデザインできているだけでなく、「かわいい!」「かっこいい!」「楽しそう!」「ワクワクする!」といった、与えたい印象や目指したい表現があるはず。今回のVol.4ではもう一歩進んで、「デザインをより良くするためのヒント」について考えてみましょう。
良いものをたくさん「見る」ことが上達への近道
自分が作りたいデザインの方向性を決めるためは、本連載のVol.1でもご説明したイメージをつかむための収集が有効。本屋に行けば特定のテーマに合わせて編集された年鑑や図録を見ることができますし、オンラインでもPinterestやBehanceなどを活用することで、世界中のクリエイターが制作したデザインに、簡単にアクセスすることができます。
昔からデザインの上達のためには「良いものをたくさん見る」ことが大切だと言われています。その気になれば大量の良いものを集めることが可能ですが、ただやみくもに集めるだけではなく、それらを観察して「ヒントを得る」ことが重要なのです。
たとえば好きなデザインのフライヤーがあったとしても、自分がいま作ろうとしているフライヤーの情報や目的と、完全に一致するということはあり得ない。お手本を参考にしすぎて、自分がつくっているデザインの優先順位を見失ってしまうかもしれません。
どうしたら「ヒントを得る」ための観察ができるのでしょうか。デザインを構成する要素はたくさんあります。配色、タイポグラフィ、写真、イラストレーション、レイアウトなどなど。プロとして仕事をするのであれば、幅広い専門知識を身につけていけるのが理想ではありますが、まずは以下の3つだけに絞ることで、シンプルにとらえて観察してみましょう。

デザインの観察:ケーススタディ

この4つのデザインを具体的に観察していきます。解説を見る前に、まずは自分で数分間眺めてみて、「色・形・配置」にどんな特徴があるのか? を言葉にしてみることをオススメします。
Case1:ファッションブランドのイメージポスター


きれいな海の写真が印象的なデザイン。写真が持つゆったりとした余白を活かすために、文字要素はごく小さく。やわらかい書体を使って、左上にコンパクトにまとめられています。
Case2:カップケーキ屋さんの紹介カード


カップケーキ屋さんのフライヤーは、目に楽しいケーキの写真と欧文ロゴが印象的です。カラフルなケーキが整然と並んでいる可愛らしさや、文字を丸くしてロゴっぽくしたあしらいが、海外のスイーツショップのようなイメージに。
Case3:フリーペーパーの表紙デザイン


写真が持つクールな印象を強調するため、あえてはみ出させた文字や、揃えきらないランダムな配置が使われています。もしも規則正しく並べているだけの配置だったら、大人しい印象になってしまったのではないでしょうか。
Case4:ハンドレタリングのワークショップ告知フライヤー


手描きのイラストや文字で埋め尽くされているデザイン。一見ランダムそうに思えても、いくつかのルールが隠れていました。傾きの角度を揃えたり、タイトル周辺の余白は多めに取っていたり、太さが揃うように調節されていたりすることで、全体にまとまりが生まれています。
観察した特徴を比較してみると?
4つのデザインを「色・形・配置」に着目して観察しました。1つ1つを良く見るだけでなく、印象が違う複数のデザインを比較してみると、その中にルールを見つけることも出来ます。

色の数が少ないと静かに、多いとにぎやかになる。
左:海の青、波の白、砂のグレーの3色に絞り込まれていて、スッキリした印象。
右:ピンク系の同系色でまとめられているものの、全体的に色の数が多いのでにぎやかに。

色の差(コントラスト)が大きいと強く、小さいと弱くみえる。
左:背景と文字が、白と黒というもっともコントラストの強い配色なので、引き締まって見える。
右:要素の量は多くても、背景と線の色味が小さいので、落ち着いたまとまり感が。

形の硬軟の積み重ねで、全体の強弱が作られている。
直線的なセリフ体、曲線が優美なサンセリフ体、やさしい印象の手描き文字。文字だけでなくイラストや罫線など、たくさんの要素が含まれていますが、すべて「形」としてとらえてその硬軟だけに注目すると、印象の違いをシンプルにとらえることができます。

形のバリエーションが多いか少ないかで、存在感が変わってくる。
左:文字のかたちの種類が多いと、使われている面積が少なくても存在感が出せる。
右:使われている面積が多くても、文字のかたちが統一されていればまとまりが出る。

揃えられていると安定感が、散らばっていると動きが感じられる。
左:ケーキは等間隔に、タイトルは中央に。揃えている場所が明確にわかる配置。
右:要素が画面内に収まっていたり、はみ出していたり。あえて揃えずバラバラにして動きを出す。

余白が多いと静けさが、余白が少ないと賑やかさが出せる。
左:人が点に見えるくらいの引いた写真で、余白たっぷりの静けさが出る。
右:たくさんの写真がギュッと詰め込まれていて、密度感がある。
観察して「意図」を発見し、見つけた「意図」を自分でも使ってみる
デザインの構成要素は多数存在し、それらが少しずつ影響しあって全体的な世界観が生まれています。けれど、良く観察して「色・形・配置」だけに分解してみると、ひとつひとつのルール自体はとてもシンプルなもの。単純なルールの積み重ねで、デザインの印象が出来上がっているということが良くわかります。
ただぼんやりと眺めるのではなく、その「色・形・配置」に込められた「意図」に気づけるようになると、デザインは飛躍的に上達します。「こんなデザインをしてみたい」と感じたものを集めて、そこに隠された意図を読み解く作業を、ぜひ楽しんでみてくださいね!

Miki Tsutsui
株式会社コンセント アートディレクター
武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業。雑誌・書籍・広報誌・学校案内などのアートディレクション/デザインを行う。現在はエディトリアルデザインにとどまらず、グラフィックデザイン、webデザイン、コンテンツデザイン、映像制作など、媒体を問わず幅広いジャンルの「伝わるデザイン」を手がけている。著書に、企画編集・デザインも自身で行った『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』(MdN)がある。講演・ワークショップの実績多数