デザインのいろは

Vol.5

作業の手を止め、想像しよう。つくるものの「外側」を考える

 

あなたがデザインするものは、いつ・どこで・どんな風に使われる予定でしょうか? 制作に熱中していると、ついつい視野が狭くなってしまいがち。PC画面だけで良し悪しを判断するのではなく、一度手を止めて、顔を上げて、デザインを取り巻く環境についても想像してみましょう。
本連載の最終回では「あるある」な失敗エピソードを通じて、つくるものの「外側」を考えるためのポイントをご紹介します。

 

1:サイズと距離


サイズと距離

 

とあるビールイベントのフライヤーとポスター、両方をデザインすることになりました。先行してポストカードサイズのフライヤーが出来ていたので、同じデザインをそのまま拡大して、大判ポスターに転用しています。でも、ポスターとして考えてみると、文字のサイズが小さすぎたり、全体のメリハリに欠けていたりと、なんだかちょっとバランスが悪いような? 実際に掲示されてみると、思ってたより目に留まってくれなかった……。

 

対象物のサイズの違いは、デザインのバランスに大きく影響します。

手のひらにおさまる小さな名刺、壁に貼られる大判ポスター、お店のレジ横に置かれるポストカード。デザインするモノのサイズが違えば、ふさわしい文字やビジュアル要素のサイズも変わってくるのです。


ポイント

 

サイズと距離について考えるポイントは、なんといっても実際のサイズと距離でチェックすることに尽きます。


ポスターや名刺などの紙ツールであれば、実際に出力してみる。ウェブサイトなどデジタルのデザインであれば、実際のブラウザやスマホの画面でプレビューしてみる。面倒がらずに、作業画面だけではなく物理的に正しいサイズで眺めるだけで、より客観的に判断できるようになります。ポスターであれば離れた距離から見る、名刺であれば手に持ってみるなど、デザインを目にするときの距離を再現してみることも、忘れないようにしましょう。


2:周辺環境と視野


周辺環境と視野

 

プレゼンテーション用のスライドを、気合い入れてデザイン。作業しているときは、画面内にちゃんと必要な情報が収まっていたし、バランスも整っていました。でも、いざ会場で投影してみてびっくり! スクリーンのサイズが思っていたよりも小さかったので、後ろの方の席からだと文字が小さくて読めません。スクリーンの高さも低かったため、前の席の人影に隠れて、画面の下のほうが見えなくなってしまいました……。

 

デザインを目にするときの周辺環境や視野にも配慮しましょう。デザインしているときの作業画面は、無関係なものがなくスッキリしていますが、実際にデザインが使われる環境はどうでしょうか? たとえば多くのひとが行き交う街中で掲出されるポスターであれば、周辺に他の広告があるかもしれませんし、人の混雑状況、壁や床の色、照明の影響でも見えかたがずいぶん変わってきます。


こちらが想定した「理想的な環境」で見られるとは限らない、という前提で考えましょう。

 

ファッションブランドのイメージポスター


できればデザインに着手するよりも前に、実際にそのデザインが使われる環境を確認するようにしましょう。スライドであれば、投影される会場の広さやスクリーンサイズ、設置される高さなどを先に把握することで、必要とされる余白や文字の大きさを考えることができます。ポスターであれば、正面ではなく斜めからみる、離れたところからみる、他の広告などが並んでいてノイズの多い場所に貼ってみる、なども試してみましょう。


とはいえ、使われる環境のすべてを確認するのは難しいかもしれません。その場合は「絶対に切れてはいけないもの」「絶対に目に留まらなければいけないもの」はなにか? を考え、多少の周辺環境の変化にも耐えられるように、少し余裕を持ったサイズや余白でデザインをしておくと安心です。

 

3:全体の統一感


全体の統一感

 

雑貨屋さんのショップカードをデザイン。前からやってみたかった、シンプルでクールなデザインに仕上げることができて、いい感じ!と思っていたけど、実際にお店のカウンターに置かれてみるとなんだか違和感が。お店の雰囲気が想像以上ににぎやかだったので、空間の中でショップカードが明らかに浮いてしまっている。ショップのイメージに合ってなかったのかも……?

 

デザインする対象物と、それ以外の要素との統一感も重要です。にぎやかな空間や商品の中では、シンプルすぎるデザインは浮いてしまうかもしれません。一方で、もしこれが「モノが少ない真っ白なギャラリースペース」であればどうでしょうか? 空間が持つ静けさを邪魔しないような、ミニマルなデザインが似合いそうです。

 

このように、ツールのデザインと空間のデザインがちぐはぐだと、その場所には無関係なノイズとしてみなされ、見落とされてしまう恐れがあります。

 

形の硬軟の積み重ねで、全体の強弱が作られている。

 

デザインする対象物だけでなく、全体の世界観を考えることを忘れないようにしましょう。たとえ自分がデザインするのがフライヤーだけだったとしても、実際の商品やサービス、デザインが使われる店舗や会場などの空間、その他のコミュニケーションツールのデザイントーンなど、関連する情報をなるべく多く把握することは大切。


まだ商品や店舗が存在せず、すべてこれから新しくデザインしていく場合でも、全体の統一感が保たれるように一定のルールを決めておくと良いでしょう。どんなビジュアルを使うか、書体を使うか、レイアウトにするか。デザインには無限の選択肢があるように思えますが、全体の方向性が決まっていればある程度絞り込むことができます。ロゴや書体など、同じ要素を使うルールを決めることで統一感を出すのも良い方法です。

 

4:使われ方


余白が多いと静けさが、余白が少ないと賑やかさが出せる。

 

名刺って、サイズが小さいし入っている要素もだいたい同じだから、ちょっと物足りないんだよね。めずらしい形や素材にして個性を出そう! と気合い入れてデザインしたものの、いざ使いはじめてからトラブルが頻発。渡した名刺が名刺ケースに入らなかったり、紙が薄くて曲がりやすかったりと、相手に迷惑をかけてしまうことに……。

 

使われ方

 

とあるイベントのガイドマップをデザインをすることに。一覧性が高いほうがいいよね!と思い、大きなタブロイドサイズに全部の情報を盛り込んだデザインに。見ためもにぎやかで可愛いし、雰囲気はとても良かったけれど、イベント当日は想定外の状況に。お客さんがたくさん来てくれたものの、イベント会場の通路が狭いため、ガイドマップを広げるスペースがとれない! 小さく折りたたんで見ることを想定していなかったので、持ちながら会場を歩き回るには不便なマップになってしまいました……。

 

デザインしたものが人の手に渡ったあと、どのように使われるのかについても考えましょう。


名刺は渡して終わりではなく、そのあと名刺入れにしまわれたり、あとで連絡先を参照するために取り出したりと、繰り返し触れる可能性が高いですね。マップは「読む」ものというよりも会場を回りながら「使う」ものに近いので、バッグに出し入れしたり、広げたり、立ち止まって探したりといった様々な場面が想定されます。


使われる場面や時系列を具体的にイメージすることで、ふさわしいデザインのヒントを見つけることができるのです。


ポイント

 

つくったデザインが使われる場面を、時系列で順番に想像してみましょう。登場するシーンは1つだけとは限りません。相手が目にした・手にした最初の瞬間だけでなく、その後どのように扱われるのかも含め、思いつく限りの場面を書き出してみましょう。


実際に同じような行動を取ってみることも有効です。試しに名刺交換をしてみたら、名刺ケースに入らないことに気づいた。試しにマップを持って混雑した道を歩いてみたら、情報を探しづらいことに気づいた。PCに向かっているだけでは気づけない落とし穴を見つけるために役立ちますし、他人からの客観的な意見も得やすくなります。


いつ・どこで・どんな風に使われるのかを、点ではなく線で、全体的なストーリーとして想像することで、より良いデザインにするためのヒントを得ることができるのです。

 

まとめ


デザインはただつくって終わりでなく、誰かに見てもらったり、使ってもらったりするところまでがゴール。でも、PC画面だけを見て作業していると、ついついデザインの「中」だけに熱中してしまい、デザインの「外」のことを忘れてしまうことがあります。「外」のことを考えずに作ってしまうと、このように見づらい、使いづらいデザインになってしまうかもしれません。


それを避けるには、実際のサイズや形でプロトタイプをつくってみたり、実際の場所に置いてみたり、誰かに試しに使ってもらったりなど、試してみることがとても有効です。改善点が見つかるだけでなく、自分自身も見る目が少し変わって、新鮮な気持ちでデザインを見直すことができるでしょう。


伝えたい相手にちゃんと届けるためには、頭と目だけでなく身体全体を使って、デザインすることが重要なのです。


筒井美希
筒井美希(つついみき)
Miki Tsutsui

株式会社コンセント アートディレクター 

武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業。雑誌・書籍・広報誌・学校案内などのアートディレクション/デザインを行う。現在はエディトリアルデザインにとどまらず、グラフィックデザイン、webデザイン、コンテンツデザイン、映像制作など、媒体を問わず幅広いジャンルの「伝わるデザイン」を手がけている。著書に、企画編集・デザインも自身で行った『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』(MdN)がある。講演・ワークショップの実績多数